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粟津潔邸(神奈川県川崎市・読売ランド前駅)
グラフィックデザイナーとして、劇団・天井桟敷のデザインや絵画作品なども手がけた粟津潔が生前に自宅とアトリエにしていた邸宅がギャラリーとして一般公開されることになっており、AWAZU HOUSEの名で企画展などを展示している。京都駅や札幌ドームを設計した建築家である原広司の得意とする技法「反射性住居」を体現した建築として建築の愛好家たちに注目されている。
「〇〇前」という名称の駅・停留所の中で、「どこが【前】なの?」と疑いたくなるほど全国でも屈指の(もしかしたら日本一の)遠さを誇り「駅名詐欺」とまで言われている読売ランド前駅が最寄りであるものの、起伏の激しい多摩丘陵の中腹に構えている邸宅のため、辿り着くまでには決してなだらかではない坂道を何度も上り下りする必要がある。AWAZU HOUSE自体が住宅街の中にあるため、道のりも非常に複雑で、実際に地図を片手に迷いながら到達するという感じ。とはいえ住宅地に似つかわしくない見学者らしき集団がいろいろ点在していたので後を追えば比較的わかったりした。
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今回は企画展として映像作家であり詩人のジョナス・メカスに特化した展示を開催。メカスの作品に共鳴を受けた粟津潔のコメントと共に作品が展示されているほか、粟津潔のこれまでも業績としてポスターなどの作品も併せて展示されている。ビートジェネレーションに接触したメカスの作風はメッセージ性が漠然としながらもアヴァンギャルドで刺激が強い。天井桟敷と接触した粟津潔もその辺りで共感を覚えたのかもしれない。
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展示作品もさることながら、とにかく邸宅が面白すぎて興奮する。入り口から階段を下って地下1階には寝室・書斎が備えられており、さらに階段で下りると地下2階、天井まで吹き抜けた開放的な空間になっている。地下2階には和室や浴室、キッチンなどがあり、壁のタイルには時折り絵が描かれているのもオシャレで良い。そこから階段でまた地下1階へ上ると、今度は先ほどの地下1階部分とはまたことなった洋室へと辿り着く。
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いったいどのような構造になっているのか頭が混乱する。迷路のようになっていて、とにかく歩いていて面白い。メカスの作品と並行して建物自体を探検してしまう感じだろうか。さすがはデザイナーが選んだ建築家といったところだろうか。多摩丘陵の中腹を生かして非常に興味深い邸宅である。トイレは故障しているため見学者は屋外の簡易トイレを利用する。洋式。
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