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ジャンル違い

「つまり犯人は君だ!君は社長が憎かった。それで社長を殺そうとあの夜君は社長の使用している携帯のボタンに毒を仕込んだ。社長を恨みに思っている人間は数えしれない。恐らく関係者全員が彼を憎んでいただろう。実際に私だって君の過去を知らなければ君が犯人だと目星はつけられなかった。もう諦めたまえ。すべてはこうして白日の元に晒されたのだ」

 水山刑事の名推理で自らの犯行を曝け出された犯人はがっくりと項垂れた。しかし犯人は最後の抵抗を試みようと銃を持って立ち上がった。

「お前らみんなぶっ殺してやる!」

 水山はその犯人に向かって虚しい抵抗はやめろと呼びかけた。

「やめるんだ!そんな事をしても虚しいだけだ!」

「うるせい!捕まってたまるかよ!」

 しかし犯人は水山の自分を憐れれむ眼差しに負けて銃を捨てて地べたにへたりこんで泣き崩れてしまった。水山の部下の直村はゆっくりと泣き崩れる犯人に近づきその手を手錠を当てた。しかしその時だった。なんと突然ビルの窓ガラスが割れて黒装束の男が大勢飛び込んできたのである。彼らは銃口を水山たちに向けて犯人に向かって言った。

「ようやく助けにきたぜ!さぁ、コイツらをさっさとぶっ殺してトンズラしようぜ!」

「お前ら遅すぎるじゃねえか!あともう少しで逮捕されるとこだったぜ!とにかくこれで形成逆転だな!さぁ、殺されたくなかったらそのままじっとしていろよ!」

 直村は不安げに水上を見た。しかし水山は銃口を向けられているのに不敵な笑みを浮かべているではないか。水山は犯人グループに向かって言った。

「君たちは我々に銃を向けるとはできても撃つ事は出来ない。なぜなら君たちのやっている事はジャンル違いだからだ。今ここでやっているのは推理刑事ドラマであって、アクション刑事ドラマではない。さぁ、君たちは犯人を残して自分のジャンルに帰りたまえ。そしてそこで素直にやられてくるんだな」

「うるせえこのバカ!何がジャンル違いだ!そんな事知ったこっちゃねえ!」

 そういうと犯人はいきなり直村をぶっ殺してしまった。それを合図にしたのか仲間たちも次々とまわりの刑事を射殺してしまった。犯人グループは一人残った水山は取り囲み一斉に銃を向ける。

「最後はお前だ。どうするんだ。もう仲間はいないぜ!アクション刑事にでもなってピンチを切り抜けるか?それとも思い切ってヒーロー物にでも転職するか?」

 犯人グループは一斉に大笑いした。ああ!名推理刑事水山の一世一代の大ピンチどうするどうなるどう切り抜けるのか。水上は顔を上げ決意を込めた表情で犯人を見上げた。そして彼らに向かって叫んだ。

「私、やっと自分がジャンル違いの世界にいた事に気付きました。お願いします!今から私を推理刑事ものの世界に戻してください!本来ここは私のいる場所では無いのです!重ねてお願いします!早く戻して戻して戻してぇ〜!」


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