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流転の宴 (るてんのうたげ)

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身近な自然と日々の生活で感じたことを記しています。ふとした合間にご覧いただければ幸いです。
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2023年6月の記事一覧

王侯の夢

王侯の夢

熟れた陽が落ち
丘陵に帳が降りる

薄紫の空に星々が流れ落ち
砂塵に洗われた藍色の玉石

静寂に放たれたその光沢は
佳人の微笑みを映し出す

鹿鳴春飯店

鹿鳴春飯店

朱色の円卓に
冷えた桃の産毛が濡れている

旗袍の給仕は
陽炎が渦巻く大陸の巫女

蜃気楼に揺れる落日が
小窓を透し
その横顔に朱を放つ

初夏

初夏

高く蹴り出し漕ぐブランコ
風が耳元でなにごとか囁く

迫る青空にバラが香り立ち
身を乗り出せば
ノームの庭の初夏が

例大祭

例大祭

どんどこ太鼓が響き
風を呼ぶ
囃子の音が賑やかに
裸電球がでこぼこ揺れる

カルメ焼きや綿飴の出店の境内を
親子がそぞろ歩き
木立がざわめく

犬は頻りに吠え
猫は無関心に石堂の陰を忍び足

父は少し酔い
母は微笑み声をかけるが
何事か思い出せず
潮騒だけが遠くで

飛翔

飛翔

機影が閃き
一直線に天空を遙か

青空に溶解する金色の極点
星座は陰に休み
こだまする鳥の声

回廊

回廊

大岩をくぐると
背後は苔の壁

狭隘な砂地を踏みしめ
風の道を巡る
わずかに壁を這い伝う水滴は
まだ止まない驟雨

明るみを奥に回廊は続く

支笏湖

支笏湖

夜に木々は湖底で眠る

朝霧が吹き払われ
樹林は青空の底で
さざ波の音を聞いている

八幡坂

八幡坂

ワインの赤い滴りが
石畳の坂を静かに流れ
陽炎に微かに香り漂う
旧市街の昼下がり