見出し画像

お前の犬になる!

「お願いだ!俺に振り向いてくれよ!お前が振り向いてくれるなら……」
高級クラブの店の前で、春先のまだ冷たい雨に打たれながら、くたびれた中年男が、スーツが汚れるのも構わず、クラブの玄関にいる女に、土下座して懇願している。全身ブランドに身を固めた女はそんな男の戯言に耳を貸さず男に背を向けてタバコをふかしていた。女の仕打ちに耐えきれず男は顔を上げて女の背中に向かって叫んだ。
「お前が振り向いてくれるなら、俺は……俺はお前の犬になる!」
 
 男の言葉に衝撃を受けた女は振り返って男を見た。男は目を潤ませて救いを求めるかのように女を見ている。その男の表情に女も心を動かされたのか、男に近寄るとその薄い髪の頭を撫でて、
「ホントにホントにそう思ってるの?」と男に聞いた。すると、男は涙を流しながら何度もうなずいた。
そして、女は男の自分への純粋な想い心を動かされて「中に入っていいよ……」と言って彼を店の中に入れたのであった。

「ヘェ〜、これがあなたの新しいペットのワンチャンなの?でも全然犬じゃないじゃん!っていうか、ただの人間のおっさんじゃん!なんなの、これ?」
「だってしょうがないじゃん!このおっさん、店の前で土下座してあなたにペットにしちくり〜!とか泣いて頼んできたのよ!だからペットにしてやったの!今はまだ犬になりきれてないけどそのうちちゃんとしたペットにするんだから!そのうちブリーダー大会にだって出てやるわ!ホラ私のしつけが上手だからもうちゃんとお手だってできるんだから!ホラ、お手!」
そう言って女が手を差し出すと、ペットのおっさん犬は舌を出しながら手を出してきた。おっさん犬は喜びのあまりワン!と吠え、尻尾のかわりに下半身に付いた小さいものを懸命に振り回している。
「でも危なくない?このおっさん犬と一緒に暮らすなんて!アンタこのおっさん犬に襲われるかもしれないよ?」
と友達か女を心配して言った。女は友達の話を聞いて急に心配になって来てこう答えた。
「私も考えてたんだよね。このおっさん犬体に毛が生えてないから、裸が剥き出しなんだよね。可愛いからそばに侍らせてるんだけど、コイツ時折しっぽのかわりに小さいものを立てて私を変目で見るの。ずっとそれで悩んでたんだけど、アンタの話聞いて決意したわ!やっぱりこのおっさん犬去勢しよ!可哀想だけどしょうがないよ!それにどうせ持ってたっておっさん犬に子供なんか作る機会ないんだから、もう根元から切っちゃお!」

飼い主とその友達の、あまりに無情な話を聞いたおっさん犬は、あれほど立てていた小さいものを丸く引っ込め、その情けない中年ぶとりの体をプルプル震わせていた。もう震えが止まらない。彼は耐えきれず誰かに助けを求めるように叫んだ。

「ワォ〜ン!ワォ〜ン!ワォ〜ン!」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?