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向井潤吉アトリエ館(東京都世田谷区・駒沢大学駅)

民家を中心として描いていた向井潤吉。彼のアトリエがあった世田谷の地に世田谷美術館の分館という形で展開されているのが向井潤吉アトリエ館。駒沢大学駅から少し歩いた場所、住宅街の中にある美術館である。

石段を上って少し小高い位置にある和風の邸宅へとお邪魔すると、目の前には囲炉裏がお目見え。なんとも民家である。さすが民家を描いていた向井潤吉らしい。実はこのほかにも長持ちや抽斗など多くの調度品があって、それらは全て実際に使用していたものだという。

庭先からのぞむ入口

履き物を脱いで入る館内、最初は彼の使っていた和室が紹介されている。普段はこの辺りで寛いでいたらしい。隣接するアトリエにはイーゼルと絵具箱もある。かなり使いこなしていたことが想像できてそれ自体が作品だと思えるほど。

展示室Aは邸宅と繋がっている蔵の中にある。もともとは地方の民家にあった蔵を移築してきたもので、向井本人によって胡老軒という名前が付けられている。彼の敬愛するコローを模してつけられたもので、扉のすぐ上にはそのまま「コローを模して」という作品が飾られている。
ロフト状になっており、1階と2階とで民家を中心にした作品が展示されている。民家でありながらどこか人がいないような、でもよく見ると生活の息吹が感じられるという不思議な感覚になる彼の絵は実際に現地へ赴いて描かれたものだという。ロフトへ上がる階段の下にはこれまた彼の愛したこけしなどの民芸品が残されている。
2階で作品を一通り眺めていたら、床に絵の具が散乱している箇所を発見して思わず後ずさる。なんとも画家のアトリエらしい。各部屋に配されている椅子も年季が入っていてそこに向井の息吹を感じてみるのも良いかもしれない。

左手に見えるのが胡老軒

展示室Bは居住エリアの方にある。階段を上った2階が展示室になっている。階段の途中には水彩画で描かれた作品も。油絵とはまた違う繊細なタッチの作品なのが面白い。
全体を通してなんとも冷たい雰囲気の作品が多いのは、彼が訪れるのが初冬から5月にかけてという割と限られた季節によるものかもしれない。曰く、茂った草木が邪魔になるのと緑色が不得手ということから夏場はあまり描かなかった様子。全国いろいろな場所を巡っていて、旅行パンフレットなども大量に残されている。
とにかく作品も穏やかで、展示室自体がゆっくりとくつろげる空間になっている。車道とも離れていることから騒音もほとんどなくてゆっくりと過ぎて行く時間を感じるのにとても良い。トイレは個室で洋式。

屋内には庭先を眺められる休憩椅子もある


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