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障害者プレイヤーが魅せる、eSportsの新たな世界

eSportsプレイヤーの皆さんは、身体障害がありながらeSportsをプレイする人々をご存知だろうか?

彼らは健常者と同じようにeSportsを楽しんでいる。とはいえ、どうやって操作するのか不思議に思うかもしれない。eSportsは身体を激しく動かす必要がないため、工夫すれば顔や足で操作できるのだ。しかし、その姿はあまり知られていない。目や耳に入ってくるeSportsシーンが、健常者で占められているように思えるからだ。

過去になく盛り上がりつつある日本のeSports。そこで求められているのは日本の独自性だろう。その方向性の一つとして、障害者、特に身体障害者のプレイヤーが当たり前の存在になるというのもありえるかもしれない。

もし身障者プレイヤーが日本のeSportsで当たり前になれば、我々の前にどんな世界が広がるか? eSports人口が増えることで市場が大きくなるのはもちろん、eSportsがダイバーシティ的な社会貢献に役立つようになり、もっとプレイしやすくなれば身障者プレイヤー自身のQOLを高めることにも繋がる。

そのために健常者プレイヤーやメーカーができることは何だろうか? 今回は身障者がより積極的にeSportsシーンへ参加するにはどうすればいいのかを中心に、「eSportsと障害」について考えてみたい。

eSportsにおける「障害」

身障者がeSportsをプレイするうえでの障害とはどんなものだろうか? まず、ほとんどの健常者プレイヤーが身障者プレイヤーを知らないので、身障者を受け入れる環境や心構えができていない。身障者自身もeSportsを知る機会が少ない。加えて、ほとんどのeSportsタイトルやデバイス各種(パッド、マウス、キーボード)は、健常者が手で使用するようにデザインされている

そんな障害を取り除くにはどうするか?

まずはなにより、健常者プレイヤーには、すでにeSportsをプレイしている身障者が存在することを知ってもらいたい。健常者に認知と理解が育まれることが、のちに身障者がeSportsシーンに参加する土台になる。言いかえると、健常者が身障者プレイヤーの存在を知らないと、既存の身障者プレイヤーはコミュニティに加わりづらく、大会やイベントにも参加しにくい。また、eSportsシーンで健常者と身障者のコミュニケーションが当たり前になり、その光景が発信されるようになれば、新規の身障者プレイヤーが増えるかもしれない。

次に、メーカーサイドには、健常者がプレイしやすいデザインとともに、身障者に合わせたデザインも追求してほしい。大半のキーコンフィグやデバイスは両手で入力することが前提になっているので、身障者がプレイしようとしても自分に合った環境作りから始めなければならない。これでは思いどおりに操作するまで多大な努力が必要になる。新規の身障者プレイヤーが始めやすい環境とは言えないだろう。

健常者と肩を並べる身障者プレイヤー

このように、身障者がeSportsを始めるには高いハードルがある。しかし、そのハードルを乗り越えている身障者プレイヤーは存在するのだ。彼らがどのようにプレイしているか、その姿をぜひ知ってほしい。

◆Brolylegs氏(ストリートファイター)

EVO2011 本配信後その6 ウメハラマネーマッチ2

Brolylegs氏は口と頬を使いパッドを操作する。格闘ゲームは技を出すために複雑なコマンドを入力しなければならないが、対戦動画を見る限り顔での操作が支障をきたしているようには見えない。口と頬で自在にキャラを操り、健常者と渡り合っているのだ。

◆市川氏(ストリートファイター)

ウメハラPRESENTS EVO前哨戦! スパ4AE Ver.2012 part1 2012.6.30

日本の市川氏は、脳性麻痺により手が不自由なため、顎と頬を使いパッドを操作する。使用キャラはリュウで、格闘ゲームでは基本的な波動拳や昇竜拳コマンドを入力する必要があるが、それを難なく入力することができている。

◆kotwicz氏(CS:GO)

kotwicz氏は足でパッドを操作してCS:GOをプレイする。操作技術もさることながら、特筆すべきは彼がPCのFPSをプレイしている点だ。PC版はコンソールのFPSと違ってエイムアシスト機能がないため、デバイスはポインティングの早いマウスとキーボードが最適とされている。そんな中、パッドのみを足で操作し、ほかのプレイヤーと遜色ないプレイを披露しているのは驚くべきことだろう。

◆Aieron氏(LoL)

Disabled LoL player gets a rare pentakill without the use of his hands

Aieron氏は、Amyoplasia(筋形成不全症)により筋肉量が少なく関節を曲げるのが難しい。しかし、頬でマウス操作、くわえたペンでタイピング、足で特殊コントローラーを押すというように、動かせる部位をフル活用してMOBAをプレイしている。

このように、障害の壁を超えて対戦する身障者プレイヤーは何人もいる。そもそも、eSportsは必要な身体の動きがデバイス操作のみなので、入力面さえクリアすれば身障者と健常者が同じルール上で競えるのだ。しかも、動き自体は小さいので、フィジカルスポーツより危険が少ないのは利点だろう。

身障者が触れやすいeSportsへ

身障者のeSportsプレイヤーが存在すること、しかし彼らがプレイするまでに努力が必要であることは分かったと思う。そこで次は、身障者がよりプレイしやすい環境を作るために、コミュニティやeSports関連メーカーが何をすればいいのかを考えていきたい。

1.コミュニティサイドができること

コミュニティサイドが身障者プレイヤーを増やすためにできることは何か? 近年はオフラインイベントやeSports関連施設がよく見られるようになってきた。そこで、身障者プレイヤーに合わせて机の高さや車椅子のスペースを調整する、障害者手帳の提示で割引するなど、身障者がeSportsに触れやすくなるよう気を配ってみてはどうだろうか。また、既存のプレイヤーは知り合いに身障者がいれば、直接eSportsを勧めてみてもいいかもしれない。

コミュニティとしては身障者プレイヤーが増えることで、一緒にプレイする仲間が増える。また、身障者と普段関わる機会が少ない人にとっては障害への理解促進にも繋がるだろう。さらに、身障者プレイヤーから新たな強豪が生まれる可能性もある。

身障者自身もeSportsをプレイすれば、新たな娯楽・生きがいを見つけること、対戦やイベントを通じて友人を作ることに繋がる。年齢層や育ってきた環境がまったく違う人と知り合えるのもeSportsの魅力だ。

2.メーカーサイドができること

メーカーサイドとしては、身障者プレイヤーをターゲットに加えることで、市場拡大、ニッチな需要の確実な獲得、企業のイメージアップに繋がる。また、身障者向けに作られたゲーミングデバイスの技術が、普段のPC利用においても応用が効くかもしれない。

メーカーサイドが身障者プレイヤーのためにできることは何か? 身障者がプレイしやすくなるためには、ゲームメーカーは柔軟なキーコンフィグを、デバイスメーカーは両手にこだわらないデバイスを開発していく方向性が考えられる。現時点でどのようなものがあるか、具体的な例を紹介していく。

まずは、カスタマイズ性の高いキーコンフィグが身障者の操作を助けた事例である。

♦Zak氏(Overwatch)

『Overwatch』のアクセシビリティに脳性まひを患うファンから賞賛の声、障害に縛られないゲーム体験

Zak氏は脳性麻痺で手先が不自由なため、操作量が限られ大雑把なエイミングしかできなかった。しかしOverwatchでは、状況に応じてキーコンフィグを細かく設定できるおかげで、それまで叶わなかったスナイパーライフルでのヘッドショットを体験できたという。少しの配慮が身障者にとっては大きな助けになるのだ。

次に、両手に縛られないデバイスの一例として、口で操作するコントローラーを紹介する。

◆Quad Stick

http://www.quadstick.com/videos/

これは口にくわえて操作するコントローラーで、有志のクラウドファンディングから開発が始まった。呼吸や唇、声を感知し、その人に合わせた操作が可能。ストアページを見てみると、手で握るタイプのアクセサリーもあり操作方法の幅は広そうだ。

デバイス開発はさらなる可能性を秘めている。夜盲の症状を患う人がVRヘッドセットを使ったところ、生まれて初めてクリアな視界を体験できたというのだ。

眼に先天的な疾患を抱える男性、VRで生まれて初めてクリアな視界を体験

VRで視る立体的な映像は、実際には数cm前のスクリーンに投影された像だ。そのため、極度の近視である彼でもクリアな光景を視られたわけだ。この技術を活かせば、視覚障害者でもeSportsに参加できるかもしれない。

このように、メーカーが身障者でも楽しみやすい工夫をすれば、身障者がeSportsに参加するハードルは下がる。さらに、身障者は障害によってゲームを思うように楽しめない場合がある。そこへメーカーが配慮して遊び方の幅が広がれば、身障者のゲーム体験は一変するのだ。

ほかのスポーツ業界から学ぶ

これまではeSportsに限定して考えてきたが、より広くスポーツへの障害者参加として考えるために、パラリンピックやマインドスポーツを参考にしてみたい。

まず、障害者スポーツと聞いて一番に浮かぶのがパラリンピックだろう。パラリンピックはリハビリテーションとしての役割を発祥とするが、競技性が高まるにつれて、独自のスポーツ文化として発展していった。

eSportsではどうか? ビデオゲームでもきちんと課題を設定して遂行すれば、脳の認知機能や精神疾患の回復に繋がるという研究結果があるのだ。アプローチ次第ではeSportsもリハビリのような役割を担えるかもしれない。さらに、身障者プレイヤーが増えれば、健常者プレイヤーとの公平性がより考えられ、身障者の操作方法も最適化されていくだろう。

【参考】
アクションビデオゲームをすることで島の機能的接続や灰白質量が増加する

ビデオゲームでリハビリ――アメリカではリハビリが受けられない患者向けに開発が着々

FPSゲームが脳のリハビリに効果あり!

ゲームで最新リハビリ療法と同じ効果――ビデオゲームでひらける統合失調症治療への道

ADHDにはゲームリハビリが有効

脳卒中患者治療に音楽ゲームとグローブ型コントローラーを活用

マインドスポーツでも障害者が楽しむ工夫がなされている。たとえば、将棋では視覚障害者のための盲人将棋大会が開催されている。触覚で盤面が把握できるように、点字や枠が設置された盤で指す将棋だ。

eSportsでも、思考力を競うMTGやハースストーンならば、点字を活用して視覚障害者でも楽しめるのではないか(点字がマークドに当たる可能性や、大量の情報を処理しなければならないので、専用フォーマットは必要かもしれない)。

さらに、今年新たな障害者によるスポーツの祭典が生まれた。その名も「サイバスロン」だ。

そこに障害者と健常者の境目はなかった:2016年サイバスロン現地レポート

身体の不自由な人々が選手となり、頭部に電極から脳波でアバターを動かす、義手や強化外骨格を使って日常生活の動作をこなすなど、最先端のテクノロジーを駆使した六つの種目で競い合う。大会の目的は、技術のコンペティション、競争というエンターテイメント、ほかの開発チームとの交流とされている。各チームの高度なテクノロジーには目を見張るが、なによりも、障害者も健常者も区別なく眼前のスポーツに興奮する光景こそ、まさしくこの記事が目指している光景なのだ。

このように、ほかのスポーツでも障害者が選手として活躍する場面はある。eSportsにおいても、リハビリ効果を研究する、障害を補うルールを作る、テクノロジーをアピールする場を提供するなど、障害者のありようは一つではないだろう。

そのうえ、eSportsなら障害者と健常者が同じルール上で競い合える。障害者にとってスポーツは、リハビリのような医療的役割もあるが、純粋な技の競演として向き合う場合は健常者との違いはない。eSportsは、競技における「障害者と健常者には差がある」という先入観を吹き飛ばすきっかけになりえるのだ。

身障者と開く、eSportsの未来

身障者プレイヤーが当たり前にeSportsを始める。身障者プレイヤーと健常者プレイヤーが一緒に楽しくプレイする。同じチームで優勝を目指す。ライバルとして切磋琢磨する。そんな方向に進んでいけば、日本の新しいeSportsのステージが開けるかもしれない。

written by ヨッキー

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