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【#ショートショート(410字)note杯】『アナログバイリンガル』

明日、ジョンが帰国する。
偶然、俺の国に住む事になった彼は、ユニークな独学でこの国の言葉を学んだ。とても頭が良く、勉強熱心な男だった。
俺に同じ真似が出来るだろうか?
本当に大した男だと思う。

ジョンと俺はウマが合い、短い間に確かな友情を育んだ。
夕方、俺は別れの挨拶をする為、ジョンの部屋を訪ねた。
ジョンは部屋の前で俺を出迎えてくれた。
「ハイ、ジョン」
俺の言葉に、ジョンは無言のまま手を上げ、少し寂しそうな笑みを浮かべ、俺を部屋に招き入れた。
俺は、何か気の利いた別れの言葉を、と思いながらジョンと向き合って座った。
だが、いざとなってみると様々な感情が沸いてきて、なかなか言葉にならない。
お互い無言のまま、刻々と時間が過ぎていく。
この部屋には時計が無い。
ジョンが独特のイントネーションで俺に聞いた。


「掘った芋いじるな」

このイントネーションともお別れか..
そんな事を思いながら、俺は彼に時間を教える為、懐中時計に目をやった。

(終)

サポートされたいなぁ..