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メンズスーツを着たい、というかレディススーツを着たくない

私が持っているスーツは、裾が広がっているスカートと、広がっていないスカートと、腰の部分がきれいに見えるらしい「カービーシルエット」のジャケットだ。ジャケットと合わせのスカートは裾が広がっている方だから、そのセットでほとんど初めてくらいのインターン(雑用)に出かけた。久々の5時前起きで頑張った。

会場について言い渡された私の仕事は「受付」。「女の子だから」なんだそう。朝6時半に聞くにはけっこうしんどい。いつ聞いてもしんどいけど、まだ朝だから。こんな朝っぱらからかまされるとは、すこしは防御態勢をとる時間をくれよ。まだパンプスを履くしかないので、スニーカーから履き替えて、受付業務について「お姉さんたち」から教えてもらう。

お姉さんたちと並んでおしゃべりをしていると、来年の話に。来年「女の子」は私一人らしく、他の女の子をインターンに呼ばないとね、とのこと。受付がひとりになっちゃうから。すぐ近くには「男の子の」インターン生たちが歓談中。初めましての人ばかりで自意識過剰にも視線を感じているような気がしつつ、私は恥ずかしかった。

普段もやもやを口にし続けて、やめるべきこと変えるべきことは言い続けてきたはず。でもインターンという社会では黙従しかできない。「女の子」であることを全身で認めているようなこのスーツも嫌いだし、そのスーツを着てただ受付業務をこなす、歓談中の男子の横で。そんなことをやってる自分も嫌い。横にいる私の次に新入りのお姉さんに「女子がいないなら来年は男子が受付すればいいですよ」って呟くくらいがせいぜいだった。

「クーゼス」というスーツのブランドがあることを知った。女性の身体に合うようなメンズスーツを仕立ててくれるらしい。大学生の私には高すぎる額だから、とても自分で買えそうにはないけど、こういうのいいな、と思う。

正直なところ、メンズスーツを着たくて着たくて仕方がないというわけではない。ただ、女性用の「女性らしさ」を際立たせるとかいう宣伝の下販売されるスーツと、そのシルエットが苦手。メンズスーツではネクタイを当然におしゃれに組み込めるのがうらやましいだけ。そんなもんだ。けどそんなもんを叶えてくれるスーツは私の知るところ存在していない。だから、メンズスーツというすでにあるものを女性の身体にフィットして作ってくれるこのブランド、良いなと思った。いつかレディススーツでもなく、メンズスーツでもないけど、「立派にスーツ」なスーツを着たい。仕事だ!っていうような、ぱりっと気持ちを切り替えられる、私らしい一着を夢見る。

ポジティブにメンズスーツが着たいわけではなく、レディススーツからの逃避としてのメンズスーツだ。当分はお金の問題でできる限りシルエットの出ないパンツスーツを着るしかないけど。今の私には、たぶん、ポジティブにスーツを着る選択肢はない。けどいつか、逃避ではなくて選び取る選択肢としてのスーツを着たい。

隣のお姉さんに合わせていつもより高い声で「受け付けております」「ありがとうございます」と言うとき、苦しくて悔しかった。ありがとうございます、頭を下げる、そして下げながら歓談する男子を恨めしく横目で見ていたなんて、彼らは気付かなかっただろうよ。かかともいい加減痛くて、パンプスも時折こっそり脱いだ。少しずつ脱いで、いつか自分を取り戻してやる。


【クーゼス】https://keuzes.co.jp/

【クーゼスについて書いてある記事】https://www.wwdjapan.com/articles/1226364?utm_source=smart_news&utm_medium=referral&utm_campaign=1226364

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