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戦えメロス! 第六話

 朝早くに目が覚めたパールは、魔王がいびきをかいて寝ているのを確認して、彼を起こさないようにそっと寝室から出て、気分転換にと城内を歩き回った。相変わらず血塗れの陰惨な絵画やグロテスク極まりない彫刻が並ぶ城内であったが、魔王と部屋に閉じこもっているよりはるかにマシであった。あの濃密な空間にいると理性まで失ってしまいそうだった。魔王の下にいたら闇の快楽が押し寄せてきてメロスのことを忘れてしまいそうになってしまう。そうしてパールは魔王の部屋扉を開けたが、その時さきほど魔王に報告しに来ていたエビルに出くわした。彼は魔王軍団の四天王の一人の男であり魔王政府の宮内大臣を努めていた。エビルは頭をさげおずおずとパールに近づきニタニタしてこう囁いてきた。

「昨夜はお楽しみでしたな」

 そうニヤニヤしながら話すエビルの顔にパールは心の底からゾッとした。この男はずっとドアに耳を当てて自分と魔王のエッチを聞いていたに違いない。そう考えると彼女は顔が熱くなってきてエビルの顔をまともに見ることは出来なくなってしまった。そんな彼女にエビルはまとわりつき耳元でまた囁いた。

「昨夜はご就寝のお邪魔をして申し訳ありません。あまりに激しくて地震かと思いましたのでヒッヒッヒ!」

「あなたそんなこと言ってると魔王に言いつけるわよ!」

「ヒッヒッヒ!私はあなたの味方なのになぁ。味方は大事にしなければなりませんよ。私だったらあのメロスとかいう人間の若造を救ってあげられるのに」

 パールはメロスの名を聞いてハッとエビルを見た。

「まさか、ゴーストを倒した若者はやっぱりメロスなの?」

「魔王妃のパール様に隠し立てなどできますまい。その通りゴーストを倒した人間の若造とはメロスにござりまする。ヒッヒッヒ!メロスを助けたいのでしょう。私が助けてあげましょう!ヒッヒッヒ!簡単ですよ。魔王様にメロスの所に行かせなきゃいいんですよ。でも魔王様にそうさせるにはあなたの協力が必要です。ヒッヒッヒ!」

「勿論協力するわ!メロスを救うためだったら私なんでもする!教えて?私は何をすればいいの?」

 するとエビルはゲスの極みのような笑みを浮かべて言った。

「ヒッヒッヒ!それはあなたがいつもより濃厚に魔王様に奉仕すればいいんですよ。さすればさしもの魔王様だってあなたに夢中になって、メロスなんかどうでも良くなるでしょう」

 パールはそれを聞いて絶望的な気分になった。結局魔王様に奉仕せねばならぬのか。しかしこれ以上どうやって奉仕すれば良いのか。ああ!あんなことやこんなことまでしなくてはならないのか。しかしこれはメロスを救うため。パールはやってみるわとエビルに言って再び魔王の部屋へと戻った。

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