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マスメディアは感情提供ビジネスである

なぜ、マスコミの姿勢に怒ってしまうのか

マスメディアに怒ったことはあるだろうか。偏向報道だとか捏造だとか腹を立てたことがある人もいるだろう。事実と異なる報道というのは、製品として見れば「不良品」なのだから怒って当然だとは思う。ただ、それ以外の姿勢について偏向報道に怒りを覚える人がいるのは、「マスメディアというのは事実を伝える義務があってしかるべし」という希望を持っているからだろう。一方、発信者であるマスメディア当事者も「我々は真実を伝えている」という信念を抱いているに違いない。しかし、僕はまったく違った見方をしており、マスメディアに対する怒りを抱かなくなった。

マスメディアは感情提供ビジネスである

ビジネスというのは、特定の顧客に向けて、価値を提供することである。マスメディアもNHKなど一部を除けばすべからく民間企業であるから、営利目的の集団であると言えるだろう。営利を追求するために顧客を決めて、その顧客の快を追求することはビジネスとしては当たり前で、テレビも新聞も「マス」と言いながら全方向に情報を垂れ流しているのではなくて、視聴者・視聴者をある程度決めて、そこに向かって情報を発信していると考えられる。テレビ局も新聞社も、社員に聞いてみれば「うちは既に斜陽産業だ」とか「ビルや土地で儲けている不動産屋みたいなものだ」と言った声が聞こえてくる。日本の人口、つまり日本語使用者が減っていることや、他のメディアの発達によって、顧客の関心を強く惹きつけることがより一層重要になっている。僕は既にマスメディアというのは、旧来の「真実を伝える」というビジネスを捨て、特定顧客の快(場合によっては不快)を提供する感情提供ビジネスへと変化していると考えている。

地方紙の強かな戦略

事例を出そう。東京新聞だ。新聞の発行部数ランキングによると、発行部数トップの読売新聞のシェア(その会社の発行部数÷全46社の総発行部数)は24%なのに対し、13位の東京新聞は1.32%となっている。更に「地方紙」としては、人口が最も多い東京都の新聞であるにも関わらず、北海道新聞や静岡新聞にも負けている有様である。念のために言っておくと、東京新聞は中日新聞の東京本社が発行しているが、中日新聞と東京新聞の発行部数を足しても、読売と朝日には追い付かない。

東京の新聞であるにも関わらず、読売と朝日に勝てないどころか、他の地方紙にも負けている。確かに全国紙を読めば東京のことも載っているだろうからわざわざ選ばないというのは道理ではあるが、経営者からしたら何とか読者を増やしたい、認知度を上げたいとそう考えるのが当たり前だろう。

東京新聞のニッチ戦略

ここからは僕の独自解釈となることを事前にお断りする。東京新聞の戦略として2つの側面が考えられる。1.顧客の絞り込み、2.キャラクタービジネスの2つである。

一つ目の顧客の絞り込みは、ある時卒業した大学にいた左派の教授が東京に縁もゆかりもないのにわざわざ東京新聞を買って読んでいると聞いて不思議に思ったことがある。ご存じの方もいると思うが、東京新聞と言えば左派の新聞として有名で、先に挙げた大学教授のように東京に住んでいないにも関わらず、左派の人たちが有難がって買っているのではないかと解釈できる。

2つ目のキャラクタービジネスであるが、これは映画「新聞記者」のモデルにもなった東京新聞の記者のことである。ネット上では、この記者の官房長官記者会見での長い質問について賛否があった。しかし、業界13位の地方紙の記者個人がこれほどまでにクローズアップされるのは「感情提供ビジネス」においては重要なことではないかと思う。ファンとアンチを巻き込みながら、注目を集めていく様は一種のキャラクタービジネスと言って良いのかもしれない。本人の腹の内は分からないが、経営者の視点から言えば「ここまで目立ってくれてありがとう」と思うことだろう。

肝心のビジネスとしての成果はどうだったのかと言うと、2019年、2020年の新聞の発行部数の推移を見ると、新聞全体を通じて発行部数は減っているものの東京新聞は粘っているという評価である。本来であれば発行部数ではなく、会社の売上の推移などを確認したいところだが、今回の記事では割愛する。

まとめ

いずれにしても、僕はもうテレビや新聞に対して怒るのは無駄だと思っている。彼らは快、不快を提供する商売人なので、もしあなたがどこかのマスメディアに対して怒っているのならば、「安い挑発だ」とか「怒らせるのも相手の商売のうち」だと思われてはどうだろうか。

政治や社会に関心を持つことが大事なのはよくわかっているが、快・不快屋から発信された情報は信用できないし、雑談のネタになる程度の価値しかなく、真実なんていうものは当事者にしか知りえないと僕は考えている。

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