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新しいものがたりが始まります。

晴天の霹靂か
はたまた
曇り空を裂く一筋の稲妻か

この8月から9月にかけての1ヶ月、私たちNapuraは見えない洗濯機の中に放り込まれたように、本当に大きな変化のど真ん中にいました。
そして見えない洗濯機が脱水ステージまで来たとき、ひとつの決断をしました。

その決断は、タイトルの通り、新しいはじまり。

その決断と、そこに至る思い、そしてこれからのこと、
これまで出会った方々にお伝えしたい。

という思いから、大好きなロード・オブ・ザ・リングの映画のように
ここに至るまで
肚を決めたこと
これから想像図
の三部作でお届けしたいと思います。

ほんとはひとりひとり、会って話して伝えたいけれど、まずここで。
せっかくなので、少し時間をかけて。

『ここに至るまで』 序章

2020年はNapuraにとって一つの勝負の年でした。
その前年、2019年のはじまりとともに、カンボジア国内にお住まいの方々のリアルな声を聴き、村の仲間たちの現場の声にもっと近くで耳を傾けるため、10年暮らしたカンボジア観光の花形・シェムリアップを離れ、コンポントムというまだまだ観光が産業として定着していない地方都市に半分、首都・プノンペンにもう半分の拠点を移しました。トラック1台に、家財と犬と家族を乗せて。

カンボジアという国ともっといろんな角度から出会いたい
子どもたちに、せっかく縁の生まれたカンボジアを体感してほしい
という訪れたい人たちの声を拾い集め、
そろそろ収穫だから、おいでよ。
え?ああ、それなら作れるよ。昔はみんな、家で作ってたんだから。
という今、地域の暮らしの中に“ふつうに“ある要素と縒り合わせていくうちに、
「村のふつうの暮らしに家族でお邪魔する旅」
「クイ族の農園の黒ゴマの収穫に同行させてもらう旅」
「生きているから美味しくいただくところまで、コオロギをめぐる冒険」
など、柱になる旅たちが自然にどんどん生まれてきました。

訪れる人たちと迎える人たちがつくりだすゆたかな生態系の姿がだんだんと具現化していって、よし、これからさらにこれを磨いて育てていくぞ、という核がようやく見えてきた!よし。

同時に、ふと気がつくとこれまでのコンポントムで当たり前だった、サンボー・プレイ・クック遺跡を見てお昼を食べたら次の街へという“遺跡観光“が、自社のお客様だけではあるけれど、この地に泊まり、この場所が持つ“普通の暮らし“に身を置いて、そこで起こる出来事と出会いを味わうと、なぜかそれぞれのこれからを描くヒントがだんだん見えてくるという人生に寄り添う旅に変わってきた。

遡ること2012年、観光という道の師匠である故・小林天心教授をサンボーの現場までお招きした時「この場所はとてもいい。この場所のゆたかさを知ってもらうには、2泊3日の滞在を新しい当たり前にしよう。」と助言をいただいた。

そのころは、日帰りでかつ、お昼ごはんを挟んだ2時間の滞在が最大値。
遺跡の周囲にある暮らしの要素を含めた「半日滞在」に伸ばそうとしていた時。
さすがにそのときは「2泊3日ですか・・。」と道の遠さに言葉が出なかった。

それから7年。
ものすごく時間がかかったけれど、気がつけばNapuraのプランは2泊3日がスタンダード。カンボジア国内にお住まいの「また来る」ことができる方、お休みが短い方のためには1泊2日という形が定着している。
ようやく、あの時の天心さんの言葉が現実になった。

これまで出会わなかった新しい領域の“訪れる人“にも出会い、いよいよここから、さらにいろいろな地域への扉が開いて、今この時代に迎える人と訪れる人が織りなす遺跡生態系が深く耕されていく。
2020年の幕開けはそんなふつふつと沸くはじまりの予感に満ちていたんです。

その矢先。
COVIDさんが訪れ、2020年3月1日を最後に、あたためていた旅は全て白紙に。

でも。
幸いなことに暮らしをつくる生業のひとつに「この場所で今まで積み重ねられてきた暮らしのなかにお客さんをお迎えする」という形で実践してきた“百姓型観光事業“の担い手である地域の大事な仲間たちは、都市部よりも打撃が小さかった。

コンポントムのトゥクトゥクのお父さんたち、コミュニティガイドのみなさん、
ホームステイのご家族、お付き合いのある村の人たち。
みんな、それぞれの持ち家があり、家のまわりに畑や菜園があり、鶏や牛たちがいて「生きるための基盤」はすでにある。
だから、皆のところをまわって話を聞いても、
「暮らしはなんとか大丈夫。お客さんが来ていた頃がにぎやかで懐かしい」
という、再びゆたかな時間が生まれるのを穏やかに待つ声ばかりだった。

そしてもちろん、長きにわたりこの場所で人間の営みを見続け、その時代に生きる人たちと多様な“遺跡生態系“を構築してきた、遺跡さんも変わらない。

私たちの大事なパートナーたちは、私たちより揺るがない。
完全な“百姓型“になり切れないNapura自身については、

1)村の中での滞在の受け入れ再開は2021年まで様子を見る
2)国外の方にはオンラインで“生きる“に出会う「旅するzoom」を提供
3)カンボジア国内にお住いの方には、今だから感じてもらいたいカンボジアの地方の魅力を届ける企画をつくる

という3本柱を密かに設け、期せずして生まれたこの地平線まで見通せる広大な「無計画期間」をできるだけ目線を遠くに向けて、想像のふろしきを大きく広げることを意識してきました。

そのおかげで、旅するzoomも、8月にようやく動き始めたカンボジア国内の旅も素敵な出会いに恵まれ、そこから派生したオンラインの企画や相互交流の機会も次々に生まれて、経済的には細っているけれど、精神的には満ちている。
不確かな中を仲間たちと、これから来る次の時代に向かって確かに匍匐前進しはじめている、という実感に包まれていたんです。

大丈夫、このまま歩いていける。
観光が基幹産業になっていなかったからこそ、ダメージが最小限で、
“従来型の観光が当たり前になっていない“ことこそがコンポントムの強み。
私たちも、コンポントムも大丈夫。
今は、むしろ、“これからのかたち“をつくっていく時だ!

と明るく、小さく進んでいたところに、一つの事件が。

この町に一つだけのVillaホテルの廃業

コンポントムの町の真ん中を流れるセン川沿いにあるSambor Village Hotel。
広い庭に熱帯の木々がゆたかに茂り、その間を黒い大きな蝶が飛んで、鳥たちの声が上から降りてくる。中央の蓮の池を囲んで小さなVillaが建つ。時々顔を出すトカゲやカブトムシたちが、泊まりにきた子どもたちには、すでに大冒険。

この町に一つだけのvillaタイプのホテル。
ホテルの立地やお庭の空気感もさることながら、長く働いているスタッフたちが醸し出す内側からあふれ出す自然な親しみのあるおもてなしが大好きで、Napuraの大切なパートナーだったホテル。

コンポントム滞在のイチ押しは村の暮らしにそのまま身を置くホームステイだけど、町で泊まるならぜひここに!といつもお勧めしていた場所。
4月から6月までCOVIDで休業し、7月に再開を一緒に祝ったばかりの場所。

営業再開を待ってました!と、在住の友人が泊まってくれていた夜、古参のスタッフたちが集まってゴージャスな食卓を囲んでいたので
「あれ、誰かの誕生日?」と聞くと
「ううん、閉めちゃうからクロージングパーティ」と。
ちょうど9月と10月はカンボジアで一番お客様が少ないシーズン、きっとそれに合わせてまた休業するってことだろうな、とこのときは勝手に納得していた。

翌日、子どもたちがプールで遊んでいる穏やかな午後、顔馴染みのマネージャに
「また休業するんだって?」と軽い気持ちで確認したら
「休業というか、今、新しいオーナーを探しているところ。今月中に見つからなかったら、廃業するの。Close, forever」

なんと!
晴天の霹靂とは、まさにこのこと。
このとき彼女が使ったForeverという言葉が、頭をぐるぐるとまわる。

そして、この一言を聞いた時から、私たちの新しいものがたりの幕が、
知らずに開いていたのです。


つづく。

第2章 『3次元の嵐の中で』へ。




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