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日本人が国際大会で優勝しても、ウイイレの販売本数は増えなかった

日本でesportsが普及・発展するために、世界で勝てる選手やチームの存在が欠かせないと言われることがある。日本のesportsシーンはヒーローを欲しているのだと。

特にJeSUは世界で戦う選手やチームを育成していくことを大きな目標として掲げており、オリンピックの種目採用だけでなく、アジア競技大会やEsports World Championshipなどに選手を派遣する活動に注力している。

JeSUのこうした立場は明瞭で、その背景には「世界大会で勝てればマスメディアの注目が集まりやすく、その報道を見聞きした人たちがesportsに関心を持ち、個別のタイトルをプレイしたり大会を観戦したりするようになってシーンがより大きくなっていく」という方程式がある。

昨今は日本の選手やチームが世界大会でめぼしい活躍をしており、この方程式の前提をかなり満たしている。

『スト5』を始めとする格闘ゲームは言わずもがな、『LoL』のWorlds 2018ではDetonatioN FocusMeが「ソウルの歓喜」を生み出した。『CS:GO』のSCARZ Absoluteは数々の国際大会で実績を残し、CYCROPS athreet gamingの『Overwatch』部門はアジア大会2位となりWorld Cupでも多くの選手が活躍した。

では、そうした活躍はどれくらい報道され、その報道はどれくらいシーンに影響を与えたのだろうか。

今回はこの前編で、世界で勝てる選手やチームが日本のesportsシーンに与える影響について、主にアジア競技大会で日本人選手が金メダルを獲得した『ウイイレ』をベースに考察する。

そして後編では、実はesportsの普及には地方esports協会の存在が重要になるのではという話をする。

【目次】
世界で勝てるチームの存在がesports普及の要?
esports特化の世界大会はまだ受けが悪い
方程式は成立したか

※前半と後半で主旨が違ったので記事を分割した。後編「esports普及の鍵は地方協会とローカルメディアのタッグにある 」はこちらからどうぞ。

世界で勝てるチームの存在がesports普及の要?

上記の方程式は、スポーツなら分かりやすい。野球ならダルビッシュ有や田中将大、フィギュアスケートなら羽生結弦など、世界のトップリーグや最高峰の大会で活躍する選手はメディアにとって格好のネタとなる。

ニュースの受け手としても、普段はプレイしたり観戦したりしないスポーツであっても世界で活躍する選手の動向は気になる人が多いだろう(だからこそメディアは取り上げる)。僕も羽生結弦の得点はつい気になってしまう。かといってフィギュアスケートをやろうとはまったく思わないが、もし機会があれば(つまり誰かに誘われたら)観戦しに行ってもいいかなと思う。

こうしたスポーツの例と同じく、DFMの活躍はあらゆるゲームメディアが率先して報じ、インタビューや現地レポートが数多く掲載された。それどころかゲームメディアを飛び越えて、Numberねとらぼなどにも記事が上がったくらいだ。生放送は同接視聴者5万人を記録するなど、『LoL』自体に関心がある人には大きなニュースとなったが、その他多くのゲーマーにとっても関心事であったことが推測される。

esports特化の世界大会はまだ受けが悪い

ところが、DFMの勝利と挑戦のニュースはそれ以上には広がらなかった。たしかに、かつてなくさまざまなメディアで報じられはしたが、主にネットが中心で、テレビで眩しいほどに報道されたわけではない。しかも、野良連合、Absolute、CAG OWの躍進はゲームメディアでの報道に留まった。

いずれも世界で勝ったチームだったのに、なぜなのか。優勝していないからニュースバリューが小さい? それでも、そもそも世界大会で1勝することは歴史が始まるということで、そこに大きな価値があるように思われるが……。

というかそもそも、今年の世界大会で何度も優勝しているときどがマスメディアのニュース欄で大きく扱われたことがない(『情熱大陸』やesports系の番組も重要な存在だが、それは別として)。

反対に、広く取り上げられたのはアジア競技大会の『ウイイレ 2018』部門、SOPHIAとレバの金メダル獲得だろう。オリンピックという冠がよほど強かったのか、驚くほど多く報道された。

その一方で、アジア競技大会と同じく総合大会であるEsports World Championshipの『鉄拳7』部門での破壊王の準優勝はゲームメディアでの報道に留まった。

ここから分かるのは、少なくとも現状、ゲーム会社の公式大会やesportsだけをフューチャーした世界大会は、どうやらゲームメディア以外には受けが悪いということ。esports系の大会はスポーツと比べれば歴史が浅いので、その点でもニュースバリューが低いと捉えられてしまうのだろう(だから「esportsタイトルをオリンピック種目に」なのである)。

先の算段もこれでは成り立たず、esportsの普及はより積極的なPRか、別方向からのアプローチ(後述)が必要だと思わされる。

方程式は成立したか

また、たとえSOPHIAとレバの活躍が報道されても、それを理由として『ウイイレ』のシーンが盛り上がらなければ、方程式が成り立ったとは言えない。実際はどうか?

金メダル獲得の前日に発売された『ウイイレ 2019』の発売2週間の累計販売本数は9.7万本(PS4のみ、1週目は7.5万本2週目は2.2万本)。『ウイイレ 2018』の同期間9.8万本を少し下回った(PS3+PS4、1週目は7.7万本2週目は2.1万本)。ちなみに、累計販売本数はまだ『2018』のほうが多い。

昨年はアジア競技大会で『ウイイレ』部門は開催されなかったので、両選手の金メダル獲得は販売本数に影響を与えなかったことになる。ただ、シリーズの販売本数は減少傾向にあって、『2018』でやや盛り返しており、そこにさらなる歯止めをかけたということは言えるだろう(フィジカルのほうのFIFAワールドカップが売上に影響を与えた可能性も高い)。

見事に状況が揃ったので観察しやすい事例となったが、とりあえずこの一例だけを見ると、世界大会で勝つこと、各メディアでニュースとして報道されることは販売本数にそんなに影響を与えないということが分かった。もちろん、もっと過熱的に報道されれば話は別かもしれないし、タイトルにもよるだろう。

ここ最近、世界大会の試合にも注目が集まり、例えばDFMの試合に5万人が、野良連合の試合に3万人が熱狂した。だが、この(同接)視聴者数は既存プレイヤーか離脱プレイヤーがほとんどだろうし、未プレイ層や新規層へのアプローチ手段として有効なのかは分からない(アジア競技大会での試合は平日昼間の生放送だったので、あまり視聴者はいなかったようだ。関連ツイートがほとんどなかった)。

それでも、プレイ経験のある人たちを観戦者にするという点では、世界大会での勝利や活躍は大きな効果を発揮すると思われる。シーンの発展には観戦を継続させる施策が不可欠なので、ゲーム会社やオーガナイザー、『eGG』のような番組に期待したい。

後編「esports普及の鍵は地方協会とローカルメディアのタッグにある 」はこちらからどうぞ。

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