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核融合

「もうくだらない対立なんてやめて一つになる事を考えるべきなんだ。原子力エネルギーだってだって核分裂から核融合への道を模索しているじゃないか。対立や反発や分裂は何も産んだりはしないんだよ。それどころか僕らの全てを消し去ってしまうよ。だから僕らも争いをやめて融合への道を模索すべきなんだ。一歩ずつでいい。ただ一歩。あなたが僕に向かって踏み出してくれれば我々を苦しめている全ての問題は解決へと進んでいくんだ。たしかにあなたも今まで自身が信じてきたものを否定する事は簡単な事ではない。決して、生理的にも決して受け入れられないものがあるかも知れない。だが、僕らはそれらを全て捨て去って融合への道を進むべきなんだ。今人類は歴史的な変化を遂げようとしている。僕らも今変わる時なんだ!」

 とある薄暗い部屋でスーツ姿の男は拳を振り回しながらの演説をした。彼は演説を終えると静かに手を下ろし熱い目でただ一点を見つめた。彼の演説会の聴衆は一人の女性であった。彼は女性を見つめ彼女の口が開くのを静かに待つ。彼女は僕の融合演説を理解してくれただろうか。ずっと嫌われていた僕。だがこの演説を聞いたからには彼女は僕と融合への道を歩んでくれるだろう。願わくはここで核融合したい。女性は恐々と男を見た。彼女はさっきの男の演説を聞いて普段から彼に感じていたキモさが倍増してしまった。何が核融合だ!ああ!キモい!しかし女性は心を落ち着かせて男に言った。

「ごめんね、私原子力より火力発電の方がいいと思うの」

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