国立極地研究所(東京都立川市・高松駅)
立川駅の北方、多摩モノレール高松駅の周辺には国公立の施設が多く立ち並ぶエリアがある。もともと立川飛行場があったこのエリアは戦後になると米軍に接収され、その後に自衛隊や国へ引き継がれた。そういった経緯があることから自衛隊の立川駐屯地や公務員の教育を主幹とする国内唯一の大学である自治大学校などの施設ができたのと同様に、国の研究機関が並ぶ一角となっている。国立極地研究所もその一つで、隣接して国立国語研究所、統計数理研究所、国文学研究資料館といった施設が並び、いわば研究都市の様相を呈している。基本的に平日のみ開かれているそれら研究機関に対し、週末にも一般向けの見学のために開放されているのが国立極地研究所の南極・北極科学館である。
入口から展示室に入る手前の床には南極と北極それぞれの巨大な地図がお目見え。普段あまり見ることのない精緻な地図で両極地のイメージを把握した後はいざ展示室へ。まず目を引くのは南極大陸の模型。2段に分かれているのが特徴的で、上段には一般的にイメージされる南極の姿、下段には氷を除いた大陸そのものの姿があるということ。南極大陸は表面を最高4000メートルを超える厚い氷床に覆われており、普段よく見えるのはこの氷床の部分。氷の下にはあまり見たことのない大陸の姿があり、その形は全く異なる。氷床の下には湖もあったりして、そこには古代から外敵の影響を受けることなく進化した生き物も存在する。
北極には大陸や島もなく完全に海になっている。内海を囲むようにあるロシア、カナダ、グリーンランドなどは普段の世界地図(メルカトル図法)で見るイメージよりずっと近くに接しているように見えるのがまた新鮮でもある。寒冷期には氷に覆われて海が凍って陸地のようになり、冒険家の植村直己はグリーンランドから犬ぞりで北極点へと到達している。
犬ぞりといえば南極大陸にある日本の基地である昭和基地において黎明期に活躍したことがよく知られている。映画にもなったタロとジロをはじめとした樺太犬が犬ぞりを牽引して昭和基地で活動する研究者たちの移動手段となった。現在は戦車のような重装備の雪上車で移動しており、展示されている雪上車は中にベッドがあるほど巨大な作りをしている。車のナンバープレートはない。
南極探検隊といえば白瀬矗がよく知られている。まだ南極探検が現実味を帯びていなかった明治の時代に決して万全ではない船で南極大陸への上陸を敢行、南極にある大和雪原の名付け親でもあり、のちに南極探査船となった「しらせ」も間接的に彼の名前からきている。展示室の一角には白瀬矗のコーナーが設けられ、その業績や遺品、公式記録である南極記が展示されている。
展示室内にはオーロラ観測シアターがあり、実際に現地で撮影したオーロラ映像をドームに投影している。北極圏がメインとばかり思っていたオーロラが何曲でも見られているというのが意外。また昭和基地の定点カメラがあり、リアルタイムでの南極の様子も見ることができたり、特に基地のある南極に特化した展示は多い。南極で発見された隕石もある。他に目を引くのは動物の標本で、アザラシ、ペンギンをはじめとしてホッキョクグマやホッキョクギツネ、ウミガラスなどを見られるのもとても興味深い。
トイレはウォシュレット式。南極と北極という極地についての研究を細かく紹介している他、科学館という名称がついている通り子供向け体験型の展示も多く、見学者も親子連れがちらほらと見られる。いくらでもいられそうな施設である。