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奈良市写真美術館で絶叫「私の目はバカチンかっ!」


奈良市写真美術館『観仏三昧』展

奈良県奈良市に「写真美術館」なるものがあります。

「写真」に特化した美術館です。

奈良にはとても有名な写真家さんがたくさんいまして、その中でレジェンドを上げよと言われたら、確実に出てくる人に「入江泰吉さん」という方がいます。

明治38年生まれ。
もともとは画家を目指していたそうですが、画家として大成するのは大変だぞ~考え直せ!というアドバイスにより写真に変更。

文楽人形の写真が賞を取ったことで道が開けます。

戦後、日本の仏像が米軍に接収されるという噂を聞き、持っていかれる前に撮っておこう、ということで仏像写真を撮り始めます。

結局噂は噂でしかなかったのですが、その後仏像写真としても大家になりました。

奈良市にある「写真美術館」はこの入江泰吉さんのコレクションを展示、記念するために始まった場所なのです。

2024年8月2日現在、こちらで「観仏三昧」という展覧会が開かれています。

この言葉は、奈良を愛した文人、会津八一の言葉
「仏像の研究と鑑賞に専念する」という意味があるそうです。

その言葉通り、仏像をじっくり見て、その姿に集中できる展覧会。

会場には入江泰吉のほか、工藤利三郎、永野太造という写真家の作品が展示されています。

仏像はお寺で…肉眼で…という思い込み

つねづね、仏像…みほとけはお寺で拝するべきだと思っているわたくし。

仏像がお出ましになる展覧会もありますが、それってどうなの…

みほとけは拝む対象であり、鑑賞するものでなく、お寺で参拝こそ正しいのではないかっ

と正論をかましていたのですけど。

もちろん大前提にそれはあるのですけど、でも古代の人がその力を結集して造った御仏は、造仏技術として最高のものがあるのです。

その巧みな技、美しいノミの跡、なめらかな仕上がり具合、リアリティを越えてくる造形。

これらを見ているようで見ていない。知っているようで知らない、ままただなんとなく手を合わせている場合も多いということにも気づいたのです。

特に奈良時代の仏像が、私は大好きなのですけど、その良さや凄さをほんとのところわかってないのではないか。

ということが、実際に博物館などにお越しになって、明るい場所で、見やすい場所で見せていただいた時に痛感したのです。

そして写真。

みほとけはやはり、実物を拝んでこそのみほとけで、そんな写真に撮ったものを見てもその良さはわからないんじゃあ…

と思っていたのですが、実際のところ仏像の細部…

細かく描かれた衣服の模様、肉眼では捉えきれなかった造形の細かさ、全く見落としていた細部まで施されていた技術。

こういったものが、きっちり捉え、拡大された写真だとめちゃくちゃよく分かるのです。


わたし、仏像が好きでよく知ってると思っていたけれど、全然見てなかった…


まじで、全然!見てなかったわ!

この(私の目の)バカチンが!!!

と絶叫したくなるくらい、え、こんなふうになっていたの…?という驚きの連続でした。


絶叫①法隆寺 釈迦三尊像 脇侍の襟のデザイン

法隆寺には仕事でよく行くので、絶対に100回は行ってると思うのですけど。

御本尊の釈迦三尊像は、それこそ100回はお目にかかっていると思うのですけど。

その脇侍(釈迦如来さまの隣に立っているかた)の衣服がとんでもなく美しい文様を刻んでいるのを初めて知りました…

この時代は、「パルメット文様」と呼ばれる、日本の唐草模様をもっとゴージャスにしたような模様が流行っていて、法隆寺の瓦や、藤ノ木古墳の出土品にも刻まれています。

そんな感じのきれいな模様が衣服の襟元などにびっしりあって
「え…あなたこんなきれいなお洋服着ていたの…」と愕然

さらにその仏様の手が、とても美しかった。

手に宝珠のようなものをもっていて、匠に構えていらっしゃるのですが、その指先がとても美しい。

手首までお袖が来ているのですが、その袖の線がとても美しい…

これまで釈迦三尊像の古さ、歴史的な意義、聖徳太子さまとのつながりばかりを考えていて、この脇侍さまがこんなにきれいなのを全く見ていなかった…

たぶんこの写真を見なければ、一生気づかなかった美しさでした。


絶叫② 法華寺の十一面観音さまのやわらかなりんかく


法華寺の十一面観音さまは、年に数回しか拝めない秘仏なので、実際にお目にかかった数は少ないのですが、あの大仏さんを造った聖武天皇のお后がモデル、という伝承があることから、とても好きな方です。

しかし伝承とは別に、平安時代に造られたであろう、ということもわかっており、まさに平安時代特有のふっくらした感じがキュートな仏さま。

今回、そのお写真を見て初めて気づいたのですが…

観音さまの頭に十一のお顔が乗っています。

十一面観音と言われる所以なのですが、このお顔もまた、平安時代特有のふっくらむっちりしたお顔をしているのです。

特に顎が!十一面観音さまの正面のお顔と同じ!!

十一面観音さま本体は、一木造りといって一本の木から彫られています。

しかし、この頭に乗っているお顔は、別の材で造られて載せているのです。

しかし、顎の形がまぎれもなく本体と同じ。

絶対に本体造った人と、頭の上の仏の顔を造った人は同一人物に違いない~!
と思う造形なのです。

し、知らなんだわ…

こんなに同じだなんて知らなんだわ。


私の目がバカチンなのは間違いないんですけど、でも言い訳をするとやはりめちゃくちゃ近寄らないと、見えない、見づらい部分ではあるんです…

それこそ単眼鏡でもないとわからない。

しかし写真は、その精度でもって仏の持っている真の美しさ、真の実力、真の造形の超絶技巧をちゃんと捉えてくれているのです。


入江泰吉さんの言葉

仏像の写真は人間の肉眼では写しきれない、機械でもって捉えられるものを見せてくれます。

そして同時に、入江泰吉さんはこんな言葉を残しています。

最初はうまく撮りたいと思っていたけれど、やがて怖れを感じるようになった。
仏師(仏像をつくる人)は「一刀三礼」といった形を取って造ったという。

今私は、ありのままを忠実に映像化しようと考えている。

展覧会会場にあった言葉を、要点だけぬいてメモったので、本来の文章からはかけ離れています。すみません。

でもこの「仏像への怖れ」
これが入江泰吉仏像写真の根底にあるからこそ、私達はみほとけの真実にたどり着けるのだろうと思います。





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