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OFFICE TOSHIKI NASU/鍼灸は痛いのか?


なぜ鍼灸が怖そうなのかを考えてみる

虎ノ門ヒルズの鍼灸院【OFFICE TOSHIKI NASU】院長の那須登士樹です。

7月末からGoogleビジネスプロフィールに鍼灸の疑問について投稿を始めました。

noteではGoogleの投稿とは異なった形で、少し長い記事で鍼灸について紹介していきたいと思います。

まず最初の記事は「鍼は痛いのか?」という疑問についてです。

さて、皆さんは鍼に対してどのようなイメージがありますか?
やはり鍼というと裁縫針や注射針を思い浮かべるのでしょうか?

確かに鍼治療で使用する鍼を見る機会はありませんから、そのようにイメージしてしまうことは普通のことだと思います。

ちなみに私が鍼灸院で使う鍼は使い捨てのステンレス製のもので鍼先は0.16mmです。手芸針が0.5mm、予防接種の針が0.45mmですから、鍼はとても細いことが分かりますよね。 

ではなぜ鍼は痛いと想像してしまうのか。
刺す前から痛いと想像してしまう理由は何故か考えてみたいと思います。

子供の頃にみた灸の痕

幼い頃。
畑から帰ってきた祖父がお風呂上りに裸で涼んでいた時のこと。
背中の上の方に丸いケロイドが幾つか並んでいました。
それが何か質問すると、どうやら「きゅう」というものらしいのです。

祖父は若い頃から疲れたら祖母に灸をやってもらっていたそうで、皮膚の色が抜けているのを見る限り自分もやってみたいと思うことはありませんでした。

鍼灸学校に進学してから、祖父の背中にあった痕がケロイドだとを知り、有痕灸によるものだと分かりました。
それは医療が充実していなかった時代の民間療法といっても良いかもしれません。

ちなみに有痕灸には、透熱灸、焼灼灸、打膿灸があります。
透熱灸は良質の艾を米粒大に大きさに捻り、直接皮膚の上に置いて施灸します。

焼灼灸は熱刺激により施灸部の皮膚及び組織を破壊する灸法で、イボ、ウオノメを治す時、局所に直接施灸することにより組織を破壊して痂疲が自然に落ちるのを待ちます。

打膿灸は小指から母指頭大程度の艾を直接皮膚上で施灸して火傷をつくり、その上に膏薬を貼付して可能を促します。

局所の瘢痕治癒まで約1~2か月かかるのですが、生体の防御機能を高める目的でおこなわれます。
この灸法は小児や虚弱な者には不適で、灸痕も大きく残るため、現在専門の治療所以外ではあまり用いられません。

私の祖父は打膿灸を好んでおり、生体防御機能を高めるためにおこなっていたのでしょう。それは医療が発達していなかった時代、医療がいきわたっていなかった時代の民間療法として名残りだったのかもしれません。

さて話しは戻りますが、このように鍼灸というものは身近な医療であったにも関わらず、まぜ怖いという印象だけを残してしまったのでしょうか?

私はそのことについて「悪いことをすると灸を据える」「悪いことをしたらチックンするよ」という言葉を幼少期から刷り込まれたことが影響していると思います。

なぜ鍼灸を怖く感じるのか

鍼灸が誕生したのは今から2000年以上前の古代中国。
日本には6世紀頃に朝鮮半島から伝わりました。
これまで患者さんから何度も「韓国ドラマで鍼灸について描かれたもの(ホジュン)を観たことがある」と言われることがありましたが、あのドラマの時代背景は16世紀半ばから17世紀初頭。

そう考えると6世紀頃にはすでに鍼灸医学は体系化されていたと想像できます。

その後、日本では律令制度が整えられて鍼博士、鍼生といった官職が鍼灸を扱う医療職として設けられ、日本現存最古の医学書『医心方』は平安時代に鍼博士の地位にあった丹波康頼が当時までに舶来していた多くの中国の医学書をもとに編纂し、984年に円融天皇に 献上しました。(『医心方』は12世紀の写本が半井家の所有を経て1984年に国宝指定され、現在は東京国立博物 館に保存されています)。

そして平安時代までは鍼を外科的な処置を行う際に用いられ、室町時代後期には鍼が再び盛んになって、 当時日本を訪れていたイエズス会士の記録にも鍼に関する記載が残されています。

特に経穴(ツボ)と経脈に関する研究は盛んで、江戸初期には経穴に関する学術的な研究書が数多く編纂されます。

また元禄期には盲人の鍼師である杉山和一が、将軍綱吉の寵愛を受け、その庇護のもとで盲人に対する鍼灸の教育制度を確立させていきました。

そして現在でも視覚障害者を対象に、あん摩マッサージ指圧師、はり師およびきゅう師の養成を目的とした学校(筑波大学付属視覚特別支援学校・国立大学法人筑波技術大学)があります。

日本鍼灸の特徴である管鍼法(鍼を管に挿入した状態で刺入する方法)が編み出されたのもこの時期で、この方法は初心者でも痛みを与えずに刺入しやすいため現在でも広く日本で用いられています。

そして明治に入り西洋医学が導入され、漢方を含めた日本の伝統医学は非正統医学として存続の危機に立たされました。

鍼灸は営業資格としては残りましたが、それは視覚障碍者を対象としたものでした。一方で灸治療は民間療法として広く普及したのです。

漢方や鍼灸は文明開化時代で西洋謳歌時代に入って衰退期を迎えるのですが、漢方や鍼灸を受けなったのは進歩的発想を真っ先に取り入れたインテリ階級で、一般の庶民階級の人たちは灸治療を民間療法として取り入れ続けました。

しかし、文明開化で進歩的な役割をしていた人たちが、今度は西洋文明に対するいろいろな疑問を抱きだし、大正から昭和にかけて漢方や鍼灸などの古い医学に興味や好奇心をもちはじめます。

そこに新しい支持層ができて、今度は庶民階級層が西洋医学を受け始めるのでした。

その背景には国民皆保険制度の根幹を支える国民健康保険制度の創設(1931年)。
1960年までに未加入者を全て加入させるという目標により1958年に新国民健康保険法が成立。1961年に現在の国民皆保険が完成され、西洋医学が身近なものになったのです。

それまでに太平洋戦争がありますが、日本のファシズム思想のもとで一種の排外的な民族主義的な思想に煽られることで漢方や鍼灸は取り残されていったと思うのです。

鍼灸がなぜ怖いのか。
それは日本人の性質と関係があるかもしれません。

別の角度から見ればイノベーター理論により、「市場の16%に位置づけられるイノベーターやアーリーアダプターの攻略がその商品が普及するかどうかを左右する」ことを提唱されていますが、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には「好奇心」と「恐怖」の溝があるのかもしれません。

恐怖を抱いている人に言えることは、鍼灸は怖いものではないということ。

欧米先進諸国でも鍼灸受療者数は増えており、国内では、経済界や政治家、芸能人、スポーツ選手が健康管理として受けています。

昨今では、YouTubeやinstagramでも鍼灸の施術シーンが紹介されていることからも分かるように、それだけ注目度が高く多くの人がすでに取り入れていることが分かります。 

鍼灸は飛鳥時代から繋がり続けた叡智です。
東洋人の身体に合った鍼灸は、西洋医学と比べて身体に負担の少ないものであり、それは長い時間をかけて証明されたものでもあります。

ではどのように選択すればよいのか。
それは西洋医学も東洋医学も目的に応じて選択すれば良いのです。

新型コロナウイルスの流行により分かった方も多いかもしれませんが科学には限度があります。

そしてその科学や歴史が数年後に過ちであったという日を迎えることもあり得る話なのです。

西洋医学が正統派医学として正しいから受けるのではなく、自分に合うから受けるというきっかけをまずは持って下さい。

そして
怖いという刷り込み
を外しましょう。

昔、戦時中にお灸を捕虜に施した日本人医師が虐待の疑いでBC級裁判に裁かれたことがありますが、西洋人にとっては不思議な行為であり野蛮なものに見えたかもしれません。

しかし今日まで鍼灸を罰としておこなってきたことはなく、医療の1つとして担ってきたものですから怖がらずにぜひ受けてみてください。

鍼灸はとても良いものです。
痛そうという恐怖心は必要ないのです。

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