観戦希望2000万人、いま描くべきesports興行の青写真
esportsを盛り上げたい。
このマジックフレーズはシーンに関わる上位レイヤーから下位レイヤーまで、さまざまな人によって語られる。しかし、あまりにも漠然としすぎており、具体的にどういうことなのかよく分からない。
個別のタイトルを競技として活性化したいのか、プレイヤーを増やしたいのか、大会の観戦者を増やしたいのか、産業としてお金が回るようにしたいのか、自分や自社が儲けたり注目を浴びたりしたいのか。
言及するそれぞれの立場によって、盛り上がりのイメージは異なるはず。目的地がはっきりしているならまだいいが、なんとなく「盛り上げたい」「貢献したい」と言っているだけの人もいると思われる。
読者の皆さんは「盛り上げるってどういうこと? どんな状態が盛り上がってるの?」と問われたとき、はっきり答えられるだろうか。「日本ならではのesports」と言うのなら、その「ならでは」とはどんな状態を表すのか?
今回は、当たり前のように語られがちな「esportsを盛り上げたい」という言葉を具体化し、盛り上げるために目指すべき1枚の青写真を描く。特に、esportsに関心のある多くの人が注目している興行面についての青写真だ。
もちろん、それは僕の考えでしかないので、青写真は何枚あってもいい。この記事が、皆さんが青写真を描くための一助となれば幸いである。
【目次】
esportsが持つ役割
シーンの構造
プレイヤーと観戦者
観戦者数が少なすぎる
ゲーム視聴文化との親和性
観戦希望者は約2000万人
観戦者を増やすにはまず観戦させる
競技プレイヤーにファンをつける
いま目指すべき青写真
※2018年12月11日に下記が公開されたので、合わせて参照してほしい。
esportsが持つ役割
最初に、esportsなるものが持つ役割を分類しておく。役割を一括りにしていると議論しづらいし、なにより立場によって語るべき言葉も違ってくるからだ。だいたいの衝突もこの切り分けがなされていないがゆえに起こる。
1. 競技
1つ目の役割は競技だ。競技とは、誰かとプレイスキルの優劣を競い合って1位を目指すことを言う。esportsが「デジタルゲームを用いた競技」と定義されるように、この役割はesportsシーンにとって非常に大きな意義を持つ。
競技の主体はプレイヤーないしコミュニティである。対戦ゲームのプレイヤーにとって、相手に勝つことはとても重要な価値がある。そして、esportsシーンも競技として取り組むプレイヤーに依存している。プレイヤーがいなければ、esportsシーンは成立しないのだ。
だからもちろん、この記事では「プレイヤーファースト」が大前提にある。それを忘れてはいけない。
2. プロモーション
2つ目の役割はゲームのプロモーションだ。esportsにはゲームの販売を促進してプレイヤー人口を増やす、あるいは維持するために果たせる役割がある。ゲームの販売形態は売り切り型だけではなく継続的にアップデートやメンテナンスを行なう運用型も一般化してきた。その中で、ゲームをesportsとして展開し持続的にマネタイズするのは理に適っている。
プロモーションの主体はゲーム会社である。ゲーム会社はゲームやゲーム内アイテムを売ってお金を稼がなければならないので、プレイヤーが増え、課金してもらうきっかけとなりうる露出の機会は多ければ多いほどいい。それが大会を開催する理由だ。
現状、日本のesportsシーンを回り巡るお金はゲーム会社のプロモーション費用で成り立っていると言っても過言ではないだろう。この周辺にもたくさんの事業があるので(会場、制作など)、ゲーム会社のプロモーションだけでesportsシーンが成立するのは間違いない。
3. 興行
3つ目の役割が大会を中核とする興行だ。これがいま、日本でesportsが注目される大きな要因となっている。プレイヤーでもなくゲーム会社でもない立場から、大会の放映権料や協賛費、観戦のチケット代、関連サービスの利用料などでマネタイズして事業展開できる。
興行の主体はオーガナイザーやプロダクション、スポンサーなどさまざまである。だが、その中心にいるのは観戦者だ。観戦者がいなくても競技およびプロモーションとしてのesportsは成り立つが、観戦者がいなければ興行としてのesportsは成り立たない。
この興行と競技のどちらを主とするかによって考え方は大きく変わり、いわゆる「ゲーマー」と「ビジネス」の諍いが起きる。しかし、端的に言えば、どちらもうまく利用し合って一緒にハッピーになればいいだけだ。
※観戦者はプレイヤーやチーム、大会を応援するファンと言いかえてもいい。特に区別しない。また、観戦者にはオンラインで観戦する視聴者と、オフラインの会場で観戦する来場者がいる。こちらは適宜区別する。
※コミュニティがどれに該当するかだが、理念ややりたいことは1~3のいずれかに当てはまると思う。
居場所としてのesports
しかし、実はこの3つでは足りない。esportsにはどうしても加えておかなければならない役割がもう1つあるのだ。これこそ最も重要な役割で、上記の3つの役割を通して実現すべき目的地だと僕は考えている。特に興行としてのesportsによって生み出されたお金は、この役割を果たすためにこそ使われるべきである。
それは、居場所という役割だ。esportsは学校や社会が辛くてゲームに逃げ込んだ人、ゲームしか生きがいがない人、ほかに何の取り柄もないけれど誰よりゲームが好きな人たちの居場所になるべきなのだ。あるいは、地方創生の文脈に落とし込んでもいい。それもまた居場所としてのesportsが重要になるだろう。
何のためにesportsを盛り上げるのか? それぞれのゲームを愛する人たちの居場所とするためだ。
シーンの構造
さて、これらの役割を前提として、esportsシーンの構造を振り返ることにしよう。そうすることで、今後興行としてのesportsが目指すべき青写真において何が大事なのかが改めて見えてくる。
最初にゲームを開発・販売するゲーム会社がある。プレイヤーがそのゲームを買い、集まってコミュニティを成し、大会を開催する。その大会を興行として開催するオーガナイザーが生まれる。オーガナイザーはプロダクションを始めとする関連サービスを利用する。大会に出場するプレイヤーは競技プレイヤーとして本格的に取り組む。
大会の様子はメディアやプラットフォームを通して放送・配信され、プレイヤーの一部が観戦する。観戦者は視聴や来場のためにお金を払い、競技プレイヤーのグッズを買う。そうした盛り上がりを受けて、スポンサーが大会や競技プレイヤーに協賛する。そうして観戦者がスポンサーの商品を買う。
※ゲーム会社が大会を主催しesportsシーンを盛り上げようとするなら、オーガナイザーとして捉えられる。
おおよそこうした構造になっている。前述したように、興行を支えるのは観戦者の財布だ。興行側だけでなく、スポンサーもそれが目当て。競技プレイヤーも望めばその財布によって支えられる(プロモーションはプレイヤーの財布に支えられる)。
ゆえに、興行においては観戦者を増やすことがほかの何よりも重要であり、観戦者がお金を使いたくなる価値と機会を提供しなければならない(同様のことを「esportsシーンの発展に欠かせない大会観戦者を増やすための戦略と施策」でも書いた)。
具体的には後述するが、esportsタイトル全体の観戦者数を2000万人にする。これが当面の大きな目標となる。
プレイヤーと観戦者
ここで、プレイヤーと観戦者を分けて考えないといけないことを強調しておく。この記事では、「プレイヤーはプレイしかしない」が、「観戦者はプレイも観戦もする、または観戦しかしない」という意味を込めている。それを踏まえ、興行ではプレイヤーよりも観戦者を増やさなければならないのである。esports展開によってゲームを買うプレイヤーが増えれば問題ないように思えるが、それだけだと興行には至らない。
加えて、以前「日本人が国際大会で優勝しても、ウイイレの販売本数は増えなかった」と「esports普及の鍵は地方協会とローカルメディアのタッグにある」という記事を書いたが、どうやらいまの日本ではesportsシーンが注目されてもゲーム自体の販売本数(プレイヤー人口)はそれほど増えないようなのだ。
『LoL』とLJLもこれを証明している。2016年~2017年にかけてLJLは盛大にお金をかけてシーンを作り上げたが、結果としてプレイヤー人口は増えなかった(参照。公式のデータではなく、しかもランクマッチの人口だけだが、2018年には減少している)。その結果か、ライアットゲームズはLJLの予算を削り、新規プレイヤーを獲得するためのプロモーションを積極的に行なうようになった。
また、日本で最も熱いesportsシーンが形成されている『スト5』も、国内の販売本数は意外と多くない(参照。シリーズ合計約11万本+α)。EVO JapanやRAGE スト5オールスターなど、大会が頻繁に開催されているにもかかわらず、である。
『ウイイレ』、『LoL』、『スト5』はともにプレイヤー人口は最大でも約10万人。だが、esportsシーンとして見ると別の面が見えてくる。『ウイイレ』は大小さまざまな大会で採用されていて、参加者数も順調。『LoL』もWorlds 2018に参戦したDetonatioN FocusMeの試合を同接5万人が視聴した。『スト5』については言うまでもない。
こうした現象から何が言えるだろうか。
1つ目は、新規プレイヤーの獲得にはゲーム会社がesports展開とは異なる方法で取り組まなければならないということ。2つ目は、10万人規模のプレイヤー人口でもコアな競技プレイヤーがいればesportsシーンは成立しうるということ。3つ目は、繰り返しになるが、新規プレイヤー獲得とは別の方法で観戦者を増やさなければならないということ。
それぞれを少し詳しく解説する。
プレイヤー人口を増やすのはゲーム会社の仕事
上記で明らかになったように、esports展開で新規プレイヤーは増えない。考えれば当然かもしれない、競技はすでにゲームをプレイしている人たちのための楽しみなのだから。ゲーム会社としても、esportsは継続的にゲームをプレイする、あるいは再開する動機として機能させたいはずだ。
だとすれば、そもそものプレイヤー人口の増加は広告なりPRなり、esportsとは別の方法で取り組まなければならない。大事なことはゲームの面白さを伝えることだ。そのゲームに興味がない人にとって、いきなりそのゲームのプレイスキルを競って頂点に立ちたいという願望を抱くことはない。まずゲームを知って、面白さを実感し、そのあとesportsを知るのだ。
コアな競技プレイヤーがesportsシーンの柱
「ゲーマーの狂気が生み出す価値こそ、いまesportsが注目される理由だ」で書いたように、esportsに取り組むプレイヤーは狂人である。そうしたコアな競技プレイヤーがいて、彼らにファンがつけば、esportsシーンは成立する。『LoL』や『スト5』、あるいは『ぷよぷよ』のリーグや大会で活躍するトッププレイヤーを見てほしい、だいたいいつもの顔ぶれだ。しかし、いつもトップに立って活躍するからこそ、ファンがつきやすい。
そこにときどき新しいプレイヤーが参戦してくることで、シーンがさらに活性化する。高校生プレイヤーが突然現れて優勝する、ということも珍しくないし、そういう偶然性があるからこそ観戦の面白みも増す。
とすると、esportsシーンに必要なプレイヤーピラミッドは、よく言われるような裾野の広い底辺はそのままに、新規の競技プレイヤーがより上位に上がりやすい構造のピラミッドではないだろうか。将棋の駒を連想してみてもらいたい。
頂点に登りたい狂人たちが活躍できる場を増やす。それがesportsシーンの柱となる。
観戦者数が少なすぎる
以上に鑑みると、プレイヤー人口はそこまで多くなくても、観戦者が多ければesportsシーンは成立する。ゲーム会社がもしesports展開に注力するなら、観戦者数の増加に全力を挙げてもらいたい。興行側にしても、もっと観戦者を増やす施策に取り組む必要がある。
現状、ほとんどのesportsタイトルではプレイヤー人口(販売・DL本数)に対して観戦者数が少なすぎる。前にSPP(Spectator Per Player、累計プレイヤー人口に対する同時視聴者数の割合)という指標を作ったが、10%に到達するタイトルがいくつあるだろうか。
『PUBG』のPJSは視聴者数1万3000人に成長したが、販売本数は数十万本規模と推測され(モバイル版を含めればもっと多い)、そうすると10%どころの話ではない。『クラロワ』も、2017年の日本一決定戦の予選に4万5000人が参加したそうだが(累計プレイヤー人口はもっと多い)、クラロワリーグの視聴者数はようやく1万人を超えたくらいだ。
『Shadowverse』も同様に、RAGEやプロリーグの視聴者数は1万人前後と、総DL数の10%にはるか満たないだろう。『パズドラ』も大会の同接視聴者数は2万人を超えているが、あの巨大なDL数に比べてたった2万人だ。『スプラトゥーン』にしても、シリーズで400万本以上売れているのに公式大会の視聴者数は5000人ほどだ。
もしもesportsタイトルとして突っきるつもりなら、『LoL』がその可能性を垣間見せてくれたSPP50%は難しくても、10%は目指してほしい。LJLの6チームはいまその数字で成立している。当然ながらゲーム会社の役割が重要になるが、esportsとして展開するとはそういうことだ。ゲーム視聴文化が根づいた日本だからこそ、その数字を目指せるはずだ。
ゲーム視聴文化との親和性
では、本当にあらゆるタイトルでSPPを10%にすることは可能なのか? 僕は可能だと思う。なぜなら、日本にも他人のゲームプレイを視聴する文化ができ上がっているからだ。
CyberZの調査によると、男性10代の50%、女性10代の48%、男性20代の37%、女性20代の43%が他人のゲームプレイを観るのが好きだと回答している。
ネットで動画や生放送を視聴する時間も増えている。2012年の1人あたり平均6.8分/日から、2017年は平均18.3分/日になった。YouTubeの利用者数は72.2%、つまり9000万人以上。2017年のデータだが、10代から30代の男女のうち2138.7万人が1か月に1回以上、ゲーム系の動画を観ている(人口、割合)。
人気ゲーム実況者の動画は数十万、数百万回も再生され、生放送は同接視聴者数が数万人にも達する。人気VTuberの生放送も1万人は珍しくない。本田翼の『DbD』配信に至っては最高16万人だ。
ゲーム視聴の領域はまだまだ成長していくと見込まれるが、その一方で、この文化がいまいちesportsと結びついていない。
RAGEがFakerを呼んで大々的なイベントを開催しても、視聴者数は加藤純一の特別でも何でもない『マリオテニス』生放送に届かなかった(前者約1.5万人、後者約2万人)。何十人もの関係者がとてつもない金額をかけて最高のクオリティで開催する大会の視聴者数が、VTuberがぱっと開催する大会の視聴者数に及ばない。
明らかに、ゲーム視聴とesports観戦の間には隔絶がある。このギャップを超えるにはどうしたらいいのだろうか。なぜプロゲーマーが大会で真剣に戦う姿はVTuberが和気藹々とプレイする姿よりも注目を集めないのか?
難しい課題だ。プロゲーマーとストリーマーという区別をするなら、いまはストリーマーのほうが視聴者数や人気を獲得しやすい。ストリーマーのほうがいろんなタイトルを自由にプレイできて有利、というのはあまり理由にならない。
例えば、『ウイイレ』のプロゲーマーであるちゃまは自身の生放送で約1万6000人の視聴者を集めたという。あるいは、大会で上位に名を並べる父ノ背中(現・野良連合)のらむはYouTubeのスーパーチャットで月間合計100万円を得ている(大会で父ノ背中が出場する試合は視聴者数も多く、野良連合のときもそうだ)。
けれど、『ウイイレ』の大会がどれも視聴者数が多いかというと、その正反対だ。アジア競技大会の代表選手を決める大会の視聴者数は1000人ほどだった。大会本戦、金メダルを決めた試合も、Twitterを見ていた限りほとんど反応がなかった。『R6S』の大会も、人気チームが出場しないと5000人ほどに留まる(出場すると1万人を超える)。
LJLの場合は逆で、シーズン中の視聴者数は1万5000人に至るが、DFMのeviが生放送をしても数百人しか視聴していない(僕が視聴したときの数字。自主大会時は5000人ほど視聴していた)。大会を視聴する人は多く、チームのファンも多いのに、プレイヤーの個人配信は全然視聴されないのである(『PUBG』とPJSにしてもこれに近しい)。
とにかく、こうしたギャップを乗り越えなければならない。
観戦希望者は約2000万人
いま、日本にはYouTubeやniconico、Twitch、OPENREC.tvなどのプラットフォームで他人のゲームプレイを視聴する人たちが2000万人以上いる。そして、esports大会を観戦するのは約382.6万人(大会参加者は53.9万人らしい)。
※Gzブレインの調査レポートによると2500万人とのこと。
4922万人のゲーム人口のうちどれくらいがesportsタイトルをプレイしているかは不明だ。しかし、PCゲームだけで1483万人もいるのだから、コンソールやモバイルを合わせれば相当数がプレイしているだろう。認知率41.1%だとのことで、すでに2000万人以上に観戦してもらえるポテンシャルがある。
調査では15歳~49歳の観戦希望率が38%で、こちらも約2000万人。どうやら現段階でもそれくらいの観戦者数を獲得できる可能性はあるのだ。
各タイトルのプレイヤーを増やすのも絶対に必要なことだ。そしてそれと並行して、既存・離脱プレイヤーをesportsシーンやプロゲーマーに振り向かせる戦略と施策を練り、実行していかなければならない。
そのヒントが下記の例である。大会に注目が集まっているなら、プレイヤー個人(やチーム)がファンを獲得する。プレイヤー個人に注目が集まっているなら、大会の視聴に潜在的観戦者を誘導する。そのための具体的な方法は「esportsシーンの発展に欠かせない大会観戦者を増やすための戦略と施策」に書いたが、下記でまた別の提案をしてみる。
※ちなみにバスケットボールの観戦意向者は700万人、サッカーは1500万人。
観戦者を増やすにはまず観戦させる
観戦者を増やすために最も重要な役割を果たすのはゲーム会社だ。なぜなら、esportsの観戦者はまずゲームに興味を持ってプレイヤーとなり、ゲームのルールや魅力を知ったあと大会やトッププレイヤーに関心を持ち、観戦者になるからだ。
当該のタイトルに関心がない人にいきなり大会を観戦しろと言っても、もとからよほど「esports」自体に関心がないと無理である(それを突破していくのが「人」の魅力だ。たまたまテレビやYouTubeを通して競技プレイヤーを知って観戦者になることもある)。
だから、ゲーム会社はもしesportsに振りきるなら、ゲーム画面(クライアント)に大会の生放送や動画を流すべきである。『PUBG』や『クラロワ』などはゲーム画面で大会を告知し、YouTubeなどへ誘導しようとしている。
それはそれでいくらか効果があるだろうが、そもそも大会に興味を持つきっかけがないのだから観ようとするはずがない(忘れていた人のリマインドとしては有効だ)。上掲の記事でこの施策について書いたが、いまとなってはそこまで有効な施策ではないと思う。
かつて『LoL』や『CoD』などが行なっていたように、『Dota 2』がいまもやっているように、ゲームにログインしたその画面に試合の様子を映すこと。観戦者を増やすにはまず興味を持ってもらおうとするのではなく、何より最初に観戦させることが必要だ。
どんなブランド商品も、ただなんとなく使っただけで使い続けてしまい、なぜかファンになる。それと同じ。意識によって行動が変化するのではなく、行動によって意識が変化するのだ。
僕自身、かつて『LoL』を観戦し始めたのは、ゲームクライアント内で何かの大会が放送されていたのがきっかけだった。それまでは大会を見る機会なんてなかったのだ。つまり、シーン自体を知らなかった。そういうニュースがあっても関心がないから目に入ってこなかったのだろう。先のマクロミルの調査では、観戦希望率の設問は「eスポーツの観戦ができるなら観戦したいか?」だった。できる環境はすでにたくさんある! 情報が届いていないのだ。
だから、まず観戦してもらう環境を作る。それをやると、たしかにプレイ体験を損なうかもしれない。しかし、興行としてタイトルを運営していくなら観戦してもらってなんぼである。このゲームはプレイと観戦が同等なのだという信念を持ち、貫くべきだ。トッププレイヤーの死闘には、絶対に観戦する価値がある、と僕は信じている。
また、『スト5』が顕著なように、シリーズが長く続いているなら過去作のプレイヤーを観戦者にする施策も欠かせない。一度プレイし始めたのに離脱してしまったプレイヤーに対しても同様だが、観戦はプレイするより気軽に楽しめるので、esportsを通して潜在的観戦者を掘り起こしていく必要がある。『ウイイレ』も同じことができるだろう。
競技プレイヤーにファンをつける
では、興行側としては何をすべきか。これはもう競技プレイヤーの魅力や面白さを演出し、ファンを作っていくほかない。もちろん、Twitterが擦り切れるまで大会の告知をしたり、試合のハイライトを作ったりすべきだが、とにかく「人」が中心にいなければならない。
どんなお粗末な大会でも、プレイヤーに人気があれば視聴者数は伸びていく。16人のプロゲーマーが出場する大会でそれぞれ5000人の熱狂的なファンがいれば、なるほど視聴者は8万人である。1000人ずつでも、国内のesports大会でトップクラスの視聴者数になってしまう。
競技プレイヤーがファンを作るには、やはり面白くなければならない。ユーザーがYouTubeのチャンネル登録をするのは、動画が面白かったときが圧倒的に高く、62.1%もある。ゲームがうまいと思ったときは27.2%だ。これが現実。将来的には逆転するかもしれないが、少なくともいまのところ、プレイスキルの高さより面白さがファン獲得に直結する。僕だってトッププレイヤーが黙々と対戦している生放送・動画より、プレイスキルはさておき視聴者を楽しませようとしている人の生放送・動画を観たい。
そういうファン獲得の活動を負担に感じ、プレイスキル向上の邪魔になると考える向きもあるかもしれないが、その場合はオーガナイザーやチームにサポートを求めてほしい。あるいは共同でコンテンツを作ってくれる人を探すのもありだ。
また、オーガナイザーは大会を生放送するだけでなく、試合ごとの盛り上がったシーンや注目選手の活躍した場面を動画化するなど(ただ1回戦、2回戦と区切るだけでなく)、潜在的観戦者とのタッチポイントを作っていかないといけない。ゲーム画面という最強のタッチポイントを自由にできない分、おおいに工夫する必要がある。
いずれにせよ、日本のesports環境はけっこう恵まれていて、さらに充実しようとしているのだから、一緒に盛り上げていこう。
いま目指すべき青写真
さて、僕がいま思い描く青写真はひととおり描ききった。状況が変わればもちろん変化していくし、これが必ずしも正しい道標になるわけでもないだろう。競技としてだけ盛り上がればいいと考える人もいるに違いない。でも、だからこそ、esports業界にいて、あるいはこれから関わろうとしていて、盛り上げていきたいと思っている人たちにはそれぞれの青写真を描いてほしい。なんならそこに餅を描いてもらってもいいと思う。
そして、ぜひそれを発表してほしい。なんとなく「盛り上げたい」と言うよりはよほど実りがある。大事なことはどのように盛り上げていき、どんなシーンを作り上げていくか具体的に想像することだ。そこに自分が果たすべき役割があるはず。それを見つけられれば、あとは行動するだけ。これを自戒とし、締めとしよう。
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