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コモンズによる自然資源の管理:人間と非人間の対等な関係とは①

こんにちは。池田です。

今回は、私が修士課程で最も興味をもっていたトピック「コモンズ」と、その要点(と私が考えている点)について、まとめたいと思います。

まとめるといっても、私が期末の筆記テストで書いた論述内容を日本語に直しながら私自身が理解を深めるための内容になりそうです。

地域資源の「持続可能な」管理に興味のある方に届いたらうれしいです。


はじめに

人間が生きていくために必要不可欠な基本的な要素、水、森、土地などを提供してくれる「自然資源」が、今日、人間自身によって脅かされています。

例えば、気候変動が人に及ぼす悪影響を考えると、わかりやすいかと思います。

コモンズは、Wikipediaに代表されるネット空間から都市における公共空間など多くの公共物の管理を語る際に用いられますが、自然資源の管理にも応用可能です。

自然資源の管理の観点から、コモンズは、「自然資源、利用者グループ、利用に関するルール、ガバナンス構造」の4つの原則によって構成される「集団による自然資源の管理形態」と定義されています。

コモンズとはもともと、草原、森林、牧草地、漁場などの資源の共同利用地のこと。地球環境問題への対応が求められる中、グローバル・コモンズ(global commons)たる地球環境の保全にも示唆を与える営みとして、再び脚光を浴びている。近年では、自然環境や自然資源そのものを指すというよりも、それぞれの環境資源がおかれた諸条件の下で、持続可能な様式で利用・管理・維持するためのルール、制度や組織であると把握されている。
デジタル大辞泉「コモンズ」より引用

このように、コモンズは人間と自然の新しい関係を提案することで、現在の状況を改善する可能性を秘めています。

では、コモンズは、自然資源のガバナンスにおいて、どのように人間と環境のより持続可能な関係を構築するのでしょうか?


I  現代社会におけるコモンズへの注目

1.1 コモンズとは?
コモンズ運動は、経済学者のElinor Ostrom(以下オストロム)を中心に、インディアナ・ブルーミントン・スクールの研究者によって展開されました。

オストロムは実証研究の中で、世界各地に存在するコモンズの例をいくつか紹介しています。彼女によると、これらの事例においては、人々が取り決めたルールに従って自然資源の管理が行われていたといいます。

改めて、コモンズの定義を詳しく見ていきます。

コモンズは、資源、それを利用する人の集団、利用に関するルール、そしてそのガバナンス構造という4つの原則によって特徴づけられる集団管理の形態です。

つまり、私有でも公有でもない、という点が非常に重要です。

資源を利用する集団において、利用者の権力のバランスが対等である必要があります。また、利用に関するルールは、利用者全員が集会などによって自主的に取り決められなければなりません。さらに、ルールに違反した際の罰則など細かい規則まで定めておく必要があります。ルールによって責任者(権力を持つ者)を決めることは可能ですが、その際は利用者全員が納得する形でなくてはなりません。

コモンズという管理形態は、自然資源やデジタル商品などの有形・無形のコモンズ(土地、環境、海、知識、ネットワークなど)を対象としています。

中でも、自然資源は「コモン・プール・リソース(CPR)」と呼ばれており、2つの特徴があります。1つは、排他的ではないこと、つまり、個人や集団がお金を払わなくても、一般的にその使用を妨げることはできないということです。第二に、ライバル性があります。つまり、自分が使うことで、後から他の人が使うことが難しくなるという特徴です。


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オストロムが観察したネパールのダン渓谷における灌漑システムの管理の例では、農民自身が統治する共同体的な灌漑システム(コモンズ)が、国家の公共政策の一環で建設された公有の灌漑システムと比較して、どのように機能するのかを示しています。

実際、国家により建設・運営される公有の灌漑システムにおいては、職員のインセンティブやシステムを改善しようという意欲の欠如、そして、地域に存在するソーシャル・キャピタルの劣化が見られます。

一方、ネパールの農民たちの自主的なガバナンスは、管理に必要な仕事の適切な分担がなされており、資源の適切な使用がなされていました。また、利用者全員による会議を定期的に行うことで責任の所在が明らかになっていました。例えば、違反した場合に課される罰金に関する規則など、利用者が守るべきルールが細かく決められていたそうです。

したがって、コモンズは、フリーライダー問題といった集団行動のジレンマから抜け出すことができ、バランスのとれた、多かれ少なかれ紛争のない方法で水資源管理を行うことができるのです。


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1.2 コモンズ:自然資源の管理における第三の道?
私有でも公有でもないというコモンズの概念は、今日、特に欧米諸国において特に注目されています。多国籍企業が自然資源の開発に対する支配力を強め、環境問題を悪化させていることに抗議するために用いられることが多くなっているのです。

その理由は、共通財(水、生物多様性、種子など)のような自然資源は、定義上、すべての人に属するものであり、特定の権力者に独占されるべきではないからです。

『Common: An Essay on Revolution in the 21st Century』( “Commun : essai sur la révolution au XXIe siècle”)という本の著者の一人であるクリスチャン・ラヴァル氏によると、コモンズという言葉は、1990年代にグローバリゼーションに対するオルタナティブな道を示す環境保護主義者によって政治的概念として取り上げられました。

つまりコモンズは、新自由主義的な社会における搾取から自然資源を守っていくための、公でも私でもない「第三の道」ともいうべき概念と捉えられたのです。

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ターナーの論文によれば、現在社会に存続するコモンズは、純粋なコモンズではなく、「実際に存在するコモンズ」("les communs réellement existants (actually existing commons)")と表現されるハイブリッドな形態です。

つまり、定義に則った「完璧な」コモンズは現代社会には存在していないというのです。

現代社会において、自然資源の過度な民営化が進んでいることをうけ、国立公園など政府が管理する保護区や、共有地の認知度が高まっているのは事実です。しかし、これらが完璧なコモンズにより管理されている事例はまだほとんど見られません。


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アグラワル(Agrawal)氏は、インドのクマオン地区を題材にした論文の中で、このようなハイブリットな森林管理の例を示しています。

以前のクマオン地区では、国家による管理がなされているにもかかわらず、森林の搾取が深刻な環境問題となっていました。そこで1990年代に、中央森林協議会・地方森林協議会が設立され、森林管理の地方分権が推進されました。

これにより、地域の住民は樹木の再生サイクルを理解し、資源の有限性を理解しながら管理をするようになったといいます。

クマオン地区の森林の管理は主に住民の主体的な運営によるものですが、他方で森林協議会の権力が存在しています。つまり、このガバナンス構造内には、住民共同体だけでなく公権力が存在しています。

したがって、この管理形態を純粋な「コモンズ」と呼ぶことは厳密にはできません。しかし、自然資源の共同管理の一形態のとして認められています。

この例から、現代社会では、純粋なコモンズではないものの、私有でも公有でもない自然資源の管理形態が実践されていることがわかります。


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ここまで、コモンズとは何か?また、コモンズによる資源資源の管理が、私有または公有の管理形態よりも優れているのではないかという話を展開してきました。

さらに、純粋なコモンズは現代社会にはほとんど存在していないという点についても具体例とともに確認しました。

とはいうものの、クマオン地区の森林の管理はコモンズの一種として観察されており、これがハイブリット型のコモンズといえます。

ここからは、コモンズの原則の中でも、利用者が取り決める「自然資源の利用に関するルール」に着目したいと思います。

このルールというのは、人間と非人間、つまり自然資源がより持続可能な関係を築くために必要不可欠な要素のひとつです。

そのため、コモンズを構築するためには「人間と非人間の関係」を見極めることが重要になります。

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ここまで、私の期末テストの論述のイントロと第一章をさっと訳してみました。不自然なところは追って直していきます。

コモンズ論は日本でも様々な書籍が出ているようなので、私もこれから読んでいきたいと思います!

では!


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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment, Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)

「地方創生×自然資源/ 農業」をテーマに発信しています!

アフリカにおけるコミュニティ開発にもかかわっています。



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