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#17 いきものがかり
父性が爆発した。
研修終了まで残りちょうど1ヶ月。
「クロ」と呼ばれる母猫と、この世に生を享けたばかりの5匹の子猫を守ると決めた。
南国らしい、陽気な晴れ空から一転。
肌寒い空気が身を包み雨が降りしきる中、風の丘ガーデンでの17日目の研修が始まった。
今日の仕事はカーネーションの位置・向き変更。
この作業は、鉢の位置や向きを変更することにより、光の当たり具合を調整する狙いがある。
というのも、全てのカーネーションに等しく、同じ角度から太陽の光が降り注ぐわけではない。花は光を求めるあまり、太陽の方角に向かって茎を曲げて伸びてしまうのだ。
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このカーネーションの茎を真っ直ぐ垂直にするためには、茎が伸びている向きに向かって鉢を180度回転すれば良い。
そのために、一つ一つの鉢を手作業で回転していく。
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カーネーションの回転作業をした後は、毎週月・木恒例の出荷作業を行った。
その作業中、オーナーの渋田さんが突然全員集まれとのご指令を発した。
理由を告げられる間もなく、とにかく全員集まれとのこと。
ハウス内に不穏な空気が漂った。
「なんだ?誰か問題でも起こしたか??」
このような場面で起こる数々の問題の原因を作ってきた人生であったが、今回ばかりは全く身に覚えがない。
1号ハウスへ集合。
なるべく静かにして。
恐る恐る、渋田さんについて行った。
すると、、、
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!?!?!?!?
段ボールの中に、見覚えのある黒猫と生まれたばかりの子猫が5匹。
この黒猫、名を「クロ」と呼ぶ。
というか、風の丘ガーデンのメンバーで勝手に呼んでる。
ハウスには野良の黒猫が3匹住み着いている。
それぞれ違う性格を持っていて、人馴れしている猫、絶えずハウスによじ登って探検している猫、気まぐれで餌だけ求めてくる痩せた猫がいる。
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全員を「クロ」と呼んでいるのだが、中でも今回出産をした猫はとても人馴れしており、休憩中には必ず私たちの元へやってくる。甘い鳴き声で誘惑し、見事に誘惑に負ける私とオーナーの父から餌を貰う。だが、餌を貰って立ち去るわけではない。沢山触らせてくれるし、抱っこもさせてくれる。サービス精神旺盛な猫なのだ。
この子の妊娠が明確になったのは約2週間ほど前。
野良猫はどこで子供を産むんだろうね〜と、朗らかに皆で語り合ったりしたものだが、まさかのハウス内の段ボールで産むとは…。しかも、入口のすぐ側にある段ボールである。
もしかして、私たちが絶対に危害を加えず、餌を運んでくれることを知った上で、わざと分かりやすい場所で産んだのか…?真実は猫のみぞ知る。
さて、緊急会議である。
議題は「この子猫たちをどうするか」である。
この子たちは野良猫。風の丘ガーデンに住み着いてはいるものの、誰の猫でもない。
であれば、放置するのが定石だろう。自然界の厳しさにわざわざ人間が介入する必要はない。
しかし、しかしだ。
餌付けしてしまったのは事実。
みんなで可愛がっていたのも事実。
野良の子猫は大半が大人になれずに死んでしまうそうだ。
さらに、親猫は子供の側を離れられないので餌を食べることができない。すると母乳が出ない。親猫の体も衰弱する。結果、子猫が放置されて絶命することも多々あるそうだ。
そんな状況は見逃せまい。
話し合いの結果、生後1ヶ月ほどで迎える乳離れまで猫たちのお世話をすることになった。その上で里親を探すなり、野良猫として見送るなりすることに。
そして、目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、「私に世話をさせてください!!!」と発することは無かったが、生き物係に任命してもらえた。
昔から、”か弱い生き物”とか”命”とかに敏感だった。
直近で思い返すのは、東北で漁に同行させてもらった時。
皆が必死に獲物の水揚げをしてる中、船上に落ちている小エビとか小さな魚とかを必死に海に返していた。
「こんなところで死ぬんじゃねえ!!!!」
仕事をしろと怒られたが、救える命を見逃すわけにはいかなかったのである。
ペットショップなんかに行ったなら、溢れるばかりの愛護心で身を滅ぼしかける。
「ここにいる子たちを全て保護させてください!!」
一生に一度は言ってみたい台詞である。
そんなことで、猫の世話をすることになった私は、身銭を切り、猫缶とカイロを買いにホームセンターへ駆けた。
きっとここ数日何も食べれてなかったのだろう。警戒心なぞ飯の前では捨ててしまえと言わんばかりの暴食ぶり。沢山食べて沢山乳を出してくれ。
花の生産現場で出会った新しい命と、強烈な父性を感じながら、明日も研修に励みたいと思う。
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