読んだ本 2024年11月号 13冊
★★★★★ / 創造力を生かす 新装版: アイディアを得る38の方法
本書はブレーンストーミングの出自とされている。古典だけあり、新しい知見もあるし、認識を改めるきっかけにもなる。
ブレーンストーミングへの言及があるのは終盤の第33章からであり、大部分は創造力について書かれている。
本書の中では、創造力は判断力と相対する言葉として扱われている。
本書において、創造力は突然発生するものではない。
創造力が準備なしに発生するものではないことも強調されている。
個人の重要性や複数人数で創造力を行使する際の方法にも言及がある。
最終章では教育に言及し、要望という形でまとめている。
創造力を万能薬として扱い過ぎている箇所もあるが、創造的であるための指針を提供してくれるという点では貴重な古典の一つであると感じた。
★★★★☆ / 21世紀の長期停滞論 日本の「実感なき景気回復」を探る
現在の経済状況が過去に起こったショックに依存するヒステリシスが存在するという立場から、21世紀の景気後退や現状を分析的に解説する。
★★☆☆☆ / 学力喪失 認知科学による回復への道筋
認知科学と称しているが、期待した程度に科学的な見解はなかった。
前半は算数の文章問題などに対する子供の誤回答と、誤回答に至る過程の分析がされている。分析は想像による記述であるように感じたし、学習方法の異なるグループを比較している訳でもないので、学習の方法によって結果が異なることも示せていない。
終章にあるAIの記号接地の問題を子供の思考に拡張する流れでも、主張は理解するものの、短絡的な発想であると感じた。もっとも、この印象は記号接地を詳しく知れば変わるのかも知れない。
内に秘める子供心が反発を覚える箇所が多かった。
★★★☆☆ / 「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30
本書には問題に対する2つのアプローチが存在する。
ひとつは、問題の見方を変えるアプローチで、記述の大部分がこちらを占めている。
もうひとつは、スキルの向上によって問題を解決するアプローチである。
本書は一見ものごとの捉え方を変えれば悩みはなくなるという主張のみを含んでいるように見えるが、暗黙的に能力や持続的なスキルの向上を前提としているように思える。
潜在的にでも問題を解決する能力を持つ人にとって問題解決の過程が悩みに含まれないとすれば、普通の感覚からずれた理論展開になるのではないだろうか。
生活を脅かすような問題があり、かつそれに対して解決能力をまったく持たないような状況における悩みには本書は効力を持たないのではないかという印象を受けた。
★★★☆☆ / BRAIN DRIVEN (ブレインドリブン)
本書は「モチベーション」「ストレス」「クリエイティビティ」の3つのチャプターから構成される。
脳の構造と分泌されるホルモンなどの説明を添えているが、モチベーションの説明は主に外発的なものに限られていて、行動主義の立場から分析をしている。
一方で、恣意的な理論を構成している箇所もある。
モチベーションについては上記の方針がほぼすべてを占めている。
クリエイティビティにある人工知能についての記述は、論理展開が怪しい。構造的な類似性やアウトプットの評価をした方が建設的な議論に繋がるのではないかと感じる。
最新の脳の研究結果を心理学的な理論の説明材料として使用するような構成になっていて、たしかに脳の状態についての知識には触れることができるものの、本書の期待値に含まれるであろう日常生活での応用には役立てづらい内容になってしまっている印象を受けた。
★★★★★ / すべての、白いものたちの
★★★★☆ / 学習物理学入門
ニューラルネットワークのための計算の初歩的な解説、最尤推定の確率分布やKLダイバージェンスからの導出などからはじまり、いくつかのテーマの入門のための解説がされる。
・量子多体系の基底状態の計算
・トランスフォーマーの計算式
・拡散モデルの計算式
・大規模言語モデルの紹介
計算物理学や LLM にすでに触れたことのある読者に向いていて、一般的な入門書のイメージとは違い、学習物理学というカテゴリがどのような研究分野を含むと捉えられているかを示す例が集められていると考えるのがいいと思う。
★★★★★ / エンジニアチームの生産性の高め方 〜開発効率を向上させて、人を育てる仕組みを作る
上に書かれている通り、経験に基づいた記述であることが読んでいてもわかるような参考になる内容となっている。2部構成、合計7つの章から構成されていて、気になった章を複数人で読み合わせて、活用できる箇所を相談するといったような使い方にも適している。
第1部 開発プロセスと生産性
第1章 Product Requirements Document
第2章 Design Doc
第3章 ブランチ・リリース戦略
第4章 リアーキテクトにおけるテスト
第2部 開発チームと生産性
第5章 実践エンジニア組織づくり
第6章 エンジニアリングイネーブルメント
第7章 開発基盤の改善と開発者生産性の向上
★★★★☆ / 愛するということ
★★★☆☆ / UXデザインの教科書
UXデザインに関係するテクニカルな記述がほとんどを占めており、読んでいてもUXとはなにかという実感が湧かない。構成の説明には "「伝統的な教科書」の形式で構成されており" とあり、内容も教科書的である。
学問分野として体系的な知識を取り入れつことによってユーザーにとっていい体験を提供できる能力が身に付くとはなかなか思えないし、教科書的な記述のUXの悪さからくる拒否反応があった。
イメージが湧きやすく共感できるような具体例が少なく、ISOによる定義や形式的な整理が多いのも実感が湧かない理由になっていると感じる。
少なくとも、実際の業務の中でこれらの定義を提示したのでは周囲から好ましい反応を得ることは難しいだろう。
★★★★★ / プロセス・オブ・UI/UX[UXデザイン編]
本書は5つのチャプターから構成されている。
CHAPTER 1 リサーチ
CHAPTER 2 ユーザー調査
CHAPTER 3 企画
CHAPTER 4 要件定義
CHAPTER 5 リリース後のUI/UXの改善プロセス
ISO 上の定義や形式的な方法論の説明に終始しがちな UX の解説が多い印象があるが、その中でもめずらしくわかりやすい例を提示しつつ広い範囲をカバーしている書籍として、おすすめできる。
コンサル的な立場からの説明が多かったりするが、そういった前提を踏まえていさえすれば、UX という言葉が表現している職責の範囲のイメージを持つ手助けになる。
★★★★☆ / プロセス・オブ・UI/UX[UIデザイン編]
UIデザインというより、情報整理の方法というイメージに近い。UXデザインの要素も多く含んでいるので、UXデザイン編の補足として読むのがいいと感じた。
★★★★☆ / UX原論 ユーザビリティからUXへ
現代のUXの概念に至るまでの標準化の議論の詳細や、それらに付随する概念、時代背景などについての説明が詳しく書かれている。
わかりやすい図も添えられており文章もよく考えられて書かれていて、ところどころ思想が強い。
歴史的な背景や厳密な定義は知っていれば応用が効くのかもしれないが、そのような知識は実務で主張できるものではないので、そういう意味で形式的な知識が大半を占めている書籍だと感じた。