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最期の夏のトマト
祖父は最期、トマトしか口にしなかった。
特に好きだったわけではないのに、最期の夏、祖父は祖母が育てたトマトしか食べようとしなかった。
祖母もそれを心なしか喜んでいるように見えた。
祖母が育てたトマトは、真っ赤で、瑞々しくて、甘かった。
「今年のトマトもおいしいね」
「でも、熊に食われて、少ししか残ってない」
わたしは先ほど祖母が採ったトマトを、ぐしゃりと噛んだ。
「トマトがないと、じいちゃんのこと忘れちまいそうだ」
祖母は畑仕事ができるくらい元気だけど、最近少し呆けてきた。
「ばあちゃん、トマト、おいしいよ」
祖母は汗を拭いて、熊除けの花火を仕掛けていた。
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ