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昭和のくらし博物館&吉井忠アトリエ(東京都大田区・鵜の木駅)

戦後からこの地に家を構えていた小泉家の旧宅を活かし、当時の暮らしを展示している博物館となっている。住宅街の中にあるので鵜の木特別出張所が目印になるかもしれない。館内は旧宅と増築された新館、それに画家である吉井忠の部屋という3つの建物で構成されている。

入場してからは学芸員の方の案内を受けながら、順路を回って当時の生活についてを説明される。最初は裏手にある土間から。屋外に備え付けられた竈で煮炊きをしていたという。住宅は高台にあり、予算が組めずに当初は井戸が引けなかったという。そのため生活用水は近隣の地主の井戸を使わせてもらい、子供たちでバケツを担いで何往復もしたらしい。いちいち屋内に入って準備をする妻の大変さを見た夫の設計で、用具入れを階段の下に設けて外の引戸を開ければすぐに用具を取り出せるような仕様にしたというから感心する。

屋内すぐにある部屋は仕事部屋となっている。戦争に備えて東京から横浜へ疎開したところそこで横浜空襲に遭い九死に一生を得た一家は、戦後の焼け野原の中で住宅金融公庫による貸付によってこの地に家を建てることになった。設計者であった父は自ら自宅の設計を行い、限られた十八坪の土地で夫婦と四姉妹に書生まで住めるような家を建てた。仕事部屋の作業机は当時はCADなども無い時代なので全て手書きの設計で、設計道具や図面などが限られたスペースに機能的に収納されている。本棚のデッドスペースを使った収納まで行い、無駄のない空間づくりとなっている。

旧館の模型

玄関の三和土のデザインや天井板など、予算が限られた中での建築だったため安い素材を使いながら、いかに洒落た造りにするかまで配慮されており、かなり優秀な設計士だったことが窺える。
2階建てで2部屋ある。子供部屋の再現と、もう片方は戦時下での配給生活などリアルな現状が紹介されている。これは後年になって戦時下の生活を描写する映像作品などに活かされている。

1階には台所と茶の間、それと座敷がある。台所は板敷きで、床板をめくれば食材や資材の倉庫として機能している。所狭しと多くの用具が溢れている様子は大家族ならではというところだろうか。茶の間では当時の生活の様子(ちゃぶ台には当時の料理も紹介されている)、座敷では和裁の道具や当時の着物が展示されている。火鉢なんかも残されている。ちなみにトイレもある。洋式。昭和51年12月までは汲み取り式だったがその後は水洗になったという。

新館の座敷はイベント会場だったり休憩所だったり

増築された新館とそのままつながっているが全く違和感がなくつながっているので同じ住居のような感覚になる。新館は1階が座敷となっていて、こちらは時折り企画イベントの会場として使用されることもあるという。住居の中ではここのみ撮影可。2階にはかつて住居にしていた小泉家次女の記念室があり、今回は企画展として映画『この世界の片隅に』を特集している。監督の片渕須直氏も足を運び、何度か講演会も行っておりメッセージが添えられている。

現在は企画展

隣接する施設として現館長である小泉家長女の絵の師匠でもあった吉井忠を記念した展示室がある。戦後を中心に活躍した洋画家で、熊谷守一らと共に池袋周辺の美術家が集まった通称・池袋モンパルナスを形成した。絵画だけでなく新美南吉や椋鳩十ら童話の作品などを中心に挿絵なども描いている。トイレはウォシュレット式。

吉井忠アトリエ展示室 とても静かで良い


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