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#36 母猫として
母の日にプレゼントを渡した記憶は無い。
理由は単純、母の誕生日が5月だったからだ。クリスマスに誕生日が近いとプレゼントを一緒にされてしまう論理に従って、母の日も同様、贈り物をすることを怠っていた。
私の母は@雑貨の職人である。故に近年腱鞘炎に悩まされており、いつまでも若くないことを自他共に感じ始めた。親孝行したい時に親は無し、と言ったものだが、良い機会なのでカーネーションを贈ることにした。
他にも、叔母や友達のお母さん、お世話になった人に贈ることにした。喜んでくれるといいなと思う。
そう言えば、ハウスに住み着いている猫「クロ」について久しく書いていなかった。彼女は小さい身体と清廉な鳴き声を併せ持った黒髪美女である。手を差し出せば自ら撫でられに来てくれる可愛いさも兼ね備えており、あわよくば同棲を前提にお付き合いして欲しいと願ってしまう存在である。そんな彼女は、きなこ色をした太々しい猫と逢瀬を交わし、4匹の天使を授かった。クロの男のタイプは全く理解できないが、どうやら逞しい猫が好きらしい。この失恋に似たやるせない感情を、昔好きだった女の子が地元のヤンキーと結婚した事実を知った時のやるせなさに例えた。
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そして、私はクロを支援する都合の良い男を演じた。彼女の家にご飯を持っていった。代わりに可愛い子供たちを眺めた。一つの家族を守っているんだという感覚に酔いしれ、遂に子猫を抱っこしてしまった。翌日、クロは引っ越しをしていた。行きすぎた愛は時に相手から嫌われる要因となる。私は後悔に駆られ、猛省した。相変わらずクロは休憩の時間にやってきて甘えて来たが、子猫に会わせてくれることは無かった。家までついて行こうとしたが物凄い険相でキレられた。女と母の顔を使い分ける名女優…いや、彼女はただ立派な母親なのであった。
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子猫の行方が不明になってしばらく経った今日、ハウスで作業をしている時、聞き覚えのある子猫の声がした。耳を澄まし、鳴き声の出どころを探したところ、なんと大胆に4匹の子猫を連れたクロが、人の目も憚らずハウスの中で子猫達と戯れていた。子猫達にとっては人生初の自然教室と言ったところだろうか、もはや人を警戒していない様子に、安堵と感動を覚えた。可愛い。可愛いすぎる。明らかに父親に似た茶色の毛が見え始めているのだけが気がかりであるが、子供に罪はない。可愛いければ全てが許されるのが世の常だ。
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母の日が近い今日この頃において、クロは文字通り「母」としての存在を見せてくれた。子猫達が巣立つのも時間の問題だろうか。その瞬間を見届けることはできないだろう。ただ、本能的に備わっているであろうクロの母親としての振る舞いを見た時、こんなにも「母の日」が世の中で受け入れられている理由が少し分かった気がする。子育ては大変だろうし、苦労も多いだろうけど、その分我が子が可愛いし、何より子育てをする母の姿は愛おしい。母よ、ありがとう。
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