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【ショートショート】『30年目のリベンジ』

【30年後あったらいいな/コンテスト投稿作品】

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「必ず、30年前のリベンジを果たしてやるわ」

今日から数えてちょうど30年前、私は都内にある一流ホテルで、自身の研究に関する会見の為、200人を越える記者達を前にしていた。
その会見で私が発した言葉は、その年の『流行語大賞』にノミネートされた程で、日本中が私に注目していたと言っても過言では無かった。

私は30年経った今でも、その時、集まっていた記者やレポーター達の嘲る様な悪意に満ちた目を、はっきりと覚えている。

当時の私はマスコミの格好のネタだった。
週刊誌は売り上げを伸ばそうと、私の研究の事だけではなく、私生活の事まで面白可笑しく書きたてた。
テレビは連日私を取り上げ、ワイドショーに私の話題が出ない日は無かった。

過熱するマスコミに追い回され、とても日本で生活する事が出来なくなった私は、逃げる様に国を抜け出し、東南アジアの小国に身を隠してほとぼりが冷めるのを待つしかなかった。

数年後、人々の興味が薄まった頃を見計らって、私は隠れる様に帰国した。
だが本来、タレントや俳優では無く、地味な一研究者である私を覚えている人は殆どおらず、顔を隠さずに街を歩いても気づかれる事は無かった。
私は自身の汚名を晴らすため、知り合いのラボを借り、再び研究に没頭した。
私の頭の中に、研究の事以外の事を考える余地は無かった。

30年後の今だから冷静に考えられるが、あの時はまだ研究の成果を発表するべきではなかったのだ。

当時の私は完全に浮かれていた。
完成に近づいたとは言え、研究はまだ不安定な段階だった。
そして、その心の隙を突かれ、嫉妬や妬みに駈られた仲間や同業者達に様々な妨害工作を受け、研究は完成から少しずつ遠ざかっていき、次第に私は嘘つき呼ばわりされていった。

あの屈辱感は今も忘れていない!

いや、それがあったからこそ、今回、研究を完成させる事が出来たのだ!

そして今日、私はこの素晴らしい研究の成果を発表するため、5時間後に30年前と同じホテルで会見を開く。
予定では、前回の会見を凌ぐ数百人の記者達が集まる事になっているらしい。

集まった連中は私の姿を見て度肝を抜かれる事だろう。
私は高鳴る胸を抑えながら、部屋の鏡に向かって、会見冒頭に用意したスピーチを本番さながらにリハーサルする事にした!

「皆さん!驚きましたか?お久しぶりです。30年前、皆さんは私を嘘つき扱いしましたね。若返りを可能にする細胞なんてあるはずないって。ふふっ、どうですか!私は身をもって研究を証明しました。私の姿を見てください!本当にあるんですよ!」

そして、ここで満を持して
前回の会見と同じ言葉を放つ!

【【【【 スラッブ細胞はあります!】】】】

決まったわ..

私は、鏡に写る30年前と変わらない自信に満ちた自分の顔を見て確信した!

「今度こそ、流行語大賞はもらったわ!」

【終】


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