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【3分で読めるダークファンタジー 】幻惑のハッピー・ピッツァ

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★この小説は
#3分で読めるダークファンタジー  「六花抄 -Tales like a ash snow - 」
銀髪の剣士の姉と魔道士の妹が残酷な世界を旅する、ほろ苦い物語。

過去作品はこちら(オムニバスなのでどこからでも読めます)
https://note.mu/narumasaki/m/m38dd8451bb44

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「おなかすいたね、お姉ちゃん……」
「ああ、ここ数日まともな食にありつけていないからな……」
銀髪の姉妹は旅を続けていた。
遠方に訝しい看板が見える。
【ハッピーピッツァ】
まるで、サーカスのテントのような見た目だ。
「ピザのお店だよ!はやくいこう」
そういって妹は足早に駆け出すのだった。

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ハッピーピッツァは、地産地消を掲げており、ここ数年で人気を博すようになった。
地元の乳牛から採れるミルクを使ったチーズ
農家から取り寄せた新鮮な朝どれ野菜
たっぷりの牧草を食べて育ったヘルシーポーク
そのヘルシーさから、地元の民に愛されていたという。
「ここのピッツァを食べると元気が出るんだ」
「仕事帰りにみんなでここに集まるのが日課なんだよ」

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長旅でお腹を空かせた二人に、マスコットキャラクターのハッピーくんがピッツァを差し出す。
「お待たせしたピ。特製ハッピーピッツァだピ」
ハッピーくんは、いわゆるゆるキャラの部類に入るらしい。
犬のような大きな瞳は少しとぼけた表情で、コック帽にエプロンをつけている。
後ろにチャックは……ないようだ。
「すっごくおいしい!」
「これは美味いな」
姉妹の会話を聞くとハッピーくんは嬉しそうに踊りながら、店内へ戻っていった。

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「こんな平和な村もあるのだな」
ふと安堵の声が漏れる。
「さて、今晩泊まる場所を探そう」

宿へ着くと、見知らぬおじさんに声をかけられた。
「おや、見かけない姿だね。この街は初めてかい?」
「ああ。ちょうど今日来たところなんだ」
「そうかい。実はこの村は、いま子供たちが神隠しにあう事件が発生していててな」
「神隠しだと?」
「そうだ、夜になるとこどもの姿が消える。それがここ何年も続いている」
「そんなことがあるの?戻って……来てないの?」
「ああ、戻ってきていないんだ。お前さん方も気をつけてな」

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部屋に戻り、長旅から駆使した身体をぼふんとベッドに埋める。
「神隠しか……気をつけないとな」
「あー、おいしかったな、またピザ食べたいな……」
「まったく、お前はのん気なやつだ」
「あの味、忘れられないなー、どうやってつくるんだろー」
「二の腕……」
「ぶー、お姉ちゃんとちがって細くてないですよーだ」
銀髪のくせ毛の少女はぷいっと顔を背けてふて寝するのであった。

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夜が更けた頃、ぱたりとドアの開く音がした。
「なんだ?洗面所か?」
重い瞼を擦りながら、妹を待つが一向に帰ってこない。
昼間に食べたチーズの香ばしい匂いが風に乗ってやってくる。
窓の外をふと見ると、子供たちが数人匂いに釣られ夜な夜な歩いている。
遠くに、銀髪のくせ毛の少女も見える。
「ま、待て!」
姉は妹を追いかけるのであった。

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「おい、どこへ行くんだ」
子供たちに声をかけるが返事がない。
瞳はまるで人形のように一点だけを見つめている。
子供たちの後を追っていくと、見覚えのある看板のお店にたどり着いた。
ハッピーピッツァ。昼間の店だ。

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銀髪の少女は店の裏口へと回る。
すると、店内から声が聞こえる。

「ヤハリ、ニンゲンの脳ミソは美味ダ。中でも若いオンナハ格別ダ」
ちゅるちゅるちゅると"何か"を吸い出す音が聞えてくる。
「毎度ありがとうございますだピ」
どこかで聞いたことのある喋り方だ。
「今日は極上の少女が入荷だピ」
「世にも珍しい銀髪の少女。くんくん。魔力のニオイがするピ」
「ホホゥ、ソイツも味ワッテミヨウデハナイカ」
マズイーー。助けなくては。少女は細剣を構えて店内へと突入するのであった。

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「そこまでだ。今すぐ子供たちを解放しろ」
「ギャギャギャ! 美味しそうなオンナだ」
「勝手に食糧が歩いてきたピ。今日は大漁だピ!」

銀髪の少女の繰り出す細剣は冷たかった。
なぜなら、あまりの速さに突かれたことに気づけないからだ。

「ーーアイシクルピアス」

凍てつく冷気を纏ったレイピアが異形のものを貫く。

「さ、寒イ……」
そう言い残した瞬間、鮮血が吹き出し、巨体はそのまま地面に倒れ込んだ。

「お前たちは許さん。子供たちは返してもらう」

「許さんだと?人間を食べることの何が悪いんだピ」
「お前たちだって、他の生き物を喰っているピ」
「自分たちを特別だと思ってイ……」
言葉の途中で喉元を突き刺されたのであった。

「あれ、お姉ちゃん?わたし、なんでこんなところに……?」
「もう大丈夫だ。宿へ戻ろう」

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それ以降、子供たちの神隠しはなくなった。
子供たちも無事に家へと帰っていった。
「俺たちは仕事帰りに何を楽しみにしたらいいんだ……」
「あぁ、あのピザをもう一度食べたい……」
ソウルフードを失った人々は生きる気力を失い、数年後ついにはその村は滅びたと言われる。

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