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not only but also

 藤井空さんのトーク&ライブを配信で視聴していた時のことだ。
 終盤、空さんが自嘲的に「でも結局話題になるのは風さんのLINEの話」であったり「コラボが見たい方は結局風さんが見たいのでは」と仰ったところが、どうも幾分胸につかえて今も気にかかっている。
 
 生い立ちなどを話せば、自然とご家族は含まれてくるだろう。藤井空さんと藤井風さんは元々ご兄弟で動画をアップされていたから、むしろ触れないのは不自然でもある。
 ただ、もしその「風さん」のところばかり、もしくは「家族であること」ばかりを常日頃クローズアップする向きがいて、空さんの心に少なからず叢雲をもたらしているのならば、残念なことと思ったのだ。

 兄弟姉妹で音楽家という例は、かなり多い。同じグループに所属する「L⇔R(現在兄は故人)」「フレデリック」「キリンジ(後に弟が脱退)」などのほか、互いにソロミュージシャンの「椎名純平さんと椎名林檎さん」、別グループで活躍する「Perfume西脇綾香さんと9nine西脇彩華さん」というパターンもある。
 
 だがいずれにしても、わざわざ書くまでもないことだが、花開くためには本人の情熱と幾重にも積み重ねた努力が必要になる。プロフェッショナルになり、さらに多くの人の耳目を集めるには途方もないような確率を潜り抜けなければならない。表現の世界で、それらは不可欠なことなのだ。

 そして、この世の中にはそれでも大量の音楽が溢れている。
 そのたくさんの中から選び取って、幾許かのお金を払い、見て聴く。ならば、まず作品そのものへのリスペクトがあったらいいのに・・・・・・と思ってしまうのは、いち音楽ファンの我が儘だろうか。
 次の機会があるならば、ひたすら空さんにクローズアップしたトークが聞いてみたい。一音楽家、マルチプレイヤーとしての彼は、充分すぎるほど魅力的だ。捻ったアレンジも、変拍子を巧みに使うところも、朴訥とした喋りもとてもいい。

 そういえば、誘われてMVのロケ地を訪問した折、現地の方が「追っかけみたいな子たちが朝からたくさん来ましたよ」と言っていたのを思い出した。
 そうか、きっとMV撮影についての質問を繰り返しされていたのだろうな・・・・・・とすぐに思い至り、ひたすら文化の話ばかりしていた気がする。ガイド的なお立場であるならば、おそらくは講習会やレクチャーのようなものを経ているだろう。本来の仕事、本来の価値にこそ敬意を示したいと心から思ったのだ。
 撮影の裏話などは、公式スタッフが出す出さないを考えて披露することもあるだろう。いや、なくてもいい。その判断をこそ尊重したいのだ。

 ひとつ何かを知り、その先に繋がった別の何かを知る。「好きなもの」がどんどん増えていく。そんな数珠繋ぎは、音楽のみならず芸術文化の素敵な楽しみ方だ。ジャンルさえも飛び越えて、ゴッホからアンリ・デュティユーに興味を持つかもしれない。
 ものの楽しみ方など人それぞれ自由で、別にマナー講師よろしくご高説垂れるつもりもない。ただ、楽しみはより多く、深くすることもできる。少なくともわたしは、それが好きだ。

 
 
 ◇ ◇ ◇

 実はこのエントリ、文字にするのを迷った。読み手がものづくりをする人ならば、「実力で見返そう」と考えたことがあるはずだから。(わたしもそのひとり。)
 ただ、その実力や魅力に関係なく、他の人や物事に夢中すぎてやや失礼な振る舞いに鈍感になってしまう向きはかならずいる。それは恋愛のような熱狂だから、どうしようもなく「ありうる」ことなのだ。
 楽しいことを、過不足なく楽しむ。それはひとつのスキルだと思っている。日々修行。


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なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」