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サインが覚えられない球児。

高校一年生、野球部強豪校(多分)に入学した私。
入部時に総勢100人以上が在籍していました。


正直野球が上手ではなかった私は、
一年生時全くグラウンドに入ることもできずに、脇の練習場で不貞腐れている毎日。


夜間居残り練習時にふざけて、
グラウンドを穴ぼこだらけにしたり、
外周時にトラックの下に隠れて練習をサボったりしていました。



先輩に生意気な態度をとって〆られることもしばしば。
小中と野球をやってきて、高校で大コケです。


そんな中、転機が訪れたのは二年生の時。

たまたま足が速めだった私は代走要員で、
試合に出してもらえるようになりました。


細かいことは何だかわかりませんが、
とにかく代走で入ったら、すぐに盗塁するだけ。


アウトだろうがセーフだろうが、
身長2m近くある強面監督はニコニコしてくれました。


やっと始まってきた高校野球生活。
段々評価が上がっているように感じます。


しかし、一番厄介なのは監督から出るサインでした。
がっぺ難しい。

イニング毎にキーが変わり、
何種類も細かいサインがありました。


(あれ…今のなんだったっけ…)



(……とにかく盗塁しよう…)


これが日常茶飯事。


ですが良いのです。
私が代走で出る目的はとにかく進塁するためです。




なんだかミスして監督に呼ばれた際は、



「走れると思いました。」



考えた風な顔をしながら、
発言すれば怒られずに済みました。



そして迎えた二年生の秋。
先輩方は引退してとうとう自分たちの時代がやってきました。


私は今までベンチにすら入れないぷぅ~でしたが、ようやく大チャンスが巡ってきました。



数々の練習試合から察するに、
どうやら代走要員としてベンチに入れそうな雰囲気が漂ってきています。


そしてついにやってきた
メンバー選考最後の練習試合。


本番を想定したスターティングメンバーで
試合が進んでいきます。


そして終盤の攻撃一点差を追う展開、大切な場面。
ノーアウトランナー二塁で選手の交代が告げられます。


「代走、赤田。」



緊張で両手両足を揃えて二塁ランナーにつく私。
もう足が半分つっています。





(ここを上手くやれば、ベンチ入りできる…!)





外野の守備位置を確認して(するふり)、
良いスタートが切れるよう準備します。


(よし…監督のサインは……)






(うんうん…)







(わからん…)






(いっつもわからん…)
(もう代走で呼んだときに口頭で言ってくれよな…)




(でも…多分…多分…※バスターエンドラン…)



※バントのふりして打ちに行って、
  バットに球が当たった瞬間スタート切るやつ

※G難度技






正直全然サインを目で追えませんでした。




しかし私の第六感は言っています。


「バスターエンドランだぞ。」と





半ば開き直って、
了解のサインを送り返します。





絶対に違うと思います。
でももう仕方ありません。





心の中でバスターエンドランであることを
ただひたすらに野球の神様に祈っていました。




ピッチャーが投球セットポジションに入ります。




バッターは…






バントの構え。





大歓喜。


(よっし!!)

(そこからバット引いて打ちに行くよね!?)





私は次に起こるプレーを予測しながら、
投じたボールを見守りました。





スローで流れる時の中で、





そのままバットが引かれずに、





「コンッ…」






ピッチャー前に転がるボール。





普通のバント。






ぁ…




完全に時間が止まった私。






(バスターエンドランじゃないの!?
(走者二塁で普通にバントしたってこと!?
(ワンナウト三塁を作りたかったってこと!?
(それにしても正面に転がり過ぎじゃない!?




この間0.5秒。






いつもの私なら、
とにかく走っちゃぉ☆!でした。




しかし、今回は特別。
自分にとっても大切な局面。



スタートとストップが猛烈な速さで交差しました。






ぁぁ…





気が付いたときには、
スタートを切らずにそのまま二塁に帰塁していた私。





相手チームからすると、
送りバントをしてきたのにランナーが走らない。
意味不明なラッキーチョンボです。






(あぁ…全てが終わった…)





私は頭の中が真っ白になりました。







すぐにタイムがかけられ、
代走に代走を出される、辱めを受ける私。



ベンチに戻るとすぐに呼ばれます。




いつもなら2mある監督が
その時は4mに見えました。



なにか叱責をうけていましたが、
あまり覚えていません。


「お前が何考えているか全然わからん。ほなほな」

「確かにサインはバスターエンドランだったけどな、でもよぉ…中略ほなほな」





私はうなだれながら、
自嘲気味に笑いました。





(あっバスターエンドランだったんだ…)苦



(とほほ…)




そんなこんなで、見事にベンチから外れ
スタンドで応援する私。


私は思いました。



行くか行かないかで迷ったら、
とにかく、

「行くっ!」


だなと。



そして、三年生になり春を経て、夏が来ました。


背番号一桁を貰い、レギュラーになった私。
意外に何とかなりました。



甲子園地方大会一回戦。



緊張と炎天下で額を濡らした最後の夏。






2三振。






さよなら負け。





鳴り止まないサイレン。





この試合のサインも
なんだかわかりませんでした。

完。






あとがき


何とかもぎ取ったレギュラーでしたが、
すぐに負けました。


ですが、どんな瞬間よりも、
あのバスターエンドランが、
いつまでも頭の中に残っています。

サインはなるべく簡単な方が良いです。


おしまい。

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