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マルチに沼って人生詰んだ①-3(完結)

マルチ商法によって人生を壊されたかもみるさんのインタビュー。
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先行投資、先行投資、先行投資

整骨院での給与は額面で15万円程度。
扶養には入っていないため、
そこから保険料や年金が引かれ、手元に残ったのは12万円程度だった。

当時、マルチ商法のことで母と揉めて一人暮らしを始めていた。
実家から一駅先の神奈川県のはずれに暮らし、家賃は4万円だった。

商品代は1万5千円の最低ラインから、
いつしか3~4万円になり、
4年後には7,8万円になっていた。

12万円の給与に、
家賃4万円、8万円の商品代を足せばそれだけでプラスマイナスゼロだ。

そこには食費、水光熱費、通信費などの生活費は入っていない。

「8万円を何に使ってたかというと、
自分で使う分と、無くなる前に補充したり、
あとは未来の会員のためにサンプルを用意したりしました。

セミナーにもお金がかかって、
毎週やってるのは無料だったりするんですけど、
月に1回の大きなイベントとかは5000円くらいかかります。

最初は500円の徴収だったんですけど、
『1回の重みを知ってほしい』とか
『意識を高めるために』とか言われて
10倍になりました。

その他にも海外研修もあって。
香港とシンガポールに行きました。

国際的な組織だったので、国際交流というか、お祭りみたいな感じで。
それも1回16万円くらいかかりました。」

最初は90万円あった貯金を切り崩しながらやっていた。
どんどん毎月見事に減っていき、増えることがない。
貯金も底を尽きた時、顔から血の気が引いた。

これからどうやって暮らせばいいのかわからなかった。
チェンジの在庫のサプリやシェイクで空腹を凌いだり、
もやしを食べたりする生活が3か月続いた。

目指している場所と現状の違いに、何度も何度も遣る瀬なくなる。

「明日、もしかしたらすべてが上手くいって、
これまでの分回収するかもって思っていました。

セミナーでも
『未来の自分に感謝されるように投資しよう!
今苦しいかもしれないけど、未来のために先行投資しよう!』

ってすごくたくさん言われてきました。
先行投資アレルギーです。
それに輪をかけて、
セミナーに借金してからうまくいった人が登壇してたんです。
それを聞いたら、
借金しててもうまくいくんだってまた思ってしまって。」

ここまで来たら、
上手くいかずに終わる未来は見たくなかった。

藁にもすがる思いで、お金を捨てているのではなく、投資だと信じ切った。

心のどこかに、これ以上やるのは危険だと思う自分もいた。
しかし一度坂を転がり始めた自転車のプレーキは、
衝突が見えてきた時にはもう壊れていた。
誰も、自分でさえ、止められなかった。

最初は「少しなら大丈夫かな…」とキャッシングに手を付けた。
どんどん感覚が狂い、
150万円使い切るのはマルチで稼ぐよりも何倍も容易かった。

ある日、いつものようにATMで引き出そうとすると
「このカードはご利用できません」
と機械的に告げられた。

どうしようもない状況に途方にくれたが、
それでもまだ新製品に希望があった。

これまでの製品じゃない新製品にならいいと思ってくれる人がいるかもしれない。
そう思って購入した製品の支払いは済んでいなかった。

「お父さんが、1人暮らしするときに、
何か困ったら頼ってって言ってくれていて。
すごくすごく迷ったんですけど、
本当にどうにもならなかったので泣きながら電話したんです。

そうしたら、なんでそんなことになったの、
ってすごく驚いてたんですけど、
『商品の支払いは気にしなくていいから、
すぐにそんな会社と縁を切りなさい』
って助けてくれました。」

その後、借金に関しては利息の軽減などが相談できる債務整理を行った。
債務整理とは、任意整理・自己破産・自己再生の3種類がある。
 
彼女が行ったのは任意整理というもので、
弁護士等に相談して借金の減額をしたり、
返済期間を延長したりし、返済しやすくする救済措置だ。
 
それでも、
彼女は返済のたびに死にたくなるくらい不甲斐なかった。
彼女を数年にわたって支え続け、
そんな様子を近くで見てきた夫からの、
「もう返済終わらせなよ」
という一声で一括返済を決めた。
 
彼女は彼のお金を受け取る資格はないと固辞したが、
自分の落ち込みによって彼に迷惑をかけていることもその通りだった。
 
「マルチを始める前、
今の夫になる彼と自己啓発セミナーで知り合っていました。
彼はすぐ自己啓発セミナーなど行かなくなり、
自分の軸を持って生きてたのですが、
出会ってしばらくしてFacebookで交流して付き合うことになったんです。
そのときわたしはマルチ商法をやってる、って言えませんでした。」
 
それでも彼女がマルチの沼にいる様子を見ていて、
次第に気が付いていった。
彼からも「マルチやめなよ」と言われた。
 
最初は
「あなたがこの活動を認めてくれれば済む話じゃん」
と思っていたが、
成果もなく、ストレスばかりを感じるようになっていくと同時に
「この人から離れてまでこの活動を続ける意味はあるのか」
と思うようになった。
 
彼は、彼女がマルチ商法から抜け出すことを心底望んだ。
その切り札が「結婚」だった。
 
「借金の返済を少しずつしているときでした。
そのとき地方に赴任していた彼が連休で帰省してくるときにプロポーズを受けました。
もう、こんなバカな私と結婚してくれるなんて、
ありがたさ半分申し訳なさ半分といった気持ちでした。」
 
そうして、彼女は完全にチェンジの退会を決め、
彼と両親へ謝罪をし、完全にマルチ商法から抜け出した。

後悔に毒されて、後遺症漬けの日々

とにかく解放された。
セミナーで
「テレビを見る暇があるなら自己研鑽しろ」などと言われていた分、
怠けるのは悪だ、と思い込んでいた。

テレビが面白かった。
もう月々に数万円を商品に払わなくてよかった。
セミナーに出なくてよかった。
友達とご飯のときに「勧誘しなくちゃ」と強迫観念に駆られなくていいんだ。

それでもチェンジでの生活が骨身に染みた彼女にとって、
後悔だらけの日々が続いた。

マルチに出会わなかったら…
あの貯金があれば…
絵美さんに出会っていなければ…
Facebookに愚痴を書き込んでいなければ…
毎日いつ何時もその文句が浮かんだ。

月に1回の返済のときには死にたくなるほど憂鬱だった。
5年間キラキラしていたわけではない。

「苦しそうにしてる人には誰も寄ってこない。
キラキラしてるから人が集まるんだ!
キラキラしてるように見せるから始めること!」

セミナーで散々聞いたその文句で、心と頭が完全に分離していた。
体にも拒否反応が現れ、嘔吐を繰り返すようになっていた。

何度もやめようと思ったこの5年間、
頭で押さえつけて信じ込む癖が血肉になっていた。
時が経ってもなお、彼女の後悔は昨日のように蘇る。

「医療を否定して自然派を推していたこともあって。
『サプリ飲んでれば病院なんていらないから』って言われていましたし、
信じてしまっていました。

とはいっても、サプリを飲んでいても胃腸の不調や不妊などはありました。
医療や体の不調など、
素人には分かりづらいことを扱っていることも
チェンジ含め多くのマルチ商法の悪質な側面です。

過度な自然療法とかは
今も体がむず痒くなりそうなくらい拒否反応が出ます。
チェンジでしか通じない自然療法に毒されてきたので、
添加物とかはけっこう気にしてしまう癖もつきました。」

そんな彼女は今、
誰かが自分と同じ轍を踏まないように発信活動をし、
同時に勉強もしている。

後悔を背負い続けて、
今彼女はキレイな言葉で済まされない自身の体験や考え方を困っている人に伝えたいと思っている。

「正しい知識がないから、簡単に騙されたんですよね。
だから、医療に関する知識とか整骨院に勤めていたこともあって、
正しい体の知識を勉強したいと思っています。

マルチの会社独自のルールってやっぱり外に出てみると変なんです。
例えば、動物には害のあるアロマオイルを
『質も高いものなら大丈夫だから』と平気に猫に与えていたり。

本当に自分たちの売り上げがあがればなんでもいいんだなって、
腹立たしく思います。

自分もこんなふうに見えてたんだ、
って思うと顔から火が出そうですが、
マルチ商法の暴走に気付く人が増えるきっかけになればいいなと思っています。」

ここまで2時間半が経った。

夜の1時、LINEの通話を切った。


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