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東京都写真美術館(東京都目黒区・恵比寿駅/TOPコレクション セレンディピティ展)

東京都写真美術館では3万7000点に及ぶ膨大な収蔵品の中から「セレンディピティ」をキーワードに、ありふれた日常の何気ない一瞬を撮影した作品を見て行くことで作家にとっても予期せぬ素敵な発見となった心の機微を探るコレクション展を実施する。いくつかのテーマに分けてそれに関連する形で写真家の作品を紹介している。ところで東京都写真美術館の入っている恵比寿ガーデンプレイスは渋谷区なのだけれど、東京都写真美術館を含めた一部の敷地のみ目黒区となっている。ややこしい。

「しずかな視線、満たされる時間」の章ではルポルタージュ性の高い写真を撮っていた北井一夫が身近な場所を撮影モデルとして選んだユズ3個、紙屑3個の作品から始まり、持病によって常に死ぬ危険性を孕んでいた牛腸茂雄が何気ない日々を切り取った写真、潮田登久子による冷蔵庫、その夫である島尾伸三による家族の写真は、それぞれがおそらく同じ空間に撮影された、なんとも優しい視線が伝わってくる作品だったり、他にも吉野英理香や今井智己の日常を切り取った写真が並ぶ。

著名な写真家の作品が数点ならぶ

「窓外の風景、またはただそこにあるものを写すということ」ではエドワード・マイブリッジによる生き物の動きを連続撮影した写真が印象的。中でも『犬。駆ける。白い競争犬、マギー』は印象深い作品である。実は会場の入り口から犬の足跡が点在しており、会場の壁には所々に犬と鳥が描かれている。これは犬のマギーと鳥のジョビンによる写真展を巡る物語として演出されているもの。電車の窓から風景が流れる様を線画のようになるまで映し取った葛西秀樹、観測地点を同じにして変化する時間を映し取った山崎博の他、相川勝、佐内正史、鈴木のぞみ、浜田涼の作品があり、室内のグリーンフィールドに足を踏み入れてゆっくりと鑑賞するのもまた良い。

靴を脱いで踏み入れてみよう

「ふたつの写真を編みなおす」では、奈良美智が自身の作品を全く別の写真2枚を隣り合わせることで記憶の栞として使っている彼の考えが現れている。同じく、中平卓馬は晩年になって自宅周辺で撮影した写真をセレクトしてペアにしたもの。エリオット・アーウィットは作品に馬か犬か人間かわからない足を写り込ませることで観る者に想像力を提起させる。最後は「作品にまつわるセレンディピティ」で、齋藤陽道による何気ない風景が生き物に見える振り返り、本城直季によるジオラマか現実かわからなくなる風景写真をはじめ、ホンマタカシ、畠山直哉、石川直樹、井上佐由紀の作品が並ぶ。トイレはウォシュレット式。

あらこんなところに可愛い足跡が

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