魔王を倒せ!

「純太よ、よく聞け!お主がワシの弟子になってから早十年、もはや教えるべき事は殆どなくなった。しかしたった十年でここまで魔法を極めることが出来るとは。やはりワシの目には狂いはなかった。お主こそ、この魔王に支配された世界を救う救世主なのだ!
 師匠の大魔導師山田からいきなりこう言われて純太は戸惑ってしまった。当たり前であろう。孤児だった彼はたまたまこの大魔導師山田に拾われ、その恩に報いるためだけに厳しい修行に耐えてきたのである。純太は課題を乗り越えるといつも師匠に頭を撫でてもらった。そうして彼の魔法使いとしての才能は花開き他の人間が50年でようやく習得出来るものをたった十年で習得してしまったのである。大魔法使い山田は話を続けた。
「だからワシはそなたに究極の魔法を授けようと思う。この魔法は代々大魔導師によって引き継がれて来たものじゃ!しかしこのワシを含む大魔導師たちでさえこの魔法は習得出来なかった。しかしそなたなら習得出来るかもしれぬ。たった十年で魔法を極めたそなたじゃ!きっとそなたならこの究極魔法『憤怒炎上大破壊』を習得出来るはず!頼む純太よ!この究極魔法憤怒炎上大破壊』を習得し世界を救ってくれ!」
 純太は勿論肯いた。自分が究極魔法を習得し、世界を救うことが師匠に対する恩返しだと思ったのである。大魔導師山田はそんな純太を涙ながらに抱きしめ、一巻の巻物を渡して言った。
「この巻物に究極魔法『憤怒炎上大破壊』の全てが書いてある。お主ならこれを読み解くことなど容易い事だろう。今からそこの洞窟に入り魔法を取得せよ。そして世界を救う救世主となるのだ。しかし」
 と山田は話を止め純太の顔をまっすぐ見ながら諭すように言った。
「しかしこの究極魔法『憤怒炎上大破壊』は危険な魔法じゃ!何が起ころうともけっして怒りに身を任せこの魔法を使ってはならぬ!」
 純太は師匠の大魔導師山田に深く頭を下げ言いつけは必ず守ると近い洞窟へと入っていった。

 洞窟での修行は言葉に言い表せないほどの苦痛であった。真っ暗闇の中、純太はひたすら魔法を極めんとして七転八倒し、何日ののたうち回った。そしてとうとう魔法が習得できたのである。純太は喜び勇んで洞窟から出ると、目の前で師匠の山田が倒れているではないか。誰だ!まさか魔王の手下が!と彼は師匠の大魔導師山田の所に近づくと周りに蜂が飛んでいるではないか!これはスズメバチ!ひと刺しで人を死にいたらしめんとする針を持つ毒虫!まさか師匠はもう……。

 彼はもう怒りに我を忘れていた。孤児だった自分をここまで育ててくれた師匠、あの偉大なる大魔導師山田を殺したスズメバチに対する復讐心が彼の理性を粉々にしてしまったのである。師匠俺生まれて初めて貴方の教えに逆らいます!と彼は究極魔法『憤怒炎上大破壊』を唱えスズメバチに向けて放ったのだ。鋭い光があたりを包んだかと思うとスズメバチは一瞬で灰となり、師匠の大魔導師山田のまだ生きていたかもしれない体も黒焦げとなり、あたりの森や街は燃え、城は崩壊し、海は蒸発し、山は吹き飛び、魔王をはじめとした魔物は燃えかすとなり、地球の表面は剥がれてマントルが剥き出しとなり、そして地球は滅亡した。

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