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ふわふわプロジェクトをデザインするには? ~デザインプロセスにおける生成AIの価値探索と検証を通じて~

社内のSNSにて、生成AIに関連するPower Appsを作って公開していたところ、「デザインプロセスにおいて生成AIがどのような価値をもたらすか、探索と検証をするプロジェクトをやらないか?」とお声がけいただきました。

「何ができるかわからないけど、ともかくやってみます」と回答し、約1年間(2023年5月~2024年3月)、「デザインプロセス×生成AI」に関心を持ったメンバー7名とさまざまなTry & Learnを繰り返してきました。

やってみての感想として、こうした「何をしたらいいのかよくわからない」かつ「技術の進化が早くて、1か月前の情報が陳腐化してしまう可能性がある」ようなプロジェクトの場合、進め方が難しいなと感じました。けれど、この1年、プロジェクトを立ち上げたときには想像しなかった様々な実りがあったので、記事にまとめることにしました。

この記事では、同じように「(デザインプロセスで)生成AIがどう使えるのかいろいろと試してみようってプロジェクトが立ち上がったけど、どーしたらいいのよ」という方に向けて、「こんな風に私たちはプロジェクトを進めてきたよ(よかったら参考にしてみてね)」ということを書いてみます(途中、デザインプロセスにおける生成AI活用の探索と検証結果も一部書きますが、そちらはメインではありませんのでご留意を)。

生成AIに出力してもらった本プロジェクトのイメージイラスト 
この1年で画像生成AIもかなりアップデートが走っているな…と感じます


プロジェクトが始まった背景

今置かれている環境にもよりますが、生成AIが出てきて「自分の学びや仕事に影響がありそうだな」と思った方は多いのではないかと思います。

私は現在大学院に通っていますが、生成AIなしで大学院に通うことがイメージできないぐらい、生成AIは自分の相棒となっています。

私のふだんの仕事はIT企業におけるサービスデザインで、大学院でバンバン生成AIを使う中、「仕事も生成AIでもっと変わっていくだろうな」という感触を持っていました。

けれど、具体的にどのように仕事の中で活用するといいのか、新しい価値を生み出せるのか…は未知数。そのため、道が見えなくともまずは何かしら価値を探索し、形にし、検証してみることになりました。

また、プロジェクトを始めたころ、「デザイナーがAIと向き合うために知っておくこと」という資料と動画に出会いました。こちらは、宮城県産業技術総合センターの伊藤利憲さんが公開してくださっているものです。

拝見して、自分の中で生成AIへの理解がかなりすすみ、非常に感銘を受けました。また、”AIと向き合う”と”まとめ”の項目を見て共感することが多く、あらためてこのプロジェクトをやる意義を感じました(資料は以下となりますので、ぜひご一読ください!)。


ふわふわプロジェクトの進め方

…と、だいぶやる気に満ちてはいたのですが、生成AIという「技術そのものが不確実でこれからどんどん成長はしていくし、何ができるのかよくわからん」という技術を扱ったプロジェクト(ここでは「ふわふわプロジェクト」と定義します)経験は、私にはありません。

今までのさまざまなプロジェクト経験を加味して、時に生成AIに壁打ちしてもらいながら、以下のような流れで進めることにしました。

1.「やること」と「やらないこと」を決める

全体の方針として、どういったスタイルやターゲットにフォーカスするかを決めました。

技術がどんどん変わっていくので、「ロードマップを作って、それを守る…といういわゆる大規模ITプロジェクトのような進め方はとらない方がいいな」ということはすぐ決まりました。

フットワーク軽く、計画も軌道修正できるように、以下のように「やること
」と「やらないこと」を定めました。

<やること>

  • 探索と価値検証のフィードバックループを回す

  • 「AIについてそんなに知らないけど好奇心はある」人をターゲットと想定して何かを作る

  • 3か月ごと(3カ月を1Cycleと定義する)にざっくりを活動方針を決める、見直す

<やらないこと>

  • お金をかけた海外含めた最新リサーチ(2023年4月だけでもAIサービスは2000ほど誕生している。 状況が落ち着いてからリサーチしたほうが良さそう)

  • 「AIについて超知ってるすごい人」をターゲットと想定して何かを作る

  • 年間スケジュールを決めてきっちりそれを守る


2.「私たちにとってのデザインプロセスとは何か?」について、認識を合わせる

「やること」と「やらないこと」を決めた後は、あらためて「私たちにとってのデザインプロセスは何か?」について合意しました。

「デザインプロセス」と一口に言っても、本当にさまざまなプロセスが存在するのですよね…。

「デザインプロセス」で画像検索してみた結果

私たちは、普段自分たちがどのように仕事をすすめているかを俯瞰し、プロセスを洗い出すことから始めました。


3.実際にトライアルをしてみて、デザインプロセスのどのあたりに価値を発揮しそうかあたりをつける

次に、合意したデザインプロセスにおいて、どのあたりに生成AIが価値を発揮しそうかアイデアを出します。

「いろんなところで使えそうだね」といった抽象的なコメントで終えてしまうと次に進みにくいので、具体的にどういったことができそうかを書いていきました。

デザインプロセスのどのあたりで生成AIが活躍できそうか、アイデアをプロットした図


4.特に価値を発揮しそうな箇所に絞り、プロンプトソンを実施してみる

3.で出したアイデアの中で、特に価値を発揮しそうな箇所や、気になるのでやってみたい箇所などを抽出し、その個所をテーマにしたプロンプトソンを実施します。

具体的な実施の仕方は以前のこちらのnoteに書いてあるので、よければ参考にしてみてください。

実際に3回実施したプロンプトソン
毎週準備するのはなかなかハードでした…w

5.4.のプロンプトソンでの気づきをふまえて、今後やってみたいことのアイデアを出し、サブチームを作って活動する

私たちは3回ほど、テーマを変えてプロンプトソンを実施しました。

3回やると「AIを使うタイミングはこういうときだね」「AIを使うとこんなネガティブさもあるね」「そもそもAI使ってもデザインプロセスって効率化しなくない…?」「AIがあっても丸投げはできないよね、判断は人がしないとね」「AIによって人の存在意義がより際立つね」など、さまざまな気付きがでてきました。

そうした中、「次のステップとして自分たちがやってみたいこと、欲しいもの」を出し合い、9人を3つのサブチームにわけて活動をすることとしました。これについては次の大項目で詳細を記載します。

6.これらの活動と並行して、生成AI事例をリサーチする

こうした活動に加え「生成AIの動向や出てきている新たなサービスについて全員で少しずつ調べて共有し、今後のさまざまなエクスペリエンスがどう変わっていくだろうか想像して対話する」というリサーチ活動も変更して実施しました。これにより、自分たちの視野を広げ、次に試したいことのストックを拡張していきます。

リサーチの切り口はさまざまですが、2024年1~3月の3か月間は以下を起点に集中的にリサーチを実施しました。
・著作権、倫理、社会問題
・エンターテイメント、マーケティング、健康・美容
・ビジネス、技術開発
・人事、労働、教育


具体的なサブチームの取り組み

ここからは、具体的なサブチームの取り組みを、ピックアップしてご紹介します。

1.サービスデザインにおけるAI活用書の作成とプロジェクトでの実証

プロンプトソンを実施したことにより、各デザインプロセスで「こんなプロンプトがあったらいいんじゃないか」といった点が見えてきたため、試行錯誤しながら活用書としてまとめました。

本活用書の内容を実際に案件で利用することで、お客様に価値を感じていただくことができたり、サービスデザイン自体を実施することが初めての方がこの活用書を使って実践することで、短時間でインスピレーションが得られたりしました。


2.生成AI入門ワークショップの作成と開催

「生成AI環境を社内に作っては見たものの、あんまり使われていない…」といった他社のITご担当者の方や、「ChatGPTに課金したけど、結局何も使ってない」といった声もちらほら耳にします。せっかくなら生成AIをうまく活用して、人間は人間だけにしかできない仕事にフォーカスしたいですよね。

プロンプトソンを実施したことで、「どのような体験をすれば、もっと生成AIを活用することができそうだと感じられるか」がわかってきたため、生成AIをあまり使ったことがない人向けのワークショップを作成することにしました。

本ワークショップは社内の誰でも活用できるよう、Miroボード上に作成し、ファシリテーターのガイドも作って社内の全社基盤に公開しています。
自分が把握しているだけでも、70名ほどに参加いただき、アンケートの満足度平均は4.2(5段階評価)をもらっています。

こちらのワークショップはたまたまMiroのイベントで社内のメンバーが共有してくださったので、その講演内容をはっておきます。


3.うんこドリル「AIとのつきあい方」体験会の企画と実施

2023年9月、文響社さんと富士通で「Fujitsu×うんこドリル AIとのつきあい方」を作成し、公開しました

冊子はとてもおもしろいのですが、「冊子を配るだけだともったいない!もっと何かしたい!」と過去に私のジョブシャドウイングをやっていた門馬さんからお声がけいただき、親子向けの体験会を企画・実施することになりました。

(「うんこ💩」を会社の中で言うことが、最初はものすごくハードルだったのですが、だいぶ慣れました…w)


取り組みの波及

こうしたさまざまな取り組みを実施し、社内外に発信していく中でいろいろとお声がけをいただくようになりました。

1.Microsoft Copilotのトライアル参画

デザインプロセス…とは直接関係はありませんが、社内で始まったCopilot for Microsoft 365のトライアルプロジェクトにもお声がけいただき、メンバーの一部参画しました。さまざまなユースケースを出しています。


2.「デザインプロセス大解剖」イベント登壇

デザインプロセス×生成AIの日本初(?)のイベントに、本プロジェクトメンバーで私の上司が登壇することになりました。このnoteでは紹介されていない内容を話す予定のため、ぜひお聞きいただければと思っています。

2023/3/28追記:アーカイブが出ましたのでこちら貼り付けておきます


このプロジェクトを通した9人の気づきと学び

こうして価値探索と検証を繰り返す中、最後の振り返りを実施しました。
このプロジェクト自体は今年で終わりのため、Fun/Done/Learnのフレームワークを使って振り返りをすることにしました(私は、継続しないプロジェクトの際、このフレームワークをよく利用しています)。

みんなのFun/Done/Learn テンプレはMiroversより


気づきと学びを見てみると、総じて「生成AIを活用するようになった、効率化した、自分の生成AI遣い度合いに自信が持てた」といったコメントが多く寄せられました。「生成AI側にインプットを渡すためには自分にも多くの入力が必要」と、生成AIを通して自分自身のスキルを振り返ったメンバーも。

また、他チームの方に生成AIの活用を促したり、今までは縁のなかった生成AIの研究者との関係性ができて新たなプロジェクトが始まるきっかけになったメンバーも。

私自身は、生成AIを活用すればするほど、「人間はどのような存在なのかを理解するプロセスだな…」と感じるようになりました。

■生成AIを活用するようになった、効率アップした、自信が持てた
「生成AIを業務で活用するようになった」
「生成AIが使える人として自信が持てた」
「困ったら生成AIに聞くというメソッドを身に着けた」
「自分にも多くの入力が必要。この活動で膨大なプロンプト例とその出力をインプットできた」
「ちょっとした文章を生成AIに相談する習慣がついた」
「生成AI使えるようなことで日々の作業が効率アップ✨」
「自分なりのプロンプトの書き方が生まれた」

■他者への波及
「他のチームメンバーに活用を促した」
「研究者との技術活用のディスカッションへとつながった」

■AIと人との関係性

「生成AIを使うということは、本質的には人間を理解していくことにつながっていく」

このプロジェクトを通した9人の気づきと学び


なぜこのプロジェクトを閉じたのか

ここまでお読みいただいた方は「こんなにうまくいっているなら、このプロジェクト2024年度も続けた方がいいんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。

しかし今回、以下の観点からこのプロジェクトは終了することにしました。

  1. 具体的にどのように仕事の中で活用するといいのかがある程度見え、うんこドリルAI体験会などの新しい価値が生み出せたため。

  2. 本プロジェクトメンバーは、生成AIを活用することが日常になっており、今後も自分たちで切磋琢磨できるため。

  3. 何かしらの課題を解決するために生成AIを活用すべきだが、このプロジェクト自体は生成AIが起点になっているので、これ以上の実践の広がりが見いだせなかったため(反面、このプロジェクトがなくても何かしらの課題を生成AIを使って解決する新たなプロジェクトを立ち上げることも可能だと思ったため)。

プロジェクトは始めるのは簡単ですが、どう終えるのかが難しい。
終わりのデザインも大事だと思っています。

これから「(デザインプロセス)×生成AI」のプロジェクトを始める人に向けて

生成AIは今後一体どう発展していくのか未知数の技術だな…とあらためて感じています。そうした技術を扱うときは、どうか楽しみつつ価値探索の検証を実施していってほしいなと思っています。

ともすると、「部署内生成AI利用者〇%」、「生成AI活用プロジェクト〇%」といったKPIが立ってしまい、生成AIを活用する(させる)ことが目的となってしまいがちなプロジェクトでもあると思います。

けれど、技術というのはそうしたKPIを達成するためのものではなく、人間の本来の能力を高め、今まで諦めていた・できなかった扉を開くものだと私は考えています。

最後に、冒頭で紹介したこちらの資料のラストに書かれていた内容を引用してこの記事を終えたいと思います。

A Bicycle of the Mind
最も効率的に移動する動物のリストで、トップのコンドルに対し、人間はずっと下位である。
しかし、人間が発明した自転車にはコンドルもかなわない。私たち人間は、道具を作る生き物であり、固有の能力を増幅させる道具を作ることができる。

私たちにとって、コンピューターは常に、心の自転車であり、人間の本来の能力をはるかに高めてくれる。

Steve Jobs, 1980


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