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映画感想:『スター・ウォーズEP9 スカイウォーカーの夜明け』のツッコミどころと前作までの負の遺産。(ネタバレあり、後編)

前作の記事の続き。

冷静になってみると

いやお前あんなに褒めてたのに真逆のことを言い出すとか立ち位置蝙蝠すぎやしないか、とか言われそうだけども実際そのとおりで。見終わった後で好物のアンチョビピザをたらふく食べて脳みそ回転させて思い返してみた。

確かに見た直後は「よくぞEP7やEP8から挽回した!」とか「やっぱりEP8とは何だったのか……」とかできるだけ冷静になって考えていたものの、もっと冷静になって考えると「EP9のあっちやこっちもいろいろあかん気がする」と思い返すようになったので、まとめていこうと思う。

記事の構成上ネタバレ全開になるのでそこは注意だ。
覚悟の準備をしておいてください。

これぐらい改行すればいいだろう。


ウェイファインダーの入手難易度の違い

今作のキーアイテム、ウェイファインダーについて説明しよう。

EP9の冒頭はカイロ・レンの戦闘シーンから始まる。どこかの星人をライトセイバーで薙ぎ払っては殲滅し、森の真ん中の石碑に埋め込まれたこぶし大の四角錐の光る物体、ウェイファインダーを見つけ出す。
彼はそのウェイファインダーを使い、小型宇宙船である場所を見つけ出す。宇宙の最果て『エクセゴル』は帝国の信奉者の巣窟であり、超規模な大艦隊まで用意されているという至れり尽くせりの場所。そこには帝国の初代皇帝であり元凶でもある男、パルパティーンことシスがいる。新たな帝国を築く手助けをしてやろうということでカイロ・レンは助力を乞うことに。ファイナルオーダーが始まろうとしていた。

一方で帝国のスパイからの情報で「パルパティーンが生きていて、エクセゴルという未知の星にいてファイナルオーダーを実行しようとしている」と知るフィンやレイたちのレジスタンス軍。ルークの残した書物から、エクセゴルに辿り着くためにはウェイファインダーが必要であり、世界に二つしかないことを知る。レイたちは宇宙へと探索の旅に出る。
今作の物語前半部はこのウェイファインダーを巡る話だ。

……まぁここでネタバレをしよう。もうひとつのウェイファインダーはデス・スターの残骸のある一室に置いてあり、そこに辿り着くにはある星の砂漠の流砂の中の大蛇の巣の中に落ちてるナイフが必要で、シスの古代文字の刻まれたナイフを解読し、ナイフの刀身を地図として応用して在処を探し出すという試練を乗り越えないといけない。


カイロ・レンくんのウェイファインダーと比べると難易度遥かに違いすぎない?


カイロ・レンがたった一人で戦っていた星人が尋常じゃないほど強かったのならまだわかりもするが、森の中の石碑の中と、辺境の惑星に落ちたデススターの残骸の中、とじゃ難易度が違いすぎる……逆だったらどうなっていたことか……

しかもウェイファインダーをレンにぶっ壊されたレイは怒り、荒れ狂う海に漂うデス・スターの残骸の上で本気の対決に。この二人が戦う時はいつだって本気には違いないが実質最後の決戦。レンが上回りレイにトドメを刺そうとした瞬間、レイアによるレンへの精神的説得の結果絶大な隙が発生し、ライトセイバーを奪い、返し刃での腹部への一撃で決着が付く。刺した瞬間にレイアのフォースを感じたレイは己の行為を悔やみ、フォースをレンに与えて腹部の刺傷を治癒する。

しかしわかりあえない苦難に、レイはレンの小型宇宙船を奪って逃走。ルークのいたジェダイ最後の島まで逃げたレイは、船を焼きライトセイバーも捨てようとしたところでルークの幻影に出会い諭される。道は失われたと思いきや燃え尽きたカイロ・レンの小型宇宙船の中にもう一つのウェイファインダーが!

……いやいやいやいや。確かにレンの使った小型宇宙船にウェイファインダーがあっても不思議じゃあないが、その見つけ方と強奪の仕方は本当にそれでよかったんだろうか……レン君自分のウェイファインダーはもっと強固な場所に隠しておきなよ……でもレン君だしやりかねんな……というツッコミどころは残る。

とまぁこれで道を見つけたレイは、ルークが残し海中に隠していた宇宙船を使い、隠されたレイアのライトセイバーと共に最後の決戦の場「エクセゴル」へと向かうことになる……

茶化すつもりはないんだがそれでいいんだろうか……とは言いたくなるというものよ。

とまぁそういうツッコミどころはあれど、神話的英雄譚への回帰というストーリーの大筋は王道に寄り添ってるし、だから勢いでぶっ飛ばしても娯楽作品として見れなくもないSF冒険譚として収まってるのは上手い。ツッコミどころはあるけど見たいと思うシーンを見れたのは嬉しい。

他にも帝国のスパイの正体とか最後の決戦の艦上甲板戦闘シーンの砲台利用とか死んだと思ったら生きていたが9回起きたことなどツッコミどころを枚挙するとキリがないが次のトピックへ行こう。

そして次のトピックはセンシティブになるかもしれんが、まぁ避けて通れないからね。



前作までの負の遺産

わかりやすい画像とサブタイを同時に貼るんじゃないだと?
そりゃこれを言う他ないからね。

上の画像は『スターウォーズEP8 最後のジェダイ』に登場した実質のメインヒロインことローズだ。

お世辞にも美人とは言えない顔立ちではあるが、そこを置いても人格的に非常に優れているとか叡智に冴えているということもなく、煩わしいばかりの女性キャラであった。EP8ではルークの元で修行を受けるレイの代わりに、フィンの相棒として星から星へとあっちこっちに付き纏っていた。

おかげでEP7で芽生えたフィンとレイとの交流関係はほぼ絶え、EP8の作中1時間近くの貴重な時間を浪費することとなってしまった。

ちなみに言うとEP9でのローズの出番は合計して「作中1〜2分」前後だった。多く見積もっても3分。

今作のサブ主人公でもあったフィンと恋仲のような関係であったが、EP9途中で出てきた「ファーストオーダーからの脱走者」の女のほうにより親密になる。登場時間も理知性も艦上甲板戦での活躍も段違いだった。宇宙の果ての最終決戦の場で原始的兵装で逆転を狙うとか格好良すぎる。

とまぁ、EP9では露骨なまでに彼女の出番はなくなり、そのおかげで物語は非常にスマートに「レイとカイロ・レンの戦い」「フィンたちレジスタンスと帝国艦隊との戦い」の二つのストーリーが交差して展開されるわかりやすく王道的な物語となった。


EP9の評価すべきところとして「前作で不評だったところを徹底的に変化させた」ことにある。

EP8での問題点であった「レジスタンスの小型宇宙船が巨大な大艦隊から逃げるための手段を探す」という後ろ向きかつ盛り上がりに欠ける展開もEP9では「ファイナルオーダーを阻止して帝国を倒す」というクライマックスに相応しい内容となった。

EP8で群像劇といいながらとっ散らかっていたストーリーも、EP9では二つの軸を交差し離別させながら一つの結末に辿り着くというファインプレーを見せた。

(センシティブではあるが言及せねばならない)ローズに至っては「ポリティカルコレクトに配慮して出したキャラ」が物語上で重要な意味を担わないのであれば、出番を減らすことは物語を面白くする要素足りうるということでもあるかと。30〜60倍近い出演時間の差はそれを物語っている。

物語上には関係のない主張を、無理やり強引に取り入れて物語を失速させてしまうのでは、それは演じさせる演者にも物語に携わるクリエイターにも、もちろん観客にも不幸を招くだけではなかろうか。
当該する人は演者だけでなく観客にもいるのである。そのような決断をEP8ではできずにいたが、EP9で決断したのは当然でありながらも勇気のある行為であり、評価に値すると思っている。


ここで書き終えてもいいが、彼のことも少しは言及する必要がある。

カイロ・レンという難しい悪役

彼の描写は非常に難しかったであろう、と今なら考える。

本名ベン・ソロ。レイアとハン・ソロの息子であり、しかし両親の多忙から孤独を感じるようになった彼はその心の弱さを帝国残党スノークにつけ入れられ、ダークサイドに誘惑されてしまう。

ルーク・スカイウォーカーは彼にフォースの才能を見出しながらも、ダークサイドの素養もあることを理由にジェダイの訓練を受けさせようとしなかったがレイアの推しもあってか育てることに。
しかしルーク自身がベンのダークサイドの強さに恐れてしまい、手をかけようとした結果逆にベンを決定的にダークサイドに落としてしまい、ベンはカイロ・レンに変貌してしまう。
そしてカイロ・レンは悪の道を進み続け、遂には実の父であるハン・ソロも殺してしまう。

強いフォースを持ち、野心もある一方で癇癪持ちで精神的に不安定な男。
それでいて何人にも負けない強さがあるわけでもなく、どこまでも中途半端で、恐れられるとも愛されるとも思えない悪役である。

だが、EP9では「かなり強引な変貌であったものの」、
父と母との結びつきを取り戻し、自分から赤のライトセイバーを捨ててレイを救う光の道へと進む覚悟を選ぶことが出来た好漢となった。

レイから託されたルークのライトセイバーによる騎士団相手の無双、レイとの共闘、戦いが終わり力尽きたレイにフォースを返して自らは消える自己犠牲と献身には、正義と愛が宿っていた。

彼は仮面ライダーで言うところの「2号ライダー」の立ち位置が相応しく、EP9の強引とも言えるストーリー展開により、最後の最後でようやく筋の通ったキャラクターとして生まれ変わることができた。
前作までの積み重ねを払拭できたかは難しいところだが、脚本のやりたかったことは十二分に理解できるものだったので、受け入れようと思う。

(追記)

ああそうだ、彼には終盤で重要な役割を持っていた。
前篇で書いたように、今回のシスの策略は『父親との一体化』というイニシエーションの悪用によってジェダイの最後と帝国の完成を目論んだものだ。

それに対するカウンターがカイロ・レン……いやベン・ソロだ。

彼も『父親との一体化』のイニシエーションを悪い意味で済ませているのである。父親であるハン・ソロを殺すことで彼を越え、ダークサイドに染まりきったことを決定づけた。
しかし紆余曲折を経てダークサイドを裏切り、レイと共闘することになる。レイはたった一人では絶対にシスには勝てない。英雄譚を悪用する者に立ち向かうには英雄譚では駄目で、ベンとの『絆』があってこそ初めて太刀打ちできたのである。

思えば最終決戦でレイに収束した絆は本当に多かった。
ベンに、ルークにレイアに、フィンやポーに反乱軍に、そしてジェダイたち。
亡き者たちのために物語にピリオドを打つ。
その絆の代表格であり、最も因縁が強かったのがカイロ・レンでありベン・ソロであったのだ。

彼を情緒不安定な癇癪持ちではなく、英雄と絆を結ぶに値し、立ち向かう者として描ききったのは個人的に賞賛に値すると思う。


ひとまず、ここまでで筆を置こう。
加筆があるならまた加える。その時にはまた会おう。

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