見出し画像

ボクの考えた最強のラスボス

 絶対的主人公道理満と悍ましきラスボス盆地大蔵のラストバトルは終結へと向かっていた。盆地の果てしなく巨大化し富士山を噴火させて日本を滅亡させようという作戦は道理の岩で富士山の火口に蓋をするという全く道理に合わない機転で見事防がれた。最大の作戦が失敗に終わった盆地は巨大化を維持できず、再び普通の姿に戻ってしまったのだった。その盆地に向かって道理はこう言い放った。

「盆地大蔵、お前との因縁もこれで終わりだ。死ぬ前に一つ聞きたい事がある。お前には自分のせいで盆地に住まざるを得なかった人々の怨嗟の声が聞こえるか?夏にはかき氷屋さえ来ない盆地でただクーラーで暑さを凌いでいた人たちの電気代のために流した涙を見た事があるか?勿論お前がどう答えようが俺はお前を消滅させる。でもその前にやっぱり知りたいんだ」

「お前アホか?奴らは盆地に住みたくないのならいくらだって平地に住む事ができたはず。それをしなかったのはただ土地から離れる事を怖がる臆病さからだ。俺はそんな弱者の心情などどうでもいい。それに貴様本気で俺に勝つ気でいるのか?この盆地大蔵を殺す気でいるのか?」

「まだそんな吠え面がかけるのか。盆地強がりもいい加減にしろ。そんな強がりは自分を惨めにするだけだ!」

「惨めにする?道理満。貴様は本当に哀れなヤツだ。道理に合わない事は何一つ理解出来ないのだからな。俺はさっきマクロの限界までパワーを放出した。だがミクロのパワーはまだ放出していないのだ。今から見せてやるっ!これが俺のミクロパワーだ!」

「なに?ミクロパワーだとっ!」

 盆地は高笑いしながら身体中から強烈な光を発した。道理はその轟々たる光の眩しさに思わず目を閉じた。が彼はすぐに光に向かって目を見開いた。だがそこに盆地の姿がないではないか。周りの空気は歪みどこからか盆地の高笑いが鳴り響いた。

「ハハハ!これが俺のミクロパワーだ!俺はミクロパワーで塵となり空気と一体化した!この地上に置いてどんな生物より強く巨大なのは大気だ!大気には形がない!だから貴様は攻撃することすら不可能なのだ!俺はただ大気としてお前の体に入り込んで内部から破壊し尽くしてやるっ!さらばだ道理満!今まで戦った中ではお前はまぁまぁの強さだったぞ!」

 だが道理満は盆地の勝利宣言に笑った。彼は胸二手を当てて塵盆地に向かって言った。

「なんだ、ミクロパワーってどんなすげえ技仕掛けて来るのかと思ったらそんなもんか。その程度だったら俺にもできるさ。見せてやるさ!俺も塵になってお前を消滅させてやるっ!」

 道理はこう叫ぶと全身に力を込めた。もう人間の姿に戻れず永遠にこのまま塵となってこの素晴らしき大地を漂うのかもしれない。したらしたらでいい。俺は塵としていつまでもこの大地を守ってやるっ!まばゆい光が身体中から飛び出してくる。行くぞ盆地大蔵!俺はお前を倒す!

「ほほう、まさか貴様も塵になるとはな。さぁ来い!貴様のマクロパワーをフルに放出して俺にぶつかって来い!」

「望むところだ!俺は盆地に見捨てられた人々のため、地球の空気の浄化のためにお前を倒す!」

 塵となった絶対的主人公道理満と悍ましきラスボス盆地大蔵のミクロパワーのぶつかり合いは壮絶なものとなった。淀む空気。二人の血の匂いの混じった悪臭。塵と化した二人はのどかな盆地の川辺で今互いの存亡を賭けて最後の力を振り絞って戦っていた。

 その決死のラストバトルが行われている中、そこに能天気にも近くの村人が釣り道具を抱えて決戦場に現れた。村人は塵となった二人が互いの全てを放出して戦うバトルの異常さに驚き村役場に駆け込んで、なんか臭いからなんとかしてと訴えた。それを聞いた村役場のすぐやるかの職員が現場に駆けつけたのだが、確かに妙な異臭が漂っていた。村役場の職員は一通り調査してから消臭剤と殺虫剤を取り出した。

「こりゃ臭い。多分誰かが酷いうんこでもしたんでしょうね。とりあえず消臭剤とハエがたかってくるかもしれないから殺虫剤撒いときますね」

 そう言い終えると職員は消臭剤と殺虫剤を撒き始めたが、そのせいでみんなのために塵にまでなって戦っていた絶対的主人公道理満と、日本を滅亡させるために富士山を噴火させようとしていた悍ましきラスボス盆地大蔵は完全に地球から消滅してしまった。

「いやぁ、ありがとうございます!これでこのやっと気軽に釣りが出来ますよ」

「いえいえ、これも仕事ですから」

 村人と村役場の職員は高らかに笑って匂いの消えた清浄な空気を吸い込んだのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?