#1
ー2019年2月某日。
私は夢だったグラフィックデザイナーとしてコスメメーカーに勤務しながら悠長な時間の使い方をしていた。20代はデザイン会社や新規プロジェクト、フリーランス転身と一通り寝ずに仕事を頑張り、今はインハウスデザイナーとして時間にゆとりを持つ事に優先順位を置いてまったりと過ごす毎日。お昼休みには窓に来る鳩をぼんやりみながら珈琲を飲むのが日課だった。
淹れたての熱い珈琲、凍てつく寒さとは裏腹の暖かい日差し。ラジオからは流行りの音楽と明るい話題がくるくると流れ、聴く人を飽きさせないように配信されている。この世界の明るい一角を切り取ったような毎日に胸をなで下ろしていた。
今日も昨日と同じ変哲もない穏やかな日々をこなす。そう思って今日も珈琲を飲もうと思った瞬間、携帯が振動した。
ー母親からだ。
母親から連絡が来るときは相談事が多くて、正直気が減いる。今は仕事中を理由に後からかけ直そうかな・・・なんて、考えながら電話を取るのを躊躇った。でもそういえば、真昼に母親から電話が来るなんて珍しい。何かあったのかもしれない。多少の気の重さを感じながらもトイレに立ち、電話を取った。
ーもしもし?
「さなちゃんが死んだ」
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