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旗を振る人

 今の会社に入る前、コンサルタントは上から目線で偉そうなことを言う人だと思っていた。だから就職活動でも元々コンサルタントは目指しておらず、たまたまその職種に出会って入社した。

 でもある意味それは間違っていなかった。なぜなら、コンサルタントはいつもリスクの外にいるからだ。クライアントは会社にいる限りそのプロジェクトなり改革なりの責任をずっと負わなければならず、失敗しようものなら後ろ指を刺され、退職するまで汚名を背負わなければならない。コンサルタントはプロジェクトの期間が終われば、それが失敗しようと次のプロジェクトに移るだけだ。(プロジェクトがあまりに酷くてそのクライアントから出禁をくらったりすれば、社内で悪名が立ち噂され続けることはある。)
 社内の人間には言いづらいことだからと、あえて第三者であるコンサルタントが嫌われ役を買い、経営層に対し耳が痛いことを言うこともある。第三者目線だから経営層も聞き入れやすいということもあるが、万が一失敗してもいなくなれば済む存在だからという理由もある。

 人は、一緒にリスクを取ってくれた人を同志として認識する。部外者であるコンサルのことをクライアントがプロジェクト発足当初から社内の人と同じように信用するということはまずないはずである。大抵は一定のプロジェクト期間を経て少しずつ信頼を勝ち取っていくものだが、やはりどこまでリスクを取ってそのプロジェクトに自分の身を投じたかが、クライアントとどれだけ近い・深い関係を築けるかに大きく影響する。プロジェクトを大失敗させた時ほど一緒に乗り越えた結束意識が強くなるので、失敗したプロジェクトを一緒に乗り越えたクライアントほど終わった後も関係が長く続いたりする。

 入社当初からずっとお世話になり続けている大先輩は、人を動かすのがうまい。最初は乗り気じゃなく腕組みして座っている人も、だんだん身を乗り出し、目を輝かせてくる。なぜか。
 それは、わかりやすい話をしているとか、相手を理解しニーズに沿った話をしているとか、そんなテクニック的な話もあるのだが、何より、言葉に熱がこもっているのだ。私自身もその先輩に資料・タスクのレビューを受けていて、なんだか乗り気でなかった仕事も、「やらなきゃ!」と思い立つ場面が何度もあった。

 その先輩は、クライアントを説得させる前に、自分自身で腹落ちし、自分が納得して疑わないストーリーを組み立てている。もはや自分に暗示をかけている。クライアントとともにドボンする覚悟で、プロジェクトを自分ごととして考えているからこそ、クライアントが信用できる言葉が出てくる。そして、どのような反論を受けたとしても、流されずに目指すべきゴールに導くことができる。

 コンサルタントは課題解決のプロと呼ばれるが、業務コンサルタントには課題解決と同じかそれ以上に、改革の旗振り役としての仕事が強く求められる。人望、スキル、経験も大事なのだけれど、一番大事なのは「この人がそう言うから信じられる」「この人が言うならやろう」と思わせることなのだと思う。優れた人望やスキルや経験がない人であっても、リスクを取ってクライアントに同士と認められることは、簡単ではないができるはずである。もちろん、きちんと理屈の通ったプロジェクトばかりではないから、自分自身納得いかない心情で進めなければならない場面もあるが、それでも自分を騙しながら、旗を振り続けなければならないのだ。

 改革に反論はつきものだ。100人中99人が反対したとしても、それでも旗を振り続けなければならない。それがコンサルタントの仕事である。その近道は、最も非効率に見えるけれど、きちんと腹を括りクライアント以上に改革に身を投じることなのかもしれない。

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