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人間関係の問題は相手の話を聞いていないことがだいたい原因

テキストチャットでやり取りをしていると、ときどき相手が怒っているかのように感じる文章に出くわすことがあります。

それは字面だけ見ると無愛想で素っ気なく、冷たく言い放たれているかのような印象を持ってしまうでせいです。そんなとき、ほとんどの人は特に何もせず気にしないふりをすると思いますが、積み重なるとけっこうなストレスになっていきます。

こうしたことが原因で精神を病んでしまったり、人間関係を壊してしまったりした職場の同僚もいます。この人はいったいどうすればよかったのでしょうか。上司に相談するか、早々にカウンセリングや心療内科に向かうべきだった?

率直に、相手にどうしてそういう書き方をするのかを尋ねたらよかったのではないでしょうか。たいていの場合は怒っていないし、わざと冷たく接しているつもりもなければ、邪険にしている意識すらなく、逆に(僕の同僚は仕事ができる人だったので)好印象さえ持っているかもしれません。

そして、もし相手が本当に悪印象を持っていて怒っていたとしたら、同僚はその原因を取り除くための行動ができたはずです。

なのに、この同僚に限らず、人って相手にちょっと尋ねるというほんの一言で済むようなことができないんですよね(自戒)。

※職場なのでさすがに恋人同士のような「怒っているのに怒っていないと返すやり取り」は発生しなさそうですが……。そもそも自分の機嫌は自分でどうにかしましょう、職場に持ち込まれませんように。

聞くことができなくなっているらしい

最近『LISTEN』という本を読みました。ジャーナリストで大勢の人にインタビューしてきた著者が、現代人は自分が話すことに必死で聞くことが忘れられていると警鐘を鳴らし、もっと他人の話を聞こうと呼びかける内容です。

本書の中で、人はどうしても自分の話をしたくなる傾向があり、他人の話をちゃんと聞くには訓練が必要だと書かれています。

しかし、その機会はほぼありません。学校でディベートやプレゼンの方法を学ぶ機会は多少あれど、そこで重視されるのはいかに自分の意見を主張するかであり、相手の意見を聞くことではありません。

これはそのまま社会や家庭でも当てはまります。会議では自分の考えを発言しなければ評価されませんし、自宅では自分が快適に過ごすために家族(同居人)を説得しなければなりません。

SNSでは特に顕著で、自分が発言しなければそこに存在していないのと同じです。誰かの話を聞いていたらその時間だけ自分が主張できなくて損をし、地位や快適さを失ってしまうという恐怖に誰もが取り憑かれています。相手の話を聞けばそれを必ず受け入れないといけないという誤解もありえます。

ですが、いまは「聞く人こそ求められている」と著者は言います。聞く人は信頼され、頼られる存在になると。たしかに、あの人は話を聞いてくれるから好きだと感じることはけっこうありますよね。

多くの人が自分の話ばかりをし、他人の話を聞こうとしない。そんな状況になると必然的に意見がぶつかり合い、喧嘩になるかどちらかが我慢しなければならなくなります。喧嘩になればまだましで、我慢して傷ついて果ては病んでしまう人も多いでしょう。

その解決策こそ相手の話を聞くことなんですが、誰も彼も聞けなくなっているため、人間関係やコミュニケーションの問題は増え続けています。

聞いてもらえないのは聞いていないから

本書に面白い例が載っています。問題を抱えるカップルの片方がカウンセラーに相談しに来るんですが、そのカウンセラーによると誰もが「相手が話を聞いてくれない」と訴えるそうです。

実際にカップルを呼んで話をさせてみると、相談しに来た当人たちは恋人の話を遮って「自分は悪くない」「こういう理由がある」と自身の正当性を主張したそうです。つまり、相手が話を聞いてくれないのではなく、自分が相手の話を全然聞こうとせず、自分の意見だけ相手に認めさせようとしていたということです。

相手にも主張したいことがあるわけですから、これでは問題は悪化するばかり。どちらもが、まず相手の話を聞こうとする姿勢を持つことが解決の糸口となります。

このことを念頭に置いて振り返ってみると、話を聞いてもらえないと感じるのは自分が相手の話を聞いていないことが原因なのかもしれません。

まずは相手の言葉に耳を傾け、脳味噌を全部使って理解しようとするのが大事ですね。SNSや動画を見ながらではなく。

訊く=尋ねることの重要性

聞く、聴く、訊く、と意味によって漢字が違いますが、僕なりの使い分けとしてはなんとなく耳に入ってくるのが「聞く」、しっかり意味を理解しようとするのが「聴く」、疑問を尋ねるのが「訊く」です。

『LISTEN』では基本的に傾聴するというニュアンスで「聴く」が使われています。それも踏まえつつ、僕はコミュニケーションにおいて「訊く=尋ねる」ことがとても大事だと考えています。

相手と何か問題が起きたとき、訊けさえすればコミュニケーションの問題は大半が解決するか、多少はましになっていくでしょう。また、普段から訊く姿勢を強く持っていれば、相手がなぜそう言ったのか、どういう理由でそんなことをするのかも知ることができ、いざこざになる前に鎮火できます。

人は自分のことしか分からないので、訊かない限りは相手の心理や態度を憶測し、勝手に決めつけるしかありません。そこが誤解と問題に入り組んでいく大きな入口です。

訊くのが難しいのはなぜか

難しいのはそもそも訊けないということです。というのは、相手との摩擦を避けたかったり、相手に負担をかけるのではと心配したり、訊くことを下手に出ることと勘違いして自尊心が傷つくと思っていたり、相手の心の中に踏み込んでいくのを怖がっていたり……。

しかし、訊かないことでもっと大きな摩擦が必ず生じます。また、よほど険悪な仲になっていない限りは訊かれること(話を振られること)ってたいてい嬉しいですよね、自分に注目された感じがあって。相手も同じでしょう。

あるいは、状況によっては何を訊いたらいいのか分からないこともあります(深刻なシーンは想定していません)。例えば、相手やその話に興味を持てなかったら訊きたいことが思い浮かばず、相手が話し出すのを待つしかなくなります。

興味がないまま訊いても退屈ですし、相手も察して嫌な気分になるでしょう。ここで、もう1つ重要な「他人に興味を持つ」という難しさが露わになります。

他人に興味がない人ばっかり?

『LISTEN』の著者は聴くことが蔑ろにされていると言いますが、僕はむしろ多くの人は他人に興味がないのではないかと疑っています。そのために、相手の話を聴かないし、相手に話を訊かないと。

「SNSや世間はこんなにゴシップであふれているのに?」と疑問に思われるかもしれませんが、相手を目の前にしたときと相手がいない状態で(もしくは接点がまったくない他人について)噂話をするのとではちょっと性質が違いますよね。

試しに自分が参加している会話を注意深く聴いてみてください。実は多くの人が相手の話を聞いてすぐ自分の話をしていませんか? 訊くことが忘れられて、誰もが相手の話に感化されて思いついた自分の話をすることに夢中になっているかもしれません。

この例についても本書に面白い例があるので紹介します。著者は相手の話を自分の話にすり替えることを「ずらす対応」と呼び、相手の話を受けて訊くことを「受け止める対応」と呼んでいます。

ジョン:うちの犬が先週、なくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。
メアリー:うちの犬はいつもフェンスの下を掘っているよ。だからリードをつけないと外に出せないの。

さて、これはずらす対応と受け止める対応、どちらでしょうか。一目瞭然ですね、ずらす対応です。いまの僕たちはこの会話形式の中にいることが多いのではないでしょうか。

では、受け止める対応とは?

ジョン:うちの犬が先週、なくなっちゃったんだ。見つけるのに3日かかったよ。
メアリー:えーそうなの。で、結局どこで見つかったの?

メアリーは自分の話にずらさず、相手の話を受け止めて訊いています。これができるかどうかが聴くことの分かれ目です。

僕はなるべく受け止める対応をするようにしていますが、なんとなく気まぐれで知らない人たちの会話の中に入ってみて話を聞いていると、ほとんどの場合でその場の全員が自分の話を交互にしているだけです。

※「知らない人たちの会話の中に入る状況があるのか」と思われるでしょうが、僕が利用しているメタバースプラットフォームのclusterにはたくさんコミュニティがあるんですよね。

そうは言っても訊くことが思い浮かばない

「他人に興味や関心を持て」と言われて持てるなら苦労しないわけで、ゆえに自分がどのように他人に対して興味を持ちうるのかを試行錯誤することが必要です。

かく言う僕も他人に興味はないです。というと正確ではなく、(よほど仲がよくない限り)その人自身には関心はないですが、その人がどうしてそんな言動をしたのかという原因や理由(心理的な部分)には関心があります。

これはマーケティングの仕事をしているので職業柄なのもあります。人間の心理分析はだいたいにおいて面白いんですよね。僕はよく最近買った贅沢品の話を振ることがありますが、贅沢品について知りたいのではなく、贅沢品を購入した経緯や心の動きを知りたいと思っています。

人によってはコンテンツやもの自体、つまり知識についてばかり話そうとする人もいますが、そんなときは「そうじゃなくて」と断りを入れて、改めて「なぜ?」と訊き直します。知識の話は本当に興味がないので、聞いていて退屈です(自分で調べればいいし)。

ポイントは、相手のことを知る・学ぶという姿勢です。自分にない価値観やものの見方が1つでも増えれば、人生は少しずつ豊かになっていくでしょう。その蓄積が自意識やアイデンティティに繋がっていき、自分らしさが培われていくと思います。

話していて「この人面白くないな」と思ったときが一番学びが深まるときです。なぜなら、それは自分が面白い話を訊き出せていないことが原因だからです。相手ではなく自分が面白くないだけ。このことを強く意識しておきましょう。

訊いてばかりいたら自分の話ができない

一方で、訊いてばかりだと自分の話ができないと思うかもしれません。別にそれでいいんですよね。だって、自分のことはすべて知ってるわけですから、新しいことを知るには誰かの話を聴くほかありません。

このことも『LISTEN』には何度も書かれています。いったいなぜ自分の話をしないといけないのでしょうか。自慢したい? 説得したい? 同意を得て安心したい? 

自分が話せば話すほど相手は話す時間を失いますが、それでも話し続けたいでしょうか。そういう人は非常に利己的で嫌われそうです(が、ここでもなぜそんなに話し続けるのかを訊けるかどうかが大事)。

本書に家具屋の接客をしている人の話が出てきます。その人はお客さんが来たら簡単に商品を説明したあと、そばでじっと待つそうです。接客業だからどんどん話して商品を売り込まないといけないと思いがちですが、実際にはお客さんの頭の中では自問自答が繰り返されていて、どうしようかと検討しているんです。

なので、そのときに話しかけることは冷や水を浴びせることになります。その人はとにかく待ち続け、結果としてトップの売上を打ち立てているそうです。

これってわりと思い当たる節がないでしょうか。僕も店頭で説明書きを読みながら自問自答しているとき、店員にしつこく説明されるとかえって購入意欲を削がれます。逆に、簡単に説明を受けたあと、あとは放っておいてもらえると購入することが多い。

非常に逆説的で学びがありますね。商品を買ってもらうにはメリットを伝えて説得しなければならないというのは思い込みかもしれません。やはり大事なことは話を聴くこと、言いかえると、自分が話したいのを我慢して相手の言葉を引き出すことなのです。

その際、沈黙が怖くて話し出してしまう人もいるかもしれません。ですが、相手や自分がしっかり考えて話そうとしているからこそ沈黙があるわけで、むしろ沈黙を大切にしようと本書にはあります。「ちょっと考えてます」などと伝えてもいいですよね。

なぜそんな言動をするのかを訊く

ということで、『LISTEN』を参照しながら聴くこと・訊くことについて書いてきました。

本書はなかなか面白く、プレゼンやセールスを生業にしている人には特におすすめです。また、普段の会話が面白くないと感じていたり、話し上手になりたいと考えていたりする人にも読んでもらいたいです。

相手の考えていることが分からないと辛い思いをしている人は、ぜひ相手の話をちゃんと聴/訊いてみてください。察してもらおうとしたり、我慢したりしていても何も解決しませんので(メタバースの中では特にそうです)。

僕も自分にとって苦手な言動をする人がいますが、「やめろ」とか「ムカつく」と言う前に、なぜそんな言動をするのかを訊いてみないといけません。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。