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沖縄と塩とおばあさんと

ゲストハウスの方から遺骨収集の話を聞く。地上戦が行われた沖縄には戦争で亡くなった方たちの骨が埋まっており、それらを掘り起こして供養するために遺骨収集を行う団体がいるそう。

今朝出発した宿泊者はそのボランティアに来ている人で、「ゲストハウスに入る前に塩を撒かせてもらった」とのこと。過去にはドミトリーの宿泊者の様子がおかしく、霊感がある人に見てもらったところ、防空壕となったガマ(鍾乳洞)に行った宿泊者から悪いものをもらってしまったことが原因だったと聞く。

「その子は仕事が忙しくて心が弱ってたタイミングで悪いものをもらっちゃったみたい」だそうなので、やはり今回わたしはそういう場所に近づかない方が良さそう。まだ人生の歯車がガチっとかみ合っていない感じがしている。

ゲストハウスのお姉さんは「沖縄はどこもそういう場所だから、沖縄の人は塩を持ち歩く」と言っていた。わたしは和歌山で不思議なおじいさんから塩をいただいてきたが、改めて良いタイミングで良いものをいただいたのだなと自分の巡り合わせの良さを実感する。人生の歯車が噛み合いつつあるのかもしれない。

ゲストハウスの方と昨日のビール屋さんの店主からおすすめされた沖縄県立博物館・美術館へ。「島嶼性」という言葉を初めて知った。

島嶼性(とうしょせい、英語: insularity, islandness)は、島嶼やそこに住む人々ないし生物を特徴づける性質のことを言う。人文地理学・社会学・人類学・経済学・文学・政治学・看護学・生態学・生物地理学など幅広い分野で論じられている。

Wikipedia

島は面積が小さくなるほど、そこに住む生物の種類も少なくなる。大型動物は個体数を維持できないし、海の影響を大きく受けることから植物の生育が安定せず、それを食べる動物の個体数も変動しやすいのだとか。

一方、大型動物に捕食されていた動物にとっては天敵がいなくなるわけで、大きい島で絶滅した動物が生き残ったり、捕食から逃れるための行動が見られなくなったりといった変化が生じるそうな。

同じような小さい島に住む蛇でも、島の餌の状況によって適応するために体を大きくしたり、反対に小さくしたりするというのが面白かった。小型のヤモリを餌にしている島のサキシママダラは体が小さく、海鳥の雛を餌にする島の同じ蛇は体が大きく変化するなど、環境に適した体になっていく。

反対に、餌が少なかったり不安定だったりする環境では、体を小さくして生きながらえるケースもあるそう。

つくづく身を置く場所が大事だなと思う。人間も萎縮してしまう環境に居続けるとそこに適した考え方や体質に変化していくわけで、「今のわたしはいい感じ」と思える状態を保つことが楽しく生きるシンプルな指針になるのかもしれない。

わたしもまた、自信をなくす環境にいたり、部屋に閉じこもって退屈な日々を過ごしていたりしていた頃に出会った人と今再会すると「顔つきが違う」と言われる。その変化は自分ではわからないけど、今のわたしの方がいい感じであるのは間違いない。

「女性店主きりもり」というメモとともに保存してあった居酒屋へ。入るなりいかつい男性と目が合い、一人だと言ったら微妙な顔をされた気がして、席についたあとも男性はおばあさんに「飲み物聞いてよ」と強い物言い。

ハズレだったか……とテンションは下がったが、「あせるな!」とおばあさんは男性をたしなめ、わたしに向かってにっこりしてくださり、ホッとする。

交戦的な箸袋

おばあさんは60年前に2年ほど東京にいたことがあり、滞在場所がなんとわたしの地元だった。町名まで同じでびっくり。当時、駅前は市場だったそうで、今でも駅ビルの食品店が充実しているのはその名残なのかもしれない。

「日野の方に行ったとき、人も電車も少ないから雪が荒らされていなくて綺麗だった」「電車のホームからつつじが見えた」「初めて汽笛を聞いた時、こんな遠くまで来たんだと思って涙が出た」など、おばあさんは情緒的な語り口がすてきだった。

ハンダマの和え物と自家製ジーマーミー豆腐

当時、沖縄はアメリカの支配下にあり、東京に来るのもパスポートが必要な時代。船で神戸まで出て、そこから電車で移動し、東京にたどり着くまで3日ほどかかったそう。そうした背景を聞くと、沖縄で耳にすることのない汽笛で涙するのもわかる気がする。

いかつい男性はおばあさんの孫だった。お店はおばあさんが18年前に始め、最近は孫と一緒に仕事をしているそう。孫は泡盛をはじめお酒に詳しく、たくさん泡盛を紹介してくれた。

沖縄の歴史を交えつつ泡盛について教えてもらい、お客さんからもらったらしい古いウイスキーなど味見をさせていただく。いかつい孫は良いやつだった。

今日も寒い。ゲストハウスのお姉さんは「今日は寒いからヒートテックとダウンとストールも巻いて、北海道の人みたいよ。行ったことないけど!」と言っていた。明るいというのは、それだけで良い。

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