[エッセイ]『境界の草原』
「境界の草原」
死んだはずの母が生きていた。
正確には、いつのまにか部屋で寝ている。
母が死んだのはいつだったか。
生きている方がつらそうな母が、
動けない体から解放されたあの日、
悲しみとは違う涙が出たように思う。
眠る母を見下ろしていると、
姉がやってきて「かわいそうに。洗ってあげなくちゃ」と
母を抱き起こした。
乾いた泥にまみれた体は、ところどころヒビが入っている。
姉は母をそのまま湯船に入れると栓を抜き、
お湯を出しながら撫でるように泥を落とし始めた。
どれだけそ