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99歳の憂鬱

世の中にはたった二歳で名文を書いてしまう早熟の天才がいれば、99歳で陶然とするほどの名文を書いてしまう晩成の天才もいます。ここに紹介するのは私の知り合いの99歳の方ですが、その人生経験が滲み出るような名文は必読です。皆さん是非ご覧になってください。

どうせ私は生い先短い老人だ。息子夫婦も孫夫婦も新婚のひ孫夫婦も私を邪険にする。じゃんけんじゃなくて邪険である。私は歳のせいで記憶力が著しく衰えている。無花果ではなく著しくだ。だからこうやって自分が何を書いているかを確認しなければ文章を書き進める事ができないのだ。念のために書いて置くが、今私は掻くのではなく、書くと書いたと思う。そして念とは年のことではなく、また燃料のことでもないと思う。思うとは重いでもなく、また思いでもない。念には年を込めての粘だと思う。昨日私は息子夫婦と喧嘩をして家を出て故郷に帰ったが、実家の家の玄関を開けると息子夫婦がいた。二人は私におじいちゃんどこ行っていたのと言ったが、此奴らは私の故郷まで自分の物だと思っているようだ。全くとんでもない連中だ。私の父も母も此奴らを怖がって出て来てくれないのだ。今私は99歳である。そしてとても憂鬱だ。

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