見出し画像

1度行って良かったけど2度と行きたくないと思ったエジプト旅行記(前編)

これは大した計画も立てず、不十分な下調べでふらっとバックパックを抱えてエジプトに入った人間の旅行記である。ドバイから入り、5泊してカイロ、ギザ、ルクソール、アレキサンドリアを訪れ日本に帰った。使った予算は大体10万円くらいだ。

エジプトの遺跡や観光地の目標そのものは行ったことのある国の中でも本当に素晴らしくて、「ここに来て良かった」と思う瞬間は何度もあった。
でも観光地以外のほぼ全てが最悪で、「なんでこんな所に来てしまったんだろう」とも何度も思った。

私はそこまでガチのバックパッカーではないが、旅好きだし旅慣れはしている部類だと思う。20カ国ほど訪れたことがあり、そこまで危険な地域でなければ自分の足で歩いて探索するのが好きだ。その上でエジプトは強烈な場所だったと思う。

みんな一回はあそこに訪れて欲しい!と思うような、あんな場所を人に勧められない、と思うような…。

数々の失敗があったので良かったら参考にするか旅行した気分になって欲しい。


思い立ってエジプトに、到着

-ドバイからエジプトへ

そもそもなぜふらっとエジプトに行こうと思ったか軽く経緯を説明しておくと、その前にドバイを旅行していたからである。
ちょっとした放浪癖はあるが、日本からエジプトのような遠い距離を軽いリサーチで移動しようは普段は流石に思わない。

ゴールデンウィークの少し前に休暇を取ってドバイを訪れていて、急遽休暇を伸ばせることになった。折角だから他の国も見に行きたい。Googleマップを縮小して見ていると、一生に一度は行ってみたかったエジプトがすぐ側である。軽く調べた所、世界中からバックパッカーが訪れる観光地であるし、治安もそこまで悪くないらしい…

それくらいの情報と行きたい場所の位置関係等を調べて、思い切って帰りのフライトをキャンセルした。

この後私はこの決断に対して「して本当に良かった!」と後悔の間で反復横跳びをすることになる。

fly dubaiというdubaiのLCC。二万円弱でカイロまで移動できた。

ドバイを一緒に旅した連れと別れ、一人フライドバイのカイロ行きへと向かう。

行きの飛行機を待つ間、一緒に老婦人の手助けをした縁からドバイで働いているというエジプト人男性と会話をした。

彼は親切でおしゃべりで、エジプトを旅行する上でのアドバイスを懇切丁寧に教えてくれた。この観光地は行った方が良いとか、あそこはオススメではないとか、ガイドは雇った方が良いとか。中でも「お金を取られないようにして欲しい」と繰り返し言っていた。

彼の言っていたアドバイスはほぼ全て正しかった。しかし聞いていた上でも避けられないことがたくさんあった。

ドバイにいる人は、もしかして日本にいる人以上に他人に優しい親切な人が多い。出稼ぎの労働者であってもそこそこ裕福で良い環境に居て余裕があるからかもしれない。
この先のエジプトでの色々な経験との合わせ技で、自分の中に「裕福な人は良い人で貧しい人は悪い人かもしれない」という最悪な先入観が生まれてしまった。相関はあるかもしれないが絶対ではないし、人に対応する上で失礼なので何とかして頭の中から消したい。

-エジプトに到着、空港からの移動

スフィンクス国際空港に到着。早速ちょっと楽しい!

エジプト入国するにはビザが必要だが、到着後に購入できるので事前の準備は特に必要ない。
システムエラーでe-visaが取得できなかったため窓口で購入したが、ホログラム入りの綺麗なシールをパスポートに貼れるのでそれで良かったかなと思う。
25USD。まあまあする。

入国審査待ちの列はそこそこ長く、ぼんやり待っていると前に並んでいる女の子がこちらを見てニコニコしてくる。
一人旅をしている時は「荷物は少なく現地調達!友達も現地調達!」をモットーとしているので、思い切って話しかけてみた。
「あなたも旅行ですか?」
すると、彼女はエジプト人で旅行から帰った所だと言う。また、もう少し話していると大学生でなんと大学で日本語を勉強しているのだとか!
「えっそうなの!?自分日本人だよ!」
「そうなの!?」
的な感じでちょっと話が盛り上がり、若干日本語でも会話をしてみたりして、インスタのアカウントを交換。

空港に着いたのが12時過ぎだったため、売店などはほとんど閉まっていた。空港で現地simを買えないかなと思っていたのだが、まあ明日で良いかとなる。
空港にfree wifiなどは無かった。

これは判断ミスだったと思う。日本のキャリアの海外データ使用を利用してUber(日本ではフードデリバリーのサービスしかしていないが、個人タクシーを手配できる)でタクシーを呼んだ方がトータルで安かった。
あとは空港でEGP(エジプトポンド)を多少両替しておかなかったのも判断ミスだった。

出国審査を抜けたところで、先ほどのドバイで働く男性に再会した。空港の外のタクシーは酷いから!空港の中でタクシーを拾って行くんだよ!エジプト楽しんでね!と英語で声をかけてもらう。Shukran!

タクシー乗り場には大抵ボコボコで傷だらけの普通の乗用車がたくさん停まっていた。タクシーだからという特別な見た目などはないらしい。

一人のタクシー運転手に声をかけられ、ホテルの場所を見せたらOKと。価格交渉が始まる。エジプトでは定価というものが無い事が多い。

「50ドル(2024年4月のレートで約7800円)でどうだ?」
いやいや、それは高すぎるだろう。
かと言って距離が50km弱、時間で40分ほどあるしネットが使えないと適正な価格は正確に分からない。結局2000円弱で話はまとまった。
Uberを使えば150EGP(1EGPが3.2円ほどなので500円弱)ほどだったので割とボられている。勉強代だ。多少高い気配は感じてもその時は次の日のためにも早くホテルに着きたかったし仕方ないかなとその時は思っていたのだ。あとで調べたら思いの外ボられていた。

しかし、ドバイで働く男性の言う通り空港の外のタクシーがもっと酷いことを翌日(日付的には同日)知ることになるのであった。

走り出してしばらくして、運転荒いな…などと思っていると(これも後になって分かったが、彼の運転は全く荒い部類ではなかった)、運転手の男性がくるりと後ろを向いて話しかけて来た。
「ホテルの場所が分からないんだけど、電話番号とか何かない?」
えっ!?分かってなかったの?さっき地図と住所見せながら交渉してたのに?

というかドライバーはずっと後ろのこちらの座席を見ながら車線を跨いで80キロくらいで車を運転し続けている。お願いだから前を向いて欲しい。

ネットが使えない環境で予約のメールを探し、電話番号を見つけることができた。ネットがないとかなり困るが、エジプトでは電波が悪い場所も多かったのでローカルに情報を落としておくことも大切だ。

「ああ!あそこのことか!僕ホテルの人知ってるよ」
とドライバー。知ってるのかよ。ホテルに対して良くない予感を覚える。

エジプトの車はクラクションをよく鳴らす。
プッププー、プッププーとクラクションを鳴らし続ける車がいて、どうかしたのかなと様子を見ているとドライバーが
「ああ、彼はモハメッド(違ったかもしれない)だよ、彼はいつもああなんだ。鳴らすのが好きだからああしてるんだ」
It's OK! He just likes とかそんなことを言っていた。
めちゃめちゃな所へ来たと思った。
よくよく聴くとクラクションの音はリズミカルに響き続け、やっている本人は楽しそうだなと思った。深夜1時過ぎ。

私が予約した宿はギザ(ピラミッド、スフィンクスのあるギザとカイロは隣接したエリアでタクシーでも移動できる)のピラミッドが見えるという素敵な写真が目を惹く、一泊1200円くらいのホテルだった。
一人旅では割と安宿に泊まるのが好きで、東欧でコロナ前にそれくらいの価格のホステルに泊まったことがある。エジプトよりも物価は全然高いはずだし、そちらは快適だったのでそんなに悪くない宿かなと想像していた。
ネットで見た中で本当に安いエジプトの宿は一泊300円などというものもあり、そちらは流石に勇気が出なかったし。

だが、タクシーはどんどん治安の悪そうな地域に入って行く。GoogleマップはネットにつながっていなくてもGPSで位置情報が利用でき、事前に地図をダウンロードしていたので自分の位置情報は確認できる。
警戒してずっと地図を見ていたのだが、間違った場所に連れて行かれそうになっている訳ではなさそうだ。

裏路地に入って行って看板も何もない、ホテルのフロントに到着した。
タクシーの運転手は自分の連絡先を渡してきて、またタクシーを使いたくなったらよろしく!ガイドが必要でも言ってくれ!というようなことを言っていた。

あんなにボッタくろうとしておいて、なんでまた呼ばれるかもしれないと思えるのだろうか?

-ギザのホテルに到着

ドミトリーのユースホステルもカプセルホテルもネカフェ泊もカラオケ泊も車中泊も夜行バスも特に気にならない。
そんな私でも不安を覚える宿であった。
フロントに置いてあるソファ?に座ってね、と案内されるが、汚いのでちょっと座りたくない。

しかも現金で払わないと手数料を取るとか言ってくる。予約サイトに報告するぞ。

フレンドリーな従業員の男性が日本から来たの?とか話しながら部屋に案内してくれる。フロントの様子よりは全然良かったけどトコジラミが居たら嫌だから電気を付けたまま寝よう。そう思った。

部屋に荷物を置くと、従業員の男性が案内したい場所があるというから着いて行く。
これまた廃墟のような階段を屋上まで登ると

この景色が広がっていた。
ここに来て良かった(1)。そう思った。
市街地の奥に3つのピラミッドが連なっている。

宣材の写真は嘘ではなかった。宣材以外の部分に関しては完全に脱力しているだけで。

ピラミッドほんとにデカい。もうこれを見れただけでエジプトまで来て良かったと思うくらい感動した。
嬉しそうな私の様子を見てまた嬉しそうな従業員男性はウェルカムドリンクがあるから待ってくれと言って席を案内してくれる。
ホテルで働くかわいらしい少年に多分ドリンクの準備をアラビア語で指示すると、従業員男性は隣の席に座って雑談を始めてきた。

俺たちはもう友達だ。エジプトの家族みたいに思ってくれ。連泊しないのか。ガイドが必要になったら言ってくれ。ここは素晴らしい場所だろう、エジプト人と結婚するとここに住めるぞ。俺の友達が……
とか。
申し訳ないがちょっとウザい。早く寝たいし。

ドリンクを準備してくれているなら少年に悪いので飲んでから引き上げようと思っていた。しかし待てど暮らせどドリンクは来ない。

何度か立ち去ろうとして引き止められ、少年は2回ほど呼び出されてなんらかの指示をされ、結局ドリンクが出て来たのは1時間後くらいだった。午前3時。

そしてそのドリンクがこれである。

アラビアンティだとか言っていたが、普通のリプトンである。アラビア語は書いてある。味も普通だが水が美味しくないなというのは分かった。

従業員男性に自分が明日のために寝たいことを伝え、
「会話してくれてありがとう、あなたも寝た方が良いんじゃないか?」
とやんわりと別れを告げると
「俺はNight Shiftで7:30まで起きてないといけないんだよね!君と話したい!」
と言われて知らんがなと思った。

あと、ホテルでWifiが使えると書いてあったので情報を聞いてみると、終始笑顔だった彼が急に真顔になり
「なぜそれが必要なんだ」
などと言ってくるので、は?と思った所
「I'm joking〜😄hahaha(冗談〜)」
などと言ってきて全く面白くない。

-リアル脱出ゲーム バスルームからの脱出

部屋に戻り、汗を流すために軽くシャワーを浴びて寝ようと思った。シャワールームに入り、習慣的にシャワールームの鍵をかけた。これが間違いだった。

バスタブ無しユニットバス。右上の四角いものがシャワーである。

水はそこまで綺麗でもなさそうだが、目に見えて汚そうでもない。エジプトの水道水は一応日本の水質基準も満たしているそうで、ものすごく塩素が効いた匂いがするので体を洗うくらいの分には問題はないのではないかと思う。飲みたくはない。

また、歯磨きなどに普通に使っていたが、私は一度もお腹を壊さなかった。

話を戻すと、シャワーを浴びて部屋を出ようとすると鍵がビクリとも動かなくてゾッとした。海外を旅行していて今までで一番ヤバいかも、と焦る。
まず閉じ込められたか?と考えた。

扉を見ると中央部に誰かが殴ったような凹みがある。
前にも誰か閉じ込められたのだろうか?

上からこづいてみると、凹みが簡単に深くなり木片がパラパラと落ちた。この扉、かなり傷んだボロボロの木材でできているようだ。
最悪、簡単に蹴破れそうで少し安心する。ここに閉じ込めて弱らせようとか、そこまでの強い意志があるような設備ではなさそうだ。

であれば、面倒なことになりたくないので扉をぶち壊すよりはなんとか平和的に脱出したい。
部屋に置いてきた財布やパスポートは心配ではあるが。

幸いこのバスルームには石鹸が置いてあったので石鹸水を作ってなんとか鍵の滑りを良くしようとする。
また、置いてあったタオルを巻いた上で、どんなに指の力で頑張っても鍵は動かなかった…ので奥歯で噛み付く。最終的にガチャンと鍵は動いた。安堵。

ここまで試行錯誤するのに20分くらいはかけたと思う。

部屋に戻って確認したが、荷物は何も盗まれていなかった。ただただ扉の建て付けが悪い。
部屋にはバルコニーもあったのだが、こちらも扉の建て付けがガタガタしていた。

昔、フラッシュで作られた脱出ゲームの作品を解くのにハマってたくさん遊んでいたが、脱出できる保証もなくリアルで脱出が必要になる状態って全然楽しくねぇなということがよく分かった。
というか早く寝たい。時刻は午前4時過ぎ。

着いた初日の夜はホテルに行って寝るだけのつもりだったのに、既に体験が濃くて先行きが不安だった。こんな序盤で既に五千文字を超えているのでこのnoteの先行きも不安である。

1日目 ギザのピラミッド、スフィンクス

-ホテルの朝食

昨夜案内されたバルコニーが朝食の場所だそうだ。

明るい中で見ると更にすごい

なんだか牧場みたいな匂いがするなと思っていると、向かいの建物のバルコニーに山羊が2頭居た。また、そこかしこで鶏が飼われているようで四方からコケコッコーが聞こえる。
2時間くらいしか眠れなかったが爽やかな朝だ。

周りの建物の屋上にも似たようなバルコニーがあり観光客が朝食を食べていて、この辺りにはこういった宿が多いようだ。

朝食はビュッフェスタイルではなくサーブしてくれる形式で、昨日の少年が準備してくれた。
昨日の夜勤の男性は寝ているのかいなかったが、この少年はいつ寝ているだろう?

後から考えてすごく珍しいことだったが、この少年はチップを要求して来なかった。英語はそんなには分からないようで、少しだけ覚えて行ったアラビア語で美味しいとかありがとうとか伝えると嬉しそうにしてくれた。どうせならチップはこういう人間に渡したかった。

これで一人分

エジプトは食べ物の量がとにかく多い。肥満率も高い。

食事は全体的に美味しくて、そこはエジプトの良い所だった。スパイスやハーブの産地でもあるらしく、スパイスがたくさん使われた味付けのものが多かった。でもそこまで癖は強くない。ギリシャ料理などと少し近いような、ハーブの効いた地中海料理、といった印象。

1番右の茶色いペーストは、一見カレーのようだがカレーではない。豆を煮てすり潰しているようであった。

左から2番目の白いペーストが一番美味しかった。鶏肉の入った何かである。何なのかはよく分からないし説明もしにくい。

1番左の揚げ物が1番不思議な食べ物だった。デザートかと思い最後に食べるとしょっぱく、中までずっとコロッケの衣のような食感だった。

-simを探して街歩き

地元のsimが安いというようなことをホテルの人に聞いたので、チェックアウト後にホテルの受付の人に買える場所を尋ねてみる。「あそこが近いよ」と言われた店が徒歩で20分くらいだった。

エジプトは観光地の周囲は治安は悪くないと聞いていたし、ここはピラミッドが目と鼻の先である。それくらいなら歩くか、と思う。
普段から歩くのは嫌いではないし、一番街を見れるので旅先で1時間程度なら全然歩きたい。
でも、エジプトでその旅のスタイルはあまりオススメはできないことがすぐに分かった。

これはちょっと治安悪そうだな?少し表に出て思う。
そしてとにかくハエが多い。でも外を歩いて面白くはあった。

向かいの山羊のみならず、ギザの町には動物がとても多い。
ロバや馬やラクダが労働し、野犬がそこら辺にたむろっている。野犬はエジプトのどこに行っても多かった。
異世界に来たなという趣がある。

野犬は本当にどこにでも居る。
町にうろうろしてるし、ピラミッドの上でも寝ていたし、神殿の柱の間からもぬっと出て来た。

避けて通りにくい

野犬はサイズがけっこう大きくて目付きが鋭い。
警察犬のシェパードよりはちょっと小さく、芝犬よりは絶対大きいくらいのサイズ感。

しかもエジプトには狂犬病がある。

犬は人を気にしていなさそうで暑い時は人の通る横で腹を出して昼寝をしているし、現地の人々も全然犬を気にしていなさそうであった。

危ないし怖いけど目を合わせないように、全く気にしていなさそうに歩く。

また、犬の他に車も危険である。

ここには信号というものが全然存在しない。
片側3, 4車線くらい(車線という概念もあまり存在しないようである)ある道を歩行者はタイミングを見て渡って行く。
いや、タイミングすらそこまでは見ていないかもしれない。
帰りの飛行機にミスタービーンがあったのだが、まっすぐ歩くために道路を突っ切るシーンってエジプトの人は楽しめるのかどうか疑問に思った。ああいう動きをする人はよくいる。

相手が譲れ。そんな感じで車もバイクも人も移動しているように見える。クラクションを鳴らしまくりながら。
ついでに馬とロバとラクダも車道を走っている。
ちょっと見たことがないくらいカオスな道路事情だった。それで事故が起きないかというと、意外と見た目の危険さ程しょっちゅうは起きない。もちろんよく起きているとも言える。

治安自体は良くもないが、エジプトには大切な収入源である観光客を守る意思はあるらしく、凶悪な犯罪は最近はあまり無いようである。
昔、観光客を標的にした悲惨なテロがあり観光業にも大きなダメージがあったが、対策はしているようだ。
観光地の入り口には空港のような荷物検査があるし、大きなサブマシンガン?を持った警備員がよくいる。

また町にも警察官が多い。日本とあまり変わらない一億ほどの人口に、日本の約2倍の警察官がいるそうだ。
尤も警察官や警備員は物品やサービスや親切の押し売り(お金を要求してくる)を見ても助けてはくれないし、彼ら自身が押し売りをしてくることもままあるが。

「銃がない分アメリカよりも安全」と言っているアメリカ人がいたと言っていたエジプト人がいたが、これは本当か知らない。

そんな訳で治安が良くはないとは言っても、身の危険を感じるような人による犯罪の危険は歩いていてそんなに多いわけではない、とは思う。(私が思っているだけであって保証はできない)

でも、治安の問題以上に野犬と交通事故が怖いので歩いていて快適な場所でもない。他人に徒歩を勧めようとは全く思えない。

恐る恐るたどり着いた携帯ショップは閉まっていた。すごすごと宿の方向へ引き返す。

-現地のsimに辿り着く

本当はさっさとsimをゲットしてオープンしたての時間帯のピラミッドを眺めたかったのだが、とりあえずsimのことは諦めてピラミッドの方向へ向かう。

すると、さっき向かっていた携帯ショップ(vodaphone)の別店舗がピラミッドの入り口近くにあるではないか!店構えは日本の古いたばこ屋のような小さな個人店だ。
早速simの取り扱いがあるか聞いてみると、20GBで1500円ほどの値段をEGPで持ちかけられる。
多少ふっかけられているかもしれないが、これは安くないか?そんなにたくさん使わないと思うのだがこの容量しかないと言う。全然アリ。これを買えたら嬉しい。

しかし店ではクレジットカードを使えないと言うし、私はEGPを持っていない。
USDも割と使えると聞いていたし、観光地の入場料は外国人はカードで払うという決まりになっているし、どこかに良さそうなexchangeがあったら変えようと悠長に構えていたらexchangeを一度も見なかったのである。計画性の無さを白状していて恥ずかしい限りだ。

店主がカードがあればATMで現金を手に入れられるよ!と目視できる範囲のATMに案内し始めた。

この店主は多少自分の友人のラクダ乗りを売り込もうとはしたがそこまでしつこく無かったし、simの値段だってそんなに酷くはふっかけて来ていないし親切な部類の人物だった。

辿り着いたATMの機械を操作すると、
「引き出し可能金額: 0EGP」
という表示が表れる。

これはダメだと別のATMを見ると、そちらはそもそも電源が付いている気配がない。
さらに別の3つ目のATMは最初のATMと同じだった。

店主も困った様子で、
「仕方ないからUSDでも良いよ。でもお釣りはEGPで良い?」
と提案してくれた。細かいEGPを作っておきたかったので、こちらとしてもありがたい。
エジプトではお釣りを渡さずに勝手にチップとして回収して行こうとする人も多いので、やはり良心的だったと思う。

店主と二人で歩いていると、一人の青年が話しかけて来た。私のことを心配している様子である。
"I'm not, I'm an English man"
というようなことを言っていた。彼はアラブ系のイギリス人らしかった。
少し話をしたのだが、彼はエジプトに来て4日目だそうで
「ここの人はすぐにお金を取ろうとしてくる」
とtired of everythingといった顔で言っていた。

しばらく居て分かったのだが、エジプトでは外国人旅行者同士の間に謎の連帯感が生まれる。騙して来ないからだ。

そのイギリス人青年は私に学生かと尋ねてきた。
アジア人は若く見られやすい。
「違う」
と答えると彼は
「そうか、ただ学生がお金をたくさん取られるのはすごく良くないことだと思ったから。困ってないならいいんだ」
とやはりtried of everythingの顔で答え、tired of everythingの顔で去って行った。

英国紳士だな、と感心した。

入手できたsimはorangeという事業者のものだった。
これでUberで移動もできるし意思疎通に困っても翻訳もできる。
個人旅行するのならsimは絶対にあった方が良いと思う。

-ギザのピラミッド入り口前にてキレられる

ピラミッドがあるエリアに入るのには入場券が必要だ。券売り場には行列ができている。

押し売り(便宜的にそう表現しているが、アレ全般を正確に表す言葉を探している)はどこでも激しいが、ギザのピラミッドの周辺は特にすごい。初日で不慣れだったのでそう感じた可能性もあるが。

物を売ろうとする、ラクダや馬に乗る体験を売ろうとする、店に案内しようとする、ただお金をもらおうとする等の人々は「どこから来たの?」「中国?」「Hello!」などと笑顔で人懐っこく話しかけてくることも多い。

最初の頃は一応友好的に返事をしつつ、
「日本です」
「それは大丈夫です。la shukran(no thank youの意味)」
「no, ○○という理由で要りません、sorry. la shukran! la! la! no no no……だから要りません。no …(完全に無視するも5分くらいは着いてくる)」
というような具合でちゃんと言葉を交わしていた。

厄介なのは、
「どこから来たの?」
「日本!」
「そうなんだ!エジプト楽しんで〜!じゃ!」
といったような、単純に人懐こくて興味があるだけの善良なエジプト人も中にはいることだ。(9割は違うけど)

「お前は俺の子供に似てるんだ!ちょっと色が黒いけど」
と言ってくるエジプト人は5人いた。流行ってるのだろうか、それ?

その内の4人は
「だから俺のことはエジプトのお父さんみたいに思って信用してくれていい。ところでこんなお買い得な…(全くお買い得ではない)」
と続く。全く信用できない人物だ。しかも一度言葉を交わしてしまうとはっきり断ってもめちゃくちゃしつこい。
このしつこさ、消耗させられる感じは上手く言語化できるか分からないが、他の国の物乞い等では経験したことがない。
エジプトと並び世界三大うざい国という不名誉な称号をもらっているらしいインドとモロッコもこのような感じなのだろうか?私は行ったことがないので分からない。

しかし1人は
「ほら!これを見てくれ!」
と携帯の画面を差し出して来た。
そこには私の親の若い頃とそっくりなエジプト人が写っていて吹き出してしまった。多分私にもけっこう似ている。
彼は何を売りつけるわけでもなく、「な?」という様子で笑うと去って行った。

話しかけてくる人を不機嫌そうに無視するのが一番平穏に過ごせるが、そうすると善良な人もきっと無視してしまっていることに心が痛む。最初の様子で区別は全く付かない。
旅の最後の方では私は無視を選択していたが、ともかくこの時点では言葉を交わしていた。

「Hi! どこから来たの?」
というような感じでニコニコと話しかけてくる男性がいた。
「日本だよ」
「俺日本のこと好き!だから特別に券売り場を案内するよ!」
券の売り場は目の前だ。どこにも案内の必要などない。
「そっちじゃなくて、俺と一緒にこっちから行けばすぐ買えるよ!」
と列の後ろではなく先頭の方へと歩き出す。
理解した。チップ(という名の賄賂)を渡せば並んでいる他の人をスキップして券を買わせてくれるという意味だ。
券売り場には、世界中から来た観光客がハエだらけの暑い日差しの中待っている。
そんな条件を飲んだら(飲む人いるのだろうか?)日本人、というかなんかアジア系の人で碌でなしが居たなって恥晒しじゃないか。絶対嫌に決まっている。
そもそもお金を払ってまで短くしたい列でもない。

「彼らに悪いし、それは必要ない」
と断って最後尾へと向かうと、ずっと笑顔で話しかけて来た男性は表情を豹変させブチギレた。
「人が親切で言ってやってるのに!!!!!」

キレたいのはこちらだ。

-ピラミッド・スフィンクスのエリアに入る、まんまとラクダに乗せられる

ピラミッドは近くで見るとデカい。本当にデカい。数字で知っていてもびっくりしてしまうデカさだ。
一番大きなクフ王のピラミッド139mあり、エッフェル塔が建てられるまでは世界で一番高い建造物だったそうだ。
紀元前2500年の建物がである。西暦が始まる前の方が長いではないか!
ピラミッドはホテルから見えていたが、スフィンクスは入場して初めてちゃんと見ることができた。
エジプトでピラミッドとスフィンクスを見たい!というミーハーな目的はこれで満たされた。

ここに来て良かった(2)。直前にちょっと嫌な思いをしたけどそう思えた。

お金を払って入場するエリアに入れば安心かというと、全くそんなことはない。このエリアの中にも強引な物売りやラクダに乗らないか?やその他胡乱なオファーがひしめいている。
あと野犬もたくさんいる。

空港で話したドバイで働くエジプト人男性のアドバイスに、
「ピラミッドの周りで何かに乗るならラクダより馬がオススメ!ラクダは風情あっていいけどそれだけで、引かれて歩くのはそんなに面白くない。馬を好きに走らせられると楽しい。あとちゃんと値切るんだ。」
というものがあったので、ラクダに乗る気は無かった。ドバイでも乗ったし。

だから、ラクダに乗らないか?という男性がしつこく着いて来た時にもla shukuranと断りながら本当にスルーする気しかなかった。

しかし、最初は60分500EGP(≒1600円)と言ってたのがじゃあ5USD(≒7〜800円)で良いから!と言い出したので少し興味が出てきた。
日本でその値段でラクダには乗れないのだし、まあ乗っても良いかもしれない。

因みに「乗り物がないと周れない」とラクダや馬の勧誘の人たちは言うが、それは完全に嘘である。
あまりに暑い時期なら熱中症の危険があるかもしれないが、乾いた30度くらいの中で健康な足腰であれば全く苦にならなかった。ピラミッドだらけのエリアにテンションが上がり、私はラクダに乗った後に徒歩でも周った。

乗せてくれたラクダ。ラクダは馬と違って人間が乗り降りする時に座ってくれる。降りる時は前足からガクンと膝を降り、背が高いのでスリリングだ。

ラクダに乗らないかと勧誘してきた男性は、話がまとまるとまた別のラクダ使い?の男性に説明をする。そういうシステムなのか。

ラクダに乗る体験は思っていたより充実していた。しばらく二頭のラクダで一緒に歩き、ラクダ使いが乗ったラクダが先導した後、紐を外して自由にラクダを操らせてくれた。他に同時に引かれている人がいなかったため、運が良かったのかもしれない。
少し乗馬をしたことがあるのだが、ラクダの乗り方は馬とほぼ同じだ。
乗ったラクダを走らせてみさせてもくれた。ラクダは馬よりもずっと背が高いので印象がかなり違う。

私の乗ったラクダはお利口でかわいかったが、頭にイボがありそこが痒いらしく、首をぐねりと曲げて私のズボンに擦り付けてくるのはちょっと怖いし気持ち悪かった。
また、ハエにたかられているのも痒そうだし、ドバイのラクダよりも全体的に小汚かった。人間に生まれるとしてもラクダに生まれるとしてもエジプトよりドバイに住みたい…そう思ってしまった。

因みに、帰国後の成田空港の検疫で「ラクダに触った方は申告を」とあり正直に申告したが、「乗っただけですか?」と聞かれ体調が悪い所もないのでピッと熱を測られて終わりだった。

60分が過ぎ、ラクダ乗りが時間の終了を告げる。
「僕のサービスは良かったでしょ?チップが欲しい」
実際に良くしてもらったなと思うので感謝は示したい。どれくらい渡せばいいかと考えていると、
「チップは5USD欲しい」
え?チップってそんな、サービスの値段の100%とか来るものだっただろうか?
というかこれを合わせたら値引きしてくる前の値段と変わらない。値引きされたからこそ興味を持って乗るのに至ったわけだけど、あの値引きには意味があったのだろうか?
それとも最初に値引きされていない価格で合意しても、どの道チップを要求されていたのか?

サービスの交渉をした後にチップの交渉がまた始まる。

ラクダ乗りは満足したのか、別れ際に「覚えておくと良い」とあるアラビア語の言葉を教えてくれた。自分以外のラクダ乗りに話しかけられたらこう言え、という。
どういう意味か尋ねると、
「Get out(失せろ)だよ」
と笑顔で答える。
いや、流石にそんな強い言葉は使わない、とその時は思い、記憶に入れなかった。
覚えておけば良かったと後に何度か思った。

-Government officerすら信用できない、知らない子供達の人気者?になる

"Hi, stop. I'm a government officer."
(「止まって、政府職員です」)
制服を着た人に首から下げたカードを掲げられながらこんな風に声をかけられて、無視することってできるだろうか?

初見だと無理だと思う。
チケットの確認だろうかと思い立ち止まる。
「僕は政府職員だから大丈夫!何かを売るわけじゃないよ。ただ行った方が良い場所を案内したくて。」
おっと。怪しい。

「あそこの奥の小さいピラミッドは無料で入れる。他のピラミッドに高い入場料を払う必要はない。」
有益な情報だ。でもそんな言い方していいのだろうか?
「歩いて行くのは大変だから友人のラクダ乗りを紹介する。案内しよう!」
結構です。

しばらくラクダに乗れという説得が始まる。さっき乗ったばかりだし心底要らない。スルーして歩こうとすると
「じゃあスカーフはいるか?」
と近くにいたスカーフ売りに引き渡される。

見ると入り口の近くで女性観光客にスカーフを巻きつけて
「似合ってる!クレオパトラみたいだ!」
などと言っていたスカーフ売りだ。クレオパトラはイスラム教徒じゃないからそんな風にスカーフ巻かなくないか?と思ったので印象に残っていた。

さらによく見ると、彼もまたGovernment officerのものと似た社員証のような物を首からぶら下げている。もしかしてコイツも職員なのか?なんの職員なのだろう?

彼はまずプレゼントだ、幸運の印だ、というような事を言ってスカラベを渡して来た。本当にプレゼントということがあるだろうかと訝しみつつ、礼を言ってポケットにしまう。

次にこれもプレゼントだ、無料だと言ってスカーフを巻いてくる。
そして、プレゼントをしたから寄付をして欲しいと言ってくる。私の言葉ではそれはプレゼントとは言わない。
スカーフは必要ないからと断ると、それでは日本の何かが欲しい、と言う。お菓子とか無いのか?と。

エジプト風にスカーフを巻かれるという体験を提供してくれたわけだし(望んでいないが)、それくらい渡すくらいは別に良い。しかし、リュックを漁っても日本から持って来たお菓子などは無さそうだった。

唯一日本らしいちょっとした物として5円玉を見つけた。穴の空いている硬貨は世界的に珍しいそうで、日本に旅行に来た人で面白がってお土産にしていた人がいたなと思い出した。
本当にただ日本から来た観光客と話したな、というお土産話が欲しいだけであれば喜んでくれるだろうか?と思い
「これはどう?日本のコインなのだけど、幸運の印でもあるよ」
というような事を行って手渡した。丁度スカラベと同じだ。
するとスカーフ売りは目に見えて落胆した。こちらも落胆する。

「これは本物のお金じゃないだろ?」
「いや、本物の通貨だよ」
「お金ならもっとたくさんくれ。EGPとかUSDとかで。うちには子供がn人いて…」
キリがないので断って立ち去る。
良いご縁では無かったみたいだ。

スカーフは返したが、最初にポケットに入れたスカラベはお互いに存在を忘れ持ち帰ってしまった。

小さなピラミッドに向けて歩いていると、家族旅行中らしき小さな姉妹が一緒に写真に写って、というようなことを身振りで伝えてくる。

多分エジプト人の女の子達だったが、エジプト人でも観光客であれば何かを押し売りしようというような意思は無いので、積極的に関わっても大丈夫だと思う。おそらく。

彼女達の自撮りに一緒に入ると、お礼を言われ、お母さんに撮った写真を見せに行っていた。可愛らしい。
珍しい生き物がいたみたいな感じなのだろうか。

すると子供達が集まって来て自分とも写真を撮って!次は自分と!と取り囲まれた。空港で取り囲まれるスターのような状態になる。ちょっと楽しい。

なぜか嬉しそうな子供達に囲まれた写真を撮られる自分。
青年海外協力隊の宣材にありそうな写真が次々生み出されて行く。海外で何か良いことをして、現地の子供達が喜んでる風な画だ。
実際は私はただピラミッドの周りを歩いていただけで何もしていない。

しばらく写真を撮ったところで、子供の母親らしき女性がこちらへ歩いてくる。止めるのかなと思っていたところ
「次は私とも写真を撮ってもらえますか?」
と言われる。そっち!?

多分高校生くらいかなというお兄ちゃんっぽい子もこちらに向かってくる。流石にもう行こうと伝えたいのかなと思いきや
「僕とも!」
とインカメを向けてくる。お前もか!!

知らない人達と謎に仲の良さそうな写真を撮っていると先ほどのGovernment officerが近付いて来た。
「一々相手にしているとキリがない。それよりラクダは…」
放っておいてくれ。あなたと会話をするよりよっぽど楽しいしあなたの方が五千倍鬱陶しい。

有名人でもなんでもない通りすがりのアジア人と写真を撮る事の何が面白いのかはまあ正直全く分からないが、彼らにとって良い思い出になるのならいいな。

その後小さいピラミッドの内部に入り、ギザのエリアを後にした。
本当は大ピラミッドの内部にも入ろうかと思っていた。大きなピラミッドの内部に入るには追加の料金が必要なのだが、最初のチケットカウンターで人数を聞かれて答えた所でエリアのみの入場券をすぐに渡された。
追加チケットがどこで買えるか、すぐに買えるのか、騙されない場所を探さなくては、など面倒になってしまっていた。

-流しのタクシーは絶対に拾ってはいけない、Uberを使え!!!

次の目的地はエジプトのご当地料理コシャリのお店だ。

https://maps.app.goo.gl/ELLk7VS6nPNnUwU59?g_st=ic

それから距離の近いエジプト考古学博物館に向かいたいと考えていた。

ギザとカイロは隣接した地域で、車で30分くらいで移動できる。
ピラミッドのエリアを出るとすぐに、
「タクシー?」
と風情がある感じのトゥクトゥクに乗ったドライバーに声をかけられた。

こういうのにも一度エジプトで乗りたいし、Uberも呼ぶのに時間が多少かかるのでロスがないかもと思い、話を聞く。絶対にオススメしない!

例のコシャリの店は車で30分ほどの道のりだ。
そこまで行けるか聞いてみると、5USDという話になった。Uberよりいくらか割高だが許容範囲だ。また、5ドル札はあったが1ドル札の残りは心許なかった。

若干の学習をしたので、後払いでいいか了承を取りトゥクトゥクに乗った。

早速道を逆走するので一瞬エジプトも左側通行かと思ったがそんなことはなかった。お察しの通り流しのタクシーは良くないのだが、これは特にだからという訳ではなくエジプトには逆走が多い。
ラウンドアバウトの交差点が多いのだが、逆方向に1つ分出たい時など、大体みんな逆走していそうなくらいの勢いだった。
エジプトの人々は物を売りつけたい時やチップを欲しがる時にはものすごく粘り強いのに、変なところでせっかちだ。

日本には無い乗り物。少し楽しい気分になる。

100m程行った所で、ドライバーに
「到着だ!さあ金を払ってくれ!」
と言われる。嘘だろ。

見るとローカルなコシャリの店舗だ。
「ここは俺の友達がやっていて、そっちの店より美味いんだ!コシャリが食べたいんだろ?」
いや、コシャリが食べたいのもあるが移動がしたかった。
それに、観光客の間で評価が高い店の方が、正直言って衛生面などのポイントで安心できる。

「申し訳ないが、最初に言った地点まで移動してくれないとお金は払えない」
「そこまで行くんなら10ドルだ!」
「契約と違う!それは払えない」(というか、5ドルで行くのだってやや割高なのである)
「ここのコシャリを試してみろって!それで5ドルだ!」
「もういいUberを呼んで行くしあなたには払えない」
「乗ったんだから金払え」
「それはない!あなたは言ったことができていないだろ」
…といった具合に15分くらい口論になる。

最終的に、彼が友人のドライバーを呼んで、二人に合わせて5USDを払い、最初の目的地に連れて行ってもらうことで合意が取れた。
やっと一番最初の話に戻った。何なのだこの無駄な時間は。

彼の友人だというドライバーが普通のタクシーに乗って来て、渡したお金を二人で分け合う。
あのトゥクトゥクのドライバーの話を聞いたことに後悔しつつ乗ったが、この判断も間違っていた。
無駄な口論などせずUberを呼んで、お金を払わず最初のタクシードライバーを無視するのが多分一番だった。いや、そんなことできただろうか…?

後から来た方のタクシードライバーはハゲた肥満の大男、といった容貌の中年男性だった。
一応断っておくとこれらの要素を悪く言うつもりではない。ただコイツは本当に碌でもなかったので今後カイロに行く人が利用しないように注意喚起をしたい。善良なハゲていて肥満の中年男性エジプト人タクシードライバーにはとばっちりで申し訳ないが。

助手席に座らされたのだが、乗る道すがらmercyがどうこう言いながら手を握ろうとしてきてまず気色悪かった。ちゃんとハンドルを握れ。

店の前までは問題なく連れて行ってくれた。しかし、到着後金を払え!5ドルだ!と喚き出す。
最初に払っただろうと返して去ろうとする。

すると、彼はその辺りで遊んでいた小さな子供達におそらく
「あの観光客がお金を払ってくれないんだ…どうしよう」
というようなことをアラビア語で話し出す。メソメソしながら。

すると私は子供達複数人に囲まれてしまい、
「おじさんかわいそうだよ!」
「払ってあげてよ!」
「乗ってきたでしょ!」
的なことを多分アラビア語で口々に言われる。
しかも子供達は英語が分からないし、私は旅行用に少し学んだ程度のアラビア語では説明できない。
自動翻訳で文章を見せてもどれくらい正確に訳せているか分からないし、この子達に文字が読めるのかも分からないし、あちらが口頭で喚き散らす方がずっと早い。

なんだコイツ。
大した演技力である。大きな体を小さく丸めて全力で気落ちした被害者を演出していた。
こんなクソみたいなやり方あるか?

私は、毛が無いのでよく見える、無防備なドライバーのこめかみに全力で右フックを叩き込みたくて仕方なかった。

私はエジプトに来るまで自分のことを攻撃的な人間だと思ったことは無かった。
そりゃ、普通に生きていると5年に1回くらいは「ぶん殴ってやりたい」と感じるようなことはある。(もちろんしない)
しかしここにいると一日一回くらいは人をぶん殴りたくなる。

ドライバーとは知り合いではないだろうし、善意で動いていそうなちびっ子を押しのける訳にはいかない。
そうこうしている内に何事だろうかと周りの大人も様子を見に来た。

残念ながらみんなそんなに英語ができない。
「チップが必要なんじゃないか?この観光客は現金が足りないみたいだからATMに案内してあげよう!」
みたいな話になる。

なんかもう人が集まり過ぎて逃げられる感じではない。こんな揉め事でもう30分ほど使っていて、時間的余裕もない。

100EGPで引き下がるらしいのでATMを利用する。
カイロ市内のATMは全然動かないのだが、ここで試した2つ目のATMからは100EGP引き出せた。

因みに、この後バスターミナルで見かけたらATM2台も引き出せる残高が0だったため、私が旅行中に試した中で利用できたATMは7台中1台である。

ここでクソドライバーに渡してしまい、クソみたいなやり口に成功体験を与えてしまったのは最悪の失敗だ。
周りの人達はめでたしめでたし、といった様子で解散して行ったが。

金銭的な損失は大したことではない。でもムカつくしエジプトを悪い場所にするのに貢献してしまっている。

後でイスラム教では嘘をつくのは悪いことじゃないのか?と調べてみたら全くそんなことはなく、逆に重大な悪だそうだ。

本当に腹が立って、挨拶やありがとう等のよくある旅行会話を覚えたり文字をある程度読めるようにしたよりも、アラビア語では
「お前は嘘つきだから地獄行きだな」
を言えるようになっておけば良かった、と思った。

Uberでさえトラブルが起きたという体験談もあったが、私はこの後ずっとUberのみを利用してそこまでは不快な思いはしていない。まあ運だとは思うが、価格交渉タイムも目的地に行くか問題も無いだろうし、確率的には大分マシになると思われる。
エジプトにもし自由旅行に行く人がいるのなら、移動は絶対に絶対にUberを使えと口を酸っぱくアドバイスしたい。

そして、先ほどはアラビア語に対してああ書いたが、アラビア文字の数字を覚えておいていたのはUberの利用にとても役に立った。

エジプトでは車のナンバープレートの数字が我々が普段使っているアラビア数字(ややこしい名称だ)とは別の文字で書かれている。しかしUberの画面に出るのはアラビア数字だけだ。

一覧にすると、
٠=0
١=1
٢=2
٣=3
٤=4
٥=5
٦=6
٧=7
٨=8
٩=9
だ。

1と9は同じだし、2と3は横に倒した形だし(2は反転した7のように見えることも多い)、覚えるのはそこまで大変ではない。
アラビア語は右から左に書くが、数字は普段通り左から右に読めば良いみたいである。
Uberを使うなら頭に入れておくのはオススメだ。

-コシャリ、バイタク、夜行バス

げんなりした気分でやっとコシャリの店、Abou Tarekに入る。店内は混み合っていた。期待できる。
「そこで待っていて!2分で案内するから!」
と言われてから15分くらい待つ。時間感覚はあまり当てにせず、のんびり構えるのが良い。

コシャリ。店員さんにソースをかけてもらってから食べる。

米の上にパスタが乗った、炭水化物on炭水化物の大変ジャンキーな食べ物だ。
ちょっと何なのかよく分からない具も乗っているし、味付けも複雑だが大体ぶつ切りにしたナポリタンを米の上にかけた物を想像してもらえれば良いと思う。

そして味は美味しいのだが量がこれまた多い。朝も多かったのもあり夕飯はもう食べられないな、となる。
私も相席したアフリカ系カナダ人だという男性も半分くらいしか食べることができなかった。

彼は既にしばらくエジプトを旅行しているそうで色々教えてもらったのだが、明日から滞在する予定のルクソールが良かったらしく楽しみになる。
ちょっと出エジプトしたい気分になっていたが、ルクソールはとりあえず見に行こう、と思う。ルクソールへは行って良かった。

振り返って考えるとエジプトを数日以上自由旅行している外国人で、彼ほど纏う空気が穏やかな人間は他にいなかった。
歩き方が上手いのだろうか?

店員にジュースはいるかと聞かれ、何があるのか聞くと、"abl"と聞こえる聞き慣れない名前があった。
気になるので頼んでみるとappleだった。旅あるある。美味しくいただく。

コシャリは30EGP、およそ百円くらいだった。
物価の安さを実感する。

無駄な時間を消耗させられすぎたため、博物館に今から入ってもあまりゆっくり見られない。博物館は最終日に回す事にした。

少し早いがバスターミナルへ向かう。
バスターミナルまでの移動はUberで安くて速いバイクを呼んでみる。

すぐにバイクに乗ったお兄さんが到着する。ノーヘル。足元はサンダル。
私も後ろに座る。もちろんノーヘルで。

事故が起きたら死にそう(そして事故は起きそう)なスリルを感じる移動手段だ。それで基本80km/hくらいで走り抜けて行く。爽快感はある。

妙なエンジン音のする中国製のバイクは200cc弱の排気量だろうか?ライダーは感心するような超絶テクニックでバイクを操り、車線なんてないめちゃくちゃな並びの車の間をすり抜け、ミスタービーン達や犬や危険な道路の凹凸を躱して行く。

走り出してから気付いたのだが、バイクにはサイドミラーも無かった。
そして、ライダーはヘルメットのみならずゴーグルも何もしない。カイロは空気が砂だらけで、ただ歩いているだけでも目が痛くなる。
後ろでずっと目を開けていられないのに、どうして彼には問題ないのか不思議だった。
アラブ系の人達やラクダはまつ毛がとても長い。あれは砂漠の環境に適応してるのかな、と思った。

到着。
「運転すごいっすね」
というような事を言うと、彼は嬉しそうにしていた。

Uberは全てアプリからカードで支払いができて、たったの40EGP(百円強)くらいだった。
チップをよこせ、など全く言ってこない。快適すぎる。

アプリ上でチップを選択することができ、一番大きな15EGPを選ぶ。
まともにやっている人に得をして欲しい。
事故に巻き込まれず元気でやっていて欲しいな。

今晩の宿兼移動手段は夜行バスだ。
GoBusという会社を利用した。webからでもダイヤが見られ、クレカでチケットを買うことができるが、窓口でEGPで支払った方が料金は少し安くなるようだ。
バスターミナルはWifiが使え(速度は遅いし時々繋がらなくなる)、充電もでき、売店やトイレ(入るためにはチップが必要だ)も付いていて何でも揃っている。

寝ている間に移動できて効率が良いので、私は割と夜行バスが好きだ。それに安い。11USDでカイロから南部のルクソールまで700キロ以上の道のりを運んでくれる。10時間の道程だ。

エジプトで夜行バスに乗るのは少しチャレンジングな気分だったが、乗ってみると全然悪くなかったので良い選択だった。
ただ、カイロは見るからにあちこちが不衛生的であったためバスに乗る前にシャワーを浴びたくて少し気持ちが悪かった。汗っかきなタイプではないので、日本やドバイや他の先進国のような場所で1日くらい体を洗わないのはそんなに問題ないと思っている。向こうに着いてからホテルでシャワーを借りよう、で良い。
しかしここは見るからに汚い。
砂でさえUAEの物より清潔感がない。そこら中でロバやラクダや馬が働いて糞をしていて、その糞が乾燥して砂と混じって舞っていそうだ。そんな匂いがする。
また、その糞から生じたであろうハエがとにかく多くて、ずっとブンブンブンブン飛び回っている。
バスターミナルの中は特に汚いわけでもないし、外と比べればハエは少ない気もするのだが、座っていると何匹ものハエにとまられる。うざいし何か媒介されそうで嫌だ。
ドバイで別れた連れにもらった、何やらタイ語が書かれた強力そうな虫除けスプレーを使う。自分にもダメージが入るようでくしゃみが止まらなくなる。
しばらくは効果があるようで寄ってくるハエが減るが、そんなに長続きはしない。

出エジプトしたい。そう思った。
不衛生な環境、というだけなら別に我慢できるのだが、色々なことに疲れ切っていた。
色々なこと、を数えてみる。
寝不足、暑い、空気が砂っぽくて目が痛い、喉も痛い、臭い、ハエ、野犬、めちゃめちゃなことが多い、そして不快な気分にさせてくる一部(と言うには多い気もしてしまう)の人間。

バスターミナルに清掃の人達が入って来た。
掃除をしながら、一人が大きな業務用の大きな掃除機の上に座りもう一人が引っ張るという遊びを始める。いい年したおじさん達が、公共の場で仕事中に小学生みたいなはしゃぎ方をして笑っている。
めちゃめちゃである。でも人生楽しそうで微笑ましくもなる。

ターミナルのトイレ(入り口にずっと清掃の人が張っていて、入るためのチップを要求してくる。そんなに清掃が行き届いているわけでもない)の水道で流せる部分の汗を水拭きし、除菌シートでできる範囲の体を拭いた。気分的には幾分マシだ。

遅れてやって来たバスの中は快適だった。
普通の先進国のバスとあまり変わらない様子で人目もあり、むしろ昨日の宿よりも快適だった。

今回、大体二千円くらいの宿に3回泊まったが、快適さで順位を付けると
1位: ルクソールのホテル
2位: バス
3位: ギザのホテル
4位: カイロのホステル
という感じだ。
予算を出して高級なホテルにも一度泊まって見れば良かった気もするが、お金を出してクオリティが低いと悲しくなりそうなので踏み出す気にならなかった。

それに、移動手段としても大型バスは質量が大きいので若干安心感がある。もしぶつかっても比較的軽傷で済む可能性が高そうだ。

バスの中にUSB電源がある、という旅行記を読んだが、私がこの日乗ったバスには無かった。
GoBusはこの後何度か利用したが、車両によって有る時と無い時がある。また座席の綺麗さにも当たり外れがあった。

カイロ市内の道は悪いが、ナイル川に沿ってルクソールへ南下する砂漠の道はそんなに悪くない。
直線的で高低差も無く、路面の状況も良さそうである。

私の席の隣はアラブ系の少女だった。
後ろの席の二人の少女と友達なのか姉妹なのか、三人はずっと楽しそうにキャッキャと話している。
そこそこうるさいが、疲れているので問題なく寝れる。楽しそうで良いことだ。

物理的に圧迫してくるような太った人が隣でなくて良かった。ラッキーだと思いながら眠りにつく。
長い1日が終わる。

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?