読んだ本 2024年11月号 13冊


★★★★★ / 創造力を生かす 新装版: アイディアを得る38の方法

本書はブレーンストーミングの出自とされている。古典だけあり、新しい知見もあるし、認識を改めるきっかけにもなる。
ブレーンストーミングへの言及があるのは終盤の第33章からであり、大部分は創造力について書かれている。

本書の中では、創造力は判断力と相対する言葉として扱われている。

創造力をつちかうためには、いくらでもすることがある。学校に行き、歴史を読み、論理学を学び、数学を研究し、討論し、審議し、是非を決めればよい。それでは創造力をつちかうにはどうすればよいのだろうか。やむない必要に迫られた時以外は、我々は創造的な考えなどとんと使わないのが実情ではないだろうか。本書を読み終えて、読者が自分の創造力を認識されるようになれば欣快この上もない。

第1章 アラジンのランプは今も輝く

本書において、創造力は突然発生するものではない。

創造的な計画において、予備的段階のものは、(1)問題を分析し、(2)骨組みを立て、(3)事実を挿入し、(4)定型を作りやすいように全事実を関連づけること、である。定型は求めるアイディアに到達するための魔法の地図となる。

第18章 問題を分析し、事実を挿入する

創造力が準備なしに発生するものではないことも強調されている。

啓示は気を抜いている時にやって来るものではあるが、それには前もって努力を重ねておくことがどうしても必要である。知的努力を怠る楽天家の欠点は、啓示を過大評価し努力を過小評価することである。本当は、怠けている時に得られるアイディアはいわば特別配当にすぎないのだ。

第29章 心の窓をあけて精神を遊ばせよう

個人の重要性や複数人数で創造力を行使する際の方法にも言及がある。

組織化された研究態勢の進展を最も大きく支えているのは個人の創造力である。

第32章 「三人寄れば文殊の知恵」か?

わが社でのグループ思索を私が組織したのは一九三九年である。初期の参加者はこれを「ブレーンストーミング会議」と名付けた。すなわち、頭脳に嵐を引き起こして各参加者が一つの創造的な問題に攻撃的に取りかかることを意味する。

第33章 アイディア創造にふさわしいチームの作り方

最終章では教育に言及し、要望という形でまとめている。

教育の根本目的は意識的努力の開発にあることを学生に理解させるべきである。

第38章 教育界への要望

創造力を万能薬として扱い過ぎている箇所もあるが、創造的であるための指針を提供してくれるという点では貴重な古典の一つであると感じた。

★★★★☆ / 21世紀の長期停滞論 日本の「実感なき景気回復」を探る

いま、なぜ長期停滞に対する懸念が高まっているのか。21世紀型の長期停滞とは、どのような特徴を持ったものなのか。また、これは懸念すべき深刻な問題なのか。長期停から脱却するには、どのような政策が必要なのか─。

21世紀型の長期停滞とは

現在の経済状況が過去に起こったショックに依存するヒステリシスが存在するという立場から、21世紀の景気後退や現状を分析的に解説する。

長期停滞は、ゴードンらが指摘する生産性の低迷など供給サイドの問題と無縁ではないものの、貯蓄過剰=需要不足が主たる要因となって発生したと考える方が自然である。
なぜなら、生産性の低下など供給サイドの制約が低迷の原因である場合、不況とインフレが同時進行するスタグフレーションと呼ばれる現象が発生し、低インフレにはならないからである。

需要不足から捉える長期停滞論

★★☆☆☆ / 学力喪失 認知科学による回復への道筋

認知科学と称しているが、期待した程度に科学的な見解はなかった。

前半は算数の文章問題などに対する子供の誤回答と、誤回答に至る過程の分析がされている。分析は想像による記述であるように感じたし、学習方法の異なるグループを比較している訳でもないので、学習の方法によって結果が異なることも示せていない。

終章にあるAIの記号接地の問題を子供の思考に拡張する流れでも、主張は理解するものの、短絡的な発想であると感じた。もっとも、この印象は記号接地を詳しく知れば変わるのかも知れない。

内に秘める子供心が反発を覚える箇所が多かった。

★★★☆☆ / 「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30

本書には問題に対する2つのアプローチが存在する。

ひとつは、問題の見方を変えるアプローチで、記述の大部分がこちらを占めている。

「悩まない人」は「問題に対する答えを導く能力」ではなく、「問題そのものを消し去るスキル」のおかげで悩まずに済んでいるのである。...前提を変えると、たいていの問題は問題ではなくなる。

悩まない思考の大原則② 問題は「解決」しなくてもいい。

もうひとつは、スキルの向上によって問題を解決するアプローチである。

仕事のレベルが低いままだと、どうしても見えない価値がある。だから、仕事のレベルが低いうちは、基本的に仕事は面白くない。逆に、スキルが上がっていけば、いろいろな「面白さ」にアクセスできるようになる。

09 「仕事がつまらない」のは「面白がるスキル」のせい。

「悩まない人」は「全部自責思考」である。...「全部自責思考」の人は「責任を取る=問題を解決する」と考える。だから責任を取る行為とは、自分はもちろん、他人やほかの原因で失敗したことに対して問題を解決したり再発防止策を打ったりすることである。

16 松下幸之助「雨が降っても自分のせい」の真意。

本書は一見ものごとの捉え方を変えれば悩みはなくなるという主張のみを含んでいるように見えるが、暗黙的に能力や持続的なスキルの向上を前提としているように思える。

潜在的にでも問題を解決する能力を持つ人にとって問題解決の過程が悩みに含まれないとすれば、普通の感覚からずれた理論展開になるのではないだろうか。
生活を脅かすような問題があり、かつそれに対して解決能力をまったく持たないような状況における悩みには本書は効力を持たないのではないかという印象を受けた。

★★★☆☆ / BRAIN DRIVEN (ブレインドリブン)

本書は「モチベーション」「ストレス」「クリエイティビティ」の3つのチャプターから構成される。

脳の構造と分泌されるホルモンなどの説明を添えているが、モチベーションの説明は主に外発的なものに限られていて、行動主義の立場から分析をしている。

古くは心理学において「パブロフの原理」として説明されたことが、神経細胞レベルでも確認された。これを「ヘッブ則」という。

モチベータと身体的動作を関連づける

一方で、恣意的な理論を構成している箇所もある。

ビジネスパーソンであればほとんどの人が聞いたことがあるであろう「マズローの自己実現理論」は、1943年に発表された「A Theory of Human Motivation」に書かれている。...ここでは、神経科学の解剖学的な見地から「神経科学的欲求五段階説」を唱えたいと思う。

CHAPTER1 MOTIVATION 03 神経科学的欲求五段階説

モチベーションについては上記の方針がほぼすべてを占めている。

クリエイティビティにある人工知能についての記述は、論理展開が怪しい。構造的な類似性やアウトプットの評価をした方が建設的な議論に繋がるのではないかと感じる。

まったく異質なものを比較対象にするのは時代遅れと言える。...人間の脳と人工知能がまったく異質なものだと言い切れる根拠として、そもそも生成基本物質が異なる点も挙げられる。

人間の脳と人高知能はまったくの別物

最新の脳の研究結果を心理学的な理論の説明材料として使用するような構成になっていて、たしかに脳の状態についての知識には触れることができるものの、本書の期待値に含まれるであろう日常生活での応用には役立てづらい内容になってしまっている印象を受けた。

★★★★★ / すべての、白いものたちの

★★★★☆ / 学習物理学入門

ニューラルネットワークのための計算の初歩的な解説、最尤推定の確率分布やKLダイバージェンスからの導出などからはじまり、いくつかのテーマの入門のための解説がされる。

・量子多体系の基底状態の計算
・トランスフォーマーの計算式
・拡散モデルの計算式
・大規模言語モデルの紹介

計算物理学や LLM にすでに触れたことのある読者に向いていて、一般的な入門書のイメージとは違い、学習物理学というカテゴリがどのような研究分野を含むと捉えられているかを示す例が集められていると考えるのがいいと思う。

★★★★★ / エンジニアチームの生産性の高め方 〜開発効率を向上させて、人を育てる仕組みを作る

本書が提供するのは汎用的な解決策や、普遍的な理論ではありません。各章に記されているのは、それぞれの著者が、自身の経験と専門性をもとに導き出した、生産性を向上させるための具体的かつ実践的な自説です。

はじめに

上に書かれている通り、経験に基づいた記述であることが読んでいてもわかるような参考になる内容となっている。2部構成、合計7つの章から構成されていて、気になった章を複数人で読み合わせて、活用できる箇所を相談するといったような使い方にも適している。

第1部 開発プロセスと生産性
 第1章 Product Requirements Document
 第2章 Design Doc
 第3章 ブランチ・リリース戦略
 第4章 リアーキテクトにおけるテスト
第2部 開発チームと生産性
 第5章 実践エンジニア組織づくり
 第6章 エンジニアリングイネーブルメント
 第7章 開発基盤の改善と開発者生産性の向上

★★★★☆ / 愛するということ

★★★☆☆ / UXデザインの教科書

UXデザインに関係するテクニカルな記述がほとんどを占めており、読んでいてもUXとはなにかという実感が湧かない。構成の説明には "「伝統的な教科書」の形式で構成されており" とあり、内容も教科書的である。

学問分野として体系的な知識を取り入れつことによってユーザーにとっていい体験を提供できる能力が身に付くとはなかなか思えないし、教科書的な記述のUXの悪さからくる拒否反応があった。

イメージが湧きやすく共感できるような具体例が少なく、ISOによる定義や形式的な整理が多いのも実感が湧かない理由になっていると感じる。

少なくとも、実際の業務の中でこれらの定義を提示したのでは周囲から好ましい反応を得ることは難しいだろう。

★★★★★ / プロセス・オブ・UI/UX[UXデザイン編]

コンセプトは、サービスやプロダクトを作っていく際の今後の明確な「判断基準」となる言葉です。それは、その会社の社長の鶴の一声さえも跳ねのけるくらいのパワーがあってしかるべき言葉です。

コンセプトの定義

本書は5つのチャプターから構成されている。

CHAPTER 1 リサーチ
CHAPTER 2 ユーザー調査
CHAPTER 3 企画
CHAPTER 4 要件定義
CHAPTER 5 リリース後のUI/UXの改善プロセス

ISO 上の定義や形式的な方法論の説明に終始しがちな UX の解説が多い印象があるが、その中でもめずらしくわかりやすい例を提示しつつ広い範囲をカバーしている書籍として、おすすめできる。

コンサル的な立場からの説明が多かったりするが、そういった前提を踏まえていさえすれば、UX という言葉が表現している職責の範囲のイメージを持つ手助けになる。

★★★★☆ / プロセス・オブ・UI/UX[UIデザイン編]

UIデザインというより、情報整理の方法というイメージに近い。UXデザインの要素も多く含んでいるので、UXデザイン編の補足として読むのがいいと感じた。

★★★★☆ / UX原論 ユーザビリティからUXへ

現代のUXの概念に至るまでの標準化の議論の詳細や、それらに付随する概念、時代背景などについての説明が詳しく書かれている。

わかりやすい図も添えられており文章もよく考えられて書かれていて、ところどころ思想が強い。

世間では UX デザイン、略して UXD という言い方が普通になっている。著者はこれに強い違和感を覚える。UX というのは、ユーザという「他人」の経験だ。他人様の経験を作ることができるなどと考えるのは、思い上がりもはなはだしい、という気持ちがするからだ。

安易に UX デザインというべきではない

歴史的な背景や厳密な定義は知っていれば応用が効くのかもしれないが、そのような知識は実務で主張できるものではないので、そういう意味で形式的な知識が大半を占めている書籍だと感じた。

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