NARUKAMI Notes 003 『迷彩色の男』
安堂ホセ
『迷彩色の男』
河出書房新社, 2023.9
2022年の『ジャクソンひとり』から再び芥川賞候補となった安堂ホセの作品。
『ジャクソンひとり』と同様ゲイ、ブラックミックスといったマイノリティの視点から描かれた作品である。
全編を通して暗い情念、内にこもり圧を高めていく怒りを感じた。
多様性を大切に。互いの価値観を認めあいましょう。みんなちがってみんないい。嘘を言うな。そんなものは表面的な取り繕いだ。腹の中では見下し、嫌悪しているじゃないか。と、いわんばかり。
現代の多様性を巡る状況をテーマとしたものには朝井リョウの『正欲』があるが、あくまで問いかけてくるようなスタンスだった。
これに対して安堂ホセは容赦がない。後ろからいきなり頭をガツンとやられる。ような。
多様性を認めあう社会を目指す?ナメるなよ。考えが甘いんだよ。
このテーマを前にしたとき、対峙したものの闇を覗くことになる。同時にそれと対峙したときに自分自身の中にも闇が広がっていることに気付く。
クルージングスポットで男たちが求めあう場面に抵抗がないことはない。しかし今では抵抗を感じることが不適切とされかねない。だがやはり。
迷彩色の男はそんな闇に潜み、混乱と対立を煽る。奴はほんの少し背中を押すだけ。あとは自然に崩壊していく。
ストーリー進行については分かりにくいところがあり、展開を見落としてしまうところがあった。
文章表現は嗜好性が高い、読んでいてノッてくるタイプ。主人公の内部に潜り込むような感覚になる。
毒が強いが、それが魅力の作品。
第170回芥川賞候補作品。