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Lost time.

「いつかまた会えると思ってた」
 その言葉は、もう二度と使いたくない。

かなしさを固めたような言葉だと思った。
触ったらきっとひんやりとする。
指先からじわりじわりと温度を奪って、こぼれた涙すら凍ってしまうような、そんなかなしさ。



ずっと書き上げられずにいた自分のための文章の一つがようやく形になって、それでもまだ無造作に見せられるような覚悟は持てなくて、少しだけ猶予期間。

手紙のようで日記のような、遺書のようで決意表明のような、懺悔のような。

五年後に読み返すための文章を。


どこに行くにも雛鳥のようについて回ったあの時間が人生で一番幸せだった。


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『いつか』
という言葉をなるべく使わないように気をつけている。

「落ち着いたら」「暖かくなったら」と、曖昧でも期限のある言葉を選ぶ。
『いつか』が持つ不透明な確かさに安心してしまうからだ。

何一つ確約のない言葉なのに、いずれ必ず訪れるように錯覚してしまうそれがとても怖い。
そうして油断して先延ばして叶わなかった約束が、叶えられなくなってしまった約束があった。幾つも、幾つも。

時々もう来るはずのないその日を今でも待ち続けているような気がする。
待ち人が来ないことも来られないこともわかっている。
だから思う。

行かなくちゃ。



だけど、それでもし会えたとしても笑ってなんてくれないんだろう。
見たこともない顔で叱るか、言葉もなく泣き崩れてしまうかもしれない。そういう人だ。
そういうあなたが好きだった。今も一番。

あの頃、あなたもわたしもばらまいていた『いつか』はいくつ拾えたんだろう。
あなたが一番叶えたかったのは何だったのか、それさえ知っていれば生きる支えにできたかもしれない。
叶えるまでは生きようと思えたのかもしれない。
だけどわたしは何も知らなかった。
知ることが出来るということさえ思い及ばなかったのは、きっと幼さのせいだけじゃない。
愚鈍な人間だった。今よりもずっと、ずっと。


「大人になったら」
「おばあちゃんになったらね」
当たり前にあると信じてそんな話をした。
洗濯物を干しながら、取り込んで畳みながら、植木に水をあげながら、テレビを見ながら、夕飯の買い物をしながら、食器を洗いながら、たくさん話した。
どこに行くにも雛鳥のようについて回ったあの時間が人生で一番幸せだった。


「残る」と引き下がって、諭されて帰って迎えたあの曇天の朝。
箱に収まったあなたの頬が温かくも冷たくもなく、ただの温度だったあの地下室で『いつか』が来ないことを知った。

「あなたの分まで生きなきゃ」と誰かに言われたけれど、背負えるならあなたの分死にたかった。
それだけで、泣いているあの人たちがみんな笑うのに、命一つ分に変わりはないのになんで代われないんだろう。
それが不思議でたまらなかった。

どれだけ待っても願っても天使も悪魔も神様も死神も現れなかった。
代われなかった、だから今も生きている。


あなたの前で大人にはなれなくて、あなたもおばあちゃんにはならなかった。
もうすぐ二巡りして、後数年もすればあなたがわたしを宿した歳になる。
次はそこまで、その次はあなたと並ぶまで。
その後はどうしよう。
その頃には別の理由が見つかるだろうか。
存在するかわからないいつかを思いながら、今日もまたいつかへ続く時間を歩いている。

あなたに続いていればいいのに、と思いながら、今日も。

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