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【用例編】 ターゲット1900 ⑥ ゆる補習 note

ゆる言語学ラジオさんの『英単語ターゲット1900』の語源企画を、ゆるく(?)サポートする、オマケ的な【ゆる補修 note】です。


はじめに

語源には諸説あります。
そこが一つの醍醐味でもあり、ときには迷路に入ることもあります。

こちらの【ゆる補習 note】では、高校生の方々が英単語の勉強で悩んだときに少しでもヒントになればいいな、という思いから「わかりやすさ」と「愉しさ」、「美しさ」を基準にしながら、語源のもつイメージを<翻訳>しました。

わたしは語源が大好きなので、みなさんと一緒に勉強ができてとても嬉しいです。

それでは【ゆる言語学ラジオ『ターゲット 1900 ⑥』】で取り上げられた英単語を、ひとつずつ見ていきましょう。

* 使用教材:『ターゲット1900』5訂版
(最新版は6訂版です)


< 今回のおはなし >

ゆる言語学ラジオ「ターゲット⑥」 はこちら(↓)

*ゆる補習 note では、こちらの一覧表を使います(↓)


41. value [14] 強い、健康である → 価値


value は、たった1つのパーツでできています。

value < ラテン語 valeō = 強い、健康である

リンク先:Google検索(Oxford Languages の定義)
& ΛΟΓΕΟΙΝ (LOGEION) (シカゴ大学運営)

たとえば「円が強い」ときは日本円の価値が上がり(=円高)、反対に「ドルが強い」ときは米ドルの価値が上がります(=ドル高)。

そこには「強い ≒ 価値がある」というイメージが潜んでいます。

ラテン語 valeō は、もともと<強い、健康である>という意味の 動詞・・ でした。

羅: valeō = 英:be strong, healthy, powerful 
        = 日:強い、健康である、力がある
原形:valeō → 不定詞:valēre → 過去分詞: valitum *

* 太字部分=語幹

ここで気をつけたいのは、<強い>という意味の広がりがゆたかである点です。

<動詞 valeō の 3つの強さ>

① 身体的な強さ............................…. 体力、健康
② 政治的・軍事的な強さ.............…… 政治力、影響力、軍事力
③ それ以外の効力・重要性 …….…….. 実効力、値打ち(金銭的価値)

時代とともに、ものの見方、考え方は変遷します。

ラテン語は、2千年前の古代ローマの言葉です。
現代とはちがい、おもな動力源は人間や動物だけ。もともとイタリアのちいさな農耕都市だったローマでは、畑をたがやすにも、外敵から身をまもるにも、健康で力強くあることに重きがおかれていたのでしょう。

やがて時代が下ると、ローマは次第に領土を拡大し、人口も増加します。それに伴い、人民を統べる政治力や金銭的な富を蓄え活用する経済力の重要性が徐々に増したということなのかもしれません。

このような流れのなかで、英単語 value の意味が生まれました。

value [14]  ▶︎ 強い(健康 or 力がある)こと/be strong (healthy, powerful)
→ 強いこと、健康であること、力があること
→ 〜に相当する価値がある(物質的 or 精神的)/be worth
→【名】価値;価格;評価;(~s) 価値観

[] 内は初出年代(世紀)。以下省略
▶︎ は核イメージ。以下省略

西洋特有の「天秤で左右の皿の均衡をピッタリはかる」イメージ。

左右の皿に何をのせ、どうバランスをとるのか。
なにがどれほど大切なのか。

それを見極めるのが、英単語 value の核イメージです。

《Value ≠ 金銭的価値》

西洋の方はしばしば「Value for money」という言葉を口にします。
価値をあえて・・・お金に・・・換算する・・・・とすれば・・・・、それはいくらか。
天秤の均衡はピッタリとれているのか。
それを厳しく見定めようとする場面でつかわれる印象です。

英英辞典で value を調べると、真っ先に「値打ち(金銭的価値)」と書かれていることが多いのですが、Oxford 系の辞書では少々事情が異なります。

① the importance or usefulness of something. (物事の重要性や実用性)
② the amount of money that something is worth. (物事の金銭的価値)

Pocket Oxford English Dictionary』[11/E]、2013、Oxford University Press, P. 1025
()内は夏野の要約

ものごとの価値は、必ずしも金銭ではかれるものではない。
歴史的な経緯を踏まえたみごとな語釈だな、とおもわず唸る一例です。

《派生語》

シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

valuable [16] 何かに相当する強さがある→【形】高価な、貴重な …. 形6*

*形容詞化 6
参考:https://www.merriam-webster.com/dictionary/valuable

《番組内で紹介された関連語》

《接頭辞なし》
カラダ2つの組み合わせ、あります。

equivalent [15]
 equi- 同等の/equally < ラテン語 aequus 同等の/even, equal
 -ent ………… 形容詞化 8
 ≒ 同等の価値をもつ 
 →【形】等しい、相当する
 →【名】等しいもの、相当するもの

*equi- は接頭辞ではなく、複合語をつくる連結形(combination form)です。

《接頭辞あり》
アタマが変われば、時空(条件)が変わる。

evaluate [19] 
 
e- (ex-) 外へ/out …… 接頭辞 7  
 
-ate   〜する ……….. 動詞化 1
 
→ (金銭的な)価値をはかり出す
 →【動】評価する、査定する

《チョットついでに》

value(ラテン語 valeō)の仲間ではありませんが、番組で紹介されていたので少しだけ。

equation [14]  
 < ラテン語 aequus 同等の/even, equal
 -ate 〜する ……….………… 動詞化 1
 -ion 〜こと、もの ………… 名詞化 7
 → (左右を)等しくすること
 →【名】方程式、等式;(the ~) 同一視

前回もご紹介した映画『ハドソン川の奇跡(原題:Sully)』。

ハドソン川への不時着の是非を巡って紛糾した調査会の終盤、調査結果に感銘を受けたひとりの委員がサリー機長にこう語りかけます。

I'd like to add something on a personal note:
I can say with absolute confidence that, after speaking with the rest of the flight crew, with bird experts, aviation engineers, after running through every scenario, after interviewing each player…
There is still an X in this result.
And it's you, Captain Sullenberger. 
Remove you from the equation and the math just fails.

ハドソン川の奇跡(字幕版)』(1:27:07)
2016, WarnerBros.
*2022/12/08 時点:アマゾン・プライムでは無料で視聴できます。

なぜか忘れられない台詞の一つです。

《クルマまわりのラテン語たち》

クルマの世界で仕事をしている頃、ラテン語風の名前によく出会いました。

Valeoヴァレオ
フランスの自動車部品メーカー。日本車ではエアコン関係の部品が多いかも。
Wikipedia では「わたしは健康です」と翻訳されていますが、他の意味もしっかり感じられると思います。

Audiアウディ
ドイツの自動車メーカー。創業者アウグスト・ホルヒ(August Horch)の姓 Horch がドイツ語 horch「聴け!(命令形)」と似ていることから、これをラテン語に訳したもの。

*英語版 wiki の方が、Audi 命名の経緯がよりあざやかに描かれています。

Volvoボルボ
スウェーデンの自動車メーカー 。元・親会社 SFK の主軸商品「ベアリング(軸受)」がぐるぐる回ることに因み「(わたしは)回転する」という意味のラテン語が名付けられた。

どの社名も西洋特有の「ラテン語カッコイイ!」「古代ローマにあやかりたい!」といった雰囲気が感じられます。

日本の自動車メーカー・トヨタも、この風潮をうまく利用しています。

Aquaアクア):   ラテン語で「水」
Priusプリウス) :    ラテン語で「〜より前に、〜に先駆けて」
Corollaカローラ): ラテン語で「(ちいさな)花冠」
Passo(パッソ):    ラテン語で「歩む」

*Aqua をはじめ、日本と海外で名前が異なるものもあります。
*往年の名車 Aristo(アリスト)の語源はギリシア語 aristos 「最善の/best」です。
→ https://ja.wikipedia.org/wiki/トヨタ・アリスト#車名の由来
参考:https://logeion.uchicago.edu/ἄριστος

また、関連会社スバルでは、最近こんな名前のクルマが登場(復活)しました。

Solterraソルテラ):  ラテン語で「太陽」と「大地」
Rexレックス):   ラテン語で「王様」(←なぜか30年ぶりに復活)

カタカナではパッと気づきにくいのですが、英語の綴りをみれば企図は「一目瞭然」。他の日系自動車メーカーに比べ、ラテン語風な車名が多めです。

そして高級ライン「LEXUS(レクサス)」も、ラテン語風の造語です。

これは私見ですが、この名前を一瞥しただけで、

ラテン語:  lex   法/原理
ギリシャ語: lexis  言葉
ラテン語:  laxus    広々とした
ラテン語:  luxus 贅沢
英語:    luxury  贅沢/栄華

などを包含したイメージが感じ取れます。(一瞬、どれだろう?と考え込む感じ)

トヨタが北米市場でブランディングに成功した一因は、この古代ローマに寄せたネーミング戦略にあったのではないかと思われます。

なお、自動車に限らず、西洋の高級品はギリシャ・ラテン語風のネーミングが多めです。気になる名前を見つけた時はこちらの辞書(↓)でチェックして、「これもか!」とお愉しみいただければ幸いです。

《ターゲット・シス単関連語》

available [15], equivalent [15], evaluate [19], invaluable [16], prevail [14], valid [16]

*リンク先:Google→「単語 meaning」で検索
Oxford Languages の語釈・語源欄参照

42. benefit [14] 良い行い → 恩恵

benefit は、2つのパーツでできています。

benefit < bene- + fit

参考:https://logeion.uchicago.edu/benefactum

この言葉の本質部分は、後ろの fit で、ラテン語  faciō = する、つくる が元になっています。

羅: faciō = 英:do, make = 日:する、つくる
原形:faciō → 不定詞:facere → 過去分詞: factum *

* 太字部分=語幹

ここに「良く」を示すラテン語 bene がついています。

bene-  <  ラテン語  bene  良く、正しく、うまく/well

*ラテン語 bene は副詞です。

2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。

benefit [14]   ▶︎ 良い行い/good deed (something well done)
 bene- < ラテン語 bene 良く、正しく/well, rightly
 → 良い行い、善行
 →【名】恩恵、利益、給付金、福利厚生

参考:https://logeion.uchicago.edu/benefactum

《派生語》

シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

beneficial [16]  良い結果につながるような →【形】役立つ、有益な …… 形1 *

* 形容詞化 1

《番組内で紹介された関連語》 

直接の仲間ではない、親戚みたいな言葉です。

bonus [18]   ▶︎ 良い(こと・もの)/(something) good
 <  ラテン語  bonus  良い/good
 → 良いもの・こと(名詞的な使い方)
 → 予想外で起こる良いこと(≒ 規定外の報酬)
 →【名】賞与(ボーナス)、手当、報奨金

*ラテン語 bonus は形容詞です。

《チョットついでに》

朝食の人気メニュー「エッグ・ベネディクト(Eggs Benedict)」も同語源。

benedict < benedictus  祝福 < bene  良く  +  dicō  言う 

* 2022/12/26 リンク追加

じつはとってもめでたい名前なのです。
もしも違う名前だったら、今のように有名にはならなかったかも?

ちなみに料理名は「ベネディクトさん」と言う方にちなんで命名されたと考えられているものの、「どのベネディクトさんなのか?」については未だに諸説あるようです。(笑)

《ターゲット・シス単関連語》

beneficial [16]

*その他の facio 関連語は「ゆる補習 note ④」30. affect 参照

43. opportunity [14] 港へ良い風が吹く → 機会

この単語がもつ語源的な本来の意味は「港に向かって(良い風が吹く)こと」。
日本語で「追い風が吹く」というのに似ています。

opportunity は、3つのパーツからできています。
でも、まずはこう分けましょう。

opportunity  <  opportun(e) + -ity  =  機会

接尾辞シッポ -ity は「名詞にしました!」という合図です。

-ity  ………… 名詞化 8

のこった部分は、さらに2つのパーツに分けられます。

opportun(e)  <  ob-  〜に向かって +  portus  港

本質部分は、ラテン語 portus = 港 です。英単語 port(港)や airport(空港)の語源でもあります。

portus  港

*太字部分=語幹

古来、物流の基本は「海送」です。

追い風が吹けば、港に入れる。
珍しい舶来品が運ばれ、雇用が生まれ、あたらしいご縁が結ばれる。
港に入れば、ヒト・モノ・カネが動く。

そういう絶好の「機会」に恵まれることが opportunity の綴りから感じられます。(注:あくまでも私見です)。

opportunity [14]  ▶︎ 港へと良い風が吹く/wind blowing toward a harbor
 ob-  〜に向かって ……. 接頭辞 10
 -ity  〜こと ……………. 名詞化 8
 → 港に向かって(良い風が吹く)こと ≒ 時宜にかなうこと
 →【動】機会

なお、番組内で水野さんがおっしゃっていたように「難破しそうになったけど追い風が吹いて港へ辿り着く」にちかい捉え方をする場合もあるようです(↓)。

《派生語》

シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

opportune [15] 港に向かって良い風が吹くような →【形】時宜を得た、絶好の

《番組内で紹介されたその他の言葉》

こちらの言葉については、ラテン語の動詞 portō運ぶ」が直接の語源とされています。日本とは異なり、地中海世界は「陸続き」。このため輸出入は「港」経由とは限らない、ということなのかもしれません。

import [15]
 in-   内へ → 内へ運ぶ →【動】輸入する、取り入れる/【名】輸入
export [15]
 ex-     外へ → 外へ運ぶ →【動】輸出する/【名】輸出(品)
support [14]
 sub-  下から → 下から運ぶ →【動】支援する/【名】支援
transport [14]
 trans-  を超えて → 超えて運ぶ →【動】輸送する/【名】輸送;交通機関

428. import にて詳しくご紹介予定です(何年後?)

《ターゲット・シス単関連語》

特になし

* ラテン語の動詞 portō 関連語は、428. import にて扱う予定です。

44. quality [14] どんな性質の? → 品質、特質

quality は、2つのパーツからできています。

quality  <  qual-  +  -ity

参考:https://logeion.uchicago.edu/qualitas

この言葉の本質部分は「qual-」で、ラテン語 quālis = どんな性質の? という問いかけの言葉が元になっています。

羅: quālis = 英:What kind of? = 日:どんな性質の?

* 太字部分=語幹

ここに「名詞化」を示すシッポ(接尾辞)が加わります。

-ity  ………… 名詞化 8

2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。

quality [14]   ▶︎ どのような性質かということ/nature or kind of something 
 -ity ……… 名詞化 8
 → どのような性質か、ということ/nature or kind of something
  【名】性質、特性 

《 qu- ≒ wh- ≒ 「◯◯とは何ぞや?」》

アメリカにいた頃、メキシコ人留学生が隣席の同級生に話しかけました。

「ケ?」

日本語にすればたった一文字の音。なんだろうと思って、その子に聞きました。

夏「What is 'ケ'? 」       (ケって何?)
メ「What?」           (え、ナニ?)
夏「What is 'ケ'?」        (ケって何?)
メ「What?」           (え、ナニ?) 
夏「I said, "What is 'ケ'?"」   (だから、ケって何?)
メ「What. 'Que' means 'what.'」 (「何」っていう意味なんだってば)

すみません、彼女は私の質問を聞き返していたんじゃなくて、初めから答えを教えてくれてたんですね(苦笑)。

この「◯◯とは何ぞや?」という問いかけ。

西洋の人びとは、何千年もの間これを繰り返し行ってきました。

世界は何でできているのか?とか、どのくらい大きいのか?とか、人間はどこからきて死んだらどうなるのか?とか。

そういう大きな問いもあれば、

サイってどう説明する?とか、1日分のパンって、小麦何粒あれば作れる?とか。

おそらくメソポタミアやエジプトとの交易の中で、あるいは様々な言葉が行き交う広いローマ帝国領内において、あるいは遠い国から連れてこられた奴隷たちとのやり取りの中で、「言葉の解釈の違い」で混乱が起こらないように、一つひとつ丁寧にみんなの意見をすり合わせて、定義づけを行ってきたのでしょう。

「◯◯とはなんぞや?」という問い。
物事の本質を追求するために、問いかける行為。

ラテン語では、「qu-」で始まる問いかけです。

冒頭のスペイン語「que」とフランス語「que」は、発音は違えど、同じ綴りで同じ意味。どちらもラテン語 quis から生まれた兄弟です。

英語でも、qu- にまつわる単語がたくさん生まれました。

qualify [15]
 < quālis どのような性質の/of what kind + faciō つくる/make
 → 性質を明らかにする
 → 求められる条件を満たす
 →【動】資格がある

quality [14]
 < quālitās 特性、性質/quality, nature
 < quālis どのような性質の/of what kind
  【名】性質、特性 

quantity [14]
 < quantitas 大きさ、量/greatness, quantity
 < quantus どれほど大きい(多い)/how great, how much
 →【名】量 

quest [14]
 
quaerō 探し求める/seek
 →【名】探求
 →【動】探す、追い求める

quote [14]
 < quot どれほど多くの/how many
 →【動】見積もる、(参照番号を付して)引用する

quotation [15]
 < quot どれほど多くの/how many
 →【名】見積り、(参照番号を付すこと)→ 引用

英単語で qu- という綴りを見かけたら、それは<何かを探し求めている>というサインの可能性大です。ぜひ、チェックしてみてください。

ところで、日本では<5W1H>という言葉がよく使われます。
英語でなにかを尋ねるとき、なぜか wh- で始まる単語が多いな、と思ったことはありませんか?

what [OE], when [OE], where [OE], which [OE], who [OE], why [OE],

OE = 古英語(12世紀以前)

OED によれば、じつは英語の wh- とラテン語の qu- は遠い親戚。インド・ヨーロッパ祖語まで遡れば同じ仲間(同根)なのだそうです。さらにサンスクリット語でも、k-/c- で始まる言葉に似た意味があるようです。

ここからは私の勝手な妄想なのですが——

もしかすると、漢字の」「」「も同語源かも……?
もしかすると、何千年も前にシルクロードを通じて東西交流が進み、音と意味が近づいていったのかも……?

参考:https://ja.wiktionary.org/wiki/求#字源
https://ja.wiktionary.org/wiki/究#字源
https://ja.wiktionary.org/wiki/何#字源

こんな想像をするだけでも楽しい!というのが、語源の魅力のひとつです。

*こちらの内容は「【用例編】 ターゲット1900 ② ゆる補習 note」 10. require 《 qu- ≒ wh- ≒ 「◯◯とは何ぞや?」》」に加筆をしたものです。

《番組内で紹介された関連語》

《接頭辞なし》

quantity [14]   ▶︎どれほど大きいのか/how great, how much
 < quantitas 大きさ、量/greatness, quantity 
 < quantus どれほど大きい(多い)/how great, how much
 →【名】量 

*ラテン語の語源がオーストラリアの航空会社 QANTAS の名前にチョット似ているのは偶然?

《アルファベットの J は I から生まれた》

日本では、英語用の文字は「アルファベット(英字)」と呼ばれることが多いのですが、じつは古代ローマラテン語のために生まれたもの。だから「ローマ字(英:Roman alphabet)」、あるいは「ラテン文字(英:Latin alphabet)」と呼ばれます。

意外なことに、このローマ字の成り立ちは、日本人が中国の漢字からひらがなやカタカナを作った歴史に酷似しています。

ローマ字はギリシャ文字を手本につくられたもの。さらに遡ればフェニキア文字で、もっと遡ればエジプトの神聖文字ヒエログリフ。つまりもともと象形文字だったのです。

英字 < ローマ字 < ギリシャ文字 < フェニキア文字 < シナイ文字 < 神聖文字

*ざっくりこんなイメージです。

一番有名なのは、a が「牡牛の頭」を表す 'Alephアレフ からできたということでしょうか。ギリシャ文字 Α (α) をアルファと呼ぶのは、その名残です。

また、今回取り上げられた I や J は「手」をあらわす象形文字から生まれました。

世界の文字の図典 普及版
世界の文字研究会・編、1993(普及版 2009)吉川弘文館、P. 133

今日こんにち私たちがひらがなの「あ」から「安」を、「て」から「天」を想起することはほぼ皆無なのと同様に、アルファベットから元の意味を想起するのは困難ですね(笑)。

こちらの一覧表(↓)がとてもわかりやすいので、興味のある方はどうぞ!

さらに詳しく知りたい方には、こちらの一冊がオススメです(↓)。

《ターゲット・シス単関連語》

qualify [14], qualitative [17]


45. author [14] (情報を)豊かに与える者 → 著者

author は、2つのパーツからできています。

author  <  auth  + -or

この単語の本質部分は、前半の auth の部分。
ちょっとトリッキーですが、もともとラテン語で「増やす、豊かにする、与える」などをあらわす augeō が語源です。

羅: augeō = 英:increase, enrich = 日:増やす、豊かにする、与える
原形:augeō → 不定詞:augēre → 過去分詞: auctum *

* 太字部分=語幹

「オークション」も同語源。商品の値段ががどんどん増えていく「競売」です。

ここに名詞化のシッポ(接尾辞)がついています。

-or ………… 名詞化 11

2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。

author [14]  ▶︎ 増やす人、(情報を)豊かに与える者
 -or ……… 名詞化 11
 → (情報を)豊かに与える者/someone who enriches (information)
 → 証人、報告者、著者、創始者
  【名】著者、張本人

* author という綴りについては、
  authentic に影響を受けて今の形になったのではないかとも言われています。

*参考:https://www.google.com/search?client=safari&rls=en&q=author+meaning→語源欄

《派生語》

《接頭辞なし》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

authority [13]   発言権や効力が増していること・もの
          →【名】当局、権威、権限 … 名詞化 8
authorize [14]   発言権や効力を増さしめる →【動】権限を与える … 動詞化 5

参考:https://logeion.uchicago.edu/auctoritas

《要注意!ソックリな authentic は別語源》

よく似た形のこの単語、じつはギリシャ語系の別語源です。

authentic [14]   ▶︎自ら実行する者の/one who does by his own hand
 < ギリシャ語 authentikos もっとも重要な、正統な、本物の
 < authentēs 首謀者、実行者
 < autos 自身 + -hentēs 実行する者
 →【形】本物の、信頼できる

《ターゲット・シス単関連語》

authority [13], authorize [14]


46. technology [17] 技を体系的につなぎ合わせること → 科学技術

technologyテクノロジー は、3つのパーツからできています。
でも、まずはこう分けましょう。

technology = techno- + -logy = 科学技術、応用技術

techno- は「わざ」や「芸術」をあらわすギリシャ語 technēテクネー からできました。

techno- < ギリシャ語 technēテクネー

* ギリシャ語 τέχνη = téchnē / tékhnē
参考:https://logeion.uchicago.edu/τέχνη

テクネーは、人間・・がなにかを生み出し形づくるわざすべ、そしてそこから得られた所産全般を指します。

かつて外山滋比古さんは『思考の整理学』の中でこう述べられています。

われわれのまわりにあるすべての事象、現実は、自然と人為の二つに分れる。
…. アートは芸術にかぎらない。およそ人為の加わったものならすべてこの名で呼ばれてもおかしくないのである。

外山滋比古『思考の整理学』1986、ちくま文庫、P. 74

この「人為」の定義が、ギリシャ語 technēテクネーのもつ語感です。

techno- < ギリシャ語 technēテクネー= 英:art = 日:人の技、芸術

* ギリシャ語 τέχνη = téchnē / tékhnē
参考:https://logeion.uchicago.edu/τέχνη
* 2022/12/26 誤記訂正:正)techno- ← 誤)tecnno- 

つづく後半の -logy は、「〜学」としてよく使われています。

生物学の biology や 心理学の psychology などはその一例です。

これはひとつのシッポ(接尾辞)にも見えますが、2つのパーツに分けられます。

-logy < ギリシャ語 logosロゴス + -y ………… 名詞化 15

* ギリシャ語 λόγος
https://logeion.uchicago.edu/λόγος

最後の -y名詞ですよ、と教えてくれる合図シッポ
そして前半部分が ギリシャ語 logosロゴス です。

「ロゴス」という言葉は、驚嘆すべき多義性をもっています。
番組内で堀元さんが紹介された「理性」という言葉以外にも、「言葉計算思量理法」などの意味を兼ね備えています。

あえてこれらをひとつに集約するならば、

「◯◯とはなんぞや」を言語化し、具現化すること

になると思います。

なお、現代の technologyテクノロジー が扱う「テクネー」の範囲については、科学(scienceサイエンス)によって得られた知見、つまり森羅万象を観察することによって解き明かされた真理、という含みがあります。

整理、統合、抽象化し、体系にまで高める

外山滋比古『思考の整理学』1986、ちくま文庫、P. 78

科学サイエンス」から導き出された理法を「応用」する「技術」だから、「科学技術、応用技術」という訳語が生まれたのですね。

この3つが組み合わさることで、technology の意味が生まれます。

technology [17]   ▶︎ 技術を体系的に繋ぎ合わせ、活かしていくこと
 technē 技、人為/art
 + logos 思量、言葉、理性/computation, reasoning, word
 + -y …… 名詞化 15
 ≒ 技術(科学によって得られた知見)を体系的に繋ぎ合わせ、活かしていくこと
 →【名】科学技術、応用技術

参考:https://www.merriam-webster.com/dictionary/technology
https://www.oed.com/view/Entry/198469

《派生語》

シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

technique [19] 技 →【名】技術、技巧、手法

https://www.oed.com/view/Entry/198458

logic [14]  「◯◯とは何ぞや」を言語化するもの
       →【名】論理、道理、原理 ………… 形容詞化 10
logical [16]「◯◯とは何ぞや」を言語化するような →【形】論理的な … 形1*

* 形容詞化 1
参考:https://www.oed.com/view/Entry/109788
https://www.oed.com/view/Entry/109791

《ロゴスの意外な仲間》

はじめに言葉ありき

『聖書』ヨハネ伝 1:1

じつはこちらも「ロゴス」の仲間です。
『新約聖書』の原典はギリシャ語で書かれており、logos が「言葉」と訳され日本でも親しまれるようになりました。

ギリシア語:   Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ λόγος(En archē ēn ho logos
→ ラテン語: In principio erat Verbum
→ 英語:   In the beginning was the Word
→ 日本語:  はじめに言葉ありき(現代訳:初めにことばがあった)

(これを解説すると長くなるので、「ロゴスは言葉なのか?」が気になる方だけこちらをどうぞ。)

《なぜ [k](ク) の音に3種類の綴りがあるのか?》

[k] の音を表す綴りに、k / c / ch の3つがあるのを不思議に思ったことはありませんか? 

これは語源的に説明可能です。(例外もありますが、ほぼ原則通りです。)

k   = ゲルマン語系
c   = ギリシャ・ラテン語系(ラテン文字 c or ギリシャ文字 κカッパ の代用)
ch = ギリシャ語系(ギリシャ文字 χカイ の代用)

ギリシャ文字 χカイ の本来の発音は、/k/ ではなく/kʰ/ 

じつは、英単語は綴りから語源がわかるように設計されているのです。

これは、わたしたち日本人が<同音異義語>を漢字で見分けたり、あるいは漢字を音読みと訓読みで使い分けたりする感覚に似ています。

たとえば「けんとう」というひらがなが「検討、見当、健闘、献灯」という文字に変換されると、まったく違った意味を感じることができますよね。

日本語話者であるわたしたちが、国語辞典や漢和辞典で文字を調べ、ことばのもつ本来の意味を確認するのと同じように、英単語も綴りを見れば何語由来かがわかります。その瞬間、ラテン語系ならラテン語の、ギリシャ語系ならギリシャ語のもつ本来の味わい(≒ 核イメージ)がふわりと立ちのぼってくるのです。

なお、ch と書いて [k] の発音ではないもの・・・・・・については別の解説が必要になります。たとえば child は [k] 音ではないので、ギリシャ語系ではないことがわかりますね。(これについては、また別の機会に!)

《ターゲット・シス単関連語》

analogy [15], anthropologist [17], anthropology [16], apologize [17], archaeologist [17], archaeology [17], biological [19], dialect [16], dialogue [OE], ecological [19], ecology [19], geological [18], ideology [18], logic [14], psychology [17], sociology [19]


47. environment [17] 周囲の様子 → 環境

 environment は、3つのパーツからできています。
でも、まずはこう分けましょう。

environment < 古フランス語 environ + -ment …… 名詞化 10

シッポの -ment は「〜すること・もの」という名詞ですよ、の合図です。

-ment ………… 名詞化 10

残るは「アタマ × カラダ」の組み合わせ。
本質部分は viron で、もともと古フランス語で「外周、範囲」をあらわします。

environ < 古仏 en- 〜する (動詞化) + viron 外周(境界)、範囲
     =
 周囲をぐるっと取り囲む

この3つのパーツが組み合わさって、environment の意味が生まれました。

environment [17]   ▶︎ 周囲をぐるっと取り囲むもの/surroundings
 en- 〜する …… 動詞化
 -ment …… 名詞化 10
 → 周囲をぐるっと取り囲むもの
 →【名】環境

《派生語》

シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。

environmental [17]  
 周囲を取り巻くものに関する →【形】環境の、環境保護の …… 形容詞化 1

《意外な仲間?! ジャイロ と ギロピタ》

諸説あるものの、「もしかすると environment の仲間かも?」という可能性がある言葉をご紹介します。

gyro 【名】
 ① ジャイロ(ジャイロスコープの略)、ジャイロセンサー
 ② ギロス(ギリシャ料理:回転する串に肉を刺して焼く)

gyroscope 【名】
 ジャイロスコープ(姿勢制御装置、回転儀)

ギロピタ 【名】
[ギリシャ料理]ギロスをピタパンに挟んだ食べ物

Oxford Dictionary of Word Origins [2/E], gyrate 参照
参考:https://logeion.uchicago.edu/gyro
https://logeion.uchicago.edu/gyrus
https://www.oed.com/view/Entry/82906


ギリシャ料理「ギロス」は、こんな感じで肉を回転しながら焼き上げます。
By Yannis Samatas - http://www.explorecrete.com/cuisine/gyros.html, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10552868

カタカナの呼称ではわかりにくいのですが、ジャイロとギロは綴りが同じ!
それもそのはず、同語源なのですから。どちらも回転していますね!

《ターゲット・シス単関連語》

特になし


まとめ

ことばというものが、世界をいかに違った角度、方法で切りとるものか

鈴木孝夫『ことばと文化』1973、岩波新書、P. 17

想像してみてください。
もしも国語辞典に、漢字がなかったら——?

たとえば「こうとう」は「口頭」なのか、はたまた「高騰、高等、好投、喉頭、荒唐」なのか。ひらがなだけではわからない語感、ニュアンスの違いといったものは、漢字を見ることではっきりと識別できます。

日本語の同音異義語を使い分けるためには、漢字を見分けることがかなり重要なポイントであることがわかります。

じつは英語も同じです。
英語はアルファベットを単なる「表音文字」とするのではなく、あえて(ギリシャ・)ラテン語風の綴りを採用することで、語源から本来の意味を掴みやすいよう設計されています。

たとえば日本人が「コピー」と「複写」と「写し」を使い分けるように、英語にも見分け方のコツがあるんですね。ちなみに copy の語源はラテン語です!

ゆる言語学ラジオをきっかけに、みなさんに英語の語源(特にギリシャ・ラテン語の由来)を楽しんでいただけるようになれば幸いです。

今回も「超」長文をお読みくださってありがとうございました!

どうぞ良い一日を🍀

心より感謝を込めて

夏野 真碧


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*すべてのお便りにお返事できないこともありますが、
いつも楽しく拝読しております。
ほんとうにありがとうございます!


《主な参考文献》

① 英単語ターゲット(旺文社)

② システム英単語(駿台文庫)

③ 語源辞典(おすすめ洋書)

いちばんお気に入りの語源辞典。
ターゲット②の放送ではバラけて「使えなくなった」とされていましたが、過言です(笑)。テープと木工用ボンドとカバーフィルムで修復したので、まだ1代目は現役!念のため、2冊目を購入して手元に置いてあります。

(潰して使えなくなったのは、ほかの英和辞典です!)

この語源辞典は誤植も多いのですが、内容が充実していて、ストーリーもわかりやすいので、本当におすすめです。

こちらはマニア向けですが、内容は充実しています。

こちらは柊風舎の『オックスフォード英単語由来大辞典』の原典です。
英語で OK という方であれば、こちらの方がお求めやすい価格帯になっています。
(2022/12/05時点、Amazon ではハードカバーの方がペーパーバックよりも安くなっているようです。)

④ 英英辞典サイト

Google 検索画面を表示 →「◯◯ meaning」で検索すると、Oxford Languages の語釈と語源が表示されます。これは、かつての LEXICO とほぼ同じ内容の語釈と語源となっておりますので、ご参考になさってください。
また、Merriam-Webster のサイトは今秋大幅刷新され、語源欄や類義語の比較など、より深く、より使いやすくなりました!
(それにしても、LEXICO がなくなってしまったのは本当に残念でなりません。)

⑤ 英和辞典サイト

⑥ 英英辞典アプリ

⑦ 羅和・希和辞典

⑧ 羅英・希英辞典サイト

シカゴ大学運営。
羅英辞典 Lewis & Short や希英辞典 Liddel, Scott and James (LSJ) が無料で調べられます。

⑨ その他(紹介順 + α)

聖書の言葉を調べるときに便利なサイト。いろんな訳を調べることができますが、英語訳を調べた時は、歴史が古く一番よく親しまれている「King James Version (KJV) 」がオススメです。



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