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【海のはじまり】第4話:こまかすぎる感想

フジテレビ7月期 月9ドラマ「海のはじまり」、第4話。
とても苦しかったけれど、それでも弥生の苦しみが少しほぐれたような、そして夏と弥生の関係がより強くなったような、希望も感じられるストーリーでしたね。
でも個人的には、登場人物たちに対して「ごめん」の気持ちが一番に溢れました。

夏の台詞にもあった、「想像しただけでわかった気になっちゃいけない」。
「わかった気になるなよ」ということは、この作品のテーマのひとつとして、視聴者の解釈の仕方として求められるものとして、ずっと流れているものだと感じていて。
私自身、そうならないようになるべくフラットに視聴したいと思っていたし、しているつもりだったけれど、やっぱり不十分だったなと反省。

誰かを想うって、こちら側からの一方通行だとやっぱり主観の想像でしかなくて、純度100%の善意であったとしても、片想いでしかない。
そうやって"相手を想えた自分"でいることに対する自己満足で終われるのは、ある意味幸せだけど、その人と生きていこうとするなら、身勝手で。

人と向き合うって、人を包むって、やっぱり双方向のコミュニケーションだから。
向き合おうとする相手がその人らしい方法で自分の思いや考えを表現出来るような、そんな距離や環境、空気をつくってあげられて初めて、そしてそれを受け入れる自分、受け止めたいと思う自分でいられることによって初めて、成り立つんだろうな。
そのことがいかに難しくて、でもいかに大切か、そしてそれが出来るのが夏くんなんだなと、しみじみと感じた第4話でした。

「心が揺れる」作品って、こういうことなんだろうな。
泣いた!感動した!という一瞬の快楽のエンタメではなくて、こんな風に、自分の価値観や経験、癖、後悔、幸せ、色々なものと向き合って、ぐるぐる考え続けていけるような気付きを得られること。
だから私はこういう作品が好きだし、「海のはじまり」、好き。

さて、今回もつらつら語ります。
出来るだけ端的に、コンパクトに!!(笑)



番組情報

「海のはじまり」公式サイト


Tver見逃し配信はこちらから


第4話 なんで、好きなのに一緒にいちゃダメなの?

いてくれたら

冒頭から泣いてしまいました。
第3話ラストシーンの続きで、海辺で写真を撮り合う夏と海。
夏に向かって「そこにいてね」と、海。
海に向かって「ここいて」と、夏。
楽しげな二人の様子を、少し離れた場所から車の中で見守る翔平と朱音。
翔平が、「水季が生きてたらなあ。生きて、いてくれたらなあ。」と思わずつぶやき涙ぐみます。
眺める先、砂の山をつくって遊ぶ夏と海と並んで、笑顔で遊ぶ水季の姿を見た朱音は、涙ぐみながら、愛おしそうに微笑みます。

すっかり笑顔で遊べる関係になった夏と海がほほえましい一方で、翔平さんと朱音さんの、言葉数少ないながらも水季への想いがあふれたシーンに、泣いてしまいました。

第4話を観ていくと後にわかることですが、翔平さん、海を産むか悩んでいた頃の水季との会話の中で、水季がどんなに夏のことを好きだったか、わかっていたんですよね。
朱音さんも翔平さんも、もしかしたら水季や海の幸せを願う中で、水季が生きていた頃から、もし海の父親つまり夏がいて、水季と夫婦になって、一緒に海を育てていく未来が来たら、と、どこかで願っていた部分があったかもしれません。
それがもし水季の心の奥にあった願いであれば、親としてはなおさら。
今、夏が目の前にやってきて、父親と娘が揃ったのに、そこに娘が、水季がいない。
3人いたらどんな未来だったのか。
どうしたって考えてしまう、あったかもしれない別の"今"への想いが、伝わってくるシーンでした。

「いるよ」「いてね」「いなくならないで」「いてくれたら」。
存在を表し願うこんなに短い言葉が、"不在"というどうにもならない事実を際立たせます。

話がある

海ちゃんと海に行った日、話があるとお互いに言っていた夏は弥生は、弥生の家で会うことに。
買い物袋を下げて帰宅途中の弥生、正面に夏を見つけ、「おつかれ」と笑顔で会話を交わします。
いつも通り、買い物袋を持ってあげる夏。
まだ靴に砂が入ってじゃりじゃりしている夏と、そんなんで人の家に来るってどうなのと呆れたように笑う弥生。
このシーン、ほんわかした二人の空気感が可愛らしかったです。
そしてこのシーンも、後の弥生の家での食卓のシーンも、正面で向かい合う夏と弥生を真横から撮るカットが印象的でした。
前回までの話の中で、夏と弥生がすれ違っていってしまうのではないかとどこか不安感を抱いていた私たちですが、二人がちゃんとお互いを理解して向き合おうとしていける関係であることを示すようなカットだったと思います。

お風呂場で足を洗い終わって部屋にやってきた夏を出迎える弥生。
いつも仕事がある日の夜ごはんはお惣菜を取り入れながらチャチャっと用意する弥生ですが、この日の食卓には、手作りの料理が並んでいるように見えました。
買い物袋にも食材がいっぱいに入っていました。
この日、弥生が夏にしようとした話は、おそらく自分の過去の中絶の経験のことではないでしょうか。
きっと簡単に人に打ち明けられる話ではないけれど、夏だから、夏や海と向き合う上で、話すべきだと思ったのでしょうか。
いつものように夏に対して平気そうにお姉さんっぽく振舞う弥生ですが、ちゃんと話すために、食事を準備しながら、どう話そうか考えていたのかなと思うと、弥生が夏と向き合いたいとちゃんと思っていたことが伝わってくるようです。

焦り

先にどうぞと、夏の話をまず聞こうとする弥生。
海のことについて、出来るだけ一緒にいることにしたと話す夏に、弥生は、認知はするのか、居住地は、法律は、と聞きます。
そういった詳細をはっきりさせるのはもう少し先延ばしにし、本人の望むことを優先したいと言う夏ですが、弥生は、無責任ではないか、親権や戸籍など大人がしっかりすべきでは、と少し苛立ったような焦った様子で早口で言います。
そんな弥生を「待って。決めさせようとしないで。」と、夏が少し声を大きくして制します。

「弥生さん何も強要はしないけど、それは助かるんだけど、決めてないってことすごい責めるよね。」
「今すぐアパートで二人で暮らすなんて現実的じゃないし、学校とか会社のこともあるし。面倒くさくて先延ばしにしてるわけじゃないよ。」

夏の言葉を受けて、何も言えなくなってしまった弥生は、しばらくして「本当そう。決めさせたかったのかも。」と一言。
この時の弥生さん、夏に言われたことをその通りだなと本音で思いつつも、どこか向き合いたくなくて、この話を終わらせようとしているような、ものわかりの良いお姉さんを演じているような、弥生さんが本心を隠す時にするアレに見えました。
そんな風に弥生の気持ちが手に取るように伝わるように表情や声色で表現される有村架純さん、やっぱりすごい。

そして、ここからの夏くんの向き合い方が、本当に夏くんらしくて。
夏は、弥生が何に焦っているのか、何を考えているのか、理解出来ていないんですよね。
でも、弥生さんが言葉や笑顔の裏で何かに焦って何かを考えているということを、ちゃんと感じ取っているんですよね。

-夏「この前からなんで…なんでそんなに、」
-弥生「海ちゃんのお父さんになってほしいし、私もお母さんになりたいから。」
-夏「だから、なんで?」
-弥生「なりたいから。早くお母さんになりたいんだよね。」
-夏「何に焦ってるの?」
-弥生「ん?」
-夏「そっちの話って?」
-弥生「それ。早く海ちゃんのこと決めてほしくて、その話しようと思ってただけ。お腹すいたよね。食べよ。」

「海のはじまり」第4話より

夏って、どこかつかめない、何考えているのかわからない、もごもごっとした感じがあるけれど、夏の中でずっと貫かれているものがあって。
それはもう第1話から言葉になっていた、「想像しただけでわかった気になっちゃいけない」に尽きるんですよね。

今この人、本音を話せていないな。
本当は何か思っていることがありそうだな。
そこまで気付いた後のその先を、多くの人は、「きっとこうだ」と想像して、「だとしたらこうだ」とアプローチをしようとする。
それをされた方は、されたアプローチに対するリアクションをまずしなければならないから、自分の本当のところを、そのまんまでこぼせなくなる。
そして、もしそのされたアプローチが、自分が求めていたものとは違っていたら、相手の善意であることがわかってしまうから、傷つけたくないし、がっかりさせたくないから、本音は飲み込んで「ありがとう」って笑って、終わらせるしかなくなってしまう。
置いてけぼりになった本音には、本人もそっと蓋をして、なかったことになっていく。
そういうコミュニケーションって、よく考えたら寂しいことだけれど、全然溢れていて。
でも夏くんは、それをしない人なんですよね。
置いてけぼりにしない。
弥生に対しても、幼い海に対しても、誰に対しても。
何かそこに置いてあるよな、ずっと置きっぱなしだな、中身は何なんだろう、まだあるな、って、言葉にならない間にじーっと考える。
いつ拾うのかな、いつ拾うかはその人の自由だな、って、待てる。
その人がそれを要らないと言うなら、それが本音なら、おせっかいに拾い上げたりはしない。
でも、本当は大切にしたいものなのに無理に捨てようとしているなら、拾えるまで待つか、中身は何なのってちゃんと聞く。
そうやって時間をかけるから、タイミングが人より遅いんだけど、あったものを自分の勝手でなかったことにはしないし、それが宝物だともゴミだとも決めつけない人。

わからないから、丁寧に向き合って、ひとつひとつ弥生に確認を取ろうとする夏。
まだそこに素直に向き合えなくて、かわそうと流そうとしてしまう弥生。
夏の話し方のひとつひとつが真摯だから、身勝手な喧嘩にはならずに、会話になる。
この後、夏は帰り際に「また、話せそうだったらで。本当に話そうと思ってること。」と弥生に言って、この日の二人はここで別れます。
きっとあるはずの弥生の"話"を、弥生が話したいと思える時にまた話して欲しい、俺は聞きたい、そんな夏の優しさというか、弥生に対する真摯さが伝わってくるシーンでした。

以前、水季の葬儀の日、帰宅して暗い表情の夏に対して、弥生は根掘り葉掘り聞くことをしなかったし、泣き出してしまった夏にはそっと寄り添いました。
今回夏も、弥生を問い詰めて本音を無理に言わせるようなことはせず、向き合って、待つことにした。
お互いにお互いを想い合えているんですよね。
でも、今までの二人ならもしかしたら、こうやって夏が待ちのポーズを取っている間に、弥生は自分の中で気持ちを整理して消化して、抱えるものは見せないように笑ってみせたかもしれません。
夏が帰った後の弥生の表情から、弥生は夏が自分を待ってくれていること、あえて今日は聞かないでくれた優しさをちゃんと理解していることがわかります。

【海のはじまり】追加キャスト解禁!弥生の物語


以前こんなこと(↑)を書きました。

向き合いすぎない、突き詰めすぎない、それもある場面ではきっと優しさだし、円滑に生きるためには必要なスキル。
でももし自分が本当に、夏と、そして海と向き合い、一緒に過ごしていく未来を選ぶことを視野に入れていくなら、今までみたいに、ここで流してはいけない。
さすがに自分を偽りきれない。このままの自分でいたくない。
そう思えた弥生さんが、今回は一歩踏み出す回でしたね。

パパじゃないから

家の固定電話から、今日夏くんと遊んで楽しかったと、津野に電話で嬉しそうに報告する海。それを見守る朱音と翔平。
「よかったね」と楽しそうに応じる津野ですが、海に「津野くんも今度一緒に行こう」と言われると、少し表情を変えて、「また夏くんが連れてってくれるよ」と一言。
「なんで前みたいにいっぱい会えないの?」と続けて海に聞かれた津野は、「海ちゃんのパパじゃないからかな」と答えます。
津野くんが「夏くん」って言ったの、ちょっと嬉しかったです(笑)

津野くんって、海と子どもの目線に降りていって会話が出来たり、図書館で子どもたちに絵本を朗読した時も楽しそうで、同僚からも慕われていそうで、きっと本来はこういう人なのかもしれません。
夏と接する時の津野は、特に前回、ホラーばりの怖さがありましたが(笑)、水季がいた頃はもっとにこにこと明るく笑う津野くんもいたんだろうな。

身近にいた大切な人、愛だの恋だのは置いておいて少なからず想いを込めてそばにいた人、そんな人を失うと、自分の一部も失うというか。
仕事をしていればきっといいのだろうけど、ふとスイッチがオフになる瞬間にぐったりしてしまったり、何て言うのでしょう、空元気と鬱が混在するような、そんなムードが、津野くんに漂っていて。
それは朱音も翔平も同じで、でも津野くんが決定的に違うのは、やっぱり部外者だということ。
海ちゃんのために出来ることがあるなら何かしたいってきっと思うだろうけれど、実の父親である夏が現れて、やっぱり自分は部外者なわけで、そんな自分がずけずけと踏み込んでも、という常識もあるのでしょう。
「パパじゃないからかな」の言い方や、海ちゃんと積極的な関わりは控えているのかなというところに、津野の複雑な感情が見えるシーンでした。

責任

弥生の過去の回想シーン、当時の恋人・浅井悠馬と喫茶店で二人。
エコー写真を「これ」と差し出し、妊娠3ヶ月だと伝える弥生。
驚いた様子の浅井、一言目は、「これ俺…?」。
そうだよと答え、相手の言葉を待つ様子の弥生。
浅井に「いつ?」と聞かれ、先週調べて昨日病院に行ったと弥生は言いますが、浅井が聞いたのは、中絶手術の日程でした。

-浅井「早い方がいいんでしょ。あとはほら、お金も準備しないと。もちろん出すから。全額出すから。」
-弥生「…ありがと。」
-浅井「いや普通だよ。ちゃんと責任取らせてよ。仕事大丈夫なの?こういうのって日帰りで出来るもんなの?」
-弥生「まだ聞いてなくて。聞いてみる。」
-浅井「そっか。よかった。いい選択だと思うよ。普通に仕事続けてキャリア築いてさ、お互いのいいタイミングで、普通の順序で、ちゃんとした家庭築こうよ。ね。」
-弥生「…やっぱ今日、仕事しようかな。大事な時だし。ここで仕事してく。また落ち着いたら連絡するね。」
-浅井「うん。わかった。」
-弥生「ありがとう相談乗ってくれて。」
-浅井「ううん。お大事にね。」

「海のはじまり」第4話より

はあ…。ふう…。苦しい…。
浅井さん全部間違ってる、って思っちゃうけど、結果的に別れたことは弥生にとってはよかったかもしれませんね。苦しい…。

夏との対比もあって、浅井さん最低!!と思ってしまいがちだけれど、浅井さんは浅井さんで、いっぱいいっぱいだったのでしょうか。
もう頭の中には、堕ろすという選択しかないから、まさか別の選択なんて考えられなくて。
弥生もそれは言い出さなかったから、もう浅井さん的には堕ろす一択で、そのための手続きとしてお金やらを"責任"として担う、という言い方。
弥生がもしここで産みたいと言ったらどうなったのかなと想像しますが、フォローするわけじゃないけれど、浅井さん目線で言うと、弥生から産みたいっていう言葉は聞いていないし、堕ろすということに同意していたように見えた、のかもしれませんね。

この喫茶店での会話に至るまでに、弥生は自身の体調の変化を感じて、受診して、エコー写真を見たり心音を聞いたりして、確かにここに"いる"という実感を得ているんですよね。
それに対して浅井さんは、そんなことはつゆしらず、この場で写真を見せられて、初めて理解した。頭で。
「男性は」と一言で括るのも失礼ですが、やっぱり身体的な変化・負担・実感を負わない男性が、女性と同じ時に、同じだけの実感を得るということは、きっと難しい。
一言目の「これ俺…?」は、こういう場面で男性が発するべき台詞として不正解中の不正解だなとは思ったけれど、他の男が、とかっていう意味ではなくて、「これ俺(の子なんだよね…俺が…え、俺が…パパ?え?今?まじか…)…?」みたいな感覚なんじゃないでしょうか。そうであれ。
迂闊だけど、おそらく仕事とかちゃんとデキそうな、賢くなくはなさそうな雰囲気の浅井さんが、そんな言葉をぽろっと漏らしてしまったというところに、混乱状態だったのかなということが感じられますね。
うん。うん…。浅井さんのこと、私よく知らないしな。
知らないのに最低とか言うのって失礼だから。
うん。いやでも…1回だけ、1回だけ、弥生の代わりに叫ばせてください。
おい浅井!!!!浅井さんよお!!!!!(怒)

はい。

でも浅井さんが言う「普通の順序」って、多分多くの人がテンプレートのように描くであろう未来図で。
弥生だって、同じ地図を広げていたかもしれません。
でも、ずっと第1話から「事故」という言葉で表現されているように、想定外のことって、起きるわけで。
しかもこれは、青天の霹靂なんかではない、どんなに少なかろうが起こるかもしれない可能性を本来理解した上で歩むべきだった道に、それが起こったというだけのことで。
起きてしまった時に、じゃあそれを踏まえてこれからどうしていくかを人は考えていかなければならないのだけれど、命には、物理的に終わらせるという選択を出来る期間がある。
色々な事情があるから、終わらせることが一概に悪で、終わらせないことが一概に正だとは言えないけれど、この弥生と浅井の関係は、何を選ぶかを一緒に迷うことが出来ない関係だった。
二人の命なのに、他人事な浅井。それを前にして、何も言えなかった弥生。

弥生が受診して初めてエコー写真を見た時、そして浅井にそれを見せた時、弥生の目には輝きが少しあるんですよね。
どうするかは一人では決められないから恋人と話すつもりだけれど、芽生えた命に対して、よろこびのようなものをどこか感じていたんじゃないかな。
でも、浅井の中ではもう、産む・親になるという選択肢がなかった。
そのことを瞬時に汲み取った弥生は、自分の言葉を飲み込んだ。
「いい選択だと思うよ。普通の順序で、」と言われた後に、はいともいいえとも言わなかったこと、仕事をするからと追い出したことが精一杯の抵抗だったようで切なかったけれど、やっぱりここで泣いたり怒ったりしないで笑ってしまうのが、弥生さんにしみついた癖なのでしょうね。

夏と浅井と弥生と水季

夏と浅井、弥生と水季が、今回第4話では対比されるように描かれていました。
それがとても苦しくもあり、本当に人の選択ひとつ、態度ひとつで、こんなにも景色は変わるのだなと突きつけられる感覚でした。

弥生と浅井。水季と夏。
「いつ」の使い方ひとつで、この二組の違いが描かれました。

弥生から妊娠を告げられて、「いつ?」と聞いた浅井。
夏も、水季の妊娠を知った時、「いつ?」と聞きました。
でも浅井と夏、二人の向き合い方は決定的に違って。
堕ろす前提だった浅井は、いつ手術をするのかという意味で聞きましたが、夏は、水季がいつ知ったのか、そこからずっと一人で悩んでいたのかと、不安だったであろう水季の気持ちにまず寄り添ったんですよね。
ここはやっぱり夏が、まず相手を想うという基本スタンスで常に人と向き合っているからこそ、咄嗟に出て来た言葉であり態度だったのだろうと思います。

そして、それに対する弥生と水季の反応も違っていて。
堕ろすつもりだった水季は、自分から手術日程がいつかを答えようとしました。
一方弥生は、きっと産む選択肢が視野にあったから(かつそれを望んでいたであろうから)、いつ妊娠が分かったのかを話した。

夏と浅井の命や相手への向き合い方の差は、普段からどういうスタンスでのコミュニケーションを取る人か、という部分が大きく影響しているように思います。
一方で、水季と浅井は、二人とも産むという選択肢を見ようとせずに進んで行った。
水季も浅井も、産むという選択肢が見えていないと、やっぱり頭は「産まない」ための次のステップの方に行くから、「いつ」と聞かれたら、手術日程の話になるんですよね。
性別がどうこうじゃなくて、前提の違い。
何を見ていて、何を見ていないか。
自分の思いを表現出来るか、相手の思いを理解する努力が出来るか。
そういうことの違いで、選べるものも、選ぶものも、変わってしまう。

この二組のカップルにおいて、産まない前提派を水季と浅井にしたこと。
女だから男だからという風に主軸を性別の違いに置いた議論はこの物語が生み出したいことではないだろうから、それを招かないようにするための、脚本の丁寧さ、緻密さを感じます。
浅井というキャラクターも、「男は簡単に堕ろせって言うよね」「男にはわからない」「最低なやつ」と言わせるためだけに置かれたキャラクターではきっとないんですよね。
やっぱりコミュニケーションの話なんだな。
恋人、夫婦、友人、親子、いろいろな定義の組み合わせがあるけれど、人と関わる以上、コミュニケーションを取らなければいけない。
すごく当たり前なんだけれど、果たして本当にコミュニケーションを取れている人って、自分も含め、どれくらいいるんだろう。
取れていると思い込んでいるだけで、全然すれ違っているかもしれない。
傍から他人を見ているとそれがわかるのに、自分目線になると、主観が入ると、見えていないものとか出来てないことってたくさんあるんだろうな。
そんなことを考えさせられます。

コーヒー

悠馬が去った後、パソコンを取り出し仕事を始める弥生。
コーヒーを飲み干し、店員にお代わりを頼むと、店員は伝票を見て「ノンカフェインコーヒーでよろしいですか?」と確認。
それに弥生は「普通ので」と頼みます。
運ばれたブレンドコーヒーを見つめ、飲むことなく、弥生はパソコンを閉じ席を立ちました。

このシーン。
弥生に一言も「産みたい」と言わせていないのに、お腹の子を気にしてノンカフェインのコーヒーを注文していたことで、弥生にその意思があったことがわかる、すごいシーンでした
相手に報告しようと少し緊張して喫茶店にやってきて、気を付けた方がいいかなって思って、ちょっとドキドキしながらノンカフェインを頼んだ時の弥生の気持ちを想像すると、ほんの数分でこんな展開になってしまったことが切なすぎる。

浅井が言った"普通"に紐づく、弥生のコーヒーに対する"普通"。
普通だよね。今この歳でこの状況で産むなんて普通じゃないよね。
こんな経験、普通にしてる人たくさんいるよね。
普通こうするよね。仕方ないよね。
そうやって言い聞かせようとしているようで、苦しかった。

確か第2話の感想で、弥生の「水」だけがずっと溢れない、ということを書いたのですが、飲みかけのコーヒーをぐっと飲み干したシーン、動揺してこぼしてしまうとかではなく、想いが溢れてしまわないようにぐっと飲み込んだような描写で、ああここでも弥生さんは耐えてしまうんだなと、本当に苦しかったです。

運ばれてきた普通のコーヒーを、一口も飲まずに、いや、飲めずに、席を立った弥生。
ここではきっと、まだ産むということを、手放せなかったんですよね。
相手に意思がないのはわかった。じゃあ次は?
出来る限り選択肢を広げて考えようとする弥生だからきっと、一人で産み育てるということを考えたのではないでしょうか。
それが、後の母親への電話にも繋がると思います。

水季が抱えてきたもの

水季の回想シーン、実家で水季が朱音に妊娠したことを打ち明け、中絶することに決めたと打ち明けたシーン。
水季の言葉に怒り動揺する朱音と、後ろで聞いている翔平。

もう決めたからと話を聞く様子もない水季に対して、朱音は自分が水季を授かる前にどんなにその命を待ち詫びていたか、不妊治療のことを語りますが、水季はずっと抱いてきた思いもあり、朱音に対して感情をぶつけます。

「水季じゃないでしょ。水季水季って、お母さん水季に会いたかったんじゃないよ。子供が欲しかっただけでしょ。母親ってポジション欲しかっただけでしょ。あーごめん、うざい。ずっとうざかったんだよねそれ本当に。母親ってそうじゃない女より偉いのかよ。治療して妊娠したらそうじゃないやつより偉いのかよ。なんなんだよ、自分の苦労ばっか。知らないよ、産まれる前のことなんか。頼んでないもん。…残念だったね、一生懸命頑張って妊娠して出来た子がこんなで。お母さんかわいそう。」

「海のはじまり」第4話 - 南雲水季

黙って聞いていた翔平ですが、ここで朱音のもとへ駆け寄り、朱音を抱きしめ、水季にそれ以上言わないよう、部屋へ行くよう促しました。
ここで朱音さんを抱きしめる翔平さん、すごかったな。
不妊治療に取り組んできたのは翔平さんもであって、自分だって水季を待ちわびていただろうし、苦しみ傷つきながら必死になる朱音を一番近くで見守って来たはず。
そんな朱音の今までの道のりは、「かわいそう」なんかじゃないことを、一番近くで見てきたのが翔平さんですよね。

しかし私、まずこの水季のシーンを見て、なんというか、呆然としてしまいました。
水季のこと、何も知らなかったなという無力感。
そして、女だからって誰もが母親になりたいと思うわけでも覚悟が決まるわけでもないということを、同姓でありながらわかった気になっていただけで、わかっていなかったなという反省。

水季って、自分のことがずっと嫌いだったんだな。
自由で、奔放で、自分の意思で選ぶことにこだわって、それを貫き通す強さがあって、突っ走っていく。
きっとこんな風にとらえられるように水季って描かれてきたと思うのですが、こういう人って、自分のことが好きで、自分に対して卑屈じゃない人、強い人、なんだろうなって、どこかで思い込んでいて。
でも水季ってきっと、小さい頃から朱音に不妊治療の末に出来た子なのだということを聞かされてきていて、それは朱音にとっては愛情以外の何物でもなかったけれど、そうやって押し付けられる想いに窮屈さを感じたり、望み通りの良い子にならなければとプレッシャーに感じたりする経験の積み重ねで、母親との関係にしこりのようなものがあったのでしょう。
そんな自分が、お母さんを大切にできない自分が、良い子になれない自分が、きっと水季は嫌いで、全然自信なんてないし、強くもなかったんだろうな。
水季がなぜこんなにも自分の意思で選ぶことにこだわるのか、そのことがずっとよくわからなかったけれど、母親の意思、つまり、子どもがほしいという願望を、どこかでずっと押し付けられて生きているような感覚があったのかもしれません。

「母親ってポジション欲しかっただけでしょ」
「母親ってそうじゃない女より偉いのかよ」
「知らないよ、産まれる前のことなんか。頼んでないもん」

こんな言葉を吐き出してしまうほどに、水季にとってはやっぱり母親という存在が、いろんな意味で大きくて、重たくて。
そういう思いを抱えていたのだとしたら、母親というものに対する憧れとかって、抱けなかったはず。
そんな中で、妊娠がわかって、母親になりたいと言える資格は自分にない、母親になれるわけがない、そんな風に思ってしまったのでしょうか。
相手がどうとか、歳がどうとか、仕事がどうとか、そういう外側の理由じゃなくて、自分自身の中に母親になることへの不安があった。当然ですよね。
不安がない人なんていないけど、水季は自分の経験から、そこってとても大きな壁だったのかもしれません。

女性は身体的な変化や実感があるから、やっぱり自分が母であるということに対する自覚は男性よりも早い段階で芽生えるもの。
でも、その自覚が芽生えれば、自動的に愛情が湧いて、自然に子どもを愛せて、母親になる準備が整うわけじゃない。
女性であっても、身体とは別に、心の準備をして、覚悟をして、命と向き合って、母親になっていく。
その過程を、願いが叶ったとか、幸せだとか、ポジティブに受け止められる人がいるのと同じように、水季のように、どうしても受け止めきれない人だっている。
そんなの当たり前なのに、どこかで私は「夏くんに産んでほしいって言ってほしかったんじゃないかな」とか思ってしまって。
それって私の中の前提に、「水季は産みたかったんじゃないか」とか、「産むためにどうすればいいか考えられなかったのか」とか、「中絶はしないで済むならその方がよかった」みたいな、そういう考えが存在してしまっていたからなんだろうなと、はっとしました。
いろんな事情があるよねって、人の事情に想いを馳せられたみたいな気分になって、無意識のフィルターをかけながら人や出来事を見てしまっているんだろうなと。
なんか、本当に本当にすごく反省。
水季ごめんね、夏ごめんね。

弥生の孤独

弥生が母親に「相談があって」と電話をかけるシーン。
悠馬とのシーンに続いて、ここでも「相談」という言葉が出てきました。
まずここで、相談があると言った弥生に対する母親の「何?」が、すごく冷たくて。
続けて、妊娠したことを伝える弥生ですが、母は無言。
相手はあまり産まないでほしいみたいと弥生が伝えると、「じゃあ堕ろしな」と一言。
「一人で育てるのってさ」と弥生が言いかけると、制するように、「私無理だからね」と母親。
ここでもう、言葉が出てこなくて、孤独の闇の果てに突き落とされてしまったような弥生の表情。苦しすぎる。
そして「そっかそっか了解」と心ここにあらずで言う弥生に、「お金出させなさいね」とだけ言って、電話を切った母親。
え、え、なになに、お母さん?!?!?!??!(涙)

以前弥生の過去が明かされたシーンで、弥生が母親に電話をかけた時の音声がモノローグで流れました。
その時から、弥生と母親の関係って何かがあるのかなと言っていた私ですが、私、また弥生にごめんって思ってしまったんですけど、例えば弥生の悠馬との関係が社会的に良しとされる関係じゃなくて迷惑かけたとか、なんかそういうことがあったのかななんて勝手に思ってしまっていたんです。
ごめん弥生。本当にごめんなさい。
あなたがこんなに孤独だったなんて。

弥生の母親はまだ音声でしか登場していないので、何があったかはわかりませんが、「一人で育ってるってさ」と弥生が言ったあたり、母子家庭なのでしょうか。
母親の声のトーンから、弥生とか、子どもに対する愛情があまりないような冷たさを感じますよね。

弥生にとって、お母さんって、あんまり心地の良い家族ではなかったのかもしれません。
月岡くんの家族を素敵だと言ったり、海ちゃんを真ん中に夏と3人で「憧れのやつだ」と笑った弥生は、本当に嬉しそうにしていて。
自分の家庭にそういうものがなかったから、あたたかい家族というものに憧れていたのかもしれませんね。

弥生のお母さんにもいろんな事情があったのかもしれない。
例えば望まない妊娠だったかもしれないし、子育てに苦労したかもしれない、自分で手一杯の状況なのかもしれない。
わからないけれど、悠馬の考えが見えて、一人で育てる可能性を考えた弥生が、誰かに相談したいと思って頼った母親が、あんな風に言葉を投げてきて。
弥生のそばに、誰もいない。
本当に一人で抱えていたんだなと、ただただ苦しくなりました。

相手に似るなら産みたい

家を出て行こうとする水季のもとにやってきた翔平。
水季はお父さんには本音を言えるのかもしれませんね。
隣に座った翔平に、「こんなの産まれてきたら怖い。こんな親不孝なの出てきたら怖い。」と、本音を漏らしました。

-翔平「本当は産みたいの?」
-水季「相手に似るなら、産みたい。」
-翔平「相手に似てほしいって思えるだなんて、それはもう、ね。」

「海のはじまり」第4話より

「迷惑かけたくない。責任負わせたくない。」
そういう水季に、翔平は、朱音がつけていた母子手帳を読んでみたらと差し出しました。
母子家庭に朱音が細かく色々書いていたことを知っている時点でさ、翔平さんがいかに水季の誕生を朱音と一緒に心待ちにしていたかが伝わってきて。
もう翔平さん、いてくれてありがとう。いてね。ずっといてね。(涙)

もう。もう。泣きました。
水季、自分のことは嫌いで、でも夏くんのこと、大好きだったんだよね(涙)

自分が嫌いで、自分みたいな子が産まれてきたら、怖い。
お母さんを大事に出来ない自分が、お母さんになんてなれない。
私のせいでお母さんはかわいそう。
この子もかわいそうな子になるかもしれない。

そんな思いが水季の中にぐるぐる巡った末に、「産めない」という結論を出した水季。
それでも、手術をする前に実家でこの話をしたということは、水季だってどこかで、親の意見を聞いてみたかったのかもしれないですね。
翔平さんの水季への寄り添い方が、この一瞬だけじゃなくて、今までこうやって寄り添ってきたのだろうなということが伝わるシーンで、朱音さんと翔平さん、二人でバランスを取りながら、水季をちゃんと愛して育てて来たんだろうなと、本当に素敵だなと思いました。

迷惑や責任を夏くんにかけたくないという水季の思い。
夏が描いていた未来、たとえば卒業して就職して…といったような、波風の立たない"普通"の未来を、妊娠したということで変えてしまいたくない、という想いがあったのかな、なんてぼんやりと考えていましたが、「自分みたいな子が産まれてきちゃったら夏くんがかわいそう」とか、「うまく母親やれないこんな私のせいで夏くんに負担をかけたら」とか、そんな風に水季が考えていたのかもしれないと思うと、あの同意書にサインをしたシーンの見え方が全然変わってきます。

夏に「不安だったよね」と聞かれて、「不安かどうかって聞かれたら不安だったかな」って涙をこらえながら言った水季。
その不安って、自分に似た子が産まれたら怖い、迷惑かける、私お母さんになる自信なんてない、っていう、そういう不安だったんだと思うと、苦しい。

同意書にサインをする夏の姿は、明らかに苦しそうで、迷っていて、震えていて。
もしかしたらこの人は、産んでほしいとか思うのかもしれない。
一緒に未来を考えてくれるかもしれない。
きっと良い父親になるんだろうな。
この子が夏くんに似たらどんなに良いか。
そんなことを思いながらも、自分の中にあるどうしても乗り越えられない不安や恐怖心があって、産まないことを決めた水季。
そんな風に思いながらあのシーンを見直すと、苦しすぎて苦しすぎてもう何回観たのってくらい観たのに涙がとめどなく溢れますので、皆さんどうか泣いても良い時にもう一度見てみてください。嗚咽です。

相手に似てるなら産みたい。
こんなに素敵な愛の台詞、あるんだ。
そう思えるなんて、愛だし、本当に好きだったんだな。
こういう目線の台詞って、あんまり聞いたことがなかった気がします。
自分がいい親になれるかとかではなくて、大好きな人がもう一人増えるなら、会いたい。そういう思い。
だから水季は夏に別れを告げる電話で「大好きな人が出来た」って言ったのか。今しっくり来た。
水季…!水季ぃぃぃ!!!!!!!(号泣)

自分のことが嫌いな自分を、好きになってくれた夏くん。
いつも「水季は?」って自分の意思を尊重してくれる夏くん。
そんな夏くんと一緒にいる時は、自分のこと、少し好きになれる。
大好きな夏くんに似るなら、産みたい。
水季の本音が、愛過ぎて。
そして夏って、すごくない?
頼りないのに、すごく頼りになるんだな。
それはやっぱり、まっすぐに相手を見つめて、相手を尊重する、穏やかさと器の大きさがあるからなんだよな。
朱音さんがいつか夏に言っていた、「夏が頼りないからとかじゃないのよ」って台詞、本質じゃん。
これを書きながら、また泣いています。

そんな風に思える人に出会って、産まれた子を育てて、その子はどこか夏くんに似ていて、水季、どんなに幸せだっただろう。
それなのに水季は、もういないなんて。悲しすぎる。どうしよう。

気持ちを落ち着かせるために、先日ちゃっかり購入した鳩サブレーを食べてみたのですが、あの教室で夏くんと一緒に食べた日のことを思い出して(すっかり気分は水季)、さらに泣けてきました。
こんなに泣きながら鳩サブレーを食べたのは、人生で初めてです。

お母さんになる

実家のこたつにて、水季と翔平。
水季が慌てて隠したものは、病院でもらってきた母子手帳。

-南雲水季「お母さんになれる?こんな、お母さん大事にしないやつでも。」
-南雲翔平「いるんでしょ。」
-南雲水季「うん。」
-南雲翔平「じゃあもうお母さんだよ。そう簡単に始めたりやめれたりするもんじゃないよ。」

「海のはじまり」第4話より

翔平の言葉に、「はい」と答えた水季。
翔平は、「正直言うとね、孫、楽しみ。すっごい楽しみ。」と笑います。

帰宅してきた朱音に、「やっぱ産むことにした」とぶっきらぼうに伝える水季、その様子を見て笑う翔平。
一人で産んで育てると言う水季に、そんな簡単なことじゃないのよと朱音。
言い合う二人を見て、すっと別の部屋へ行く翔平でした。

翔平さん!!!!!!!(涙)
絶対いい仕事するよと期待していた翔平さん、もう。もう。
津野回ならぬ翔平回でしたね、今回は。
愛情たっぷりで、可愛らしくて、きっといつも朱音と水季の間に入ってフォローして、翔平さんが家族を繋いでくれていたんだろうな。
お父さんの前で素直になれる娘・水季、という構図もいい。
孫が楽しみだとはしゃいで笑った翔平さん。
そんなことを一言も誰からも言われなかった弥生さんと対比されていてとても苦しいシーンでもあったけれど、こんな風に命を待ってくれている人がいるって、それだけで救われるし力になるんだろうな。

水季と朱音は似てるから、言い合いみたいになったりするんですよね。
似てるから面倒し、似てるから嫌いだし、でも家族。
結局こんな風に、水季のそばにはなんだかんだでちゃんと愛情を持って接してくれる家族がいる。
孤独だった弥生との対比がえぐいですが、やっぱり環境とか、周りの人を頼りに出来るか、信頼出来るかどうかって、選択に影響を及ぼしますよね。
水季は「一人で産んで一人で育てる」って言ったけれど、本当の意味で一人では、出来ないことだから。
物理的なフォローだけじゃなくて、「この人がいてくれる」っていう安心感は、選択肢を増やすんですよね。

水季が産まない選択をした理由の、「私はお母さんになれない」という気持ち。
翔平と話して、朱音さんの母子手帳を読んだことが、その水季の気持ちを変えていくきっかけになったのだと思います。
それに加えて、やっぱり夏くんが、水季の意思決定にちゃんと関わっていると思ってしまいます。

水季は夏と別れる時、「夏くんに影響受けて意思が変わったことなんてない」と言ったけれど、産まれてくる子が夏に似ているなら会いたいって思えたからこそ、自分が母になるという選択肢がまず生まれたわけで。
妊娠を知った時の夏の表情や態度、言葉があったから、もう一度立ち止まって考え直せたのだろうし。
産むことを、水季は夏に黙って勝手に決めたけど、産みたいと思い直したのは、相手が夏だからなんですよね。
でもそうやって決めたのは、自分だから。
一度は堕ろそうとしたのに、やっぱり産むって、そんな風に勝手に決めたから、自分のわがままで、夏を振り回したくない。
ここで夏に伝えていたら違う未来が…と、思ってしまうけれど、その時の水季は、水季なりに強い思いと愛をもって、決めたんですよね。
そしてやっぱり孤独な弥生とは違って、水季には翔平さんと朱音さんがいたから、だから決められたという部分も、あったのだと思います。

この後、夏との電話で別れを告げた時の水季の様子が描かれました。
電話をしながら、母子手帳に「海」という名前を書いた水季。
名前の由来もいつか明かされる時がきたら嬉しいです。
この電話で、一方的に別れを告げられた夏が、「水季は勝手だ。新しい人も散々振り回されて捨てられるよ。」みたいなことを言ったと思うのですが、"そんな自分が嫌いだから夏に迷惑をかけたくなかった"水季にとって、その言葉ってグサグサ刺さっただろうなと思います。
電話のシーンも、今あらためて見ると、また見え方が変わってきます。

「なんで、好きなのに一緒にいちゃダメなの?」
今回のタイトル。水季もですよね。
夏くんのこと、好きなのに、一緒にいられなかった。
どうしてって思ってしまうけど、その時の水季は、水季の精一杯で、そうしたんだろうな。


罪悪感を背負う

一方、弥生。
中絶手術をした直後、悠馬の「終わった?」のLINEに、「終わった!全然大丈夫だった!」と送る弥生。
ここでも、病院の前までやってきたり、水季の心を気遣った夏との対比が辛いです。

帰宅して、風呂掃除をしていた弥生。
こんな日くらい掃除しなくてもって思うけれど、何かやっていないと自分を保てなかったという表現なのかなと思います。

足が滑ってしりもちをついた時、咄嗟にお腹に手を当てた弥生ですが、「もういないんだった」と、笑います。もう母だったんだよね、弥生は。
ここでやっと溢れ出す、弥生の涙。
一人なのに、誰も見ていないのに、声を殺して、静かに泣いて。
シャワーに手を伸ばして、水を出して、自分のお腹に当てる弥生。
流れてしまった命を終わらせるために、行き場のない自分の気持ちを終わらせるために、涙と一緒に必死に流す、そんな表現でしょうか。
どうしたって涙なしには見ることの出来ないシーンでした。

ずっと溢れなかった弥生の水。
喫茶店でも必死に飲み干したノンカフェインコーヒー。
飲めなかった、普通のブレンド。
そしてここでのシャワー。
もう無理で、やっと溢れた涙さえも、かき消そうとする。
どこにも行き場がない、誰も受け止めてくれない、一人で孤独に背負うしかなかった弥生の悲しみと罪悪感を強調するようで、本当に苦しいシーンでした。
弥生だって、お母さんになる不安がなかったわけではないだろうし、でも、「産まない」というひとつの選択肢しか目の前になくて、他を選べなくて、追い込まれたんですよね。
なぜなら弥生は、本当に一人だったから。
頼れる人が一人もいないことをわかっていて、産もうと決意するなんて、出来なかった。
自分がその決意を出来なかった。強くなれなかった。
断片的に観ているだけでも、私たちからしたら、恋人や母親がちょっと冷酷すぎるよなと思いますが、弥生の罪悪感ってきっとその人たちには向いていなくて、自分自身に対してなんですよね。
だからこそ、苦しい。
この日から7年、ずっと罪悪感を背負って生きてきた弥生。
夏も、水季との間に出来た子を殺したと思って生きてきた。
結果も経緯も全然違うけれど、罪悪感を背負って過ごしてきた時間というのはひとつ、夏と弥生、二人に共通する持ち物ですね。


自分が許せない

後日、話をしようと、夏を喫茶店に呼び出した弥生。
二人のもとへ運ばれてきたブレンドコーヒー。
「相談じゃなくてただの報告だ」と言って、自身の過去について切り出します。

悠馬と会った時は、弥生だけがコーヒーを飲んでいました。
ここでは、夏と二人、向き合って、そこに二杯のコーヒー。
この二人は向き合っていけると言う、希望が見える気がします。
というか、いちいち希望を見い出して観ていかなければ耐えられません(笑)

こんな時にも夏は、無理に話してくれなくてもいいよと言うんですよね。
でも弥生は、自分の意思で、手元にエコー写真を握って、話し始めます。

「殺したことある。産んでたら、今海ちゃんくらいだった子。罪悪感みたいなのがずっとあって、いい親になって子どもに必要とされれば楽になれるって、無理やり思い込もうとしてた。自分のために親になりたかっただけ。ごめん。ごめん。ごめんなさい。ごめん。本当、ずるかった。これを言う前に海ちゃんと関わるの良くなかった。絶対ダメだった。」

「海のはじまり」第4話より

コーヒーを一口だけ飲んで、席を立つ弥生。
夏はその手を取って、もう一度座るように促します。
「俺は気にしないし、悪いこととは思わないし、海ちゃんの親になりたいって思ってくれたことは本当に嬉しかった。そういうこと、言われたいわけじゃないの、わかってるけど。」と、夏。
このシーン、弥生は少しだけ椅子に腰かけて、夏に対して少し斜めを向いて座るのですが、夏は真っ直ぐに弥生の方を向いて座っています。
弥生はもう、夏と一緒にいられないなと感じているのかもしれないけれど、夏はまだ向き合おうとしている、そういう描写に思います。
そして続く、会話。

弥生「許しが欲しいわけじゃない。ただ、自分が無理で。自分で、自分がどうしたって許せない。海ちゃんにも、水季さんにも、失礼すぎる。」
夏「子どもにとっていいことなら…」
弥生「罪悪感ってそういうことでしょ。殺したって思ってたって、そう言う言葉最初に使ったの、月岡くんだよ。ごめん。それ言うのもずるいよね。」

「海のはじまり」第4話より

ここでの有村架純さんのお芝居、本当にすごかった。
そして弥生が夏の前で涙を流すのは、このシーンで初めて観ました。

自分が許せない。
この話を打ち明けたところで、罪悪感から解放されるわけでもない。
そんな弥生さんの言葉のひとつひとつが切なくて、でも弥生さんは、こんな自分では海ちゃんや水季さんに失礼すぎると、そういう風に言える心根の優しさというか、人を想える弥生さんの良さがちゃんとあるんですよね。
だからこそ、自分を許せなかったし、許してほしいとも思えなかった。
だからきっと、相談とかじゃなくて、ただの報告であって、もうこれ以上は一緒にいられない、いるべきではないという、夏と別れる覚悟もしていたのだと思います。

弥生が抱えていたものを知った夏は、「罪悪感」という言葉については自分がこれまで背負ってきたものに重なる部分もあっただろうし、自分が使った言葉によって弥生さんを傷つけてしまったのだという罪悪感もここで感じたでしょう。
言葉が出ず、弥生が帰った後も、泣きそうになりながら考えている夏の表情、目黒さんのお芝居も繊細でした。

夏の包容力

ちょっと逸れますが。
夏くんって結局、水季も、海も、弥生も、泣かせてるんですよね。
変な意味じゃなくて、彼女たちが泣ける場所に、夏くんがちゃんとなっている。

同意書にサインをする時、「不安だったよね」と水季の気持ちに寄り添って、水季は涙を流した。
「悲しいなら吐き出さないと」と海と向き合って、海は夏に抱き着いて泣いた。
そして弥生さん。ずっと一人で蓋をしてきた想いが、やっと涙に変わって、夏の前で涙を流した。

3人とも、とても苦しい涙だけれど、そんな風に本音をこぼせる場所が、夏くんなんですよね。
それはやっぱり、夏がいつも相手のことを見ているから。
わかったふりをしたり、決めつけて先回りしたりしない。
すごく不器用で、全然スマートじゃなくて。
いざ泣かれた時も、上手くて綺麗な言葉とか、全然使えなくて、なんなら一緒に泣くし。
でも、そうやって、この人なら一緒に受け止めてくれるという安心感を、相手に与えられる人なんですよね。
引っ張ってほしいとか導いてほしいわけじゃない時に、ただ一緒に並んでくれる人。
ちゃんとその人のことを見つめて、理解しようとする、そういう誠実さや真摯が、相手をいつの間にか包んでいく。
あんな経験をした弥生が、夏をなんで好きになったのかがわかります。

前回の感想で、弥生は夏に救われてきたから手放したくないと必死になってる気がする、みたいなことを書きました。
手放したくない、という表現が適切だったかはわからないけれど、こんな夏くんだったから好きになったし、心から一緒にいたいと思える人だったんだろうな。
そんな人、手放したくないよね。
罪悪感から母親になりたいと焦ったのは事実かもしれないけれど、夏だから、その人に娘がいて、その人が父親になるなら、自分は隣にいたいと思ったのは、弥生が自分の幸せのために選ぼうとしたことだと信じたい。
「誰の子でもそうするわけじゃないから」と夏に言ったのは、そういうことだったんじゃないかなと、腑に落ちました。

でも夏くんは、何で海ちゃんが自分に懐くのかわからないように、なんで弥生さんが俺のこと好きでいてくれるのかもわからないんでしょ?
もう夏くん。そういうところが好きだよ。(は?)
夏くんの不思議な魅力ですよね。
なんかもう、私好きだもん、夏くんのこと。
この物語、ほんとに登場人物全員を好きになってしまいますよね。
いつか浅井さんや弥生のお母さんを好きになる日も来るのだろうか(しっかり引きずってる)。
どうかどうかみんな、笑っていてね。
父親になるとか母親になるとか、わかんないし、なったところで誰がいつ何をもってなれたと評価するのかもわからない。
終わらない問いすぎて、途方もないけれど、ただただみんながお互いを想い合って、穏やかに、笑っていてほしい。それしかもう願いません。

待てる人

一人で南雲家にやってきた夏。
弥生ちゃんは?何か傷つけるようなこと言ったんじゃない?
ぐいぐいくる大人びた海ちゃんと、その前でもごもごする夏くん。
いいコンビですね(笑)

電話してみれば、と海ちゃんに言われて、「もう少し待ちたい」と言った夏。
夏は弥生に「会って話せる?時間できたら教えて」とLINEを送っていましたが、弥生は既読スルー。
海とのこの会話の後、「明日南雲さんちの近くの公園に海ちゃんといるね。来れたらきて」と、弥生にメッセージを送ります。

水季の遺影がある南雲家に入ってくるのは気が引けるだろうと、弥生を気遣って、公園にいると伝えた夏くん。優しいな。
そして、会って話したいと、また向き合おうとした夏くんはやっぱり誠実だし、そのあと弥生からアクションがあるまで待ちの姿勢でいた夏くん、これが彼の魅力ですよね。
あれ、急にすごい夏くんのことを褒めている自分がいる(笑)

水季に一方的に別れを告げられた時も、夏くんは「会って話そう」って言ってたんですよね。
大事なことはちゃんと向き合って直接話そうとする人なんだな。
そして、自分の考えをまとめるまでに時間がかかるのと同様に、相手の考えを理解をするために時間をかけて相手を待つスタイルの夏くん。
この、待ってくれるという時間や存在が、弥生にとっては必要だったんですよね。
水季は、この夏の待ちのポーズの間に、どんどん決めて、進んで行った。
そんな水季のことを、意思が変わらないとわかっていたからこそ、引き留められなかった夏。
夏の中で、「あの時もっとこうしていれば」という後悔はずっとあったはずで。
今回弥生に対して、話があるなら出来るまで待つからと、自分は聞きたいんだという意思は示した夏。
カフェで弥生の手を引いて繋ぎ止めた夏。
そしてここで、弥生を待つ夏。
もう大切な人を失わないように。
そんな思いで夏も夏なりに考えて頑張っている気がして、素敵だなと思いました。

いきなり水季の死を突きつけられて、娘がいたことを知って。
とんでもない現実にパニックだった夏くん。
そんな中で弥生のことまで考える余裕を持つっていうのはとても難しいけれど、夏くんは夏くんなりに出来る精一杯で、ずっと弥生のことも想っていたんですよね。

好きなのに一緒にいちゃダメなの?

南雲家の固定電話から弥生に電話をかける海。
その姿を、少し不安げながらも見守る翔平と朱音。
弥生ちゃんに電話したいという意味の意思を尊重して、サポートしてあげたのでしょう。
夏くんが寂しそうだった、喧嘩したの?と聞く海に、私が傷つけた、会えなくて寂しいとかじゃないと思うよと、弥生。
「夏くん、好き?」と聞かれて弥生が「好きだよ」と答えると、海はまた3人で遊ぼうと言いますが、弥生はどうかなと濁します。

-南雲海「ママじゃないからダメなの?弥生ちゃん、海のママじゃないから、夏くんと一緒にいれないの?海のせい?」
-百瀬弥生「違うよ。海ちゃんは、何も悪くない。」
-南雲海「弥生ちゃん悪くないって、夏くん言ってたよ。誰も悪くないのに、みんな好きなのに、夏くんと一緒にいちゃだめなの?」
-百瀬弥生「そうだよね。そういうことじゃないのに。自分が許せないなんてね。そのまんま、自分だけその気持ち持ってればいいだけだよね。」

「海のはじまり」第4話より

今回のタイトルの「なんで、好きなのに一緒にいちゃダメなの?」。
少し前に海が津野に電話をかけて、なんで前みたいにいっぱい会えないのかと聞いた時、津野は「海ちゃんのパパじゃないからかな」と答えました。
海ちゃんの中にはその言葉があったから、「ママじゃないからダメなの?」という言葉がここで出たのでしょうね。
津野の暗躍(笑)
海ちゃんも、大人たちのいろんな気配を感じながら、なんでだろう、なんでだろうって、一生懸命に考えながら過ごしているのだと思います。

好きなら、誰も悪くないなら、一緒にいればいい。
とってもシンプルなところって、本当はそれだけなのかもしれません。
でも、大人になると、いろんな事情とか過去とか立場とか、しがらみがあって、本音だけで選べないことが多くなってくる。
そういうの全部、大人が勝手にこんがらがらせた事情に過ぎなくて。
海ちゃんのまっすぐな言葉が、弥生に届きます。

水季と夏も、好きなのに、誰も悪くないのに、一緒にいられなかった。
弥生と夏は、まだ、繋ぎ直せる。

自分が抱く罪悪感は、誰かに背負わせたり、分かち合えるものではなくて、苦しくても結局は自分が一人で背負っていかなければならないもの。
でもその"一人で背負う"って、本当に孤独になって一生一人で背負っていなさいっていうことではなくて
誰かと一緒にいたって、何をしていたって、背負っていけるんですよね。
罪悪感を理由に、孤独を選ばなければならないことなんて、ない。
選びたいものを選ぶ資格がないなんてことも、ない。

誰かと一緒にいながらでも、ずっと永遠に背負い続ける。
そうやって背負っていくからこそ、その先の道でもう繰り返さないように、ほんの少しでも自分を変えて、向き合って、間に合うなら繋いで、選んで。
そうやって生きて行くことを、弥生さんが選べた、そんな第4話だったかもしれませんね。

カメラ

来ました山崎樹範さん!大好き!
夏が写真を現像に出すためよく行くカメラ屋さん。
今回現像されたのは、先日海で撮った海ちゃんの写真と、その前に撮っていた弥生さん。

もう!!
私、このカメラには水季と昔撮った写真が残っているのではないか、なんてまた余計な邪推をしていたのです。本当に謝りたい。
まさか弥生さんの写真だったとは。
さすがだよ夏くん。あんたはそういう男だよ。(は?)

水季のこともパシャパシャとスマホで撮影していた夏だけど、趣味で始めたカメラでしょうか、弥生さんのこと、ちゃんと好きで、たくさん撮っていたんですね。
私たち外野はあれやこれやと断片的な情報でとやかく言うけれど、二人にはちゃんと、積み重ねてきた時間も思い出も、ちゃんとあるんだよね。

可愛い彼女と、可愛い女の子。
夏の好きな人の写真。くう。
弥生さんの写真、撮って現像して、どうしてたんだろ。
アルバムでも作ってるんですか?たまに見返すの?おいおい~(うざ絡み)。
このカメラ屋さんにヤマシゲさんを配置するということは、ヤマシゲさんがいい仕事すると確信ですね。
「silent」以来の目黒さんとヤマシゲさんとの共演、楽しみです。

寂しくない

海と公園で遊ぶ夏。
弥生からは返事がないままでしたが、弥生さん、現れました。

「夏くん弥生ちゃんのこと好きだって」という海と、照れる夏。
ここのくだり、めちゃめちゃ可愛かったですね。
女子たちに翻弄される夏。うん。いい。(笑)

友達と遊ぶ海を見守りながら、ベンチに並んで話す二人の会話。
海が水季に似た、という話から、水季がどんな人だったかという話になり、自分の事を話し始める弥生。

-弥生「私はね、意外と相談したいタイプ。大事な人にまず話して、ちゃんと共有したいって思うタイプ。だった。本当はもっと、人に寄りかかりたい。一緒に悩んだり考えたりしてほしかったんだけど、その時の大切な人がみんな自分の考えをぽいって置いてく人たちで、寂しかった。無視してたこの数日、月岡くんさ、しつこく電話したり家に押しかけたり、ほんとしないよね。」
-夏「ごめん。」
-弥生「ううん。そこがいいんだけどね。待ってくれるとこが。悪く言えば自分がない。悪く言えば他人に委ねすぎ。」
-夏「悪くしか言われてない。」
-弥生「その決めきれない感じ、迷っちゃう感じ、たまにイラっとするんだけど、でも、一緒に迷えるのは、助かる。寂しくない。」
-夏「…すごい悪口言われた気がする。」

「海のはじまり」第4話より

本当はもっと人に寄りかかりたい。
一緒に迷えるのは、助かる。寂しくない。
ここで弥生さんが言った全部、弥生さんの本音で、弥生さんの本物の笑顔が見られたシーンでした。
弥生さん(涙涙涙涙涙涙)

いつも強がって、相手に合わせて、自分の気持ちを殺してきた弥生さん。
LINEですらどんな時も自分の感情を隠して語尾に「!」をつけて大丈夫な風に返してきた弥生さんが、ここ数日、夏のLINEに返信をしなかった。
もう夏くんは、弥生にとって、強がらないといけない相手でも、取り繕うとしなければならない相手でもないんですよね。
弥生さんのもともとの性格のお姉さん気質とかチャーミングな感じはそのままで、自分の本音を話せるようになった弥生さん。
ずっと過去を背負って、夏くんといてもどこかにきっとずっと孤独があって。
でももう、寂しくない。孤独じゃない。
ずーっと背負ってきた荷物は、おろせていないし、これからもきっと背負うけれど、それはそれで、それも含めて、自分らしく無理をせずいられる居場所が見つかった。
その人と一緒にいたいと、素直に思えるようになった。
弥生さんをそうさせたのは夏で、弥生は夏に救われたけれど、弥生さんも同時に「そこがいいんだけどね」と夏を肯定してあげていて。
この人となら一緒にいられる。この人と一緒にいたい。
夏と弥生が、あらためてお互いを想い合えるようになるために、必要な山をひとつ越えたようなシーンでした。

気持ちを一方的にぽんと置いて行かれると、寂しい。
一緒に迷えるのが、助かる。
夏も、水季と別れた時、そして水季の訃報を受けた時、寂しかったんじゃないかな。
「あの時水季と一緒にもっと考えられていたら」と、同意書の時の件の十字架を夏はずっと背負っているし、今、海とどう向き合っていくべきか、もっと水季に聞きたいことや聞いてほしいことがたくさんあるのに、もう一緒に迷えない。
夏にとっても、弥生みたいに、自分を待ってくれる人、一緒に迷える人がいるというのは、本当に心強いはずで。
じっくりゆっくり迷ってでも本質を捉えて人をほぐしていく特殊能力を備えた夏と、しっかり先を見据えてあらゆる可能性を検討出来る弥生さん。
根っこには、相談したい、共有したいっていう、同じ気持ち。
この二人、めちゃめちゃナイスコンビじゃないですか。

結婚するとか、海ちゃんのお父さんになるとかお母さんになるとかならないとか、この先どんな選択をしていくのかはわからないけれど、この二人だったら、少なくとも一緒に迷っていける。
夏と弥生の関係性がひとつ進んだ第4話でした。
よかった!!!!!!!!!!!!!!!!

弥生と朱音

公園から南雲家に帰って来た夏と弥生と海。
朱音は弥生に、「いらっしゃい」と声をかけ、迎え入れます。
初めて水季の遺影に手を合わせる弥生。それを見守る朱音と翔平。
その後ほんの一瞬だけ、弥生と朱音が目を合わせて微笑むような様子がありました。
朱音と弥生、第3話では一瞬バチバチっとしたけれど、別に敵じゃないし、まだまだこれから理解をし合っていく過程。
ここで水季の遺影に手を合わせたシーンは、前回散々突きつけられた弥生の「外野」「部外者」感が一歩進んで、海の未来を考えていく大人たちの中に弥生も入ったことを、ここからがはじまりだということを、示すようなシーンだったと思います。
そして夏くんは、弥生をじっと見つめていました。
でももうその視線には不安げな様子がないというか。
「弥生さん何考えているんだろう、本音はどこだろう」。
いつもそんな感じで弥生さんの方を向いていた夏ですが、ここではもう、弥生さんが無理していないことをわかっているから。
これから弥生さんも一緒に、迷いながら、海ちゃんと向き合っていく。
視線ひとつでそんな感じが伝わる、目黒さんの静かだけれどとても強いお芝居でした。

同じころに、妊娠をして、結果的に産むことを選んだ水季と、産むことを選べなかった弥生。
環境も事情も結果も違うけれど、少しずつ重なる部分のある二人。
一人で産むと決めた水季の想いに、これから寄り添っていけるのも、弥生かもしれません。

夏休み

朱音と夏、とうもろこしの実を外しているシーン。
一粒ずつ実を外す夏くん。一生終わらないよ!(笑)
夏休みの話をどう切り出そうか、それで頭がいっぱいな感じの不器用さが出ていて、めっちゃ夏くんぽくて思わず笑ってしまいました。

一週間取れることになった夏休みを使って、海とどこかに行きたいと話す夏。
朱音は、百瀬さんと過ごしたほうがいいんじゃないかと言いますが、ここにはもう全然嫌味っぽさがなくて、朱音さんの弥生に対する気持ちの変化も少し感じられます。
一緒に山に行こうかと話していた夏休みを、海ちゃんのために使ってほしいと言った弥生さん。
これも弥生さんの本心だから、夏はちゃんと受け止められたんですよね。

ここで、じゃあうちに住んだらどうかと提案した朱音さん。
海との生活のイメージがつかない夏の思いを汲んで、「知らないことって知ろうとするしかないのよ」と、海と一緒に暮らすことを伝えます。

知らないことは知ろうとするしかない。
今回私がちょっと反省してしまった、「わかったつもり」になりがちな視聴者の態度にもひとつ釘を刺すような台詞で、もう本当に、「はい、すみません」と呟いてしまいました。

責任とか無責任というキーワードが度々登場するこの物語ですが、知らないことを知ったつもりになって決めつけることが、きっと一番、無責任。
知った上で、何を選択するかは、それぞれだから。
どんな選択であっても、ちゃんと知って考えた上での選択には、責任を持てるもの。
第5話以降、ぐぐっと進展していきそうですね。
ということで、次回、海ちゃんではなく夏くんがお泊り体験をすることになりました(笑)
楽しみです。


幸せだったかもしれないよ

ラストシーンは、病室での水季と海のシーン。
「くまとやまねこ」の絵本を読んだ後の二人の会話です。

-南雲海「かわいそう。死んじゃったの。」
-南雲水季「うん。でも、生きてた時幸せだったかもしれないよ。」
-南雲海「そうなの?」
-南雲水季「わかんないけどね。幸せって、自分で決めることだから。」

「海のはじまり」第4話より

幸せは自分で決めること。
人のことをかわいそうと言わない。
どちらも、水季が朱音から言われた言葉ですよね。
あの時の朱音の言葉が、ずっと水季の中にあったんだろうな。

若くして娘を残して亡くなった水季のことを、周りは「かわいそうに」「残念だったね」と言う。
でも、水季の人生は、かわいそうな人生じゃない。
ちゃんと生きてきた時間があって、幸せだってある。

海ちゃんも、父親がおらず幼くして母を亡くした子として、「かわいそうに」と葬儀場でも言われていました。
でも、海ちゃんがこれから生きていく人生は、かわいそうな人生じゃない。

勝手に語るな。決めつけるな。終わらせるな。片付けるな。
そんなメッセージがやっぱりずっと流れている物語ですね。



ということで。とても苦しかったけれど、最後はほっとした第4話でした。
第1~4話にて、一回過去と向き合う苦しみのフェーズはひと段落しましたかね。
そうであってほしい。お願いします(懇願)。

より軽やかに自由になった弥生さんと夏くんのナイスコンビがこれからたくさん観れそうなので楽しみです。
月岡家側でも進展がありそうですね。
もう5話か…折り返しじゃないですか…時が経つのは早いです。
来週も見守りましょう。