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お酒は呑まないので呑まれない

 私はお酒を飲みません。一人で飲むことは無いし、飲み会のような場に行ってもお酒は断ります。理由はいくつかありますが、一番の理由は信仰上の問題です。

 私は上座部仏教を信仰しているのですが、上座部仏教の戒(在家修行者が守るべき決まり)の一つに不飲酒戒ふおんじゅかいというものがあります。文字通り酒を飲まない、という戒です。
 なぜお酒を飲まないようにという戒めがあるかというと、お酒を飲むと理性が弱まってしまうからです。仏教的な用語で言うと放逸ほういつになるから、という理由になります。
 放逸というのは心が怠けてしまい、善行に励まず悪行を行ってしまうような心の状態のことです。酔っ払って理性を失うと口が悪くなったり暴力的になったりすることがありますが、そういう状態です。もし言葉や手が出なくても、心は浮ついて落ち着いていないでしょう。それを仏教では好ましくない状態であるとして戒めるのです。

 もう一つ、私が飲まない理由は、飲んで痛い目を何度も見たからです。酔っ払って嘔吐したり、初対面の女性を口説いたり、二日酔いで次の日が一日動けなかったり、noteではとても書けないようなことをしてしまったり……。
 書ける範囲で一番の失敗は、酔っ払って路上で寝てしまったことです。飲み会の途中の記憶まであるのですが、気づいたら朝になっていて駅前の路上で目が覚めました。とても気持ち悪かったので近くのトイレに行って吐き、とりあえず家に帰ろうとしたら財布が見当たりません。たぶん、酔っ払って寝ている時に盗られたのでしょう。帰るに帰れなくなった私は通行人の人に声をかけ、10円をめぐんでもらって公衆電話で実家に電話をかけ、父に迎えに来てもらいました(飲み会をしたのが実家から車で来れる範囲だった)。父に「アホが」と笑われながら恥ずかしい思いをして帰りました。

 私は大学の時体育会に所属していたので、体育会のノリで先輩からめちゃくちゃ飲まされるというのがお酒の印象で強かったので、お酒自体がもともと好きではありませんでした。そのため、一人で飲むことはありませんでしたが、飲み会などでは飲んでいました。そして上記のような失敗を繰り返していました。
 社会人になって何年目かで上座部仏教に出会い、不飲酒戒ふおんじゅかいを知り、「じゃあお酒辞めよう」と思い、それからお酒を飲むのを辞めました。それ以来、お酒を飲んでいません。

 私自身は上記の理由でお酒は飲みませんが、他の人がお酒を飲むのを止めることはしません。その人にはその人の事情があるだろうし、お酒がストレス発散になる人がいるのも知っているので、私が止める権利もありません。
 それに、私は飲みませんが飲み会の雰囲気も好きなので、飲み会には誘われれば参加します。私が飲まないので相手に気を遣わせてしまうことがあるので、そういう時は申し訳ないなと思いますが、飲み会には参加したいと思っています。誘ってくれるというのは、少なくとも私に好意的である証拠だと思うので。


 ところで、私の父は大の酒好きです。私が実家にいた頃は毎日お酒を飲んでいました。父が心筋梗塞で倒れた後は、酒の量が減って、週に一度はお酒を飲まない日を設けているそうですが、それでもお酒を辞めることはありませんでした。父から酒を勧められても飲まない私を「つまらん奴じゃのう」と毎回愚痴ります。勘弁してくれ。

 ただ、父から聞いたお酒に関する話でとても印象に残っている話があります。それは父のお兄さんのお話です。
 父は10人兄弟の末っ子なので、何番目のお兄さんの話だったか忘れたのですが、昔はそんなにお酒を飲む人でなかったそのお兄さんが、歳をとってからお酒を飲むようになったそうです。父曰くそれは「飲まないとやっていられないから」だそうです。
 その話の後、お酒を飲まない私に対して父は「お前はまだ飲まないでもやっていられるんだろう。ということは、お前が大した苦労や苦しみを味わっていないからだ」と言いました。

 私にとってはお酒を飲むこと自体が苦しみなので、どんな苦しみの渦中にいてもお酒を飲むという選択はしないと思いますが、父の言わんとすることは分からないでもありませんでした。お酒を飲んで酔っ払うと、気分がハイになって辛いことや苦しいことを一時的に忘れることができるのは理解できます。現実でどうしようもなく苦しいけど、その苦しみを我慢するしかない時、お酒を飲んで酔っ払うことで一時的にその苦しみから逃げようとする心情は分からないでもありません。
 父は「社会で生きているとどうしようもなく辛いことがあるけど、その辛いことを耐え忍ぶのが大人だ」というような大人観を持っているので、そうした話をしたのでしょう。まあ、私が大した苦労も苦しみも味わってない、と断じられたのは癪でしたが。


 何事も人には合う合わないがあるので、少なくとも私にはお酒は合ってなかったのでしょう。私にはお酒で苦しみを紛らわすことはできませんでした。
 しかし、「酒を飲まないで長生きするより、酒を飲んで早死にした方が良い」とまで言うほどの酒好きの父から、父曰く「つまらん奴」である酒嫌いの私のような息子が生まれたのは不思議なことだなぁといつも思います。


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 最後まで読んでくださりありがとうございました!