リスクを低減するには時間軸を下げるしかない
トレードの要諦の一つは退場しないこと。とにかく相場で生き残ることが最も大切。そしてFXで退場しないためにはリスク管理が非常に重要ということになる。
結論を最初に言っておくと、リスクを低減させるにはトレードの時間軸を下げなければならない。
「リスク」を構成する二つの要素
金融や投資におけるリスクとは「将来損失が出る可能性」のことである。ここから派生して「損失の原因となる不確実な要素」もリスクと考えられている。
例えば株式投資なら、企業の業績が下方修正されるとか粉飾決算が発覚することによって株価が下がるため、そういった企業評価への悪い材料がリスクとみなされる。
債権や通貨においては、中央銀行の政策金利、経済指標などの発表によってが価格が大きく動くためこれらの要素がリスクとなる。また内戦や自然災害、金融危機などの突発的事象もリスク要因となり得る。
つまり、一般的に投資におけるリスクには二つの構成要素があって、
①予測不能であること
②価格の変動をもたらすこと
ということになる。
例えば、芸能人が不倫したというニュースは、我々には予測不能な出来事ではあるが、市場には何の影響もないためリスクではない。またアメリカの雇用統計の発表は、予め発表の日時も決まっているし市場予想が当たることもあるが、サプライスがなかったとしても大きな価格変動をもたらすためリスクと捉えるべきである。
注意が必要なのが、リスクについて考え始めると、どうしてもファンダメンタルズ分析寄りの議論になってしまうことだ。ただ、いかにファンダメンダルズを研究しても本質的にリスクは予測不能であるから、「リスクを予測しよう」という試み自体が自己矛盾していることは忘れてはならない。
ポジションを持つこと=リスク
だから、テクニカル分析においては、「リスク=損失を出す危険性」くらいの意味に限定的に考える。
「損失を出す危険性がある」とは、具体的には、ポジションを持っている状態である。ロングでもショートでもとにかく発注してエントリーすれば、どんなに有利な価格で取得したとしても(仮に今のところ含み益が出でいても)、イグジットするまでは、損失で終わる可能性がある。
その意味で含み益も含み損も幻に過ぎず、等しくリスクである。決済が完了するまでは、どんなに含み益が出ていようと安全ではない。一方、利益確定であれ損切りであれ、ひとたびイグジットしてポジションを外してしまえばリスクはゼロになる。仮に損切りで終わったとしても、流動ポジションがなくなれば、ひとまずはこれ以上証拠金が減ることはない。
大切なことは、エントリーしてポジションを持っていること自体がリスク、つまり損失を出す可能性があるということだ。証拠金を相場に晒すこと自体が一定確率の下で損失に繋がる危険な行為なのである。
そしてFXは「損失のリスクを覚悟でリターンを狙う作業」であることを理解しなければならない。
「リスク管理」の意味
では「リスク管理」とは何だろうか。ポジションを持つことがリスクだとして、エントリーしないことにはお金を増やすことはできない。では、リスクをコントロールするとは具体的に何をすればよいのか。
トレード(FX)におけるリスク管理とは、
①市場ボラティリティの把握すること
②自分のトレードのリスクを把握すること
③実際の取引でリスクを抑えること
という三つ意味がある。これらは別々のことを言っているようだが、相互補完的な関係にある。
外部ツールで証拠金計算機という便利なサイトがある。最大リスクを自分で計算することができる。
自分のトレードのリスクを把握する
まず①市場のボラティリティの把握、つまり「今エントリーしたらどれだけ価格が動くか」という価格の変動幅をきちんと理解することが必要である。
ボラティリティを把握しないままエントリーすると、適切なロスカット幅がわからず、相場の「揺らぎ」によって不要な損切りを重ねてしまう。
これは、最も一般的な指標で「ATR」(Average True Range)というものがある。こういったテクニカル指標を用いて、市場のボラティリティを正確に把握する必要がある。(ここでは本題からズレるので割愛する。)
第二に②自分のトレードにおけるリスクはどの程度かを把握しなければならない。つまり一度の取引でいくら証拠金を失うかもしれないかを知る必要がある。
これはエントリーする際の「ロット」と「ロスカットの幅」で決まる。
なお、リスク管理において勝率やエッジ(期待値)は関係ない。ここで言うリスクとは「負けた場合の損失額」なので、勝率が99%だろうとリスクは同じである。残りの1%で負けた場合にいくら失うかが問題なのであって、極端な話、ロスカット幅を広く取り過ぎでいたら、1回の負けで退場してしまうこともあるからである。
これを式にすると、
となる。
例
1.00 lot(10万通貨)で損切りが10pipsなら、損失は約10,000円
0.10 lot(1万通貨)で損切りが20pipsなら、損失は約2,000円
大切なことは、この②(自分のトレードのリスク)の「変数」は完全にコントロールすることができるということだ。エントリーする際のロットも自分で決められるし、ロスカット(決済逆指値)の位置も自分で決められる。
市場のボラティリティや勝率はコントロールすることは不可能だが、自分のトレードの損失額だけは唯一自分の判断でコントロールすることができるのだ。
実際の取引でリスクを抑えるには
結論から先に述べると、実際の取引でリスクを抑えるには、「損切り」しかない。
厳密には、一時的に両建てすることや複数の通貨ペアに分散することでヘッジをかける方法もあるが、個人投資家が単一の銘柄を短期売買する限りにおいては、リスクを抑える手段で損切り(ロスカット)に勝るものはない。
というのも、テクニカル分析による短期トレードの基本思想は、「ローソク足だけを見て(=ファンダメンタルズを無視して)トレンドを取る」ということを目指しているわけだから、「基本的に値動きは予測できない」という前提でリスク分散している中長期投資の発想とは相容れない。
また、以下に紹介するが、他のリスク低減の手法は、分散にせよヘッジにせよ分割購入にせよ、どんどん規模(ロット)が大きくなる手法である。つまり最初から規模が大きくなる前提で極小ロットでエントリーしていない限り、途中から中長期投資のリスク回避手段に切り替えることは難しい。(これの失敗例の典型がナンピンである。)
その他のリスク低減法
①複数銘柄への分散
②ヘッジ(掛繋ぎ、繋ぎ売り)
③分割
①分散投資
資金を同一の銘柄や金融商品に投資するのではなく、複数に分けることによってリスクを回避する手法。投資先は「株式と債券」のように連動しにくい(逆の動きになる)ものを組み合わせるのが望ましい。
この考え方に則って、為替トレードにおいては、例えば先進国通貨と資源国通貨に分散するなどの方法が考えられる。
②ヘッジ(掛繋ぎ、繋ぎ売り)
株式や金融商品などの価値が一方的に目減りするのを防ぐために、現在の保有ポジションとは反対のポジションを持つことによって損失を抑える手法。本来は、先物取引やコモディティなどにおいて決済期日までの為替変動リスクや価格変動リスクを回避するために用いられる。
「掛繋ぎ取引」や「繋ぎ売り」も同じ発想で、配当や金利目当てで保有している(売るつもりのない)ポジションが下落しそうな時に同量の空売りを入れることで損失を回避する手段である。
③分割購入
価格の変動リスクを考慮して、あらかじめ投入金額を何回かに分けておき、価格が下がった(上がった)場合に追加購入することで取得価格を平均化する手法。
いわゆるナンピンも分割購入の一種。
ただ、上で紹介した①〜③の方法は短期トレードにはあまり馴染まない。どちらかといえば、そもそも簡単にはポジションを手放すつもりのない中長期投資向けのリスク回避手段だからである。
不確実性の中で長くポジションを持つこと自体が危険
以上から、リスク低減の基本的な方針は以下の通りになる。
①流動ポジションを持つ時間を短くする
②経済指標等の材料を避ける
③ロットを小さくする
④ロスカット幅を短くする
リスクの本質を理解したなら、絶対にエントリーからイグジットまでの時間をなるべく短くしなければならないと気づくだろう。材料の有無に関わらず、流動ポジションを持っている時間が長くなれば長くなるほど不明な動きによって不意の損失に出くわす蓋然性が高まるのだ。
喩えるなら、日頃から自動車を運転する時間が長い運送業のドライバーほど交通事故に遭いやすく、日頃ほとんど運転をしないペーパードライバーの方がゴールド免許だったりするのと似ている。事故(リスク)に遭う回数は、ドライバーの運転技術の問題ではなく、道路を走っている時間に比例して増えるからだ。
また、ロスカットの距離を短くするためには、チャートを下位時間軸で見ていく必要がある。そして、自分のエントリー判断が正しいのか間違っているかを早い段階で見極めねばならない。
時間軸を下げると、大きなトレンドの途中の調整で「トレンドが終わった」と思って早々に利益確定してしまう場合もある。時間軸を下げる以上は「こまめに損切りして、こまめに利確する」という手法にならざるを得ない。戦術としてはヒット・アンド・アウェイである。わからない動きや危険だと感じたらポジションを外して逃げる。当然、売買機会は多くなる。
結論
利益機会を維持したままリスクを低減するには時間軸を下げるしかない。
タイトル通りの結論である。
具体的には、時間軸は5分足、せいぜい15分足までをメインに取引し、取引時間は最大でも4時間以内に収める。ロールオーバー(日跨ぎ)は絶対にしない。欧州タイムから北米タイムを中心に取引するスタイルになる。
経験則だが、1分足トレードはおすすめしない。第一にローソクの動きにランダム性がありすぎてプライスアクションが使えない。またMAのサポレジが通用しなかったりギャップが生じたりと例外的な動きが増える。第二に相対的なスプレッドが広がるため手数料負けするからである。
当たり前だが、為替チャートがフラクタル(相似性を持つ)と信じるなら1時間足でも5分足でも同じ手法が使えるはずである。
「フィボナッチは1時間足以上で見るのがいい」とか「一目均衡表は日足で最も有効に機能する」とかいうのは、そのテクニカル手法の脆弱性を自ら認めているようなものだ。
時間軸を長くするほどファンダメンタルズ分析が必要になってしまう
個人的な疑問として、テクニカルトレードを自称しながら1時間足メインで取引している人が結構多いことは未だに謎である。グランビルやエリオット波動を見るためだと思うが、テクニカルの知識は下位時間足でも同じように通用する。
むしろ時間軸を上げるほど、30分、1時間、4時間、日足…時間軸が大きくなるほど相場の小さなトレンドは取りにくくなる。1時間足メインの取引では一日に新たに描かれるローソクは24本しかない。そのうち8〜10本分はマーケットが閉じているかアジア時間の閑散としたクソ相場であり、そもそも取引機会がない。
チャンスが少ないということは、間違いが許されないということであり、これは値動きが本質的にはランダムであるという性質には親和的ではない。(リスクを抑えるには、ロットを小さくして何度も挑戦するのが基本である。)
そして何より、時間軸がより「週足」に近づくほど値動きはよりファンダメンダルズの影響が大きくなる。為替における日足や週足のトレンドは基本的にその通貨の金利差によって形成されるものだからである。つまり、時間軸を長くするほどテクニカル分析ではなく、ファンダメンタルズ分析が必要になってしまい、より不確実性が増すことになってしまうのだ。そもそも各国の経済状況や中央銀行の政策金利の動向を先読みできるなら、短期トレードなどやる必要がないのではなかろうか。
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