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Du Ring an meinem Finger 〜女の愛と生涯〜

天才的なイタリアンのシェフである数年来の大切な友人が、中目黒に『Megriva』をオープンし、お祝いに恋人と友人と三人で来店した。
次々に出される夢のように美味しいお料理とイタリアワイン、さりげなくもお洒落で素敵なインテリア、束の間交わすシェフとの会話。

その間、指に目を落とす度に、南フランス地方のロゼワインの色(ピンクフレープフルーツにラベンダーを溶かしたような薔薇色と、わたしは考えている)をした指輪が、控えめに輝きながらわたしに微笑みかけている。
恋人から、生涯の宝物である結婚指輪が贈られ、ふたりの日々にひとつの大切な印を迎え入れることができた。
恋人と友人たちの笑顔と、指輪の輝きに彩られた今夜は、時間が止まればいいのにと思うほどに幸福だった。
目黒川沿いのメイン通りから少し逸れた小道に佇む、Megriva で。

高価な指輪を選ぶ時、本当に様々な考案すべき事柄、決定するための細かい基準があることを学んだ(担当してくれたブティックの女性の熱心で丁寧な説明によって)。
わたしと恋人は初めて触れる宝石の世界に始終驚き通しで、その奥深さに感嘆の声を漏らした。
けれど一番大切にすべきなのは、「身につけられるご自分の心が躍ることなのですよ」と、彼女は言った。

選んだものは、ピンクゴールドのカメリアの花を象った土台に小さなダイアモンドをあしらったもので、決して派手なデザインではないのだけれど、わたしの肌の色に合い、見つめると心が安らいだ。
指輪を着けていることで、いつも恋人と一緒だと感じられることは、とても嬉しい。

わたしという女の愛と生涯に贈られた、たったひとつの、かけがえのないシンボル。

2018年7月12日

我が子の定期健診だった。
モニターに映し出された様子から可愛い顔も仕草もわかり、力強い規則的な音で心拍も確認された。元気いっぱい生きてくれている。

今でも頻繁にセックスをしていて「大丈夫なのかな?」と恋人と言い合っていたけれど、特に問題は無いようだ。
それを恋人に報告すると、「良かった。これからも少し控えめに、上質に愛し合おう」とのことだ。

2018年7月13日

共に目覚める日、朝が弱くいつまででも眠っていたいわたしを、恋人は起こさない。先に起きても隣で本を読んだりしている。
だから今日もランチデートに出かける時間ギリギリの起床になってしまった。
「わ!ごめん!」と飛び起き、急いでメイクと着替えをして、十五分で家を出た。
目当てのレストラン、東中野「per Bacco」のテーブル席に向かい合って座り、恋人はよく冷えたビール、わたしはお水のグラスを口に運びながら、丁寧に「おはよう」と言い合った。

ゆったりとした外食デートも、今のうちだろう。子供が産まれたらしばらくは忙しく、難しいかも知れない。それもあり、最近は特に外食を思い切り満喫させてくれている。
ランチの後は帰宅し、冷房のよく効いた寝室のベッドで一休み。赤ん坊のせいだけではなく、欲張りに頬張った絶品パスタが収められたことで大きくなったお腹で横たわる。

恋人の出勤までの時間を気にしてセックスはせずにたくさんキスをしながら、「毎日美味しいものをふたりで食べれて幸せだけど、僕にとって一番美味しいのは●●さん(わたしの名)の唇だよ」と言った恋人。
大真面目にそういうことを言う恋人がわたしは好きだし、単純に相性が良い。
特別なんかじゃなくてむしろありふれている二人だけれど、互いに心地良いと感じられる相性に恵まれたのだと思う。

2918年7月14日

妊娠を公表する前の、最後のピアノ演奏の仕事が無事終了した。元気でいてくれている我が子のおかげだ。
昼夜二回公演で、昼の部には恋人と義母が、夜の部には両親と祖母が聴きに来てくれた。

一番大切なものが、一番そばにある。
わたしにとってのそれは、家族と恋人と子供。
人生で最も大切なものが明確であることは、とてもシンプルで安らかなことだ。

2018年7月16日

タイトル:ロベルト・シューマン(Robert Schumann, 1810年~1856年)作曲
「わたしの指の指輪よ(Du Ring an meinem Finger)」
連作歌曲「女の愛と生涯(Frauenliebe und Leben)」より Op.42-4

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