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【海のはじまり】第5話:こまかすぎる感想

もう5話ですって。
ドラマって本当に、始まってしまうと早い。
もう折り返しに差し掛かると思うと、この作品の行き着くところがどこなのか、心から楽しみな気持ちと、終わってほしくない気持ちとで、真剣に悩みます。
第5話。
これから水季という不在の中心について向き合っていくことを暗示させるような回でした。
そして、次回、待望の津野回か?!という気配。
第5話もかみしめにかみしめて、語ります。


番組情報

「海のはじまり」公式サイト


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第5話 子供がいる…8年越しの告白

編み込みとぼんぼん

水季と海、二人暮らしの家の朝の回想シーン。
慌ただしく海のお弁当を準備する時間のない朝、編み込みがいいと海に言われたが、時間がないのでひとつまとめにして、お気に入りのぼんぼんをつけてやる水季。
一人で子育てと仕事を両立する水季の忙しなさが表現されています。

ママの髪は可愛くしないのか、時間とお金がないから美容院に行けないのかと海に聞かれ、少し考えて、「そういうの聞きたくないよね」と水季。
時間もお金も、きっとカツカツで。
海のことをケアしてあげるばかりで、自分のことはどうしても後回しになってしまう日々。
今回第5話では水季が子宮頸がんにより亡くなったことが明かされ、まだ発覚の経緯など詳細は不明ですが、このようについ自分を後回しにする日々で、検診や治療が遅れたことも悪化の理由のひとつかもしれません。
もしかしたら、そういう、自分のケアというところにも紐づく描写かもしれません。

「ママ、全力で時間とお金つくるからさ、今度一緒に美容院行って、可愛くなろう。表参道に行こう。カリスマ美容師に切ってもらおう」。
自分でシングルマザーになることを選んで、産んで、育ててきた水季。
自分の意思で決めたことで海にかけてしまう苦労や寂しさ、気まずさを、少しでも減らしてあげたい。
母として、苦労している姿は見せたくない。
そんな思いが感じ取れるようなシーンでした。

ママみたい

南雲家にて、お風呂上がりの海の髪を梳かしてあげる翔平。
とうもろこしの準備をしている夏と朱音、朱音が夏の家族へ挨拶へ行きたいと話すと、夏はまだ自分の家族に海のことを伝えられていないと打ち明けます。

夏の手をぺちんと叩き、「さっさと言いなさいよ。時間が経てば経つほど言われた方はいらっとするんだから。」と朱音。
言おうと思っていた、言うつもりで、という夏に、水季もすぐそう言うんだ、お風呂入りなさいって言うと今入ろうと思ってたってすぐ言うんだ、とぶつぶつ説教する朱音。「お風呂の話してない…」とぼそっと言う夏。
このシーン、夏の手をたたいたり、こんな風にぶつぶつ言ったり、朱音と夏の距離感が少しずつ確実に縮まっているのを感じます。
大切な娘の水季を亡くした朱音。
もちろん、水季の代わりになんて誰もなれませんが、同じ年ごろで、もしかしたら娘の夫、つまり自分にとって義理の息子になっていたであろう夏の存在が、朱音にとっては新たに心を向けられる、水季の空白から良い意味で少し目を逸らすことが出来る、一種の救いのような存在になりつつあるのかもしれませんね。

呼んでもらえれば私が直接月岡家に伝えに行くと朱音がいい、夏はそれを珍しく「いやです」とはっきり答えるのですが(笑)、この時朱音は、「だって月岡さん俺のせいだ俺が悪いって話ややこしくするでしょ」と言うんですよね。
朱音さん、まだ夏と過ごした時間は短いかもしれませんが、その中できっと、夏の性格というのをちゃんと理解もしていて。
水季が夏に何も言わず海を産んだことについて、夏に対する思いも色々あるでしょうが、夏に何も言わなかった水季に対して思うところもきっとあるはずで、水季を一度も責めない夏のこと、ちゃんと見ていたのでしょう。
あまり口数は多くないし言葉も上手くないけれど、夏なりにちゃんと考えていることも、少しずつ朱音は理解している気がして。
ここでの朱音の言葉が、言い方は怒っているみたいでしたが、夏をしっかり見ていることがわかってよかったです。

そんな二人の様子を横で見ていた海は、「ママみたい」と言います。
その隣で笑う翔平さん。
私はこの「ママみたい」って、朱音さんに向けられた言葉かなと理解しました。
何かにひっかかるとぶつぶつぶつぶつ説教じみた不満を言い続けるようなところ(笑)
朱音と水季、やっぱり親子なんですよね。
もし水季が夏と今いたら、きっとこんな風に水季がぶつぶつ言って、夏は小声でぶつぶつ言って、そんな夫婦だったのかな、なんて想像してしまいました。

この物語において、水季は第1話からずっと、亡くなっている不在の人。
でも、登場人物を通して感じていく水季は、まるで不在とは思えない、まだどこかで生きているような存在感があって。
要所要所で挟まれる水季の遺影のカットを見る度に、「ああ水季はいないんだった」とはっと思い出すような。
「水季はもういない」って、登場人物誰もがちゃんと思っていて。
「水季は心の中にいる」なんて、別に誰も言わなくて。
でも、どことなく似ていたり、無意識のレベルでそれぞれの中に、もういない人が確かにいることを感じる。
人の存在をそんな風に表現するこの作品が、好きです。

弥生と夏 三つ編みの練習

夏の家にて、夏と弥生。
夏の1週間の南雲家ステイに向けて、海の好きなものなどを聞いておいてという弥生。
「会話のネタがあると助かるでしょ?」と笑う弥生さん。
これまでの弥生さんだったら、気を利かせて会話のネタは提供しても、「助かるでしょ?」なんてきっと言葉にしなくて。
第4話で、弥生はひとつ、大きなものを乗り越えて、夏に対する想いを深めて、夏もそんな弥生さんを受け止めた。
そんな風に、一歩関係を深めたこの二人だからこそ見える弥生さんのチャーミングな様子が、とても可愛らしかったです。

洗い物をしようと髪をまとめた弥生を見て、7歳は自分で髪を結べるのかなと聞く夏。
おばあちゃんにやってもらってるんじゃない?と弥生。
ここで、「練習する?」と言って髪をほどいてみせる弥生さん。
めちゃめちゃ可愛かった!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
夏くんの笑顔も、ありがたさだけじゃないですよね。
可愛い人だなって絶対思ってる。デレてる。
「silent」で紬を見つめる表情もそうだったのですが、目黒さんって誰かを愛おしそうに見つめる時の表情が愛おしそうすぎてすごいですよね(語彙力)
「可愛い」とか「好き」とかよりも、「愛おしい」が溢れる感じ。
普段から優しげな表情の方ではありますが、愛おしさを表情で表現する人ランキングがあったらかなりの上位ですね(何)

この後、二人縦に並んで弥生さんの髪で夏が三つ編みの練習をするシーン、第4話までの悲しみを乗り越えてきた私たち(当事者気分)としては、本当にありがたい、幸せな景色でした。

そんなニヤニヤがおさえられない愛おしすぎるシーンであるにも関わらず、弥生さんの髪で三つ編みに挑戦する夏の顔が、真顔すぎて(笑)
引っ張ったら痛くないかと不安げな夏に、「ねえ、性格が出過ぎてる、優しすぎ、ゆるすぎ」と弥生。
なんだよこれ、私もこのやりとり、やりたい(笑)
夏くんに髪を結ばれたいという気持ちもあるけれど、もはや弥生さんの髪を私が結びたいです。

練習を続ける夏ですが、鏡越しの弥生の表情に気付き、「何?」と聞くと、自分のことを話し始める弥生。
いつも弥生さんのことをちゃんと見ているからこそ、ちょっとした変化に気付く夏。
これも、今までだったら、「何か思ってるのかな」と気付いても、夏は弥生が自分から話をするまで待ったかもしれませんね。

昔母親に髪の毛をやってもらっていたことを思い出していた弥生。

「やってもらったなあ。すごい早くて痛いの。作業って感じ。で、お父さんやってって甘えるとお母さん怒るし、お母さん怒るからお父さんも嫌がる。だからこう、自分で自分のことやるのは、どんどん上手になった。ごめんね。いつも理由つけて親に会わせなくて。嫌いなの。好きなタイプは家族を大切にする人ですってあれ、それだったらごめん。」

こんなに幼い時から、弥生さんはずっと孤独だったんですね。
淡々とそう話す弥生に、「嫌いでいいよ。親だって人だし。」と夏。
この時の夏、弥生さんの髪の毛で、やっぱりすごく優しく、ゆるゆるに三つ編みを編むんですよね。
さっきは「性格出過ぎ」と笑った弥生ですが、ここでのこの夏くんの手から伝わる優しさや穏やかさが弥生を包んだ。
髪の毛ひとつ、三つ編みひとつで、ここまで愛情や関係を表現する脚本、そして手つきから愛情を伝える目黒蓮さんのお芝居が、素敵すぎました。

「うん。じゃあ、嫌いなままでいる。」と言えた弥生。
いつも理想像があってそこに向かってベストを尽くそうとする弥生にとって、「家族の理想形はこう」というのがきっとあって、自分の家族がそれに当てはまらないことが、きっとコンプレックスだったのではないでしょうか。
だから人に言えなかったし、言いたくなかった。
だけど今こんな風に素直に話を出来たのは、そして、家族が嫌いだと言えて、嫌いなままで言えると言えたのは、やっぱり前回までに夏と積み上げてきた確かな関係値があるからで。
今後、海と具体的に向き合っていけばいくほど、弥生もきっと自分が海の母になるのかどうかでたくさん悩んでいくと思いますが、きっともう二人は、一緒に迷える。
1~4話かけて描いてきた夏と弥生の関係を、あらためて表現するようなシーンでした。

この後、まだ海のことを夏が家族に話していないことを知った弥生は、夏の手をペチンと叩いて、ひざを叩いて、「三つ編み編んでる場合じゃないじゃん」と怒ります。
ここ、朱音さんが夏の手を叩いたシーンともリンクしていて。
「しっかりしなさいよ」と女性陣におしりをたたかれてやっと動き出す夏くんの、お世話焼かれ感が、夏らしくてぷっと笑えました。


今夜はコロッケ

職場での昼休み中、同僚の藤井に「お子さん出来た時ってご両親に言いました?」と突然聞く夏と、それに対して「当たり前だろ」と答える藤井。
そりゃ言うだろ(笑)
この唐突で下手くそな質問の仕方も本当に夏らしいですね。
こんな夏のことをあたたかく指導してきたであろう藤井さん、苦労もされたと思いますが、ありがとうございますという気持ちでいっぱいです(笑)

家族はとても喜んでいたと話す藤井。
それを聞いていた夏のもとには、母から「今夜コロッケにします♪」と浮かれたLINEが。
月岡家では、嬉しいことがあるとコロッケなんですかね。
夏と大和が好きなのかな。

家族みんなで

明日から夏休みに入る海。
学校で友達から「転校しちゃうの?」と聞かれます。
その後、海を迎えに来て担任と話をしていた朱音に「転校する話?」と不安げに聞く海に対して、朱音は「転校する話をちょっと待ってもらう話」と伝えつつ、海の表情を見つめます。

帰り道、校庭に引かれた白線の上を歩く海を幼い頃の水季に重ねる朱音。
大人になってからも海と一緒にそれをしていたと聞き、笑う朱音。
ママと似ているということを嬉しそうに話す海に、「でも海ちゃん1個だけママに似てないところがある。ママはね、嫌なことは嫌っていう子どもだったの。子どもの時だけじゃないかな。大人になっても。もっと言っていいの。」と朱音。
その言葉を受けた海は、「転校やだ」と心細そうに言います。

嫌なことは嫌ってハッキリ言う。
幼いころの水季の姿が目に浮かんでくるようです。
また、冒頭の南雲家のシーンで、自分も月岡家に行って話をしようかと言う朱音に対して、夏は「いやです」とぼそっと言っていました。
こんな風にハッキリ言うの珍しいな、とその時は思いましたが、夏も夏で、意外と頑固なとことか、不器用すぎて直球で言っちゃうところがあって、真反対のように見える水季と夏だけれど、通じるところがあるのかもしれませんね。

「嫌だったね」と、海の手を取る朱音。
「でも転校しないと無理でしょ、夏くん」と海。
この時、朱音さんがちょっとはっとしたような表情を一瞬するんですよね。

水季が亡くなった後、取り急ぎの対応として、朱音と翔平が暮らす実家で過ごすことになった海。
この実家から小学校までが車が必要なくらい遠くて、もともと夏が現れるかどうかとは別に、転校は必要だと考えられていました。
でも海は、「夏と一緒に暮らすなら転校しないと無理だ」と言った。
海の中では、パパである夏と一緒に過ごすのだろうというイメージがしっかりあるんですよね。
朱音さんの表情は、そのことを改めて感じたからなのかなと思いました。

「夏休みの間にみんなで考えよう」と言った朱音に、「夏くんも?みんな?」と聞いた海。
朱音は、前を向いて、「うん。みんなで。家族みんなで。」と言います。
ここで、朱音の口から「家族」という言葉にされた関係の中に、夏が入りました。

すみっこぐらし

本屋にやってきた弥生。
夏から海がすみっこぐらしが好きだという情報を入手し、すみっこぐらしの本を手に取る。
夏からは海について、ほかに好きな食べ物はコロッケ、好きな色は青、好きな動物はイルカ、という情報を得ます。

よくドラマでは諸々の兼ね合いで、たとえば検索フォームのGoogleとか、LINEとかキャラクターとか、実際のものを登場させない作品も多くありますが、生方脚本の作品ではそのあたりがとてもリアルで。
今回も、まさに今7歳の年頃であれば好きであろう「すみっこぐらし」が登場。
こういうひとつひとつのリアルさが、この物語がこの世界のどこかで今起こっていることのような実感に繋がるんですよね。

弥生が初めて海の家を訪れた時、海の誕生日祝いに、ピンク色のイルカのぬいぐるみをプレゼントしました。
その時、海が何を好きか夏に聞こうかな、と呟いていた弥生ですが、今回ここでLINEで夏から海の好きな動物はイルカだという情報を取得しているということは、やっぱりあの時は聞かずに、弥生のセンスでイルカのぬいぐるみを選んだのかもしれません。
そうだとして、ここにも弥生の変化が表れているように思います。

ピンク色のイルカ。
海ちゃんの名前から連想したのか、海モチーフのイルカで、女の子だからピンク色。
きっとそんな風に前回は、「海ちゃんきっとこう」「女の子はきっとこう」という、弥生の性格であろう"こうあるべき"というイメージが先行したり、先回りして考えたりするところが出ていたように思います。
それに対して今回は、相手が好きな物を聞いて、それを選んだ。
単純なことかもしれませんが、これっていつも夏がしていることで、まず相手を理解して、相手の言葉で表現してもらったことを受け取って、それに答えると言うことを、弥生が素直に出来るようになったのは、弥生の心持ちの変化であり、かつ、前回海のことをほとんど知らない状態から、現在は海ちゃんという対象がより具体化していて、その相手に喜んでほしいから贈り物をするという、そういう関係性の変化も感じ取れるように思います。

コロッケ

そわそわした様子でコロッケの準備をしている月岡家。
夏から話があると言われて集まる中、ついに弥生との結婚の報告であろうと盛り上がる和哉、ゆき子、大和。
やっぱり、お祝いには、コロッケ。
海ちゃんがコロッケ好きなのは、夏に似ているのかもしれませんね。
コロッケって確かに、人数がいる家族の食卓に登場するイメージ。
家族とか、にぎわいとか、そういうものの象徴、あったかさを感じる食べ物かもしれません。
すき焼きとかだとちょっと過剰だし、こんなにもちょうどいいコロッケ、ありますか?コロッケ使いの達人すぎる。
そんな実家にやってきた夏が、食卓に並べられるコロッケや浮き足立つ家族の様子を見てつっ立っているシーン。
夏のあの、絶望的な表情に笑いました(笑)

その頃弥生は、たくさんの食材を抱えて帰宅。
ひき肉、卵、じゃがいも、玉ねぎ。コロッケを作るようです。


子どもがいる

満を持して、家族4人、コロッケが並ぶ食卓を囲む月岡家。
とらえず食べようという夏に、「でもコロッケ食べながら聞く話でもないし…」と和哉。
前回、「みかん食べながらする話じゃないでしょ」と朱音が水季を叱った時の台詞とリンクします。

そして意を決して話を始める夏。
ですが、一言目は「子どもがいる」。
固まる和哉、ゆき子、大和ですが、瞬時に弥生が授かったのだと理解し、そんなことで怒らないよ、めでたいじゃない、と喜ぶ月岡家。
予定日はいつかと聞かれ、「弥生さんの子じゃない」と夏。
浮気したのかと驚くゆき子、黙り込む和哉と大和。
説明するという夏の次の言葉を待ちます。

このシーン、もう本当に相変わらず夏くんは説明が下手で。
きっと、長い時間をかけてぐるぐる頭の中で考えてやっと言葉にするタイミングって、夏的にはもう色々と整理がついていたりするから、色々はしょって結論から話してしまうんですかね?
でも、ここで、動揺しながらもいったん夏の説明を聞こうとする月岡家。
きっとこんな風に、今までも夏はいつもどこか説明下手で、一言目では到底理解出来なくて、じっくり話をするのを、じっくり聞いて理解してあげる家族だったのかなと伝わってきました。
夏のことをよく知らなければ、次々と言葉をたたみかけてしまいそうな場面。
夏から言葉を奪わず、一回ちゃんと聞く。
こういう環境で育ったからこそ、夏は夏らしくいられたのかもしれません。


隠したの?

水季の葬儀で7歳の娘がいることを知ったという経緯を話した夏。
その話を聞いた大和くんが、ちらっと両親の顔色を伺います。
大和くんは夏が水季と交際していたことを知っているので、夏の話を聞き、あの慕っていた水季が亡くなったこと、そして水季との間に娘がいたことをこのタイミングで知りました。

何も知らなかったのかとゆき子に聞かれ、妊娠は聞いていたが堕ろしたと思っていたということを話した夏。
そこからのゆき子との会話です。

-月岡夏「妊娠は聞いてた。堕ろしたと思ってた。」
-月岡ゆき子「なにそれ。お母さん何も聞いてないんだけど。」
-月岡夏「心配かけると思って。」
-月岡ゆき子「隠したの?学生の分際で。彼女妊娠させて、周りに隠して中絶させたの?」
-月岡夏「させたわけじゃない。」
-月岡ゆき子「同意してそうしたってことは、あんたがそうさせたってことなの。中絶が悪いって言ってんじゃないの。産むのも堕ろすのも、その子なんだから。あんたの意思なんてどうでもいいの。でも、産むって言われたら、どうしてた?それでも隠した?心配かけると思ったんじゃないでしょ?隠せるって思ったのよ。男だから、サインして、お金出して、優しい言葉かけて、それで終わり。身体が傷つくこともないし。悪意はなかったんだろうけど、でも、そういう意味なの。隠したって、そういうことなの。」
-月岡夏「そうだと思う。隠せるって思ったんだと思う。」

「海のはじまり」第5話より

このシーン、すごかった。
西田直美さんの「心配かけると思ったんじゃないでしょ?」の言い方。
母として、女としての様々な想いが一瞬の声の揺らぎで伝わってくる、本当にすごいお芝居でした。

ここでゆき子さんが言ったことって、私たちがきっとずっとこれまで頭のどこかで思っていたこと。
第1~4話までは怒涛の展開で、いきなり真っ暗な海に突き落とされてしまった夏くんが、自分に子どもがいたという事実をようやく受け止めて向き合っていく土台に立ったような第1章でした。
どこか頼りなさげでぼやっとしつつも自分なりに常に誠意をもって海をはじめとする人たちと向き合って、少しずつ関係性もほぐれたりして、夏ならではの良いところも見えてきて、なんだかいつの間にか私たちは、夏くんのことを好きになってしまって。
さてこれから第2章、海とじっくり父親として向き合う編、夏くん頑張れ!みたいなムードになりがちだったと思うんです。

そんなこのタイミングで、びしっと、夏の実の母親という立場であるゆき子さんが、このことを突きつける。
激怒するわけでも、悲しみ泣くわけでもなく、親として大人として言わなければならないことを、親だからこそわかっている夏の思考回路や本音を見透かした上で、まっすぐに突きつける。
このことをもし、1話や2話といったもっと早い段階で、夏が混乱している最中で言われていたら、私たち視聴者は他のいろんな怒涛の展開の中でもっとこの言葉を流してしまっていたかもしれません。
夏が海のことを自分の両親に打ち明ける前にどんどん南雲家に入り込んでいく様子は、ちょっと大丈夫かななんて思っていましたが、このタイミングまで月岡家に打ち明けるシーンを引き延ばしたことにはちゃんと意図があって、今このタイミングだからこそ、絶対的に重要で決して目を逸らしてはいけないこの言葉が、深く刺さるんだなと思います。

そしてその続き、和哉が「隠したのはよくなかったけど」と言い、大和が「うん。違うんでしょ?産んでたんでしょ?」と言った後、ゆき子が「だから言ってんの」と、こう続けます。

「ああよかった生きてたんだって、罪悪感なくなってすっきりって、そんな呑気なこと思うの、お母さん絶対許さない。」

「海のはじまり」第5話 より

これもまた、すごい。

ゆき子が言ってるのは、中絶の事実を隠したことではなくて、命を隠そうとしたこと、命から逃げようとしたこと、命を終わったことだと処理しようとしたこと。
そこまできちんと台詞にして、絶対許さないとあえて言ったこと。
和哉と大和と夏、男3人に対して、ゆき子だけが、そのことをきちんと言ったこと。
それが本当にすごい脚本だし、「生きててくれてほっとした」と前に言った夏を呑気だとばっさりと斬る、こういうテーマを描く作品をつくるうえでの想いや覚悟のようなものを感じるシーンでした。

夏や弥生に絡めてずっと出て来ていた「罪悪感」というキーワードに対しても、生きていたから、健やかに育っていたからって、なくなるわけではないということ。
男だから女だからという分け方で語るのは安易ですが、水季は海を産むと決めた後も一度中絶しようとしたことを忘れないために同意書を持ち続けていた。
弥生は、中絶した過去とそれに対する罪悪感を、これからも背負い続けていくのだということと向き合った。
そして、ゆき子はこういう話をしっかりと夏にした。
芽生えた命に対する責任意識の違いは、どうしたって身体的な負担を負う女性と追わない男性とで、その重みが違うのかもしれませんが、産んだから良いとか、産むことだけが正しいとか、そういう話ではなく、芽生えた命に対する責任は、どこかで終わるものでも、終われるものでもないということ。
そういうことを一番しっかりと伝えるために、この構図で、4話までのこの流れがあった上で、今の夏にゆき子が伝えるというのが、正解すぎて。
圧倒的なシーンでした。

弥生ちゃんの意思

続けてゆき子が言ったこと。

「弥生ちゃんのことは任せる。弥生ちゃんの意思に異論はない。でも、何か強要させんのは許さない。夏は、そういうのないと思うけど。」

「海のはじまり」第5話より

最後の「そういうのないと思うけど」の言い方が、夏への信頼が伝わってくる言い方で素晴らしかったですね。

ここでのゆき子さん。
「母は強い」とか「親は強い」とか、そんな言葉では言いきれないけれど、夏に子どもがいたこと、その母親が亡くなっていること、もう今何をどう思っても変えようのない事実を一度受け入れた上で、突然恋人に娘がいたことを知らされた弥生のことまで思う強さと優しさ、視野の広さから、素敵な人なんだなと、ますますゆき子さんへの信頼が増しました。

ゆき子さんはついさきほどまで、夏と弥生が結婚すると思っていた。
いつか二人が結婚して、そこに孫が生まれて、そんな未来を当たり前に描いていたはず。
今この現実があって、弥生がそれをどう受け止めるか、何を選んでいくか、それは弥生の人生であり、夏や月岡家が縛れるものでも、何かを求めるべきものでもない。
弥生の人生は弥生が決める。その選択がなんであれ異論はない。そう言ったゆき子さんが、弥生の実の母親と対比されるようで。
妊娠をしたことを報告した時の、あの弥生の実の母親の冷たさ。
弥生に関心がなく、好きに生きればよい、自分は関わらない、という実の母親。
これも聞こえの良い"尊重"なのかもしれませんが、対してここでゆき子が言った、弥生の好きで良い、異論はないという"尊重"とは、温もりが全然違って。
ずっと孤独だった弥生。
まだ弥生は夏の妻ではなく恋人に過ぎないけれど、夏だけじゃない、ゆき子や月岡家が、ちゃんと弥生に寄り添っているようで。
きっとこれからゆき子と弥生のシーンがありそうですよね。
夏と弥生、二人のことは二人に任せる。
でも、いざとなれば、ゆき子さんはきっと、弥生の力になるし、弥生にもはっきりと温かい言葉を伝える気がします。
ゆき子さん。ゆき子さんがいてくれてよかったです。


孫に会いたい

一連の会話の後、夏の子どもが「海」という名前の女の子であることを知ったゆき子。
「海ちゃん」と名前を呟き、コロッケ食べ始め、「お母さんさ、最近ちょうど孫が、欲しいなって思ってたとこ。連れてきて。会いたい。」と言います。
涙。

こんなかたちで孫の存在を知ることになるなんて、ついさっきまでは思ってもいなかったこと。
でも、そっか、孫がいるんだ。
その喜びをちゃんと感じて、夏に伝えてあげることで、夏は決して突き放されてなんかいない、家族という支えがあるのだということを感じさせます。

水季にも、産むか迷っていた頃、そばに実の親である翔平さんと朱音さんの存在があったから、決心が出来た。
夏にも、家族がいる。
弥生の環境との比較はもう散々第4話までにされていたので、もう悲しい気持ちに溺れてしまわないようにここでは語りませんが、やっぱり、環境って、すごく大きいですよね。
これから夏が海と向き合っていく道のりは険しいもので、どんな選択をするにせよ、「親」の経験者である親の考えや知恵に触れていくことってきっと必要で。
頼れる人がいるかどうかというのは、心理的な支えになるだけでなく、やっぱり現実的な助けにもなるから、これから月岡家がどのように向き合っていくのか、見守りたいです。

経過報告

自宅ですみっこぐらしの本を読んでいた弥生のもとに、夏からLINE。

「お母さん怒って、でも大丈夫 海ちゃん会わせることになった。ここまで経過報告。」

説明下手だなーと笑う弥生。
ね、下手すぎるよね!(笑)

弥生さんが心配してるだろうから、と、端的に大丈夫だよということを伝えたかったのでしょう。
私たちがさっきまで見守っていたあの会話、あの濃度、あの温もりは、こんなLINEじゃ伝わりませんよね(笑)
まあでもそんなことも慣れっこな弥生さん。
弥生さんにはもう、焦りみたいなものはなくて、とりあえず大丈夫なのねって笑っていられる。
本当に、一気に心の余裕が出てきましたよね、弥生さん。
ずっと重すぎる鎧を身に纏ってきた弥生さんの表情のこわばりが第4話を機に一気にほぐれて柔らかになって。
有村さんの演技力、すごいなあ。


知ろうとしたほうがいいよ

夜、二人でワインを飲みながら話すゆき子と夏。
母と息子、二人でじっくり話せる関係、素敵ですね。
もし自分の息子が目黒蓮で、こんな風にワインを飲みながら語れる日なんて来てしまったらどうしよう。
心配する必要もないことを心配してしまいました。

ここで初めて、水季が亡くなった原因が子宮頸がんであったことが、夏の口から明かされました。
脚本家の生方さんが、この物語で伝えたい事のひとつとして仰っていた、「がん検診に行ってほしい」ということ。
この物語を観たすべての人に、少しでもきっかけを与えるような作品になりそうです。

「お母さん人生で一番大変だったのいつかわかる?」と夏に聞いたゆき子。
離婚して再婚するまでの間、夏と二人で生活していた頃だと、続けます。

「夏と二人で生活してた頃。お金と時間無いと、気持ちまでどんどんすり減ってくの。全然美容院行けないし、行ったら行ったでなんか罪悪感すごいし。あの頃のお母さん、なんか嫌だったでしょ、綺麗じゃなくて。」

「海のはじまり」第5話より

「美容院」出てきました。
学生で妊娠し、中絶をしようと決め、そこから産むことを決心し、亡くなるまでの間、たった一人で海を育てた水季。
そんな水季に想いを馳せたのでしょう。
自分自身がシングルマザーとして子育てに奮闘した時期のことを思い、その余裕のなさが、「美容院」というキーワードで表現されました。
冒頭シーンで、美容院に行くお金も時間もなく慌ただしくしていた水季の姿が重なります。

その頃のことについて夏は、寂しいこともあったけどそこまでじゃなかったと伝え、当時ゆき子の友達が来てくれたことがあったねと話します。

「早いこと諦めつけて、人の手借りることにしたの。母親一人で寂しい思いさせないなんて、無理よ。水季ちゃんが誰にどのくらい助けてもらったか知らないけど、知ろうとしたほうがいいよ。その人から教わること、多いと思うよ。」

「海のはじまり」第5話より

一人で子を育てる母親の大変さも、そこで育つ子どもの寂しさも、身をもって経験してきたゆき子。
そんなゆき子が言ったこの言葉を受けて、きっと夏は、これからもっと水季を辿って、津野や朱音さん、そばにいた人たちにたくさん話を聞いて、空白の時間を埋めようと努力していくでしょう。
月岡家の血の繋がりや再婚の設定は、家族の血の繋がりの強さや、血の繋がりだけが家族ではないということを伝えるための設定かと思っていましたが、ゆき子にシングルマザー期間があったことが、水季に重なっていく。
本当にもう、なんて抜かりの無い緻密な脚本。
その人のことなんてその人自身にしかわからない。
それも一貫して流れ続けているメッセージだけれど、でも、その人のことを知ろうとすることの大切さや、一人ひとり全く別の人生だけれどどこか少しずつ重なっていく描き方、本当に丁寧な作品です。

このくだりの最後に、夏は「お父さんは?」と、実の父親について聞きます。
ゆき子は「どっかで元気にしてるでしょう」とだけ答えますが、夏のその後の、何か考えているような表情。
これ、いつか夏、自分の実の父親と向き合う日が来るかもしれませんね。

「どっかで元気にしてるでしょう」
これってきっと、夏が水季に対して別れてから思っていたことで。
でも結果的に、どっかで元気にしてると思っていた水季は、子どもを産んで、母になって、一人で子育てをして、そして病気で亡くなっていた。
どっかで元気にしているであろう父親が、本当にどっかで元気にしているのか。
知らなくて後悔することは、もうしたくない。
そんなことを思っていたかもしれませんね、夏くん。

俺いらないよ

津野に会いたくて図書館にやってきた海。
「ジュース、オレンジとりんごあるけどオレンジだよね?」と、当たり前のように海の好みを知っている津野くん。
たくさんお世話して、一緒に過ごしてきたんだろうな。

おばあちゃんの家の近くにも図書館あるよと海に話す津野に、「図書館に来たんじゃない。津野くんに会いに来た。」と海。
「嘘だ~」と笑う津野くんの表情が本当に嬉しそうで。
以前夏に、「海ちゃんが自分に会いたがったことなんて一度もない」と言っていた津野、本当に嬉しそうで可愛かったです。津野スマイル。

ママがいなくなってから図書館以外で津野に会えなくなったと言う海。
ということは、図書館以外でも以前は会っていたということですね。
水季がいられない間に、一緒に遊んだり、家で預かったりしていたのかもしれません。

今度夏が泊まりにくると話す海、津野くんも来ればと言う海に、「俺いらないよ。おじいちゃんとおばあちゃんがいてくれるから。あとお姉さんもいるでしょ、夏くんと仲良しの。海ちゃんのこと助けてくれる人、たくさんいるから、俺いなくて大丈夫だよ。」と言う津野。
自分は部外者であることを実感して強調するかのような台詞に対して、「ママが元気な時は津野くんだけだったのに?」の海の一言。

やっぱり津野くん、きっと水季が海と二人暮らしをしている間、一番そばで二人に関わり支えていたのは津野くんで。
自分が父親代わりにとか、そこまでの想いがあったかどうかはわからないけれど、そばで手を差し伸べて力になってきたのはきっと事実で。
でも、水季が亡くなったことをきっかけに、自分が圧倒的部外者であることを、外野であることを、突きつけられた津野くん。
報われるために支えてきたわけではないけれど、いなくなったから、なかったことになる。
そこに対してどうしても芽生えてしまう感情を押さえようとしながら、冷静に、客観的に、血縁でもなんでもない自分は事実として部外者であるからこそ出しゃばってはいけないという考えもきっとあって。
冷静に、常識的に、わきまえてふるまおうとする津野くんに、海ちゃんの無邪気な言葉が、ぷすぷすっと刺さっていく。
バラの棘までいかないけど、ちょっとささくれが剥けるみたいな、ぴりぴりっとした痛みがじわっと効いていく。
朱音さんが海との帰り道で言っていた「家族みんなで考えよう」の言葉、その中には、当然津野くんはいないんですよね。
津野くん…。

そばにいただけの他人

その後、図書館にて、津野と三島の会話。

-津野晴明「ママの病気がわかったり、死んでから現れるなんて、みんな調子いいよね。…言ってないですよ。思っただけです。」
-三島芽衣子「…うん。気持ちはわかる。」
-津野晴明「はい。」
-三島芽衣子「家族でも何でもないんだけどさ、ずっとそばにいたのって私たちくらいで。支えてたの津野くんくらいで。居なくなったら急に外野な感じ、ちょっともやもやする。」
-津野晴明「血でも法律でも繋がってないですからね。弱いもんですよ、そばにいただけの他人なんて。」

「海のはじまり」第5話 - 津野晴明

それにしてもこの津野さんと三島さん、すなわち池松さんと山田さんのシーン、無敵すぎる…贅沢すぎる…。

そばにいただけの他人である、津野。
会ったこともなかった実の父親、夏。
絶対的に支えたのは津野くんで、絶対的に親であるのは夏で。
関係って、なんなのか。深い問いです。

ゆき子さんが言っていた「知った方がいい人」である津野。
きっとこれから夏は、津野と関わっていくでしょう。
次回予告を見た感じ、次回、津野くんの気になるシーンがありそうでした。
俺たちの津野回、ついに来るか…?!

ところで以前、第3話の感想でこんなことを書きました。

【海のはじまり】第3話:こまかすぎる感想 より

この、津野くんが抱える、そばにいる他人としてのもやもや感。
きっと夏は、津野を「部外者」にしない人だと思います。
夏と津野の今後の展開、見所しかなさそうです。

きらきら大和

実家に海を連れてやってきた夏。
二人を迎え入れるゆき子と和哉。
慌てて階段を駆け下りて来た大和。
ここでの海ちゃんの目のキラキラ具合に負けない大和の目のキラキラ具合よ!(笑)

ほっとした表情の夏。
どんな経緯であれ、こうやって命を喜んで迎え入れる環境。
それがあるのって本当にやっぱり力になるし、当たり前じゃない環境なんだなと、しみじみ思わされます。
夏が海と向き合って、家族の支えや環境のありがたみを実感するほど、水季の苦労もきっと知っていくことになりますね。

大和と海は案の定すぐに打ち解け、大和の膝に座りながらゲームを楽しむ海。
その後、大和の部屋にやってきた大和と海。
大和の実の母親の写真に挨拶をし、「ママ可愛いでしょ」と笑う大和。
そして、自分が実の母親をママって呼んでいるのは内緒だよと、海と内緒話をする大和。
もう二人、どんだけ打ち解けてるの。可愛い。
「今度海ちゃんのママにも会いにいくね」と言った大和。
大和も水季のことを知っている数少ない人間の一人で、生い立ち的には海と重なる部分も多い存在。
だからこそ、海ちゃんに寄り添いたいと言う気持ちもあるかもしれませんね。

新しいお茶碗

南雲家にて、新しく買ってきたお茶碗とお箸を眺める朱音。
きっとお泊り体験に来る夏の分のお茶碗ですね。
その光景を、にこにこしながら見守る翔平さんです。
たった1週間の滞在。
家にある適当な食器を使ってしまったっていいところ、ちゃんと夏の分の食器を新しく用意した朱音さん。
夏を家族として受け入れ始めている様子が伺えます。

一方弥生、キッチンでコロッケを作りながら、夏と電話中。
「弥生さんの意思には全面的に賛成だって。お前の意思なんてどうでもいいけど弥生さんの意思は全て尊重するって。」と月岡家の想いを伝える夏。
「ありがとうございます」と言った弥生、どこか何か思っていそうな雰囲気もありましたが、この「尊重」の言葉からは、ちゃんと愛情を感じ取ったでしょう。
海ちゃんの好きなコロッケを準備する弥生さん、コロッケなんて作れないと笑っていた第1話から、誰かのためにコロッケを作ろうとする変化がほほえましいです。
コロッケが食べたくなってきました。
鳩サブレーはまさかの泣きながら食べるアイテムになってしまったけれど、どうかコロッケは、ずっと笑顔で食べられますように(何の話)。

二人の母親

南雲家にかかってきた一本の電話。
朱音が出ると、相手はゆき子でした。

ゆき子「ご挨拶遅れて、本当に遅くなってすみません。もっと早くに…」
朱音「海、楽しかったみたいで帰ってからずっと今日の事話してました。」
ゆき子「ならよかったです。近いうちにご挨拶に伺ってもいいですか。水季さんにも。」
朱音「はい。水季も会いたいと思います。」

母親同士、近々対面ですね。
ゆき子も朱音さんも、言葉数は少ないものの、いろいろな想いがこもっていて、そしてそれはきっとお互いに伝わっていて。
海ちゃんのことはもちろん、夏と弥生のこともきっと親の立場として一緒に考えていくことになるでしょう。
そして、水季を亡くした母親の悲しみを一番想像出来るのがゆき子かもしれません。
大竹しのぶさんと西田尚美さんのお芝居、楽しみです。

このシーンで、「海、楽しかったみたいで」と言った朱音さんと、「ならよかった」と言ったゆき子さん。
ほじくり返すわけではありませんが、弥生さんが以前、海と過ごした時間について自分が楽しかったと主観で言ったことで朱音さんのスイッチを押してしまった場面がありましたが、自分がどうとか息子がどうとかではなく、海ちゃんが楽しかったならよかった、水季さんにも挨拶がしたいと言ったゆき子さん、やっぱり大人で、親なんだなと、深みを感じました。

未熟な親、親になりきれていない夏、そして迷っていくであろう弥生。
対して、親の先輩である朱音、ゆき子、和哉、翔平。
この二世代の関わりも、楽しみですね。
命のバトン、受け継がれていく流れ。
そんなものが、二世代の関わりを通して感じられます。

美容院

美容院にやってきた弥生。
店員の勧めで新しいトリートメントを試すことに。
夏からLINEで「明日から南雲さんの家でお世話になります。弥生さんはゆっくりしてね。最近忙しくさせてたので。」と届き、「そんなことないけどね!ゆっくりさせてもらいます!」と送信。
いつもの「!」が付いているけれど、これは本心かな?弥生さん。

隣の席についた客と店員の会話が耳に入ってくるシーン。
ここで隣の客を担当していた美容師さんですが、あの「いちばんすきな花」で夜々ちゃんと美容院snailで働いていた谷本さんでは?!
と思ったら、こんな投稿が。やっぱり!
同じ世界線で繋がる物語。ファンとしてはわくわくしますね。

隣の客は、今日は子どもが前の夫と会う日で時間が出来たからと久々に来店した様子。
早く迎えに行きたいからカットだけでと言うその人、小学生になったがお金はかかる一方で楽にはならない。
そんな話を聞きながら、弥生はさきほどまで夏と交わしていたLINEの画面を見つめ、何かを思う様子。
今回のキーワード、「髪」で、ここまで色々なことを表現する脚本です。

少し前までの弥生は、第4話でも言っていたように、"自分のために"母親に早くなろうと焦っていた。
でも、そんな自分と向き合って、受け入れて、今の弥生は、じゃあ本当に母親になるのか、なれるのか、ならないのか、なるってどういうことなのか、海と夏とこれからの自分を、自分の本音で考え始めた頃ですよね。

子守りをすることと子育てをすることは別物。
海ちゃんの子守りをすることには少し慣れてきて、出来るという自信もありそうだった弥生ですが、時間的にも金銭的にも今は余裕があり一人の時間に自分のケアを出来る自分と、どちらにも余裕がなく自分を後回しにする母親。
その違いを感じてしまって、自分が母になるとしたら、それってどういうことなのか、生活も変わることを自分が本当に受け入れられるのか、弥生さんが向き合わなければならないいくつもの壁に、本腰を入れて向き合い始めている、そんな様子です。

水季の部屋

1週間お世話になります、と、南雲家にやってきた夏。
出迎えたのは翔平と海。
「寝る部屋ここね」と案内されたのは、2階の水季が使っていた部屋。
他の部屋は物置になっているからと言い、その部屋で過ごすように伝える翔平。
きっといろんな想いもあって、この部屋にしたのでしょう。
大切な娘の部屋に、娘の痕跡が残っている大切な部屋に、夏を泊める。
朱音さんや翔平さんにとってのそのことの大きさと、夏への想いが感じられます。
水季がかつていた部屋で過ごして、水季を感じながら、辿っていく。
もう水季はいないけれど、その存在を追いかけて、向き合っていく。
この1週間は夏にとって、そんな時間になりそうです。
7年間を辿る7日間、ですね。

いなくなっちゃう

ここで一度挟まれるのが、水季の回想シーン。
夜、この部屋のベッドで横になっている水季のもとへ、青色のイルカのぬいぐるみを抱えてやってきた海。
ママなしで眠る練習をするためにおばあちゃんと眠ろうとしたはずが、寂しくなって来てしまった海を、水季は優しく抱きしめます。
この時、水季は身体を起こすのもしんどそうで、病状は悪化していて、自分がいなくなった後のために、あえて海と別々で眠ろうとしていたことがわかります。
きっと立ち上がるのもしんどい時があるのでしょう。
ベッドに座った状態でも引っ張れるように、電球からぶらさがった紐は、座って手が届く高さまで、長く付け足されています。

水季「ママがいないと寝れない子になっちゃうよ。」
海「ママがずっといればいい。」
水季「ママいなくなっちゃうんだってば。」
海「今いるもん。」
水季「そうだね。今いるんだから、一緒に寝た方がいいよね。」

そう言って、海を抱きしめる水季。
自分に残されたわずかな時間、水季だってめいっぱい海を抱きしめて、一緒にいたいはず。
でも母親だからこそ、この子が自分がいなくなった後もしっかりと生きていけるように、あえて距離をとろうともする。
自分の意思で選ぶことにこだわってきた水季が、どうにもならない病気を目の前にして、どんな思いでいたのか。
この部屋にたくさん詰まった水季の想いを、水季と海の二人の時間を、これから少しずつ少しずつ、夏が辿っていくのでしょう。

電球の紐

現在、電球からぶら下がった長い紐の上の方を夏が引っ張って、水季の部屋に電気が灯る。
部屋を見渡す夏。
棚の上に置かれたアクセサリーの中に、学生時代に夏といる時に水季がいつもつけていた指輪がありましたね。
水季がずっと大切にしていた物のようです。

ベッドに腰かけて、電球からぶら下がった長い紐を見つめる夏。
ベッドを少し見て、そのベッドに、仰向けに横たわり、天井を見上げる。
この時、夏の目線で、天井やカーテン、窓を見るカットが入ります。

この時、夏はもしかしたら、電球からぶら下がる紐が長くなった理由、ここで具合の悪い水季が横になっていたのかなということに思いを馳せたのかもしれません。
だからこそ、同じように、水季がいた場所に、自分も寝転んでみた。
挿し込まれた夏目線のカットは、水季が亡くなる前にこの部屋でこの場所から見ていたであろう景色ですね。

そこに突然やってきて夏に飛び乗る海。笑って受け止める夏。
「おばあちゃん暇ならお風呂掃除しろだって」と海に言われ、「はい、します」と笑う夏。

ここでまた夏くん、電球の紐を見るんですよね。
そして海に、「水季とここで寝てたの?」と聞きます。
「うん。ちょっとだけ。ママが元気なくなってから。」と答える海。
少し間を空けて、「そっか」と返す夏。
その前に二人暮らしをしていた図書館の近くの家に、今度連れてってと頼む夏。
やっぱり電球の紐、気にかけてますよね。
海ちゃん用に手が届くようにしたのかなと思っている可能性もありますが、ひとつひとつにちゃんと気付いて、じっくり考えていくであろう夏くんです。


ドライヤー

自宅でドライヤーで髪を乾かす津野。
ふと見ると、ソファの隙間に挟まっていた髪飾り。
第5話冒頭で水季が海の髪につけたげていた、あのぼんぼんです。
ここにあるということは、海ちゃんが津野の部屋にいたことがあるということ。
やっぱり預かっていたのかもしれませんね。
もしかしたら津野くんの方が、夏くんより上手に海の髪の毛を乾かしたかもしれませんし、ひょっとして三つ編みまで出来るかもしれません。

水季が生きていた頃、まだ病状がそこまで悪化していなかった頃、水季は本当に親の手を借りずに頑張っていたのかもしれません。
もし実家に気軽に頼れるのなら、津野くんか実家かだったら、実家に娘を預けそうですよね。
以前朱音さんが水季の遺影に「ごめんね」と泣きながら謝っていたシーンもありましたので、母娘の間にはやっぱり最近まで距離があったのかもしれません。

シーンが切り替わって、お風呂上がりの夏の髪の毛を、信じられない遠距離からドライヤーをあててぎこちなく乾かそうとする夏。
永遠に乾かん!!(笑)
ここは笑っていいポイントですよね(笑)

その様子を見て笑う朱音さん。
「月岡さん、乾く前に風邪ひくわ。熱かったら熱いって言えるから。不安だわー。」と笑う朱音さん。
可愛い(笑)
バカ真面目に「熱かったら熱いって言ってね」と海に言って、もう一度ドライヤーをかけ始める夏ですが、やっぱり距離が遠すぎる(笑)

そんな夏を横目に見ながら、「明日の朝何合炊いたらいいかな」と炊飯器からお釜を取り出して朱音に声をかける翔平。
気付かない朱音のもとへ寄っていくと、洗い物をしながら静かにほほ笑んでいる朱音。
こんな風に穏やかにほほ笑むことが出来るようになった朱音さんです。
翔平に気付き、「何?」という朱音に、「何か楽しいことあった?」と笑って聞く翔平。
4人分のお米が何合か話しつつ、ドライヤーが遅いと海に怒られる夏を見て、笑う二人。
第5話はここで、笑顔で終わりました。



ここまですごい勢いで展開してきた物語。
そろそろ折り返し。後半戦で何がどこまで描かれるのでしょうか。
来週も楽しみです。