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あふれるほどの愛

もちもちの厚い皮に、溢れそうなほどたっぷり詰まったクリーム。
あったかくてあまくて、ひとつ食べたらおなかいっぱい。
薄皮でぱりぱりのたいやきよりも、もちもちのずっしりしたこのたいやきが、わたしは大好き。

ここは、昔ながらのたいやき屋さん。踏切のすぐ横に、たいやきを作って売るのにぴったりな大きさの、小さな四角い建物。いかにも職人風のおとうさんと、かわいらしくて気さくなおかあさんが迎えてくれる。

わたしがお店の中を覗くと、小さな窓を開けておとうさんが顔を出す。
「なににする?」
「えーと、クリームひとつと・・・」
ここのたいやきが大好きだから、その日はたいやきを注文しながら、自然と顔がにやにやしてしまった。そんなわたしの顔を見て、お店の奥にいたおかあさんがハッとしたように言った。

「あなた、とってもきれいねぇ。顔立ちがきれい!目も鼻もくっきりしていて、すごくきれいよ!」
「えっ・・・ありがとうございます。えへへ(照)」

うれしそうにわたしを褒め続けるおかあさん。うれし恥ずかしさらににやにやするわたし。たいやきを袋に詰めていたおとうさんが、何か言いたげにわたしの顔をじっと見る。

「・・・きれいって言われてるぞ?よかったなぁ」
おとうさんはそう言ってにやりと笑った。

家に帰ってたいやきを食べながら、おとうさんの言葉をゆっくりと思い出した。あの会話の流れだと、おとうさんも「うん、きれいだよね」みたいにお世辞でもオマケっぽく言ってもおかしくない(そう言うほうが簡単というか単純である)。

わたしの顔をみて「きれい」とはしゃぐおかあさん。「きれい」と言われてにやにやしているわたし。そんなわたしたちを「よかったなぁ」と、やさしく見守るおとうさん。

わたしの顔がきれいかどうか、そんなことよりも、おかあさんがとても楽しそうなのが、おとうさんはうれしかったんだと思う。そして、このおとうさんはきっと、女性に軽々しく「きれいだね」なんて言わない男なのだ。おとうさんにとって「きれいだね」と伝える女性は、おかあさんただ一人なのだ。なんてかっこいいんだろう。

おとうさんの言葉に、わたしは深い愛を感じた。ああ、なんだかとってもあったかいな。前からここのたいやきが大好きだったけど、二人のことも大好きになってしまった。

次の日、わたしはまたたいやき屋さんに行った。「お二人の写真を撮らせてください」とお願いした。

「写真が好きなの?素敵な趣味ね。いま口紅塗るからちょっと待って!」とおかあさん。
おかあさん手作りのたいやき柄の帽子をかぶるおとうさん。

「きれいに撮ってね?」とにこにこ張り切るおかあさん。
おかあさんの隣で、ちょっとはにかんだような様子のおとうさん。

何枚かシャッターを切り、撮った写真をその場で見せる。
「わぁ、わたし、すごくきれいに撮れてるわ。これ、きっとすごくいいカメラなのね。きれいに撮ってもらえてうれしい!」

「今度、写真展があるんです。愛を感じる写真。この写真を出してもいいですか?」
「あら、愛?ふふふ。もちろんいいわよ」
そう言って、この日はおかあさんがたいやきを袋に入れてくれた。

「ここのたいやき、もちもちで、クリームがたっぷり詰まってて、わたし大好きなんです。どこのたいやきよりも一番好き」
「そうよ、おいしいでしょう?愛がたくさん詰まってるからね」
おかあさんはしあわせそうに笑った。

おいしいたいやき、いつもありがとうございます。
これからも元気で、愛がたくさん詰まったたいやきを、たくさんの人に食べさせてあげてください♡

Camera : Leica M10
Lense : Summicron f2/50mm

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