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線路沿いにはウインクを

線路と交差する坂道を

 私の町に、鉄道駅はありません。
 ですので小学生までは、駅とはバス停のことでした。
 線路や踏切は、子どもが歩いて行けない距離にあります。それでも私にとって鉄道という言葉は、不思議と懐かしさを伴う音色でした。


 ある日の雨の夜のことです。

 しとしと落ちる水の音に混じって、ガタンゴトンと列車の駆け抜ける音が聞こえてきました。あんなに遠いと思っていた線路から届いてくる静かな音。それを寝物語として聞いた記憶が、懐かしさを醸し出していたのです。


 ある夏の日、私は、線路の見える坂道を駆け上がりました。手には小さなフィルムカメラを握りしめたまま。


 私は右目でファインダーを覗き込み、左目を静かに閉じてシャッターを切りました。

 あたかも、線路沿いにウインクをするように。

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